第百七十六話 ヴァドールの救世主
本日二話目です!
お間違え無いようにお気をつけ下さい。
しばらく平和な平原を進み、村が近くになってきて聖騎士の二人が訝しげな表情を浮かべて馬車の窓に張り付いている。
「なんだなんだ?何があったんだ?」
「何やら様子がおかしいですね?」
俺も二人の言葉に反応して窓から外を見るが、何やら様子がおかしいどころではない。
窓から見えた村は塀が壊れ、家屋を薙ぎ倒して海へと向かって一直線に道が出来上がっている。
その道は馬車が楽々と通れる程の幅もあり、控えめに言って大惨事である。
そのままクリスティアナとパンジーは村の中へと馬車を進めるが、村に入ると
更に異様な光景に出会う事になる。
村人達は倒壊した家の前でうずくまったままピクリとも動かないのだ。
家を壊されてショックなのは当たり前だが、俺達が通っても一切の反応を示さないのは明らかに異常だ。
「さて・・・降りて話を聞こうか。クリスティアナありがとう。」
「そうですね?私は魚が好きなので食べられますかね・・・?」
「そうだな!いい時間だし夕飯食いてぇな!」
馬車はそのまま村の中央の広場まで進みクリスティアナが扉を開けてくれるので三人で馬車を降りる。
俺達を見た村人達がゾンビのようにフラフラと寄ってくる。
「こ、恐いです・・・」
「ルドルフ殿?」
「全員人間だから大丈夫だろう・・・多分。」
パンジーとクリスティアナが俺の背中にしがみ付いてきてカタカタと震えている。
俺達に近寄ってくる村人は生気の無い目でフラフラと歩み寄って来ているので見た目はとても怖いものがあるので仕方ない。
「せ、聖騎士様お助け下され・・・」
「何があったのだ?」
「大丈夫ですか?御老人!?」
一人の老人が体を引き摺りながら近づいて来て、搾り出すように声を出してそのまま倒れる。
どうやら俺達が到着したから集って来たのではなくて馬車から降りた聖騎士に反応して集まってきたようだ。
「・・・水を・・・水をお恵み下さい・・・」
「・・・ルドルフ殿お願い出来ますか?」
「わかった。」
老人が最後の力を振り絞って言うので、慌てて適当な桶を取り出して魔法で中を水で満たす。
ヴィンガはすぐにそれをコップですくって老人に飲ませる。
「お前らも好きなだけ飲め。」
集まった村人達に振舞うべく手当たり次第に桶や鍋を取り出して全部を水で満たして村人達に振舞う。
「ルドルフ殿どうしましょうか?」
「何かかなりの訳有りのようですね?」
「とりあえず聖騎士様に任せよう。」
水に群がる村人を見ながら三人で相談する。
とりあえず村人達は聖騎士に救いを求めているようなので俺達は村から出て夜営の準備をして夕食を作る事にする。
俺達がコソコソと馬を引っ張っていると聖騎士の二人が俺達に向かって何か言った様な気がする。
「・・・何か聞こえたか?」
「「何も聞こえてません」」
二人に確認するのだが、パンジーとクリスティアナは口を揃えて言うので俺の気のせいだったようだ。
三人で村人達を見ないように遠い目をしたまま出来る限り自然に村の中央の広場からフェードアウトする。
「では私は馬を繋いできます!」
「テントの設営はお任せ下さい!」
「じゃあ俺は夕食を作ろう。」
村を出て三人で一斉に生き生きと動き始める。
パンジーは馬のハーネスを外して近くの木陰へと連れて行き、クリスティアナは二人と俺のテントを建て始めるので、俺もせっせと夕食を作る。
今日のメニューは今日大量に手に入れた魔蛇を使用した唐揚げだ。
ドランブロックサーペントの皮を剥ぎ、適当にぶつ切りにしてタレに漬け込む。
下味を付けている間にスープとサラダの準備を進める。
「何か手伝う事はありますか?」
「特に無いからゆっくりしててくれ?」
「かしこまりました!ではよろしくお願い致します!」
馬を繋ぎ終わったパンジーが声をかけてくれる。
料理を自主的に手伝おうと言ってくれたのはサミュエル以来なのでとても嬉しいのだが特に手伝ってもらう事が無いので好きに過ごしていてもらう。
「ルドルフ!何俺達をほっといて逃げてんだよ!?」
「はぁ・・・本当に酷い人間ですね?」
「あ?俺が魔物と戦ってるときに一切手伝わなかったお前らがそれを言うのか?それよりも後ろの人間は何だ?」
唐揚げを揚げているとロンヴァルトとヴィンガがやって来て不満たらたらである。
そしてその後ろには水を飲んだからか先程よりは幾分生気を取り戻した顔色の村人達が見える。
「最初に声をかけてきたご老人は村長さんでしてね?詳しく話を伺ったのですが、ドラゴンケイブ大迷宮から出てきたと思われる魔物達が村を突っ切って海に出たそうです。
そして村を突っ切る際に運悪く食料庫が見つかって食い荒らされ、そのまま海に巣くってしまって漁に出られないし、森も魔物だらけで助けを呼びにも行けないので手の打ちようが無くて死を待つばかりの状況だったようです。」
「普段は海水を汲んで魔法でろ過して飲み水にしてたが、危なくて海にも近づけねぇで死を覚悟してた所に俺達が来たんだってよ?」
「そうかそうか。ならば困っている人々に手を差し伸べなければな?聖騎士冥利に尽きると言うものだな?」
二人の言葉で大体の状況はわかった。
わざわざ村人の状況を教えに来てくれるとは親切な事だ。
大体の事情はわかったので、後は聖騎士に任せて俺は自分の夕食作りに専念する。
