第十九話 王都到着
ゆっくりと村を馬車が進んで行く。
俺はゆっくりと久々の読書を楽しむ。
しばらくして馬車が冒険者ギルドの前で止まりフィリップが後ろに回ってくる。
「ワシはパストゥール家の二人と後始末をしてくるから。みんなはゆっくりとしてな?」
「では皆様、本当にご迷惑をおかけいたしました。」
「この御恩は忘れません、学校でお会いしましょう。」
馬車を降りたオーギュストとレナエルが恭しくお辞儀をする。
「このまま一緒に行けばいいんじゃないの?」
「ターニャ?それは駄目です!」
ターニャが考えなしに無茶苦茶なことを言ってシモンヌが慌てて止めている。
「そうだよ?王都までニコに馬車を押させるつもりかい?」
「そうじゃ、入学試験に間に合わんようになるじゃろうが?」
「あ・・・」
エミールとロジェに言われターニャがはっとしている。
「ふぇっふぇっふぇっ!そうだな?ニコは頑張ったからそこの坊主三人!午後からはお前らが押すだで!」
話を聞いていたフィリップが楽しそうに笑いながら言う。
「えっ!?俺達が押すんですか!?子供には無理ですって!」
「フィリップさん?我々は客ですよ?」
「そうじゃ!横暴にも程があるじゃろ!」
「(俺を見て見ぬふりをしてなにを言ってるのやら・・・)」
三人がフィリップに言い、俺は呆れて三人を見やる。
「まぁまぁ、ニコがどれだけのわしらのために働いてくれてたか知るのも大事だて!」
フィリップが笑いながら言うと、三人は冗談じゃない!と心の声が聞こえそうな表情でフィリップを睨んでいる。
フィリップはどこ吹く風といった様子でレナエルとオーギュストを連れてギルドの中へと入って行く。
「ニコがやってたんだ!」
「おぉそうじゃ!ワシらでやっちゃるぞ!」
「そうだね・・・」
三人が気合を入れている。
すぐにフィリップはギルドから出てきて、手馴れた様子で連結していた馬車を離して御者台に乗りこむ。
「じゃあ出発だで!」
「「「おう!」」」
フィリップの声にマット、エミール、ロジェが馬車に手を当てて気合の声で応えて馬車が進み出す。
「そろそろ押してくれやぁ!」
「「「おう!」」」
フィリップの声に反応して真面目な顔をした三人が馬車から降りて馬車を押し始める。
「おーおー!五人も減って馬が楽そうだで!」
フィリップが楽しそうに窓から顔を出して言う。
言外にお前らが押してるのは意味をなしてない。と言う意味だろう。
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
三人はその言葉に触発されて気合を入れて押す。
二時間ほど馬車が進んだ。
馬車の中にはロジェが席に寝転んでいる。
疲れすぎて寝返りも打てないようだ。
「ニコはこれを一日しとったんじゃのぅ・・・わしゃ数時間で死にそうじゃ・・・」
「ふぇっふぇっふぇっ!もっともニコと違って、お前さんらの力が弱すぎて押してる意味がなかったがの?」
「こんなになっとるのに意味が無かったいうんか・・・」
俺の言葉にロジェがピクリとも動けずに絶望している。
「フィリップさん待って!止まって下さい!マットが倒れました!」
一時間程した頃にエミールが声を上げる。
次はマットが倒れている、ロジェと同じくもう動けないようで地面にうつ伏せに倒れてピクリともしない。
フィリップが馬車を止め、エミールが肩を貸して馬車に押し上げられたマットがなんとかといった様子で這って通路にそのまま倒れこむ。
「ちょっと!頭を後ろのニコのほうに向けなさいよ!」
「そ、そうですよ?パンツが見えちゃいます!」
「ごめん・・・もう動けない。」
ターニャとシモンヌが足元に転がったマットに抗議するがマットは疲れきっていて手を動かす事も出来ずにその場に寝転んで言う。
夕暮れになり馬車が止まる。
「夜営にするべ!」
フィリップの言葉を聞いて最後まで馬車を押していたエミールがその場に崩れ落ちて動かなくなる。
「ほれ!エミールあっちで休むぞ!」
「よく頑張った!」
今まで休んでいたロジェとマットがふらふらとした足取りでエミールの肩を組んでどこかへと歩いて行く。
俺は読んでいた本をマジックバッグに入れて馬車から降りて料理は開始する。
「(あれ?そういえばレナエルの馬車に積んでいたオーガ肉はどこだ?)」
思い出してフィリップに声をかける。
「オーガ肉はどこだ?」
「あぁ。俺のマジックバッグに入れてるだで!ほれ!」
フィリップが腰に付けたマジックバッグからオーガ肉を取り出して渡してくる。
