第百七十九話 聖騎士の待遇
「聖騎士様・・・聖騎士様大丈夫ですか!?」
「目を開けると見目麗しい女性が俺の事を揺すっていた。
今日一日何をしていたかもよく覚えてねぇがとりあえ据え膳食わぬは男の恥って奴だ。
とりあえず目の前の美女を抱き寄せてキスをしてその先を・・・って所ですか・・・っね!?」
「グエアッ!」
ロンヴァルトが起きぬけに魔力枯渇で倒れていた我々を介抱してくれていた女性に抱きつき始めるので腹を思いっきり踏み抜いてこちらの世界に戻しておきます。
彼はとても単純なので考えは筒抜けなのでおそらく私が今言った事の九割は合っているという自信があります。
我々はかなりの間気を失っていたようで辺りは真っ暗です。
年頃の女性達が出歩いていい時間帯では無いのでしっかりとお礼をして村へと戻ってもらったほうがいいでしょう。
「皆様本当にありがとうございました。我々はもう大丈夫ですので皆さん御自分の家に戻ってください。」
「「「はい!ありがとうございました!」」」
私の言葉に女性達は恭しくお辞儀をして村へと走って戻って行くので大丈夫でしょう。
ロンヴァルトを見ると私に踏まれたダメージも抜けてこちらの世界に戻ってきつつあるようなので、一緒に今朝仕留めた大蛇の確認と解体をしなければなりません。
「ロン?今日の内に大蛇の解体を済ませましょう?」
「そういえばそうだったな・・・なら俺は血抜きと内臓を済ませるぜ?」
「お願いします。」
二人で大蛇の解体を始めますが、ロンとは二十年以上コンビを組んでいるので何も言わなくても私が苦手な内臓関係の処理を始めてくれるのでとても助かります。
この男は女好きでズボラでどうしようも無いですが、こういう気遣いが出来るので助かります。
というかこの気遣いが無ければとっくに解散しているでしょうが。
「ヴィン?肉がマジックバッグに入りきらねぇぞ?」
「では村に差し上げて明日からの食料にして頂きましょうか?」
「いいねいいね?ルドルフに頼りっぱなしなのは気にいらねぇしな!」
「では村長の家に帰りましょうか?」
ロンと一緒に入りきらなかった大蛇の肉を担いで村長の家へと向かいます。
ルドルフ殿が出していた肉も魔物肉でしたがドランブサーペントの肉だったので、この・・・確かドランブメガントサーペントだったとはずなので価値も味も段違いのはずなので大喜びしてくれる事でしょう。
「村長遅くなって申し訳ありません!」
「この肉を村で食べて・・・って何で同じ肉があるんだ?」
「・・・・・・・・・聖騎士様おかえりなさいませ!本日は本当にありがとうございました!」
腰が曲がっていたはずの村長と共に一家の人間全員が全力疾走してきて玄関のわきで干していた肉を片付けて恭しく出迎えてくれました。
ロンと同じように私にも、今我々が担いでいるドランブメガントサーペントの肉に見えましたがそんな訳はないはずです。
我々が狩ったドランブメガントサーペントは無傷で肉を抜き取った形跡はありませんでした。
我々が気を失っている間に別のドランブメガントサーペントを狩ったとも考えにくいので見間違いのはずです。
「ロン?ドランブメガントサーペントがある訳ないでしょう?村長!心ばかりですが我々からのお裾分けです!」
「そうだよな?見間違いだよな?これを村人で分けてくれ。」
「ありがとうございます!では粗末ですがお食事を用意してますのでこちらへどうぞどうぞ!」
二人で担いでいた肉を降ろすと村長にかなり強めに家の中へと迎え入れられます。
掴まれた腕が若干痛い程度には強めです。
何か我々に見られたくない物でもあるのかと勘ぐってしまいたくなりそうです。
「おぉ!ヴィン見てみろよ!蛇の蒲焼だぜ!?」
「ロン?しっかりと作って下さった村長と家族の方々に感謝の言葉を言ってから・・・」
「いいのです!いいのです!我が村の救世主様なのですから!」
ロンが部屋に入るなり用意して頂いていた夕食にかぶり付くので注意するのですが、村長がロンを甘えさせてしまいます。
こいつは乗せれば乗せるだけ、煽てれば煽てただけ調子の乗る人間なので出来ればやめて欲しいのですが、それは無理なお願いのようです。
私はしっかりと村長とその家族に対して感謝の祈りをしてから夕食を頂きます。
「食後のお茶で御座います。」
「ほう?いい茶葉を使われているのですね?」
「ルドルフ様から頂いたのです!」
ルドルフ殿は今日一日の食材だけでなく、嗜好品まで村人に配っているようです。
「(その功績までも全て我々にっと言う彼の真意が全く分からずに困ってしまいますね・・・)」
我々に得はあれども、彼に得があるとは思えないのですが・・・聖騎士である我々に媚を売っているようにも見えないので本当に困ります。
「それで?大蛇はあと何体確認されているんでしたっけ?」
「あと・・・あと一体です!」
「・・・昨日三体の大蛇が海に住み着いてと仰ってませんでしたか?」
「その一体は・・・共食い・・・そう!残りの二体が喧嘩して共食いしましてな?」
