第百七十七話 聖騎士の実力
翌日聖騎士の二人がテントに入って来る気配で目を覚ます。
何だろうと目を開けると目の前に金と黒の丸いものが見える。
どうやらヴィンガとロンヴァルトの頭のようだ。
目覚めの景色が聖騎士が地面に頭を擦りつけているというのはとても新鮮である。
「なんだ?」
「村人に食料を分けて頂けないでしょうか?」
「頼む!この通りだ!」
「どれくらい必要だ?」
「今日中に海の魔物を退治しようと思っています・・・今日一日分あれば何とか足りるかと・・・」
「頼む!この通りだ!」
俺は寝ぼけた頭で計算する。
三百人の三食分・・・野菜が確実に足らないが肉を多めの贅沢な料理にすれば昨日狩りまくったドランブサーペントが山の様にあるので足りるだろう。
「わかった。料理も俺か?」
「いえ!昨日食べて村人達も元気になったので食材さえあれば村人達が作ります!」
「恩に着るぜ!じゃあ村人に伝えてくる!」
どうやら俺が料理をしなくていいようで何よりである。
とりあえず支度をしてテントの外に出ると褐色肌で黒髪の美しい女性達が頭を下げる。
「なんだこれは?」
「ルドルフ殿の世話係のようです。」
「あわよくば婿に来てくれればと言う意味でしょうね?」
パンジーとクリスティアナが呆れ半分と言った表情で教えてくれる。
つまり昨日のお礼と共に俺が気に入った女がいれば嫁にしてこの村に住み着いて欲しいようだ。
申し訳ないがまだ結婚する気は無いので世話だけをしてもらう事にする。
「すまんが食材はどこに出せばいい?お前らに渡せばいいのか?」
「はい。我々に渡して頂ければ各調理場にお運びいたします。」
「それはありがたい。」
とりあえずアイテムボックスからドランブサーペントを二十体程取り出す。
続いて野菜なのだが野菜が難しい。
マジックバッグに入るだけ買ったが、五人で一ヶ月半もつだろうと思われる量しかないので、村人三百人の三食分には全く足りない。
とりあえず適当に全体の三分の一程度の野菜を取り出すと、すぐに女性達が荷車に食材を乗せて村に入って行く。
「どれだけ容量があるのですか?」
「いや・・・昼食と夕食分が残ってるから同じ量が二回分はあるのよ?」
「詮索は何も得を生まないぞ?さぁ、自分達の朝食を作るぞ?」
朝食を何人分作ればいいのかと少し考えるが、先程の女性達が食べなくて余ったら時忘れのマジックバッグに放り込めばいいだろう。
「(なぜ毎度毎度俺の料理を食べる人間が増えるんだ?)」
そんな事を考えながら女性四人分を加えて九人前の朝食を作る。
「出来上がったぞ。お前らも食べるんだろう?」
「よろしいので?」
「食べないならそれでもいいぞ?」
「是非頂きます!」
村に食料を配り終えて帰ってきた女性達に声をかけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
朝食の材料を配り終えて、帰って来て心なしか薄着になった気がする。
ちなみに聖騎士の二人は詳しく事情を聞くためにも長老の家で朝食を食べるそうだ。
「なぁ?この村は海女という素潜りで魔貝を採る女性がいるらしいな?」
「はい!我々が海女です!」
「ほう!どうやって採るんだ?俺でも出来るか?」
「冒険者様の体力があれば出来るかと思いますが・・・今の海は大変危険なので・・・」
これはいい話を聞けた。
とりあえずヴィンガとロンヴァルトがさっさと海の魔物を倒して平和になる事を願うばかりである。
そして是非とも海女体験をして自分で採った魔貝を食べたいものである。
「こちらでございます。」
「普通の海に見えるが?」
