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第百八十四話 地引網漁

翌朝目覚めてテントから出ると、女王が机に座り数人のメイドに囲まれながら優雅にティータイムを楽しみ、その奥にはボロボロの騎士達が焚き火を囲んでいた。

「まだいたのか?」

「えぇ・・・あの二人では決められない部分が多すぎまして。」

「そうか。ならば全て変更無しだ。」

「えっ!?ちょっ!!」

俺は女王に俺の考えを簡潔に伝えて騎士達を横目に見ながら自分用の調理場へと向かう。

それにしても騎士達は本当にボロボロである。

エンリコはマントがボロボロにだし、シャロンの被っている兜を歪にへしゃげ、レジーナの鎧は腹の場所に俺の拳の型がくっきりと残っている。

昨日喧嘩を売られたとは言え、九割くらいは俺の八つ当たりなので若干申し訳なくなる。





「ルドルフ様!少しお話しを聞いて下さい!」

「なんだ?料理を作りながらでよければ聞こう。」

「我が国はまともなダンジョンがありません!ですからドラゴンケイブ大迷宮の魔物や関税が頼りなんです!」

「それは早くドランブの街を解放しないと大変だな。」

俺が朝食を作っていると女王が横からあれこれと言って来る。

俺達は蔑ろにされていたので知らなかったが、ドラゴンケイブ大迷宮のオーバーフローは死活問題のようだ。

「(ならば尚更俺達にはもっと優しくするべきだったろうと思うがな・・・)」

城で案内をした兵士達、応対をした外務大臣。

少しでも可能性がある人間を最初から田舎者だからと拒絶された事は絶対に忘れない。

それは女王が誠意ある対応をとってくれても変わらない事実である。


「そうです!なのでルドルフ殿には今すぐドランブに戻って解放をして頂きたいのです!」

「三つある。」

「三つ?」

「一つ目に邪魔をするなと誓約書にサインした。二つ目に俺達と旅をしている人間がこの村で療養中だ。そして最後に聖騎士様方を押しのけて活躍は出来ない。」

まずは誓約書にサインをしたという事は契約魔法を交わしたという事だ。

という事は俺がここででしゃばれば契約不履行により何らかの罰を受けてしまう。

次にロンヴァルトがまだ目覚めていない、さすがにこの任務が終わったら別れると約束したとはいえ聖騎士をほっといて行動するのは問題があるだろう。

最後が重要で、ドラゴンケイブ大迷宮で聖騎士達よりも目立つのだけは絶対に遠慮したい。

精霊教会を敵に回してはならない。これは絶対案件なのだ。



「誓約書は昨日帰ったカルビンがどうにかしてくれるはずです!お連れの方と精霊教会は私がどうにか致します!ですので・・・ですので・・・どうかお助け下さい。」

「誓約書はわかった。だが俺の連れも聖騎士だ。手を出すべきでは無い相手だぞ?」

女王は涙を流しながら懇願してくる。

そこまでされて断わるほど俺も鬼畜では無い。

だが精霊教徒がかなり排他性な事を学んだので、いくら女王と言えども一筋縄では無いだろうと思うのだが、どうにかすると言うのであればお手並み拝見だ。

ヴィンガ達は長老の家にいると教えるとガッツポーズをして気合を入れながら御付を引き連れて村へと入って行ったが、一国の女王なのに中々フットワークの軽い事である。




「・・・行ったね?」

「うん・・・行ったね?」

女王達がいなくなると同時にクリスティアナとパンジーがテントから顔を出して注意深く辺りを伺っている。

余程昨日俺がテントに入ってからの話し合いで色々とあったようで、余程女王達と会いたくないようだ。

とりあえず呼び寄せて話を聞くべきだろう。

手招きをして二人を呼び寄せる。


「昨日はすまなかったな?あれ以上話していたら暴れそうでな。」

「十分暴れて「パンジー!それ以上は駄目!」

ベーコンエッグを作りながら二人と話す。

パンジーが何かを言いかけてクリスティアナが遮ったが正解だ。

その先を言っていたらパンジーのベーコンエッグは無くなっていただろう。


「それで?昨日はどんな話し・・・いや条件で進んだんだ?」

「最前線で戦い、手に入った素材や肉は全てブールニア女王国の買取と言われました。一応は最前線で戦うための相応の権限に発言権も与えられるようですが・・・。」

思った以上に突っ込んだ話しをしたようだ。

そりゃクリスティアナに俺が最前線で戦うかどうかを決めろというのは酷だ。


「ふむ。最前線はいいとして買取を限定するのは頂けないな。」

「そっち・・・ですか?」

「普通は最前線のほうに引っかかりますよね?」

「いいか?買取先が限定されると言う事はだな?値段を好きに決められる可能性があるという事だ。」

「「あ・・・」」

二人は俺の言葉に間抜けな声を上げる。

ブールニア女王国だけに買取をされるとなると、ただ同然の値段で買い叩かれる可能性もある。

