第百八十話 海を平定する(聖騎士が。)
「あれ?私一人ですか・・・」
目を覚ますと時刻は昼前でした。
どうやら昨日本気で戦闘して思いの外疲れていたようです。
見た目は二十代のままですが、年々疲れが取れにくくなってきました・・・歳は取りたく無いものです。
さっさと法衣を着て隣の部屋で裸で寝ていたロンヴァルトを起こしてリビングへと向かいます。
「聖騎士様おはようございます!」
「少々寝すぎてしまったようで申し訳ありません・・・」
「何を仰います!聖騎士様方は我々では一生かけても成し得ぬ事をして頂いて降りますれば、もっと休んで頂きたいと思いこそすれ寝すぎたなどとありえませぬ!」
「そう言って貰えれば大変気持ちが楽になります。」
「ではすぐにお食事の準備を致しますので!」
村長は大寝坊した私の事を責めるどころか、すぐに料理の準備をしてくれます。
食事の時間でも無いのに運ばれてくる料理は湯気が立っているので、我々が何時おきてもいいようにずっと準備をして待ってくれていたのでしょう。
ついつい食事の前の感謝の祈りにも力が入ってしまいます。
「おぉ!飯だ飯だ!」
「ロン!こんな時間に温かい料理を出して頂ける感謝の祈りを捧げなさい!」
「へいへい!精霊王よ村長そして村の方々様。皆様の慈しみに感謝して・・・頂きまぁす!」
「どれだけ省略すれば気が済むのでしょうか・・・」
まぁ私とコンビを組み始めた時は祈りの文言すらも知らなかった事を考えれば上出来でしょう。
私も感謝の祈りを終えて食事を食べます。
「食事をしながらで申し訳ありません。村の方々がもう漁に出られたので?」
「いえ朝一で船の乗り心地を調べて、今は倒壊した家々を片付けておるはずでございます。」
「成程。私達の寝坊のせいで色々と予定を狂わせてしまいましたね・・・」
「問題ございません!では私めはあいつらと船でお待ちしておきます。あ、食器はそのまま置いてもらっていて構いませんので、では失礼致します。」
そう言って村長は両手を振りかぶって全力疾走で家を出て行きます。
昨日も思いましたが普段は腰が曲がっていて杖が無いと歩くのもやっとな様子なのに大丈夫なのか心配になります。
「(それよりも食事はステーキに肉たっぷり野菜少な目のスープですか・・・)」
やはり野菜はもう無いようです。
とは言え一日だけとは言え村人三百人の腹を満たすだけの野菜を持っているルドルフ殿は異常と言わざるを得ないです。
逆に言えばその異常なルドルフの備蓄をもってしても一日しかもたなかったという事。
幸いな事に昨日我々が差し上げたドランブメガントサーペントの肉などでしばらくは持つでしょう・・・ですがこんな肉だらけの食生活では体がもたない。
さっさと海に巣くう最後の魔物を倒し、そして森の魔物を倒して村の交通路を復活させないと駄目です。
「ロン!さっさと魔物を駆逐して村を救いますよ?」
「おうよ!肉は好きだが、やっぱり野菜があっての肉だぜ!」
やはりロンヴァルトは変な所で気が回ります。
私が説明してないのに言わんとしている事を全て理解してくれたようで何よりです。
二人でさっさと食事を終え、砂浜へと向かいます。
「お待たせ致しました。」
砂浜に着くと村長と四人の男が船の前で待っていました。
急いで食事を終えたつもりでしたが、やはり待たせてしまったようなのでしっかりと謝罪をしておきます。
「いえいえ!我々も今到着した所ですので!ではお前らいけるな?」
「「「「はい!」」」」
男達はすぐに浜に上げられていた船を押して海へと漕ぎ出していきます。
船の事はよくわかりませんが、帆も無くカヌーの両脇にアウトラダーが取り付けられただけので簡素で決して立派な船とは言い難いですが、十分では絶対に作れないという事だけは分かります。
「よしよし・・・あいつらが大蛇を誘き寄せてそれを狩って海は解決だな。」
「そうですね?ですが彼らが追いつかれた場合は・・・」
「分かってる。昨日は抑え目に解放したが本気で限界突破するぜ?」
「格好良く言ってますが狂戦士化でしょう?本当に狂戦士になられると後々大変なのですがね・・・」
「人命には代えられないだろう?頼んだぜ?相棒!」
ロンは笑って簡単そうに言っていますが、本気で狂戦士になられると私の指示も理解出来ない野獣と化して自信の魔力が枯渇するまで暴れ続け、魔力が切れれば糸が切れたように動かなくなります。