「オーガ肉はまだ結構な量残ってたはずだがフィリップのマジックバッグはそれだけ入るんだな?」
「ふぇっふぇっふぇっ!元金級だでな?だが隠してるお前さん程じゃねぇだでな?」
「俺はそんなに入らん。」
俺が言うとフィリップは面白そうに笑ってテントは張りに去る。
「(あの爺はどこまで見抜いてるんだ?)」
疑問に思いつつ料理を開始する。
今日は午後はゆっくりと読書を出来たので、上機嫌でオーガ肉を叩く。
「やっぱりニコのオーガ肉のステーキ美味しいわね・・・」
「絶品ですね。」
ターニャとシモンヌが笑顔で料理を食べている。
「ほれ、アーンだで。」
マット、ロジェ、エミールは筋肉痛で腕が震えて食べられないのでフィリップに食べさせて貰っている。
「ニコ・・・どうやったら一日中押して料理まで作れるんだ?」
「その通りじゃ、ワシは半日も持たずに倒れてしもうた・・・」
「・・・ニコ君?是非教えてくれ。」
「気合だな。」
マットが言いそれに追随してロジェとエミールが言うので俺が言う。
ルルがよく言っていた言葉だ。
気合があれば大体どうにかなる。
事実は俺はどうにかなっている。
いい事を言ったと自画自賛してうんうんと頷く。
「ニコに聞いた僕が馬鹿だったよ・・・」
「そうじゃのう。」
「はぁ・・・」
フィリップにご飯を食べさせてもらっている三人が呆れ顔になっている。
「食い終わったら寝るで!」
フィリップに追い立てられるようにふらふらとテントへと歩いて行く三人を見送って明日のスープの仕込みをする。
「ふぇっふぇっふぇっ!お前さんと違って他の子供は柔だで!」
「多分俺の鍛えられ方が非常識なんだ。」
「ふぇっふぇっふぇっ後はやっとくでニコも寝るだで!」
「わかった。」
楽しそうに言うフィリップに鍋を任せてテントに入る。
三人は麻布を被って呻き声を上げながら寝ている。
「(呻き声が煩くて鍛錬に集中出来そうに無いな・・・)」
そう思って三人に順番に治癒魔法を掛けておく。
治癒魔法と言っても俺の魔力で本人の治癒能力を強化しているだけなので、これで明日治っているかは本人次第だ。
治癒魔法をかけると呻き声が収まり三人は静かに寝始める。
俺はいつも通りに鍛錬をして寝袋に入る。
翌朝フィリップと朝食の準備をしていると、元気そうな三人がテントから出て来る。
「ふぇっふぇっふぇっ!やはり若いと回復も早いみたいじゃの?」
フィリップがニヤニヤと俺を見ながら言う。
「そうだな?」
「治癒魔法まで使えるとはたまげたで。」
「なんの事かわからんな。」
「ふぇっふぇっふぇっ!」
フィリップが鍋をかき混ぜながら楽しそうに笑う。
「あら?あんた達今日は食べれるのね?」
ターニャが不思議そうに言いシモンヌが無言で頷いて同意している。
「うん!一晩寝たらすっきりしたよ!」
「そうじゃの。むしろ昨日の朝よりも疲れが取れとる気がするのぅ。」
「昨夜は手が震えてスープも飲めなかったのに不思議だね。」
三人が笑顔で朝食を食べている。
フィリップはその会話を聞きながらニヤニヤと俺を見てきてウザイ。
「ほんじゃ急いで出発するだで!」
朝食を終え馬車が進み始める。
馬車内ではみんなも馬車の揺れに馴れて思い思いにすごしている。
「やっと普通の旅に戻ったな。」
思わず一人ごちて読書を開始する。
「ねぇねぇニコ?」
隣でシモンヌと話していたターニャが話しかけてくる。
「なんだ?」
「ニコって火と水属性を持ってるんだよね?」
「・・・それが何か?」
「ねっ?言ったでしょ?」
「鍋に水を入れてるのは見たけど火まで点けてたのね・・・」
ターニャがシモンヌに振り返って話しシモンヌが驚いた顔をしている。
そしてそのままあれこれと話し始める。
「(これからは火と水以外の魔法は見せないほうがいいな・・・)」
やはり常識的に生きるのはとても肩身が狭い。
少々フィリップに急かされるくらいでそのまま何事も無く三日が経った。
「王都到着だで!入学試験に間に合ったで!」
昼前に嬉しそうにフィリップが窓から顔を出して言う。
「入学試験はいつだ?」
「明日の朝からよ?」
「ニコありがとうほとんど読めるようになったよ!」
俺の質問にターニャが答えて、マットから学習本を返される。
「さて、ワシも降りる準備じゃのぅ・・・」
「そうだね。明日の準備もしないとだしね?」
「えっとお財布は・・・大丈夫ね。」
ロジェ達も衣服を正したり所持品の確認を始める。
無事に王都に辿り着けてほっと一息吐く。
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