朝食を食べ終わって女性達の案内で村を抜けて海にやって来たが、砂浜が広がるとても綺麗な海だった。
波も穏やかで凶悪な魔物がいると言われても全くピンと来ない。
「い!今は静かじゃけどうちらが入ったら来るけん、どがいも出来んのんよ!」
「こらウツミ!あなたは喋るんじゃないの!」
俺の世話係なのに一人の女性しか喋らないなと思っていたが、理由がはっきりした。
とても聞き馴れた訛りが聞こえたので、少しでも俺が村に居つく可能性を高めるために喋らせないようにしていたようだ。
そして俺が惚れてから訛っていることを打ち明けるとかそんな所だろう。
「今なんと言ったのでしょうか?」
「今は静かだけど私達が入ったら来るのでどうにもなりません。っと言ったんだ。」
クリスティアナは何と言ったのか理解出来なかったようだが、ロジェとずっと会話している俺はこの程度の訛りならば容易に理解できる。
俺が理解した事に世話係の女性達が驚いて見ているが、俺は気にせずに探索魔法を発動して海の中を調べる。
魔貝であろう反応がたくさんある。
そして五十メートルほど離れた海底で蛇のような生き物がトグロを巻いている。
トグロを巻いているので全長が何メートルあるのか全くわからないのがもどかしいが形状だけを見るとドランブサーペントが巨大化した魔物のようだ。
少なくともドランブロックサーペントよりは大きそうなので全長十メートルは余裕で超えていそうだ。
「さて・・・あいつらはどうやって倒すのかな?」
昨日の仕返しも兼ねて今日は手を出すつもりは一切無い。
砂浜に机を取り出して、ティータイムを楽しむ。
「ルドルフ殿?本当に手伝われないのですか?」
「この紅茶美味しいですね?」
「昨日あいつらは馬車から出てこなかっただろ?なら俺も手を出す必要はない。」
パンジーは何やら心配しているが頼られたのは聖騎士だ。
魔物退治まで俺がやってしまっては聖騎士の面目丸つぶれもいい所である。
クリスティアナはすでに順応して紅茶を楽しむ事に集中しているようだ。
「来たな?さぁショータイムだ。」
「近すぎませんか?」
「パンジーさっきから煩いよ?ルドルフ殿が見ると言ってるんだから大丈夫よ?」
聖騎士が砂浜にやってくる。
パンジーは何やら心配しているが戦闘の余波程度では壊れない結界を張っているので何の問題も無い。
と思うが少し不安なのでもう一枚結界を重ね掛けしておく。
「そうだ。クッキーあるぞ?お前らも食べていいからな?」
「そんな事よりも始まりましたよ?」
「このクッキー美味しいですね!」
「へぇ?始めて見る食べ物です。」
「こんなん食べた事ねぇで・・・」
「ウツミ?口の端に物つけて話さんの!拭きんちゃいよ?」
「外にはこがいなもんがあるんか・・・」
お茶請けにクッキーを出すとみんなが一斉にかぶり付いて満面の笑みで口々に話し始める。
ちなみにだが俺が作ったクッキーだ。
形は不揃いでよくよく見れば成型時に触った俺の指紋が付いた物もあるのだがみんなは気にせず食べて大満足の様子なので問題無いだろう。
そんな事をしているとヴィンガとロンヴァルトの戦闘が始まる。
「いつでもいいぜぇ?」
「わかりました。貴様の存在を罰する!ジャッジメント!」
ロンヴァルトが準備万端と言った様子で鎖を振り回し、ヴィンガが魔法を発動する。
トリガーワードを唱えるとヴィンガの目の前に雷の玉が発生して大蛇がいる場所に向かって飛んでいく。
「さすがは聖騎士様・・・」
「いや、あれは呼んだだけだ。」
村娘達が顔を蕩けさせてヴィンガを見ているが本番はこれからだ。
ヴィンガの雷魔法に刺激された大蛇が海面から姿を現す。
相変わらず全長はわからないが、胴回りは俺が二人で抱き着いて何とか一周出来そうなくらいの巨大な蛇である。
