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第十八話 御者補佐のニコ

「オーガ肉でステーキなんてすんの!?」

ターニャが今日の献立を聞いて驚く。

恐らくターニャはオーガ肉を食べた事があるのだろう。


「煩い。」

「オーガ肉なんて魔力を上げるためだけにしゃぶって食べるものよ?それをステーキなんて・・・硬くて食べられる訳無いじゃない!」

「じゃあ食わんでいい。焼けたぞ誰かに上げろ。」

ステーキを皿に乗せてスープと一緒にターニャに差し出す。

「・・・食べるわよ!食べればいいんでしょ!」

俺から奪い取るようにステーキとスープを持って離れて行く。



次のステーキを焼きながらターニャを見ているとステーキを一口食べて目を見開いていたので、想像以上に柔らかくて驚いたようだ。

その後もひたすらみんなのステーキを焼いて行く。

エミールとレナエルとオーギュストもオーガ肉を食べた事があるのだろう。

一口食べて目を見開いている。


「ふぇっふぇっふぇっ!あの硬い不味い肉がこんな風に食べられるとはな・・・たまげたで。」

「なんでもやってみとくものだな。」

最後にフィリップと俺のステーキを焼いて二人で食べる。

ステーキは柔らかくて噛めば噛むほど味が出てきてとても美味い。

叩いた苦労が報われると言うものだ。


食事を終え、明日のために離れた所でオーガ肉を煮込んでいた鍋を確認する。

が、焚き火がパチパチと音を立てて燃えているだけで鍋が見当たらない。

「フィリップ?ここにあった鍋知らないか?」

「ん?わしゃ知らんよ。」

首を傾げる。


一応テントに入っている男連中に声をかける。

「なぁあそこで火にかけてた鍋知らないか?」

「さぁ?僕はわからないねぇ?」

「俺も知らないよ?」

「ワシも知らん。」

「私は存じませんね。」

違うようだ。

女用のテントに声をかけるが反応が無い、ターニャ達はどこかへ行ってるようだ。


「(困ったな・・・)」

捜索魔法(サーチ)を発動するとターニャ達は少し離れた所で三人で集まっているようなので、そこへ向かう事にする。

「おい俺のな・・・」

三人の元へ行くと衝撃の光景を目にする。

オーガ肉を煮込んでいた鍋に布巾を入れて三人が体を拭いていた。

「(肉汁で体を拭くと体にいいのだろうか?)」


「「「きゃあぁぁぁぁぁ!」」」

そんな事を考えていると三人が悲鳴を上げて物を投げつけてくる。


「なんだ?なぜ物を投げる?」

「スケベ!どっか行け!精霊よ我に力を!我の宿敵を風の刃で切り裂き給え!」

しまいにはターニャが足元に置いていた杖を持って魔法を撃ってくる、さっぱり意味がわからないが三人が戻ってくるのを待って話しを聞こう。

「(その際には俺が非常識な事をしたようなので謝罪もしなければな。)」



しばらく焚き火で待っていると三人が戻ってきた。

「すまなかった。」

「すまなかったじゃないわよ!乙女の風呂を覗くなんて最低よ!」

「風呂?女の風呂とは肉の煮汁を体に塗る行為なのか?」

「は?」

「なるほど。俺が無知なせいで本当にすまなかった。改めて明日の仕込みをするから気にしないでくれ。」

そう言って鍋の中身を川に捨ててオーガ肉の下拵えを開始する。



「え・・・これってフィリップさんがあたし達用に用意してくれてたお湯じゃないの?」

「ターニャがそう言って持ってきたのでそう思ってました。」

「もしかして私達はニコさんの料理を邪魔したのでは?」

三人が焚き火を囲んでなにやらヒソヒソと話しているが丸聞こえだ。


「謝罪の意味も込めて明日からは二鍋用意する。本当にすまなかった。」

空の鍋に切り終えたオーガ肉を入れて魔法で水を入れながら言う。

オーガ肉は水からゆっくりと火を入れていかないと柔らかくならないのだ。

火の調整をしていると三人が歩み寄ってくる。

まだ俺の謝罪が足りないのだろうか?


