第百八十三話 ブールニア女王の来訪
翌日からは魔物が片付いたと言う事で、近くの村に食料を買出しに行く者や大蛇に壊された家を建て直す者など、村人はそれぞれ自分が出来る分野に分かれて大忙しだ。
俺も少しでも力になれればと森に行って適当に木を伐採してはアイテムボックスに入れて村へと運び、クリスティアナとパンジーは最初の一日目は遊んでいるようにしか見えなかったが、二日目で魔貝を採れるようになり、一週間も経つと小麦色の肌が似合う立派な海女となった。
「ルドルフ殿!魔鮑採って来ましたよ?」
「でかした。じゃあ魔鮑の薄造りを追加で作ろう。」
俺が夕食の準備をしているとクリスティアナとパンジーが今日取れた魔貝を持って帰って来る。
魔鮑は最初に食べた時は硬くて食べられた物じゃなかったが、焼いた後に出来る限り薄く切って食べるととても絶品で、俺達三人の大好物となった。
わざわざ二人が持って帰ってきたという事は食べたいのだろう。
俺も食べたいので喜んで今日の夕食に一品追加である。
「やはり魔鮑は美味しいですねぇ?」
「あたし魔魚も大好きですしこの村最高です!」
「そうだな。ゆっくりするには絶好の村だな?」
ヴィンガはドランブギガントサーペントとの戦いで未だに意識を取り戻さないロンヴァルトの介抱をしているし、ツツジ達も村の復興で忙しすぎて俺達の世話をする余裕が無くなり三人だけで夕食を食べる。
クリスティアナもパンジーも海の幸が大好きな事が判明して三人でヴァドール村を満喫である。
「ルドルフ殿?何やら物々しい馬車がやってきますよ?」
「あれは・・・商人とかではなさそうですね?」
「エスガルドで似たのを見た事あるが、王族の馬車みたいだったな。」
三人で夕食を食べていると、森の方向から物々しい護衛を引き連れた馬車がこちらへと向かって来る。
三人で国のお偉いさんがヴァドール村の被害状況などの調査に来たのだろうという話でまとまったので気にせずに夕食を再開する。
「ルドルフ殿?やはりこちらに向かってきてませんか?」
「クリス?あたし達のいる場所が村の入口だからそう見えるだけだよ?」
「俺もそう思いたい。」
クリスティアナの疑問にパンジーが事も無げに答えている。
この国が俺達を歓迎してないのはすでに分かりきっていることだし、そんな状態の俺達にあんな物々しい馬車に乗る人物が俺達に用事があるとは考えにくいし、そんな面倒臭そうな状況は考えたくは無い。
三人で話しているが馬車は無慈悲にも村の入口を通り過ぎて我々の下へと向かって来る。
「女王陛下のおなりである!低頭せよっ!」
馬車は俺達の前で止まり、馬に乗った騎士であろう人間が偉そうに言って来る。
俺の聞き間違いでなければ女王陛下と言った。
ブールニア女王国という名前の通り女王といえばこの国の最高権力者である。
問題を起こしても良い事は何一つない。
相変わらずの上からの物言いに思うところはあるが、女王陛下をお迎えするべく頭を下げる。
「ルドルフ様?そしてエスガルド騎士団の御二方よくぞブールニアへお越しくださいました。待てども謁見にお越し頂けないので自ら出向きました。」
馬車の扉が開く音が聞こえ、続いて女性の声が聞こえる。
謁見に来ないから最高権力者自らが赴いたなどと言っているが、俺達は出向いたのにぞんざいに扱われたのは忘れないし、忘れたと言わせる気もない。
頭を上げて反論をする。
「女王よ。我々は謁見のために城へと言ったが碌に取次ぎもせずに外務大臣に誓約書をサインさせられて終わりました。」
「貴様!誰が頭を上げていいと言った!?」
俺が反論すると、最初に頭を下げろと言って来た騎士が怒気の篭った声で高圧的に言って来る。
どうやらこの騎士も俺達を見下し、それを隠すつもりは無いようだ。