しかも数日動けなくなるというおまけ付きの欠陥だらけの技です。
確かに使いこなせれば魔王にすら届き得る力を発揮する強力な魔力特性ですが、デメリットが多すぎて使い所が難しいです。
とは言え私の具現化の魔力特性も使い勝手の悪さでは引けを取りませんが・・・。
私の具現化は文字通りに自分の魔力を具現化させる事が出来るので、制約を課した教典を作り出し、魔法を発動しています。
その発動条件は相手が罪を犯す事。
そしてその罪を裁くページを開き、罪状を読み上げるという条件を達成しないと魔法は発動しないと言うとても扱いづらい制限魔法です。
「フフフ」
「どうした?」
「いや、私とロンは性格は全く逆なのに戦い方は二人共面倒臭い魔力特性を使って似ているなと思いましてね?」
「へっ!じゃあ似た者同士って事なんじゃねぇの?」
ロンみたいに単純に考える事が出来れば楽なのでしょうが私はあれこれと考え込むタイプなのでそれで終わらせる事は出来そうもありません。
「(やはり不器用な戦い方以外は全てにおいてロンとは真反対ですね・・・)」
「真反対だからこそ二十年も一緒にやって来れてんじゃね?」
「そうでしょうね。」
私の心の声が漏れていたのでしょうか?ロンから私の心の声への的確な返答が返ってきます。
確かに真反対だからお互いに足りないものを補い合えているのかもしれません。
そう考えるとロンのように短絡的に考えるのも悪くないようにも思えてきます。
「戻って来たぜ?|さて・・・どこまで限界突破するか判断に困っちまうな?」
「まずは私が対応しますのでロンはギリギリまで待ってくださいね?」
「わかってらぁ!」
男達がカヌーを漕いでこちらへと戻ってきます。
おそらくドランブメガントサーペントを誘き寄せるのに成功したのでしょう。
後はここまで辿り着く事を祈るばかりです。
「おいヴィン!祈るのもいいが、今は祈ってる場合じゃねぇぞ!?」
「今の私に出来る事は彼らの無事を祈る事だけです!」
ロンは不敬にも精霊王という存在を信じていないようですが、私は信じています。
精霊教徒である彼らを守ってもらうために必死に祈ります。
「おいおい・・・どうやって大迷宮の洞窟から出てきたんだ?」
「あれは言いたくないですが、ドランブ・・・・ギガントサーペントですね。」
精霊王への祈りも虚しく必死に船を漕ぐ四人の後方の海面から巨大な蛇が顔だけに飽き足らず体を現します。
その大きさは昨日狩ったドランブメガントサーペントの大きさの比ではなく、
ドランブメガントサーペントの倍は太い体でした。
自分の目を、考えを否定したい言葉、決して口にはしたくない言葉です。
メガントはビッグでは言い表せないサイズと言う意味であり、巨人は余りにも大きすぎて巨人族に分類された事を意味します。
巨人族を狩るなど、聖騎士の本隊が・・・それこそトップの御使い様が動く案件です。
「だから考えんなっつぅの!後は任せたぜ?限界突破!」
ロンが即座に狂戦士となって姿が一瞬ブレて消えます。
直後ロンが立っていた場所が爆発し、砂が舞い上がります。
即座にドランブギガントサーペントへと目を向けると、野獣のようになったロンが張り付いて本能のままに鱗を剥がして顕わになった皮にかぶりついています。
後は任せたと言われましたが私の魔法で効果がありそうなものは一つしかありません。
ですがそれを使うとロンも巻き添えにしてしまうので今は必死に船を漕ぐ男達を手伝って早く非難させる事だけです。
「せ、聖騎士様・・・」
「遠すぎてサイズ感がわからなかったのですね?あれは我々が足止めしますので皆さんは避難してください!」
「か、かしこまりました!」
村長はもう普通に走って避難しています。
もうここまで来ると普段が腰を曲げて杖を突いているふりをしていると思えて来ます。
「貴様の存在そして聖騎士の妨害、抵抗を確認しました!ジャッジメント!」
ドランブギガントサーペントがロンを振り解こうと首を降り始め、三つの罪状が溜まった事を確認して重力魔法を発動します。
昨日は持ち上げましたが、私の魔力量で巨人種を持ち上げたら一瞬で魔力枯渇するでしょう。
なので今日はロンを範囲から外して頭だけを加重します。
