第百八十二話 ヴァドールの宴
「本当に最後のツツジさんを抱いてよかった・・・今日は会えて無いな・・・」
「ほう?夜いないと思ったらあいつらはそういう事をしていたのか。」
俺がエアバッシュを使って村を飛び越えて、一足飛びに砂浜に降り立つと大蛇を目の前にしたヴィンガが目を閉じて何やら一人ごちていた。
どうやらツツジ達は夜は自分の家に戻って休んでいるのかと思っていたら、聖騎士達の相手をしていたようだ。
昼の間は俺達の世話をして夜は聖騎士の世話とは中々の過密スケジュールである。
とりあえず目の前にそびえる大蛇の頭に向かって雷魔法で磁力の道を作り二個の超重球を発射する。
この大蛇もドラゴンケイブ大迷宮の固有種のようで目は見えて無いようだ。
大蛇は俺の超重球に気付く事無く、口を大きく開いてブレスを放とうとしているが、超重球が当たる方が早い。
そのまま命中して頭が弾ける。
出来ればこの奥の手も隠しておきたかったのだが、今の俺ではこの方法が一番早く確実に、そして安全に倒せる方法だろう。
「何が起こりました?」
「どうしたヴィンガ殿?貴殿が倒した所に私が駆けつけたのでしょう?」
ヴィンガが間抜けな顔で尋ねて来る。
俺としてはこの村の功績は全て聖騎士のものと約束をしているので、村長達が聞いている可能性も考慮してさっさと押し付けておく。
「何をしているんだ?本当にやめてくれないか?」
「あ・・・気付いたら自然と・・・申し訳ありませんでした!」
何か反論をするかと思っていたが、ヴィンガは突然跪いて祈り始める。
完全に予想外の行動で呆気にとられながらも何とか言葉を吐き出す。
するとヴィンガは深刻な表情を浮かべて土下座をし始める。
この男が何を考えているのか全く理解が出来なくて困ってしまう。
今までこいつに見下された事は無かったが、ここまで敬まれる覚えも無いのだが、俺が一言注意をしただけで流れるように土下座を始めた。
「土下座もやめろ・・・あの蛇を回収するぞ?」
「はっ!仰せのままに!」
ヴィンガは満面の笑みで服を脱ぎ始めるのだが、なぜか股間が激しく興奮している様子だ。
こんな危ない男と一緒に海に潜って作業をするのは絶対に嫌だ。
「かしこまりました。お邪魔でしたね・・・申し訳ありませんでした!」
ヴィンガは俺の気持ちを汲んで素っ裸のまま跪いて手を合わせて祈り始める。
股間を興奮させながら真剣な表情で祈る姿は控えめに言っても変態である。
ヴィンガは狂信者の部分以外ではかなり真っ当な人間だと思っていたのに、なぜこうなったのか全く分からずに溜息を吐きながら海に潜って先程の大蛇を砂浜へと移動させる。
「(まずは奥の手の回収だな。)」
ドランブギガントサーペントの頭の中にめり込んだ超重玉を回収してマジックバッグに放り込んでおく。
そして腹を割いて内臓と魔石を取り出して皮をはがすための準備を進める。
「ツツジ、ヴィンガ殿と仲良くしているところ申し訳ないが手伝って欲しい。」
「ツツジさんはここで休んでいなさい?私は行きましょう。」
次に皮を剥ごうと思うが余りにも巨躯すぎて俺一人では手に余ってしまう。
目の端にヴィンガと仲良さそうに話すツツジが見えた。
二人の邪魔をするようで少し忍びないのだが、それよりもさっさと魔物肉が痛む前に終わらせるほうが先決だろう。
そう思ってツツジに声をかけたのだがヴィンガがやってくる。
今は服も来て表情もキリッとしているのでこのヴィンガなら一緒に作業をしても大丈夫そうだ。
「ヴィンガなら安心できるな。一気に皮を剥ぐぞ?」
「かしこまりました。」
「こんなに簡単に・・・?」
「手順を踏めば簡単なんだ。」
ヴィンガと共に大蛇の皮を持って一気に尻尾へと駆け抜けて皮を一気に剥ぐ。
ヴィンガが目を丸くして驚いている、風竜の時もそうだったがしっかりと皮と皮下脂肪の間に空気を流して、一気に引っ張ってやればツルンと剥けるのだ。
とりあえず剥いだ皮をアイテムボックスに入れて、肉を切り分ける。
「ツツジ?残っている人を集めて保存食にしてくれるか?」
「かしこまりました。」
ツツジに指示を出すとすぐに村に残っていた住人達が集まって一斉に干し肉を作り始める。
俺はひたすら大蛇の肉を加工しやすい大きさに切り分けて村人に渡し続ける。
「何をしているんだ?」
「ルドルフ様の御業を拝見して感動に打ちひしがれています。」
「意味がわからん・・・」
俺や村人が忙しくしていると言うのにヴィンガはのん気に砂浜に跪いて何やらブツブツと呟いている。
不思議に思って尋ねるのだが無駄にキリッとした表情で答え、俺達の手伝いをする気は無いようだ。
「ヴィンガ?何もしないのなら俺達のテントでクリスティアナ達が森での報告書を書いているはずだ。口裏を合わせるためにも確認してくれるか?」
「かしこまりました!身命を賭して!」
目の前でサボられると俺のモチベーションが保たないので適当な仕事を出しておく。