いい加減この対応にも我慢の限界なので喧嘩を売ってくるのなら大歓迎だ。
「少なくともお前は言ってないな?それで俺はどうなるんだ?」
「・・・エスガルド王国にはルドルフ並びに御付の騎士達は魔物との戦闘に巻き込まれて殉職と伝えてやろう!」
騎士は槍を構えて俺に向かって馬を走らせる。
まだ挑発もしていないのに余程俺の言葉が気に入らなかったようだ。
これならば正当防衛なのでやり返しても何も問題は無いはずだ。
騎士の向こう側で女王陛下が馬車の扉に捕まって頭を抱えているが、もう止められない。
「死ねっ!」
「これで殺せると思っているのか?お前は馬鹿か?」
騎士が俺の心臓に向けて槍を突き出してくるので、穂先を掴んで力任せに騎士を馬から振り下ろす。
騎士は俺の行動が予想外だったのだろう、受身も取れずに馬から落ちてゴロゴロと地面を転がっているので、掴んでいた槍を空中で半回転させ、穂先を騎士に向けて投げる。
「きゃあっ!?」
後ろで女王であろう叫び声が上がるが、俺はあの騎士のように後先考えずに殺すようなことをするつもりは無い。
俺が投げた槍は転がる騎士のマントを巻き込んで地面に半分くらいまで刺さる。
「雑魚がしゃしゃってくるな。お前如きの相手をする時間が勿体無い。」
「グッ・・・クゥッ・・・」
騎士は心底悔しそうに地面を叩いて悔しがっている。
なぜ絶望的な実力差を見せ付けたのに、あんなに悔しがれるのかとても不思議だ。
「不甲斐無いねぇ!エンリコ!お前は四従臣の座を次の奴に譲りな!」
「また面倒な奴が・・・すまんが先程の言葉を訂正しよう。お前ら如きを相手をする時間が勿体無い。」
俺に向かってきた男はエンリコという名前らしい。
別の護衛騎士が槍を構えているので、来るのなら纏めて来いという意味も含めて挑発しておく。
「お止めなさい!我々は人間同士で争うために来た訳ではありません!お控えなさい!」
「「「申し訳ありません。」」」
女王の一喝で騎士達は武器を納める。
どうやら女王は俺と争う気は無いようだ。
「では先程の続きを言わせて頂く。我々は謁見するために城へと出向いたが日の下で一時間待たされた上にぞんざいに扱われ、その後俺の御付二人がギルドへ出向けば何時間も待たさせた挙句にこんな物を渡してギルマスは多忙につき会えないと門前払いされたが?」
女王に渡された隊列表を見せながら言う。
今度は誰も俺の邪魔をしようと言う人間はいないようなで一安心だ。
女王は隊列表を見て苦々しい顔をしている。
「カルビン!あなたはリーオに戻ってすぐに調査なさい!今の話が本当であれば関係者は全て厳罰に処しなさい!」
「かしこまりました!」
「この度は不快な思いをさせてしまった事を深くお詫びいたします。」
「ほう?少しこの国の評価を改めないとな?」
女王は護衛の騎士に命令をして、すぐに俺達に向かって深深と頭を下げてくる。
国の最高権力者が自らの過ちを認めて頭を下げるなど普通なら絶対にありえないことだ。
だが色々とはっきりとさせたい事ができてしまう。
「ほう?俺達への対応を知らなかったと?ではなぜ俺達がここにいるとわかったのでしょうか?」
「恥ずかしながら把握出来ておりませんでした。あなた方の到着はアラン姉様から伺って知っておりました。」
「アランお姉様?」
「昔アラン姉様に助けて頂いた事がありまして・・・そしてそのアラン姉様が自分よりも強い男が救援に向かったからよろしくとマジックアイテムで言伝を受け取って楽しみに待っておりました。」
「あいつも色々と動いてくれているのだな。」
というかそう言う事なら手紙に一言でも書いてくれていれば解決したような気がするのだが、なぜアランは書かなかったのだろうか?