ゴブリンやコボルト程度ならば一瞬で挽肉どころか血溜まりに変える程の重力がかかっているはずなのですが、ドランブギガントサーペントに対しては少しだけ頭を下げるに終わります。
ですがそんな有様の重力魔法でも意味はあったようで、ドランブギガントサーペントの動きが鈍り、その一瞬の隙をついてロンが皮を切り裂き肉を食い破って姿が見えなくなります。
「(こうなれば時間の問題ですね。)」
こうなればロンは生の魔物肉を食べて魔力を補充し続けながら敵の体の中で暴れ続けます。
問題があるとすれば魔物が息絶えてロンが出て来るまでどこにいるかがわからないので攻撃を加えられないことです。
そう思って数分、数十分かも分かりませんが海面から時折顔を出して苦しむドランブギガントサーペントを眺めていると異変が起きました。
なんとドランブギガントサーペントが平然とした様子で海面から再び巨躯を出してきて、何やらこちらに向かって吐き出してきます。
一瞬攻撃かと思って身構えましたが、どうやらロンのようです。
慌ててロンを受け止めるために砂浜を走ります。
「うっっっっ・・・」
受け止めたロンは体中傷だらけなのでドランブギガントサーペントの体の中で戦い続けていたのでしょう。
ロンがかなり弱らせているはずなので今なら私の奥の手も通じそうです。
「死ね!四属性剣」
私の必殺技四属性剣。
私はかなり珍しくも重力、雷、火そして風の属性を持っています。
この四属性剣は重力属性の重しで敵の動きを止め、風属性の斬撃で敵を切り裂き、次の火と雷で傷口から相手を焼き尽くす。
敵にとっては最悪の奥の手だったはずなのですが・・・重力魔法は意に介した様子も無く、風の刃は奴を撫でるように通り過ぎて行き、雷と火は全く無意味と言った様子です。
「本当に最後のツツジさんを抱いてよかった・・・今日は会えて無いな・・・」
私は死を覚悟し。
最後に思い浮かんだのは情けないですが精霊王への感謝ではなくツツジさんでした。
「(生き残ったらツツジさんに告白しよう・・・)」
叶わぬ夢を抱いて死を覚悟し、そして死を受け入れ目を瞑ってその時を待つのですがに一向にドランブギガントサーペントから攻撃が来る気配がありません。
「ほう?夜いないと思ったらあいつらはそういう事をしていたのか。」
代わりに聞き覚えのある声が聞こえたので目を開けると思わず目を開けたのに、それを見ようと更に目を開けます。
「さっきのは最後の言葉だったか?邪魔をしてしまったか?」
「あ・・・え・・・?」
「だがこの村での出来事はお前らの実績だ。死なれては困るからな。」
聞き慣れた淡淡とした口調とは裏腹に彼の向こう側は信じられない光景が広がっていました。
我々が手も足もでなかったドランブギガントサーペントの頭が弾けて海へと倒れて巨大な波を立たせていました。
「何が起こりました?」
「どうしたヴィンガ殿?貴殿が倒した所に私が駆けつけたのでしょう?」
私の問いにルドルフ殿は事も無げに言い放ちます。
「(この方は聖騎士の器を越えている・・・そもそも我々のような矮小な存在が勧誘などと・・・はっ!勧誘だと?思い上がりも甚だしい!)」
ルドルフ殿からすれば私とロン如きの勧誘など鼻で笑うのも億劫になる行為だったのだと・・・その瞬間私は全てを理解しました。
彼が私の物差し如きで計れるような人間ではなかったのだと。
「何をしているんだ?本当にやめてくれないか?」
「あ・・・気付いたら自然と・・・申し訳ありませんでした!」
私は気付いた時にはルドルフ様に向かって跪いて祈りを捧げていました。
ルドルフ様に不快な思いをさせてしまったようなのでしっかりと土下座で誠意を見せなければなりません。
「土下座もやめろ・・・あの蛇を回収するぞ?」
「はっ!仰せのままに!」
私も一緒に潜ろうと思って服を脱いでいたのですが、なぜかルドルフ様は一瞬動きを止めてこちらを見て溜息を吐いています。
私如きの矮小な人間が一緒では邪魔なだけなのでしょう。
「かしこまりました。お邪魔でしたね・・・申し訳ありませんでした!」
ルドルフ様は再度溜息を吐いて海へと入って行きます。
なぜ溜息を吐いたのかはさっぱりわかりませんが、私の仕事はルドルフ様がドランブギガントサーペントを持って悠々と海から出て来る姿を目に焼き付ける事なのです。
「(さぁ・・・もうそろそろですね・・・)」
ルドルフ様の雄姿を見逃さないように集中します。




