第百八十五話 セシリア女王との会談
「なぁ?これ生だが大丈夫なのか?」
「表面を炙ってますので大丈夫ですよ?釣りたての新鮮な魔魚だから出来る料理です!」
ツツジが大丈夫だと言うので、たたきという魚の身を炙ってから切っただけの料理を食べてみる。
とてもあっさりとしているのに魚の脂が濃厚でとても美味しい。
「こちらはヴァドールの郷土料理すしです。」
「ほう?米が酸っぱいのだな?」
「米に酢を入れることによって魚と米が痛みにくくなるのですよ?」
「絶品だ。」
すしと言う料理は驚くほどに美味しかった。むしろ驚いた。
是非ともレシピを教えて貰わねばならない一品だ。
「次は煮付けです!」
「煮付け?これはスープでは無いのか?」
ツツジが次の料理を差し出してくる。
魚の煮付けと言う料理のようだが、汁は少なくとても濃い色をしている。
「スープではありません。食べてみればわかりますよ?」
「・・・レシピを教えてくれ。」
「ウフフ!喜んで!」
魔魚は美味しかったがここまで美味しくなるとは思ってなかった。
ツツジは満面の笑みで答えてくれるので一安心だ。
その後も色々な魔魚料理を食べさせてもらったが全て絶品で大満足だ。
「そういえば女王が来ているのにみんなでこんな所にいていいのか?」
「え!?セシリア様がいらしているのですか!?」
俺はふと疑問に思ったのでツツジに質問する。
この国の最高権力者が来ているのにみんな平常運転だなと思っていたが知られてなかったようだ。
そして女王の名前はセシリアと言うらしい。
「知らなかったのか?」
「えぇ・・・我々復興に手一杯で・・・」
「昨日の夕方に俺達の所に来てな?今日の朝一に村長の家に向かったはずだぞ?」
「村の外で一泊なさったのですか・・・今日は漁の再開という事もあって、村を上げて朝一から浜で準備をしていたので全く気付きませんでした・・・」
ツツジは一瞬で顔が青くなり立ち眩みまでし始めたようだ。
女王も別に公務で来ている感じでもなかったので問題無いと思うがツツジにとっては大問題なのだろう。
「ならば挨拶に伺うか?」
「そう・・・ですね・・・挨拶もせずに無礼だと処刑されない事を祈るばかりです。」
「多分大丈夫だ。」
ツツジは何やら不穏な事を言っているがおそらく問題無いだろう。
これでツツジ達が無礼だと処刑されるのなら、俺が昨夜行った所業はどんな罰になるのか想像もつかない。
心配するツツジと共にお魚パーティから抜け出して村長の家へと向かう。
「ふっざけんなっ!」
「貴様!女王陛下を愚弄するのか!?」
「聖騎士と言えども看過出来ませんよぉ!?」
村長の家の前に着くと二階の窓から聞き覚えのある怒声が聞こえてくる。
ツツジが小さな声で「聖騎士様の御部屋から・・・」と呟いたので、ヴィンガ達と女王達の話も上手く進んでないようだ。
「とりあえず行ってみるか。」
「・・・はい。」
二人で意を決して家へと入り、ツツジの案内で先程怒声が聞こえた部屋へと向かう。
「打ち首と言うのならば結構です。どうぞはねてください。」
「そうは言っておりません。我々の条件を飲むと言って下さればいいのですよ?」
「ですから何度も言ってるでしょう?私にそれを決める権限はありません。それにルドルフ様が変更無しと仰ったのであれば変更無しです。」
部屋の前に行くとヴィンガとセシリア女王の話し声が聞こえてくる。
先程の怒声で分かりきっていた事だが、聖騎士との話し合いも難航しているようだ。
「なぜ聖騎士様が一冒険者であるルドルフ様の肩をもつのですか?」
「ルドルフ様は私のような矮小な人間が指図を出来る人間では無いのです。そしてそれは女王様でも同じであり万物の事象と一緒なのです。」
ヴィンガの言葉に扉を掴む力が抜ける。
このまま扉を開けずに砂浜に戻ろうかと悩んでいるとツツジに扉を開けて三つ指を突いて口を開く。
「失礼致します。私ヴァドール村の村長の娘でございます。この度は女王様がいらしているのに気付けずに何一つとして歓待の席を設けず申し訳御座いません。平に御容赦下さいませ!」
扉の前で三つ指を突いて必死に頭を下げるツツジ。
部屋の中央にはベッドで静かに眠るロンヴァルト。
隣で介抱をしていたヴィンガは俺を見て跪いて祈り始める。
ヴィンガの対面に座する女王は困り顔でツツジを見ているし、後ろに控える騎士達は剣に手をかけて今にもヴィンガに斬りかかりそうな雰囲気だ。
そしてその後ろに控える侍女達はおろおろとした様子で右往左往しているし、みんなに挟まれた形の村長は必死に存在感を消して座っている。
「(なんだこのカオスな空間は・・・)」
やはり扉を開けずに砂浜に戻るべきだったと後悔するがもう遅い。
覚悟を決めて部屋の中に入って話を治めるしかないだろう。