それをすると国家間に軋轢が生まれそうなので可能性は低いとは思うが、俺達への対応を鑑みると、ありえないとは言い切れないと言うのが本音である、



「とりあえず今日は漁の再開のはずだ。朝食を食べて海に向かうぞ?」

「かしこまりました!」

「とうとう本格的に魔魚料理ですね!?」

女王達の事を気にしても仕方が無い。

それよりも網などの漁道具の修理が終わり、今日から本格的に漁を再開するのだ。

今まで細々と村人が釣ってくれた魔魚を貰っていたが、網での漁なら大型の魔魚も採れると聞いているのでとても楽しみである。

海へと向かうべく三人で朝食を食べる。





「少し遅かったか?」

「のようですね?」

「我々はどうすればいいか伺ってきますね?」

朝食を終えて砂浜に着くと、たくさんの人間が網を引っ張っていた。

ぱっと見だがほぼ村中総出で漁を行っているようだ。

パンジーが網を引っ張っている村人達の下へと走って行くので大人しく待つ。



「あんな巨大な網をよく用意しましたね?」

「そりゃ修理に一週間かかるわけだ・・・」

「むしろ一週間でよく直したものですね?」

クリスティアナと漁の様子を見てしみじみと話す。

今村人達が行っているのは地引網漁だ。

地引網漁とは巨大な網で海の一区画を完全に区切り、そのまま網を地上へと引っ張ると言う至って単純な漁法だ。

だが単純故に海を区切るための網は長さは軽く百メートルを超え、高さも十メートルはあるとにかく巨大な網だ。

巨大な網を船で引っ張って海を区切るのも大変だし、その網を引っ張るのもかなりの大仕事である。



「これで魔魚食べ放題ですね?」

「そうだな?」

クリスティアナが目を輝かせて言って来る。

実を言うと海に向かって強制探索魔法(サーチ)を飛ばせば魔魚達は我先にと俺に襲いかかってくるので、それを捕まえれば漁の再開を待つ必要は無かった。

だがそれでもし魔鯨などの巨大な魔物が釣れた場合に安全に対処出来るかわからないし、そんな巨大な魚の捌き方は想像もつかないし、さすがに非常識すぎるかと思って自粛したのだ。


「お待たせ致しました!ルドルフ殿は船へ!クリスは私と一緒に網を引っ張りましょう!」

「了解だ。」

「よし!魔魚食べるよぉ!」

パンジーに言われてそれぞれに言われた場所へと行く。

どうやら俺は船に乗って網を引っ張る役のようだ。

船に乗った漁師達が手招きをしてくれるので指示されるままに船に乗り込み、巨大な網を受け取る。



「ルドルフ様重とぅないですか?」

「大丈夫だ。出してくれ。」

「了解です!」

俺が返事をすると漁師達が船を漕いで進み始めるので、船の進みに合わせて網を落として行く。


「中々タイミングが難しいな?」

「いやいや!さすがはルドルフ様見事な手際じゃ!」

「それならいいのだが・・・」

船の進みに合わせて網を落として行くのだが、船を漕ぐ漁師達と息を合わせないと網に弛みが出てしまい、思いの外難しい。

弛みが出るという事はそれだけ海を区切る空間が少なくなるという事だ。

下手をすれば船が地面に戻る前に網が足りなくなってしまうかもしれない。

漁師達は手放しに賞賛してくれるが、気が抜けない中々大変な作業である。



「よし!着岸したけん網を渡しちゃってください!」

「ルドルフ様!網を下さい!」

「分かった。」

「「「「「「そーっりゃ!・・・そーっりゃ!!」」」」」

船が浜に乗り上げ、待機していた村人に網を渡すとみんなが網についた(つな)を掴んで一斉に引っ張り始める。

村人達は生活がかかっているので必死な形相である。



「これがラストですけん、頑張って下さい!」

「もう終わりなのか?」

「昼からは漁具のメンテナンスと採った魚の処理をせんと駄目ですからね?」

「成程。」

その後も何度も場所を変えて地引網漁を繰り返し、太陽が真上に来たら漁は終了のようだ。

昼からは午前中の漁で取れた魚の処理と明日の漁に向けての準備をするようだ。

言われれば当たり前の事だが、すっかり失念していたので思わず合点がいったと手を叩いてしまった。

そのまま船は大きく弧を描きながら海を進み浜に着いたので村人に網を渡す。



「ラストじゃ!気張るでっ!」

「「「「「「おう!・・・そーっりゃ!」」」」」」

網を受け取る村人達も午前中何度も網を引っ張っているので疲労の色を隠しきれていない様子で、最後だと声を掛け合いながら網を引っ張っている。


「よっしゃ!ルドルフ様昼飯にしましょうや!」

「あそこでツツジ達が魔魚料理を作りょうるけん行きましょう!」

「とうとう本場の魔魚料理か・・・楽しみだ。」

船を漕いでいた漁師達に連れられて砂浜で料理をするツツジ達の下へと歩いて行く。

俺の魔魚料理は焼く以外のレパートリーが無いので、どんな魔魚料理が出て来るか本当に楽しみだ。

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