「この方々にも料理をお願いしたいのですが?」
「そうだぜ!困ってる人間が目の前にいるってのに冷たくないか!?」
「頼られたのはお前らだ。水を出したんだぞ?料理まで俺任せにして聖騎士様はそんな方法で人を助けたと胸を張っているのか?」
二人は何やら俺に信じられないものを見るような目を向けてくるが、俺が頼られたのならまだしも頼られたのは聖騎士だ。
俺が水を準備した時点でも手を出しすぎたか、と思っていたのに料理まで振舞っては、村人達が聖騎士じゃなくて俺の名前を出し兼ねない。
聖騎士を押しのけてヴァドールの村を救ったルドルフ・・・そう呼ばれるかはわからないが、もし呼ばれてはたまったものじゃない。
「・・・どうすればいいですか?」
「条件は二つ。監視と勧誘・・・つまり同行の中止。そしてヴァドールの村を救ったのは聖騎士だ。百歩譲って聖騎士様に同行していた謎の三人組だ。」
「おい!そんなに俺達が一緒なのが嫌なのかよ!?」
「ロン!?嫌に決まってるでしょう?精霊教に興味が無いのですから・・・その条件でお願いします。」
ロンヴァルトは俺の条件を聞いて憤慨しているが、ヴィンガは心のどこかで俺の勧誘を諦めていたのだろう。
思いの外すんなりと受け入れて貰えたのは僥倖だ。
「パンジー!クリスティアナ!手伝ってくれ!」
「「はい!何をしましょうか?」」
「ドランブサーペントの皮を剥いで、一口サイズに切ってこのタレに浸けてくれ!」
「「かしこまりました!」」
アイテムボックスからとりあえず十体のドランブサーペントを取り出して二人に指示を出す。
とりあえず自分達用に作った料理を時忘れのマジックバッグに放り込む。
「さっき俺の鍋を水を溜める為に置いていたのだがどこにあるか知らないか?」
「持ってきております。」
「私も持ってきました。」
村人がフラフラとした足取りで空になった鍋を持ってくるので受け取って、大急ぎで魔法でお湯を作り出してを鍋を火にかける。
「ルドルフ殿、第一陣出来ました!」
「ありがとう。次の漬け込み用のタレだ。」
パンジーがタレに漬けこんだ肉の入ったボウルを渡してくるので十倍のマジックバッグに放り込んで次のタレを入れたボウルを渡す。
鍋の中のお湯がグラグラと沸き始めたので乾麺を放り込んで隣の焚き火で大量のソースを作る。
ソースを作り終えると同時に麺が茹で上がるのでもう一つフライパンを取り出して手早く麺とソースを絡めて皿に盛る。
その間にもパンジーが次々とタレに漬け込み終わった肉を渡してくるので受け取っては次のボウルにタレを入れて渡す。
「ほら!第一陣完成だ。お前らが配れ。」
「はやっ・・・」
「ロン?見惚れるのはわかりますが村人に配りますよ?」
とりあえず五人分のパスタを作り終え、また鍋に乾麺を放り込み、油を張ったフライパンに小麦粉をまぶしたドランブサーペントを放り込む。
乾麺が茹で上がる前に唐揚げが揚がったので大急ぎで皿に出してヴィンガに渡す。
そして次の肉を放り込み、茹で上がった麺とソースを絡めて第二陣のパスタをヴィンガに渡す。
大忙しにも程がある。
「おい!村人は何人だ?」
「三百名ほどでしょうか?」
「ちっ!まだまだじゃないか!」
俺の質問にヴィンガが答えてくれる。
三百人前作らないと駄目という現実に頭を抱えたくなるが、そんな暇は無い。
頭を抱える暇があったらさっさと村人の腹を満たすために手を動かすほうが先決だ。
聖騎士がこれで俺から離れてくれると約束してくれたのでしっかりと役目を果たすべく料理を作り続ける。
「ルドルフ殿!次のボウルはどこでしょうか?」
「む・・・ボウルが無くなったか、すまんが洗ってくれ。」
漬け込むためのボウルが無くなってしまったので桶に水をはってパンジーに指示を出す。
そしてまたパスタと唐揚げ作りに戻る。
「大繁盛している店でもここまで忙しくは無いでしょうね・・・」
「ルドルフって何モンだよ・・・」
ウェイター係のヴィンガとロンヴァルトが俺達を見ながら話している。
暇なら手伝えと言いたい所だが、村人達の目もあるので聖騎士に下働きをさせるわけには行かない。
そのまま一心不乱に料理を続けて二時間かけて三百人全員にパスタと唐揚げが行き渡り、クリスティアナとパンジーと大きく息を吐きながら背中合わせで地面に座り込む。
「御苦労様でした。」
「御苦労御苦労!助かったぜ!」
「なら約束は守ってくれよ?」
「わかってます。ドラゴンケイブ大迷宮の一件が終わったら我々は教会に帰ると約束しましょう。」
「男に二言はねぇぜ!」
「ならよかった。」
二人の言葉を聞いて安心したのか、自分が空腹な事に気付く。
すぐに机と椅子を取り出して時忘れのマジックバッグから俺達用の夕食を取り出す。
「やっとご飯です!」
「美味しそう!」
「お前ら頑張ってくれたから食後のデザートもあるぞ?」
当然の様にヴィンガとロンヴァルトも座って夕食を始める。
俺のデザートと言う言葉に反応しているが頑張ってくれたパンジーとクリスティアナの分しか無いのだが、あえて俺が言う事でもないだろう。
それよりも二人はここで食べる前に村人達から事情を聞かないと駄目なのでは無いだろうか?
そして明日の朝食も昼食も俺が作るのだろうか?
色々と疑問は尽きないが聞くのは恐いので何も言わずに五人で遅めの夕食を食べる。