そろそろクリスティアナ達が森の魔物の解体を済ませて帰ってきている頃だろう。
ヴィンガから少々大げさな返事が返ってくる。
「そこまで気張る事ではない。あとそこのは大丈夫なのか?」
「え?・・・あ。」
なぜかヴィンガは鼻息を荒くして意気込んでいる。
そして俺はずっと気になっていたロンヴァルトの事を尋ねるとヴィンガが目を見開いて驚いている。
ヴィンガは完全にロンヴァルトの事を忘れていたようだ。
慌ててロンヴァルトに治癒魔法を施してから、担いで村へと走って行く。
「なんだか今日は様子が違いますね?」
「そうだな?ツツジは夜も大変なんだから昼間はサボって休んでいいぞ?」
「え?いえ・・・何の事でしょう?」
ヴィンガを見送っているとツツジが話しかけてくる。
ついでによかれと思って、声をかけたのだがツツジは慌てた様子で離れて行き精力的に動き始める。
「(俺などの世話よりも聖騎士への応対に力を入れて貰いたいのだがな・・・)」
そんな事を思いながらひたすら大蛇の肉を切り分け村人達と共に干し肉を量産して行く。
大蛇の処理が終わって一息吐いていると、同じく作業を終えた村人達が集まってきて砂浜でキャンプファイアーを始めだす。
丁度目の前を俺の世話係の一人であるウツミが通りがかるので声をかける。
「何が始まるんだ?」
「海の魔物も片付いて、森も片付いたけん祭りするんじゃ!」
「ほう?なら俺からも餞別だ。」
ウツミの前に十倍のマジックバッグに入れていた酒樽を取り出して置く。
前にゲーテの町で貰った物だが、アランも存在を忘れているようで何も言ってこないのでマジックバッグの肥やしになっていたものだ。
ウツミは万歳をして喜んでいるのでとても有意義な使い方が出来てとても満足である。
「ウツミ?この酒は聖騎士からの賜り物だからな?」
「わかっとる!あれもこれも今生きとるのも全部聖騎士様のおかげじゃ!ほんにルドルフ様は面倒臭いのぅ!」
ウツミがブツブツ言いながらも村人を集めて酒樽を運んで行く。
少ししてキャンプファイアーの方向から歓声が上がるので、ウツミだけじゃなく村人達も大喜びのようだ。
とは言え俺はこういう騒ぐ場は得意では無いので、さっさと自分のテントに戻って夕食を作る。
「ルドルフ様!?主役がこんな所で何をなさっているのですか?」
「主役は聖騎士達だ。俺ではない。」
夕食を作っているとツツジが駈け寄ってくる。
額には汗が滲んでいるので俺を探し回っていたのかもしれないが、俺は主役では無いのでお門違いである。
「そんな詭弁が通じるとでも?ルドルフ様がいなければ・・・聖騎士様だけだったら・・・村は滅びていたのはみんなが知っていますよ?」
「事実はどうでもいい、重要なのはどう伝えられるかだ。」
そう重要なのは誰がどういう風に伝えるかだ。
歴史を見れば判るとおりに人の見方と伝え方次第で歴史とはいくらでも変わるのだ。
ヴァドールの人間にとっては救世主でもリーオの人間が聞けば、聖騎士を差し置いてでしゃばったエスガルドの冒険者と思われる可能性もある。
もしそれが伝わったならば、聖騎士を差し置いてでしゃばった男としてブールニア女王国の歴史に名が刻まれる可能性もあるのだ。
それならば最初から俺の存在は無かった事にして聖騎士の功績にした方が波風も立たないし、何よりも注目を浴びるのは得意ではない。
まぁ人間というのは自分が信じたい事を信じる生物なので大丈夫だとは思うのだが念のためだ。
「ですが・・・ですが!我々の感謝を伝え切れていません!」
「気にするな。俺は観光が出来れば十分だ。ならば恩返しに魔魚の漁に同行させてくれ。」
「喜んで!では村の人間にはそう伝えておきます。」
「よろしく頼んだ。」
ツツジが離れて行くので、一人で出来上がった夕食を食べる。
クリスティアナとパンジーが戻ってくる様子は無いので村で宴に参加しているのだろう。
久々にゆっくりと一人で食事を楽しんで、刀の手入れをして魔力の鍛錬を終える。
「(一人だし・・・好き勝手してやろう。)」
今日は色々と働いたのでどうしても我慢が出来なくなって、土魔法で湯船を作ってお湯を張る。
普段ならば周りの人間に説明が面倒臭いので絶対に作らないのだが今日は昼食も食べずに働いたので自分への御褒美である。
「あぁ・・・」
お湯に浸かって自然と声が漏れ出す。
気持ちよくお湯に浸かっていると千鳥足のクリスティアナとパンジーが戻ってくる。
おそらく宴で酒を飲んだのだろう、二人共顔を真っ赤にしてとても上機嫌な様子だ。
「ルドルフ殿何をなさっているのですかぁ?」
「クリス?ルドルフ殿はねぇ?お風呂に入ってるんですよぉ?」
「いいですねぇ?私も失礼しますねぇ!」
「じゃあ私も!」
そう言って二人が鎧を脱ぎ始める。
酔っ払いの相手をしてはいけない、アランから学んだ事だ。
俺は二人と入れ違いに風呂から出て、二人の入浴を覗かれないために風呂を囲むように土魔法で壁を作り、テントに戻って一日を終える。




