第百八十一話 森の掃討作戦報告書
ルドルフ様はドランブギガントサーペントを海から引き揚げて淡々と硬い皮を切り裂き解体を始めます。
「さすがは聖騎士様です!」
「ツツジさんにそう言って貰えれば本当にありがたいですね。」
美しい黒髪をなびかせながら褐色の肌が美しいツツジさんが駆け寄ってきます。
朝会えなかったのでとても愛おしく感じてしまいます。
本当は私では無く、目の前で解体しているルドルフ様が倒したと言いたいのですが、ルドルフ様との約束もあるので私達の成果であるかのように言わなければならないのでとてももどかしいです。
「ツツジ、ヴィンガ殿と仲良くしているところ申し訳ないが手伝って欲しい。」
「ツツジさんはここで休んでいなさい?私は行きましょう。」
ルドルフが呼んだのはツツジさんですが、ここは私は行きましょう。
いい所を見せたいというのもありますが、先程までルドルフ様の森での狩りを手伝っていたはずなので、疲れているでしょう。
「ヴィンガなら安心できるな。一気に皮を剥ぐぞ?」
「かしこまりました。」
私が返事をして皮を持つと、皮を持ったルドルフ殿が走り始めるので私も皮を一緒に引っ張ります。
するとドランブギガントサーペントの皮がペロンとはがれます。
「こんなに簡単に・・・?」
「手順を踏めば簡単なんだ。」
私が思わず声を上げるとルドルフ様が答えてくださります。
私の言葉に反応してくださって感無量になりその場に座り込んで喜びを噛み締めながら祈りを捧げます。
「何をしているんだ?」
「ルドルフ様の御業を拝見して感動に打ちひしがれています。」
「意味がわからん・・・」
ルドルフ様は皮をアイテムボックスに入れて肉がむき出しになったドランブギガントサーペントを手際よく切り分け始め、村娘達が肉に塩を擦り込んだりして作業を始めます。
どうやらこの大量の肉で干し肉を作るようです。
いつの間に相談したのか検討もつきませんが、解体も指示も見事な手際で惚れ惚れとしてしまいます。
「ヴィンガ?何もしないのなら俺達のテントでクリスティアナ達が森での報告書を書いているはずだ。口裏を合わせるためにも確認してくれるか?」
「かしこまりました!身命を賭して!」
「そこまで気張る事ではない。あとそこのは大丈夫なのか?」
「え?・・・あ。」
ルドルフ様が指差す先にはボロボロになったロンが気を失っていました。
すっかり忘れてしまっていたので、まずはロンに治療をかけて傷を治し、長老の家で用意して頂いている部屋に寝かせ、エスガルド騎士の下へと赴きます。
村の至る所で村人達が干し肉を作っています。
「(ドランブギガントサーペントの肉では無さそうですね?森で狩ったのでしょうか?)」
村人達が干している肉はおそらくドランブサーペントの肉のようですが、数が多すぎます。
早く報告書を見たくなり、足早にルドルフ様の野営地点に行くと、テントの前でクリスティアナさんとパンジーさんが頭を付き合わせて何やら話しています。
「違うって!まずは雷大網を使ったんだって!」
「魔法で魔物を誘き寄せてからじゃないの?」
「まずは雷大網を設置してから森に入ったんだって!」
「・・・先輩達から聞いてたけどルドルフ殿の報告書ムズッ!」
どうやら二人は相談しながらルドルフ様の報告書を作成しているようです。
我々のような凡夫に彼の行動を文字で説明するのは大変な作業でしょう。
ですが彼女達はそれをしなければならないので同情します。
彼女達は私の存在に気付いていないようなので、二人が報告書を書き終わるまでゆっくりと待つことにしましょう。
「出来た!」
「なんかあれだね?全体的にふわっとしちゃったね?」
「いいのいいの!先輩達も困ったら適当に抽象的にしろって言われてるし。」
「まぁあたしは怒られないならそれでいいんだけど・・・」
二人が報告書の最終確認をし始めます。
早く私も拝見したいのですが、もう少しの我慢です。
「よし!オッケ!」
「じゃあみんなを手伝いに行こっか?」
「すみません。ルドルフ様に言われて来ました。報告書を拝見しても?」
二人は私に気付かないまま書き終わった報告書をしまい始めるので、慌てて声をかけます。
ルドルフ殿が何をなさったのかやっと知ることが出来るのでとてもわくわくします。
「ヴィンガ様!?どうぞ!」
「ありがとうございます。」
クリスティアナさんが恭しくお辞儀をしながら報告書を差し出してくれるので、ありがたく拝見させて頂きます。
◆
○月×日
ルドルフ殿は朝食を終えると「下準備をして来る。」と短い言葉と共に森へと走って向かわれたので、我々はルドルフ様の指示に従ってヴァドール村の住人達、約二百人を引き連れて森へと向かいました。
三時間程かかってルドルフ殿が待つ森の入口に着きます。
「おい!お前らの中で雷属性の人間はいないか?」
ルドルフ殿は我々を確認するやいなや、雷属性の村人達を探して等間隔に配置し始めます。
我々は念のために村人達に何かあった時に即座に対応出来る様に完全武装をして待機します。
「いいか?あの村人達には俺の右手だけを見ろと伝えろ。そして俺が右手を上げたら説明したとおりに魔法陣に魔力を注いですぐに後ろに逃げるようにと。」
ルドルフ殿はそれだけ言って森の中へと消えて行きました。
我々はルドルフ殿の指示に従って等間隔に並んだ村人達一人一人に先程の指示をそのまま伝えます。