「成程!ですが外洋では手を出せませんね・・・どうやって波打ち際まで誘き寄せましょうか。」
「ルドルフ様が船を作って下さったそうなのでそれを使って誘き寄せます!ですのでその先はお任せしてもよろしいでしょうか?」
「それならば、問題ないでしょう。」
「何から何までありがとうございます!では御部屋をご用意しておりますので、今日はごゆっくりとなさって明日もよろしくお願い致します!」
昨日まで三体がそれぞれに縄張りを作って暮らしていたのに突然共食いしたと言うのも疑問ですし、ルドルフ殿が船を作ったというのも気になりますがこれ以上聞けそうな雰囲気ではありません。
村長促されるままに部屋を出て用意してもらった部屋へと向かいます。
昨日用意していただいた部屋と一緒なので迷う事はありません。
「ヴィン?また明日な?」
「はいはい。今日は静かにして下さいね?」
ロンは私の言葉にニヤリといやらしい笑みを浮かべて部屋の中へと消えて行きます。
私はロンが扉を閉めるのを見送って自分用に用意して頂いた部屋へと入ると薄着の女性が布団の上で三つ指を立てているので思わず溜息を吐き出します。
「聖騎士様本日はお疲れ様でした。」
「えーとツツジさんでしたね?私に夜のお供はいりませんので今日我々が寝ていた間に起こった事を教えて頂けませんか?」
「・・・特に?あっ久々に漁が出来ました!」
「では質問を変えましょう。今日ルドルフ殿の一日を教えて頂けますか?」
「ルドルフ様から強く止められておりますので・・・全ては聖騎士様方からの賜り物でございます。」
ツツジさんは三つ指を突く事も忘れて頭を床に擦り付けて言うので、何も教えてくれそうにはありません。
とりあえず隣の部屋から如何わしい物音が聞こえて来るので八つ当たりも含めて壁を叩いておきます。
「ではルドルフ殿が船を作ったと言うのも言えないのでしょうか?」
「それは何も言われてませんので説明しますが・・・我々が二十分ほどでしょうか?目を離している間に巨木を用意して、我々が用意した設計図を元に十分程で船を作り上げました。」
「何を言っているのでしょうか?」
「そう言われるのも当然です。見ていた私が信じられませんから・・・木が簡単にくり抜かれ、ルドルフ様が触れるとふにゃりと形を変えるのです。神の御業だと思いました。」
ルドルフ殿は我々の監視がなくなった途端にやりたい放題したようです。
彼は本気で戦ったら「勝てないだろうな。」っと言ってましたが、私の見解ではロンと二人係りで奥の手を出しても勝てないと思います。
彼には我々の想像を絶する数の引き出しがありそうでいも言えぬ恐怖心がわきます。
「では最後に一つ。今日ルドルフ殿は我々が仕留めた大蛇とは別の大蛇と戦いましたか?」
私の問いにツツジさんは静かに首を横に振ります。
「では倒しましたか?」
ツツジさんは一瞬戸惑いの表情を浮かべて首を縦に振ります。
「(戦ってないのに倒したと・・・更に混乱しそうですね・・・)」
冷静に考えます。
自分はルドルフ殿だと仮定して近海に巣くっていた大蛇がいなくなれば何をする?
ルドルフ殿は魔貝を楽しみにしていた。
ならすぐにでも漁に参加するでしょうツツジさんも先程今日漁が出来たと言ってましたし間違いありません。
「(それで・・・ルドルフ殿が漁をすればどうなるでしょうね?)」
必死に考えます。
村人達が教えてくれないしロンは隣の部屋で何も考えずに村娘と楽しんでいるので、私だけで真相まで辿り着かないと目の前のツツジさんは教えてくれないでしょう。
「我々が大蛇を倒して・・・漁を始めた?」
ツツジさんはゆっくりと首を縦に振ります。
「ルドルフ殿も意気揚々と漁に参加しましたね?」
再びツツジさんはゆっくりと首を縦に振ります。
「ええい!まどろっこしい!その後外洋にいた大蛇が襲ってきてルドルフ殿が返り討ちにしたんですか?それも戦いとも言えない程に圧倒敵に!」
漁に出てからの話が何も思いつかなったので適当に言ったのですが、ツツジさんは静かに首を縦に振ります。
自分で言って馬鹿馬鹿しいと思ったのですがルドルフ殿はその馬鹿馬鹿しい話を実現したようです。
「本当ですか?」
信じられなくて思わず聞きますが、ツツジさんは再び首を縦に振ります。
ツツジさんは真剣な表情で嘘を言っているとは到底思えません。
ですがそれならば先程見たドランブメガントサーペントの肉を干していたのも納得が行きます。
「では最後の質問です。ルドルフ殿の明日の予定は?」
「はい。明日は聖騎士様達が最後の大蛇退治をなさるとお伝えした所ルドルフ様は森の大掃除をしようか。っと仰っていました。」
「成程・・・で?ルドルフ殿はどの子に手を出しました?あ、最後の質問と言ったのにすみません。」
「誰にも手を出されませんでした。誰にも指一本触れていません。」
「なんと・・・それは勿体無い!あ、重ね重ねすみません。最初の言葉は嘘です。やっぱり手を出します。」
とりあえず色々なもやもやを目の前の美女にぶつける事にしましょう。
こんな特権だらけの聖騎士を断わり続けるルドルフ殿の気がしれませんね。