「ニコごめんね?鍋を探してたんだよね?」

「作ってもらってるのに駄目にしちゃってごめんなさい!」

「助けてもらって御迷惑までおかけして申し訳ありません。」

三人が頭を下げてくる。

「いや、俺のほうこそ非常識な行動だった。すまなかった。」

調理の手を止めて、しっかりと立って頭を下げる。

三人は笑顔でテントに戻って行くので許してもらえたようだ。

安心して鍋の世話に専念する。


「ニコ?子供はさっさと寝ろ!ワシがあとはやっとくだで!」

「そうか?絶対に沸騰させたら駄目だぞ?」

「わかったで!」

「ならすまんが頼む。」

「本当に助かっとるでな?気にするな!ふぇっふぇっふぇっ!」

フィリップが笑顔で火の調節を始めるので、任せて寝静まったテントに入ってみんなを起こさない様に鍛錬をして寝袋に入る。

今日は森の中を馬車を押しながら歩いたり手間のかかるオーガ肉の調理して疲れていたのだろう。

何かを考える暇も無く眠りに落ちる。



翌朝みんなの足音で目が覚める。

みんなは寝ぼけ眼でテントからふらふらと出て行っている。

俺も身支度を整えてテントから出る。

「お前らさっさと食え!時間がねぇだぞ!」

フィリップがみんなを急かしながらテントを畳んだりと忙しなく動いている。

俺はフィリップが面倒を見てくれていたオーガ肉を煮ていた鍋をマジックバッグに入れる。

丁寧に火を調節してくれていたのだろう、まだ熱々だ。




朝食を食べ終わるとフィリップにいつも以上に急かされて馬車に乗り込み出発する。

「ニコ!学校に間に合わねぇ!後ろから押してくれぇ!」

窓からフィリップが顔出して言う。

「俺だけか?」

「他に押せるやつがいるか?」

フィリップに言われて馬車内を見ると男は全員俯いて寝たフリをしている。

「お前らの夕食を作ってるのは俺って事を忘れるな?」

みんなの体がピクリと動くがそれ以上動く気配は無い。

一つ溜息を吐いて馬車から降りて、後ろに連結させているレナエル達の馬車を押す。



そのまま無心で押し続け夕暮れ時になり馬車が道を逸れる。

「やっと終わったか・・・」

馬車が止まるので火をおこして料理を開始する。

鍋は時間経過の無いマジックバッグの中に入れていたのですぐにぐらぐらとし始める。

忘れずにターニャ達用のお湯も用意する。

「ほう?これはこれは。」

俺の様子を見に来たのだろう、フィリップがにやりと笑ってテントを張りに離れて行く。

「(時間経過のあるマジックバッグに入れておくべきだった。)」

後悔しても仕方が無いので、次からは気をつけよう。



「ねぇねぇ?今日はステーキは焼かないの?」

「そうだよな?オーガ肉さっさと使わないと痛んじまうぜ?」

ターニャとマットが声をかけてくる。

「手伝ってくれるなら喜んで作るが?」

「わかったわ!」

「自分の分は自分で作るよ!」

二人が腕まくりをするので、オーガ肉とハンマーを渡す。


「これで叩け。」

「どれくらい?」

「普通の肉くらいの硬さまで。」

「わかったわ!」

ハンマーは一つしかない。

まずはターニャが叩くようだ。



スープを作りながらターニャを見るがもうふらふらしながらオーガ肉を叩いている。

が、全く柔らかくなっている様子は見られない。

ターニャの振るハンマーはオーガ肉の弾力に負けて押し返されステーキ肉は角が立ったまま全く形を変えていない。

「僕が変わるよ!」

マットがハンマーを持ってオーガ肉を叩き始める。

が、見ただけで明らかに力不足なのが見てとれる。



「ね、ねぇニコ?手本を見せてもらえない?」

ターニャに言われてマットからハンマーを奪い取ってオーガ肉を叩く。

