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第百七十二話 母との再会

その後ドラゴンケイブ大迷宮までは特に見所も無いと言う事で真っ直ぐにドラゴンケイブへと向かう。

一週間も馬車に揺られるのに見所も無いとは対応も最悪だし全くもって面白みの無い国である。





リーオを出発して一週間経ちようやくドラゴンケイブ大迷宮がある街が見えてきた。

街からはまだ遠くゴマ粒程度の大きさにしか見えない。

馬車の前に何十ものテントが現れるので、ギルドで預かった隊列表で確認する限り後衛の冒険者達のテントだろう。

エスガルドでは冒険者と騎士が協力して解決した印象があったが、この国は出来る限り騎士だけで解決しようとしているようだ。




「着きました!」

「どうぞ長旅お疲れ様でした。」

「ありがとう・・・遠いな。」

馬車から降りるが、テントの奥の更に奥の街は豆粒程度の大きさにしか見えない。

目に魔力を込めて遠視をすると至る所から木々が顔を覗かせている。

例えるならば街にジャングルを無理矢理に丸ごと転移でもしなければこうはならないだろうと言う不思議な光景が広がっている。



「なんだ!?誰が来たんだ!?」

「ここの責任者か?エスガルド王国から救援で来たルドルフだ。」

俺が街の様子を確認していると鎧を着た騎士達がやってくるので精一杯の笑顔で握手をしようと手を出し出す。

なのだが騎士を着た男は俺が見えてないかのように素通りして後ろの聖騎士と握手をし始める。


「いやいやいやいや!よくおいでくださいました!どうぞこちらへ!お前ら聖騎士様をお連れしろ!」

「え?我々は監視任務が・・・」

「おい!話を聞けよ!」

ヴィンガとロンヴァルトは騎士達に連れ去れて行く。

俺の差し出した手を無視したのは頂けないが、そのままあいつらを拘束してくれるのならば何も言わないでおこうと思う。







「ルドルフ殿ここの責任者を連れて参りました!」

「あれ?あの二人はどちらに?」

騎士達に連れて行かれて野営をする冒険者達の間に消えて行く二人を眺めていると、パンジーとクリスティアナがスキンヘッドの男を連れてくる。

作業ズボンにワイシャツを着ているが服の上からでも一目で服の下には鍛え抜かれた肉体があるという事がわかる。


「あの二人は騎士様が連れて行ったぞ?この方は?」

「ガッハッハッハッ!お前が噂のルドルフか?俺はドランブの街でギルドマスターをしていたバッツだ!」

「どうもルドルフだ。状況はどうなっている?」

バッツが手を差し出してくるので握手をする。

この国での俺達への対応が酷すぎるのでこれだけでも、バッツの印象はかなりいい。


「騎士共が頑張ってるが、ふざけたピエロにやられっぱなしでな?いい気味だが待ってる俺達にはいい迷惑だ。」

「ふざけたピエロだと?魔族なのか?」

「さっぱりわからん!何よりも俺達冒険者は近づけてさえくれねぇからな・・・」

「そうか。とりあえずピエロを見てみるか。」

バッツはしっかりと説明をしてくれる。

普通の事のはずなのにとても嬉しい。

パンジーとクリスティアナも同じようで目を輝かせてバッツに視線を向けている。


「見てみるだと?騎士達が煩くて俺達は近づけねぇぞ?」

「あの雑魚共に見つからなければいいのだろう?」

自分に認識疎外魔法をかける。

三人は突然俺を認識できなくなって驚いているがお構い無しに街へと進む。



「(雑魚共か・・・少々荒んでしまっているな。)」

無意識にブールニアの騎士達を雑魚呼ばわりしてしまう程度にはこの国に対して鬱憤が溜まっているようだ。

反省をしながら冒険者達のテントを抜けて平原を挟んで設置してある騎士団のテントへと歩を進める。


「ですから。我々はルドルフ殿の監視と勧誘に来ているので参加できません!」

「そうだっての!聖騎士勇者がいるんだろ?あいつらがいれば十分だっての!」

「あんなド田舎国の人間のために聖騎士様二人の時間を割くなど勿体無い!遠慮なさらずに我々の作戦に御助力をお願い致します!」

騎士団の後方のテントから話し声が聞こえてくる。

どうやらヴィンガとロンヴァルトは必死に断わっているようだが、騎士のお偉いさんに一笑に付されている。

言い方が若干腹立つがそのまま聖騎士二人を俺から引き離してくれるのならば不問としておこう。

そのまま歩を進めていると騎士達が集まってガヤガヤと騒ぎ立てている。

俺は近くにあった馬車を上って騎士達の視線の先を見ると聖騎士四人組と一体のピエロが戦っていた。


男の二人が左右からピエロに横薙ぎに斬りかかっているが、ピエロは首と胴体を切り離して二人の剣を避け、直後に残りの聖騎士二人が連携してピエロに斬りかかっているが、切り離した首と胴体を元に戻したピエロに避けられ分かりやすく遊ばれている。



「(やはりあれはクネのクラウンズだ。なぜクネがこんな所に?)」

バッツからの報告でなんとなく勘付いていたが、やはりふざけたピエロというのはクネの自慢の操り人形、クラウンズだった。

なぜクネが魔の森から遠く離れたこんな場所にいるのか意味がわからないが、探索魔法(サーチ)を発動するとすぐにクネの魔力反応を見つけたのでとりあえず会って話すべきだろう。