「話はどうなった?」
「ロンが目覚め次第にルドルフ様を先頭にドラゴンケイブ大迷宮を開放せよと申されたのでお断りを致しました。」
「ふむ。ヴィンガの考えを聞かせてくれ。」
「ルドルフ様方への対応は伺っております。一度ブールニア女王国との誓約書を交わした以上それを破るのはエスガルド王国の使者として絶対にあってはならない事です。」
ヴィンガの言う事は尤もだ。
セシリア女王も痛い所を疲れたと顔を伏せて悔しそうな表情をしている。
「だがセシリア女王は外務大臣を処罰して誓約書を白紙にすると言ってたが?その場合はどうなる?」
「契約を結んだのに白紙に戻す?しかも一方的に?無理ですね。もしそれがまかり通るなら私は聖騎士として中立な立場でブールニア女王国の監査をしなければならないでしょうね?」
ヴィンガの言葉にセシリア女王の表情が更に苦々しいものへと変化する。
聖騎士の監査が入るという事は精霊教会に国の内情を全て知られるという事に他ならない。
いくら精霊教信仰国と言えども、知られたくない事の一つや二つはあってもなんらおかしいことでは無い。
「という事だそうだ。セシリア女王どうするんですか?」
「レジーナ?我々と聖騎士様達でドランブの街を解放出来ますか?」
セシリア女王は慌てた様子で後ろに控える騎士に話しかける。
話しかけたのは腹に俺の拳の型がくっきりと付いたレジーナという騎士だ。
「時間を頂ければ可能かと。」
「時間ですか?一日ですか?一週間ですか?一ヶ月ですか?一年ですか?」
「聖騎士様達の協力次第ですが一ヶ月ほどかと・・・」
「つまりブールニアの兵力では無理なのですね?」
「一年頂ければ・・・」
「一年もドラゴンケイブ大迷宮が閉鎖すれば、我が国は破綻です!こうなったら奥の手です!」
セシリア女王はゴソゴソと懐を探って水晶玉を取り出して魔力を込め始める。
何かの魔道具なのだろうが、奥の手とはどんなものかとても興味がある。
水晶玉はすぐに光り始め、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ヤッホー!セシリアどうしたの?」
「姉様助けて下さい!ルドルフ様が了承して下さらないのです!」
セシリア女王は水晶玉にすがるように話しかけている。
どうやら奥の手とはアランと会話をするための魔道具だったようだ・・・いや魔道具は刻印された魔法陣を使って魔法を発動させるための道具だ。
水晶球に魔法陣は確認できないので、この通信は魔法陣による魔法では無く魔力特性の可能性の方が高いのでマジックアイテムと言った方が正しいだろう。
「えー・・・ルドルフが了承しないって嘘でしょ?怒らせたんじゃないの?」
「怒らせ・・・ているかもしれません・・・」
「ルドルフが怒ってたらお手上げ!あたしじゃ敵わないもん!」
「えっ!姉様!?国の存亡がかかってるんですよ!?」
水晶球から聞こえてくるアランの声はいつも通りに飄々とした様子だが、会話をしているセシリア女王は今にも泣きそうな表情だ。
セシリア女王とアランは思っていた以上に仲が良さそうなのでどうにかしてやりたいという気持ちが無いわけでもない。
アランがいい知恵を出せれば考えない事もない。
「アラン?俺の声が聞こえるか?」
「聞こえるよ!元気してる?あたしはルドルフに会えなくて毎日寂「この国の外務大臣に田舎者扱いされて無茶苦茶な誓約書にサインさせられたから動けないんだが、どうすればいい?」
「・・・あたしの話は全部聞きなさいよ・・・まぁいいわ、どんな内容なの?教えてくれる?」
水晶の向こう側でアランが言葉を遮られた事に対して頬を膨らませているのが容易に想像できる。
俺はアランに言われて、リーオの街での対応と誓約書の内容を出来る限り詳しく説明する。
「セシリア?それはあんたの監督責任だよね?にしてもルドルフが怒って城が無くならなくてよかったねぇ・・・?」
「はい・・・反省致しております。」
「変な事言って国際問題に発展しても駄目だしあたしはパス!あっそろそろ魔力切れだ!セシリアまたね?」
「えっ!?姉様!?姉様!?」
アランが言い切ると同時に水晶玉の光が消え、セシリアが焦って水晶玉に話しかけているが返答は無い。
アランは魔力切れなどと言っていたが、面倒臭そうだから通信を切った事は明白だ。
「ヴィンガ?何かいい手は無いだろうか?」
「へへへ話は聞いたぜ?いい作戦があるじゃんよ?」
セシリア女王はわかりやすくパニックに陥り周りのメイドと騎士達は諌めるので手一杯の様子だ。
俺は仕方なくヴィンガに声をかけると、部屋の中央で寝ていたロンヴァルトが不敵に笑いながら目を覚ます。
あまりいい予感はしないのだがロンヴァルトの話を聞く事にする。