先程まで一切形を変えなかったオーガ肉が変形して薄くなっていく。

薄くなったオーガ肉を寄せてまた叩く。


「なんでニコがすると形が変わんのよ!?」

「俺本気で叩いたのにな・・・」

二人が感嘆の声を上げる。

「純粋に力が足りないだけだ。」

そう言って何度もオーガ肉を叩いては寄せて叩く。



全員分の肉の処理を終える頃にはすっかり日が暮れていた。

「・・・一日中馬車を押した人間にさせることか?」

思わず愚痴が漏らしながらステーキを焼く。


「ふぇっふぇっふぇっ!ニコが乗ってくれて本当に助かったで!」

「フィリップ?俺の待遇が非常識なのはさすがにわかるぞ?」

「まぁまぁ。きっと良い事があるで!頑張ってな?」

ステーキを焼きながらフィリップを睨むが、フィリップはどこ吹く風の様子でにこやかに笑って答える。



全員分のステーキを焼き終わって俺も夕食を開始する。

「ターニャ?今日のはお湯だ。あそこの鍋を持って行け。」

「ありがとね!みんな行こ?」

笑顔で女三人が鍋を持って暗がりへと消えて行く。


「本当にこのオーガステーキは驚きだで!」

「俺もかなりの試行錯誤して見つけたからな。」

「スープのオーガ肉も柔らかくて美味いでな!」

「そう言って貰えるなら何よりだ。」

笑顔でステーキとスープを食べるフィリップを見て思わず頬が緩む。



「後は任せていいか?」

「問題ないで!明日も頼むでな?」

夕食を食べ終わりフィリップに言うと快諾してくれたので、食器をフィリップに渡してテントに入る。

異臭がして思わず顔を顰めてしまう。

何日も風呂に入っていない男臭だ。

「お前ら臭い・・・ターニャ達の鍋を使って体を拭いて来い!」

「なんで一緒に旅をしてるニコ君は臭くないのだろう?」

「そうだよな?ニコが体を拭いてる所なんて見た事ないぜ?」

「そうじゃのぅ・・・お前人間か?」

「では私も失礼して体を拭きましょう。」

俺は洗浄魔法(クリーン)で体と服を綺麗にしてるので、みんなのように異臭はしない。

四人がテントから出て行ったので寝袋に入って寝る。



翌朝朝日で目覚めると四人がテントの中で麻布を被って寝ていた。

疲れていたのだろうテントに入ってきた事に気付かず寝ていたようだ。

身支度を整えてテントから出て朝食を作るフィリップの元へと歩く。



何事も無く三日が経った。

いや何事も無くは嘘だ。

毎日馬車を後ろから押させられ、夜になればオーガのステーキを要求され毎日ハンマーを叩いた。

「(他のみんなは一切手伝おうとしない・・・絶対に非常識だ。)」

本を読む時間が無いと言うのが一番気に入らない。



今日もレナエルの馬車を押していると、日が頂点に昇る頃前方から声が聞こえる。

「村だで!」

フィリップの声が聞こえると同時に押している馬車に妙な手応えを感じた。


「ひゃあっ!」

「ひぃ!?」

直後ターニャとシモンヌの悲鳴が聞こえてくる。

前の馬車が止まり俺が押しているレナエルの馬車が衝突してしまったようだ。



「ニコもう押さんでええ!馬車に戻っとれ!」

「(なぜ俺が怒られるんのだ・・・)」

納得がいかないが、馬車に戻る。

ターニャ達が危ないだなんだと俺に言っている気がするが、虫の居所が悪い上に久々の読書なので全部無視する。


「ねぇ!ニコ聞いてる?」

「・・・ならお前が押せ。」

思わず心の声が出てしまったがターニャが悔しそうに黙るので、結果オーライだったようだ。

「(今日はこのミネストローネというスープを作ろうかな?)」

今日の献立が決まった。

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