村人達に指示をし終えてルドルフ殿の帰還を待っていると、地鳴りが始まり、木々が揺れ始めます。
地鳴りはどんどんと大きくなり、ルドルフ殿が森から姿を現した時には、地鳴りは地震のように、そして木々の揺れは森が丸ごと揺れているかの如く錯覚するほどでした。
そしてルドルフ殿を追うように地鳴りの原因である、何千と言う魔物が木々を薙ぎ倒しながら姿を現しました。
「皆さん大丈夫です!焦らずにルドルフ殿の右手だけを見ていてください!」
「皆さんルドルフ殿の右手だけを見てください!後ろから来ている魔物は作戦が成功すれば脅威ではありません!」
我々はその光景を見て、即座に指示を出すべく村人達の下へと走りました。
本当に魔物の脅威が無くなるのかさっぱり分かりませんが、村人達が先走ってルドルフ殿が立てた作戦を壊さないようにするべく奔走します。
「「魔力を注いでください!」」
その時ルドルフ殿の右手が上がるので、パンジーと同時に指示を出します。
村人達は冷静な様子で地面に描かれた魔法陣に雷属性の魔力を注ぎます。
次の瞬間我々と森との間に光の爆発が起こり、ルドルフ殿を追っていた魔物達のほとんどがその場で転がり再度地面が大きく揺れました。
魔法を発動して避難しようとしていた村人達があまりの揺れにまともに歩けない程の揺れでした。
そして前方では倒れた魔物達が原因で土煙が上がりルドルフ殿の姿が確認できなくなります。
尚ルドルフ殿が使った魔法は設置型の雷大網だろうと思われるのですが、我々の知る雷大網とは威力も規模も桁違いなので自信はありません。
その後揺れが収まると同時に村人達と共に避難して土煙が収まるのを待ちました。
ルドルフ殿の姿が砂煙で見えなくなってしまい村人達に動揺が広がりそうだったので、必死に鼓舞していると、土煙が収まる前にルドルフ殿が姿を現してこちらへと歩いてきました。
「終わったぞ。村人の指示は任せた。」
ルドルフ殿は短い言葉と共に再び土煙の中へと姿を消しました。
しばらくして土煙が収まると夥しい数の魔物の死体と共に土煙の中で仕留めたであろう大型の魔物を解体するルドルフ殿が姿を現します。
そして魔物の死体達の中心にはルドルフ殿所有のアイテムボックスが設置してあるので、ルドルフ殿の指示に従ってそのアイテムボックスに村人達と共に魔物の解体をして入れ続けます。
「あっちがやばそうだ。ここは任せたぞ?」
ルドルフ殿はいつも通りに淡淡と言ってヴァドールの方向へと凄まじい速度で飛んで行きます。
比喩ではなく本当に飛んで行きました。
我々は意味がわからずにルドルフ殿が向かった方向を見るのですが、豆粒よりも小さくなったヴァドールの村があるだけで何がやばいのかは皆目検討もつきませんでした。
後々聞いた話ではその時、聖騎士ヴィンガ様とロンヴァルト様が海に巣くっていたドランブギガントサーペントと戦闘をしていたそうですが、ルドルフ殿はどのようにして察知したのかは謎であり、我々が村へと帰った時には何事も無かったように村は平穏の一言であり。
尚戦闘を見ていた村人達に聞いても「両手を差し出すと頭が吹っ飛んだ」と言うばかりで、ルドルフ殿がどうやってドランブギガントサーペントを倒したのかは不明です。
魔物の詳細報告
シーリザード 六百五十二体
○ドランブサーペント 五百三体
○メタルサウルス 五十体
○ドランブメガントサーペント 二体
○ティラノサウルス 一体
その他、草食魔物多数。
ドラゴンケイブ大迷宮から出てきた魔物と思われるものには○印を付けてます。
尚この魔物達はルドルフ殿の意向により半分はヴァドールの村へと寄贈されます。
村人達は拒否したのですが、ルドルフ殿が「聖騎士達から十分な金を貰っている」と押し切った結果であり。
ルドルフ殿はヴァドールの村及びニール連合国にて自分の功績を残す事を酷く嫌っている様子で、この度の功績も全て聖騎士、ヴィンガ様とロンヴァルト様にお譲りするそうです。
エスガルド騎士団四番隊々員クリスティアナ・ジャフル
◆
「色々と重要な部分が足りませんね?」
「はっ!我々ではこれが限界でありまして・・・」
どうやってそんな大量の魔物を誘き寄せたのだろう?
何の魔法を使って千を超す魔物を一網打尽にしたのだろう?
そして目の前で戦ったはずなのに私もルドルフ殿がどうやってドランブギガントサーペントを仕留めたのかわかっていません。
「この報告書で国は納得するのですか?」
「はっ!ルドルフ殿に関してはこれで問題は無いはずであります!」
「わかりました。では私もルドルフ様の意志に沿って行動させていただきましょう。」
悔しい事にエスガルド王国はルドルフ様の御業が我々に理解出来るものでは無いと認知しているようです。
個人レベルならばまだしも、国レベルで理解を示すとはエスガルド王国の柔軟性には目を見張るものがあります、エスガルド王国を見くびっていたようなので評価を上げざるを得ません。
「大体の状況はわかりました。ありがとうございました。」
「いえ!お役に立てて何よりであります!」
「では今度こそ村人のお手伝いに向かいます!」
クリスティアナさんとパンジーさんは報告書をしっかりと書簡に入れて、村へと歩いて行きます。
私も二人と一緒に村人の手伝いをするべく村に向かいましょう。