これが他の人間なら意味があるのだろうかと考えるのだが、アランなので恐らく忘れていたとか別に書かなくても会ってたでしょ?って感じの理由だろう。
「ちなみにどんな誓約書にサインをなさったのでしょうか?控えを見せて頂けませんか?」
「無い。誓約書の控えも渡されずに追い出された。」
「なんですって・・・あのハゲデブ・・・帰ったらあのハゲ散らかした髪の毛をむしってやる・・・」
女王は何やらブツブツといい始める。
もし機会があれば是非にもあの外務大臣の頭がどうなっているのか確認したいものだ。
「だから気にしないでくれ。俺達は自分の分は自分で稼いでるし、ブールニア女王国の足を引っ張るような事はしない。」
だが女王にまで付き纏われるのは勘弁願いたいのでしっかりと安心させておく。
こう言っておけば納得して帰ってくれるだろう。
「そこの御付の騎士!ブールタニア内でのルドルフ様の成果を教えてくださる?」
「はっ!シーリザード六百五十二体、ドランブサーペント七百三体、メタルサウルス五十体、ドランブロックサーペント一体、ドランブメガントサーペント三体、ティラノサウルスニ体・・・そして多種な草食魔物を三百体程です!肉はほとんど干し肉に加工し、素材の半分はヴァドールの村に差し上げているのであくまでも成果であります!」
俺の言葉に女王は一瞬考えて、低頭しているクリスティアナとパンジーに尋ね、クリスティアナが淀みなく答える。
なぜ俺が今回の旅で何を何体狩ったのかそんなに把握しているのか不思議である。
「あの外務大臣のせいでそれだけの魔物が他国に流出するのですね・・・」
「まぁリーオの街にはもう寄るつもりは無いからそうなるかもな?」
「少し・・・いえじっくりとお話を致しましょう。」
「・・・クリスティアナ、パンジー全権を委任する。任せた。」
女王はガッツポーズをして言って来るが面倒臭い予感しかしない。
もう日も暮れているので俺はゆっくりとしたいのだ。
クリスティアナとパンジーに丸投げして自分のテントへと向かう。
「ちっ!あんたさっきから何様だい?」
「そうですねぇ?生意気ですよねぇ?」
「生意気ならどうするんだ?勝負するのか?」
正直な所ブールニア女王国に来てから好き勝手な誓約書を書かされたりして、思う所はあったが我慢していた。
そこで必死に槍を引き抜こうと力を込める騎士を見て少し溜飲が下がったと言うのに、女王が条件を見直そうなどと言い出し、俺は爆発寸前だ。
喧嘩売るというのなら存分に買ってやろう。
「おい。返事は?喧嘩を売ったんだろう?」
「いい度胸だね!じゃあさっきの言葉を信じて纏めて行かせてもらうよ!レジーナ行くよ?」
「かしこまりました。シャロン殺しては駄目ですよ?」
俺が言うと二人が抜刀しながら馬から飛び降りて俺に向かって地面を蹴って向かって来る。
ガサツな言葉使いのシャロンが斬りかかって来るので最低限の動きで避けて、兜を鷲掴みにして押込み、後頭部から地面にめり込ませる。
「・・・よくもシャロンを!」
もう一人のレジーナという名の騎士が火の槍と思われる魔法を放って来るので、左手で握りつぶしながら歩み寄る。
「え・・・嘘・・・」
「えと・・・なんだっけな?四従臣だったっけ?お前らがこの国のトップなのか?俺一人で滅ぼせそうだな?」
「くっ・・・舐めないで!」
俺が更に挑発すると、レジーナの剣に赤い光の粒子が螺旋を描き始め、斬りかかって来る。
どんな魔法かはわからないが、おそらく火属性の魔力を帯びた魔法剣だろう。
適当に魔法障壁を作って受け止め、レジーナに腹パンをする。
鎧に拳がめり込み、レジーナはそのまま後ろに大の字に倒れる。
少々本気で殴ったので鎧は歪み、俺の拳の型が付いてしまったが、レジーナは死んでいないので大丈夫だろう。
あと俺の右手の拳は骨折してしまった。
ここまで本気を出すつもりはなかったのだが、その制御を間違える程度にはイラついてしまっていたようだ。
「後は・・・任せたぞ?」
「ひゃい!お任せください!」
クリスティアナが慌てて敬礼をして答えるので、自分の拳を治癒して寝るべくテントへと入る。