「よし!ヴィン頼んだぜ?」
「わかりました!貴様の存在を罰する!ジャッジメント!」
ロンヴァルトは大蛇の頭に飛び乗り鎖を綱のように巻きつけて魔力を吸収し始め、ヴィンガは暴れまわる大蛇に何度も何度も魔法を打ち込み始める。
作戦は至って単純、ロンヴァルトが力技で魔物の魔力を吸い取り、ヴィンガはその補助をするようだ。
とは言え単純故にロンヴァルトが離されなければ必勝の策と言えるだろう。
次の瞬間大蛇は海に潜って海中を高速で泳ぎ始め先程まで静かに波立っていた海面が一瞬で渦が巻き大荒れの様相となる。
「(まぁ普通はそうなるわな・・・)」
全くもって予想通りである。
この状況にどう動くのかとヴィンガの一挙手一投足を見逃すまいと五感に魔力を集中させる。
「邪悪な存在の聖騎士の妨害、暴行を確認しました!ジャッジメント!」
ヴィンガが唱えると大蛇が動きを止めて海中から姿を現す。
「何!?何が起こったの?海水が降ってきます??」
「パンジー大丈夫だから落ち着け。あれは・・・重力魔法か?」
すぐに大蛇の全身が海中から姿を現す。
大蛇はウネウネと身をくねらせながら海面から姿を現しそのまま空中へと浮かび上がる。
どうやらヴィンガの魔法は罪状が増えるほど魔法の威力が上がるみたいだ。
つまり長い時間戦えば戦うだけ罪状が増えてヴィンガの攻撃が強くなるという事だ。
制限や制約が大きいほど魔法の威力は強くなる。
面倒臭いだけだと思っていた制限・制約魔法をここまで使いこなしているのは初めて見るのでとても勉強になる。
「これで終いだ!限界突破!」
ロンヴァルトが突然声を張り上げる。
すると鎖を引っ張りロンヴァルトの体が一回り膨らみ、皮に鎖がめり込んで行く。
大蛇は先程までの重力魔法への抵抗からロンヴァルトを振り払う動きにシフトするが遅すぎたとしか言いようが無い状況だ。
魔力を吸われながら首を絞められ、動きがどんどんと目に見えて弱々しくなっていく。
「ロンもう一息ですよ!?」
「わかってっっっっらぁ!こんにゃろぉがっ!」
ロンヴァルトが大蛇の上で踏ん張って更に鎖を締め上げ、鈍い音がし始め大蛇が最後の力を振り絞って暴れるが、ロンヴァルトは構わずに鎖に力を込め続ける。
すぐに蛇はぐったりと力無く空中で項垂れる。
驚く事に巻きつけた鎖で大蛇の骨をへし折ったようだ。
「(限界突破?魔法か?いや魔力特性の可能性の方が高そうだな・・・)」
身体能力強化魔法などの強化魔法での類であれば、今のロンヴァルト程に見た目は変化しないはずだ。
だがそんな効果の魔力特性など聞いた事も無い。
何はともあれ今日はとてもおもしろいものが見れて大満足である。
「終わり・・・ましたね。」
「・・・だな?」
ヴィンガが大蛇を静かに砂浜に下ろして、二人で話しながらふらりとその場に倒れこむ。
どうやら二人共同時に魔力枯渇によって気を失ったようだ。
村長達が駆け寄って介抱し始める。
「(余裕で勝負を決めたように見えたがギリギリだったのだな。)」
そんな事を考えながら二人を眺めてから、次に静かに波打つ海に視線を送る。
これで魔物はいなくなったので魔貝漁が出来る。
今から魔貝漁をすれば夕食・・・いや昼食で食べる事も可能だろう。
気持ちを切り替えて世話係の村娘に顔を向ける。
「よし!では海女体験だ。」
「はい!ではすぐに準備を致しましょう!」
世話係の村娘に言うとすぐに砂浜に立つ掘っ立て小屋に走って行くので付いて行く。
「え?みんな切り替え早・・・」
「パンジー?貴女泳げる?」
パンジーとクリスティアナは何やら会話を初めているが、今はそれよりも海女体験だ。