「(あの聖騎士達ではクネには勝てないようだな。)」

四人はしっかりと連携しているがクラウンズを仕留めるには純粋に力が足りなさ過ぎる。



「お前ら離れろ!火球(ファイヤーボール)!」

一人の聖騎士が手を前にかざして魔法を発動する。

すぐに直径二メートルはあろうかと言う火の玉がクラウンズに向かって一直線に飛んで行く。

詠唱省略をしたので精霊魔法か元素魔法か判断が付かなかったが、辺りの魔素濃度が一気に下がるので精霊魔法のようだ。

あの威力の精霊魔法を放てるという事はあの聖騎士は勇者なのだろう。

「(だが意味は無いな。)」

火球(ファイヤーボール)の爆発がおさまると何事も無かったように無傷のクラウンズが現れる。

クラウンズはクネの糸で作られた人形だ。

クネの糸には氷や水と言った属性抵抗値が高く、弱点の火であっても生半可な火力では焦げ目さえ付けられない。



「マジかよ・・・」

「なんで無傷なんだよ・・・」

「あたし達で倒せないってどんだけなの?」

「次は人数を増やして出直しよ!」

一切の効果が見られないクラウンズを見て聖騎士の四人は何やら話しているので聴力を魔力で強化するが、一人は出直しなどと言っているのでクラウンズとの絶望的な戦力差を目の当たりにして気が触れたようだ。

直後四人は逃げようと試みるが背中を見せた四人に対してクラウンズは淡々と全員の頭を順番に掴んで力任せにねじ切る。

クラウンズの動きが早すぎて目に魔力を込めた俺の動体視力でもクラウンズが四体に見えるほどの速度だ。

余りにも一瞬だったので四人の頭が同時に地面へと落下し、続いて体が崩れ落ちる。

「(なんだ?頭はどこに・・・体も消えた?どういう事だ?)」

不思議な事に地面に落ちた聖騎士達の頭が消え、倒れる身体も一瞬で消え、聖騎士の証である法衣が地面に音も無く落ちた。



「(・・・何が起こったんだ?)」

突然の出来事に目が丸くなる。

なぜかこんな大陸の端にいるクネに突然消えた聖騎士達。

わからないことだらけなのでクラウンズの元へと一足飛びに駆け寄る。


「久しぶりだな?案内してくれるか?」

クラウンズは俺の声が聞こえているのか不安になりながらも声をかけたのだが、クラウンズは喜ぶようにおどけたダンスをしながら街へと走り始めるので後ろを付いて行く。

クネは普段感情を表に出すタイプでは無いのだが、なぜかクネが操るクラウンズはボディーランゲージが多彩で豊富な感情表現をする。

今も襲い掛かってくる魔虫をおどけた様子で踊りながら蹴り飛ばしてジャングルと街が融合した大通りを進んでいるのでとても嬉しいようだ。







「貧乏くじだと思ってたけど大当たりだったわね」

しばらく進んで冒険者ギルドの中に入ると下半身が蜘蛛の女性が近寄って来て優しく抱きついて来る。

なぜこんな場所にいるのかが謎だが、まごうことなき俺の母であるアラクネの魔族、クネだ。


「やはりクネか・・・その服似合ってるな?なぜこんな場所に?」

「ん?ルルが街を作るって言い出してね?ダンジョンを作ってたらここの・・・ドラゴンケイブだったかしら?に出たから調査に来ているのよ?」

「ほう?それは帰る楽しみが増えたな。」

「フフフ。驚くわよ?それで調査してたら捨てられた街に出たから人間の知識を集めるチャンスじゃない?だから今はこの街のものを集めている最中なのよ?」

クネは捨てられたと言っているが、俺はドラゴンケイブ大迷宮がオーバーフローして街が飲み込まれたと聞いている。

恐らく突然ドラゴンケイブの中に現れたクネの圧倒的な存在感に恐れをなした魔物が逃げ出した結果だろうと思う。

魔の森にいた頃なら言っていたのだろうが、今は人間社会で学んだので決して口にはしない。

口にすればクネの機嫌を損ねるのはわかっているから。


「それで?クネのマジックバッグがあれば街中の物を入れられるだろう?何をのんびりしているんだ?」

「私が守らなかったら聖騎士達が入って来てのんびり出来ないし・・・ここの金庫が開けられなくて困ってるのよ。」

「金庫だと?」

「魔法陣と鍵は終わったんだけど、最後の数字認証が思いのほか進まなくってねぇ・・・」

どうやらクネは冒険者ギルドの金庫を開けようとしてこの街に留まっているらしい。

という事はさっさと金庫を開ければこの問題は解決するという事である。

それに冒険者ギルドの金庫には何が入っているのかとても気になる。


「クネ?よければ手伝おうか?」

「フフフ。ニコがやってくれるなら今日中に開くわね?あの扉の向こうでコボチョウ達が頑張ってるわ?」

「コボチョウもいるのか。それは楽しみだ。」

クネが嬉しいような悔しいような、色々な感情が混じった表情でカウンターの奥を指差す。

恐らく俺に会えて嬉しいが、クラウンズを操作しなければならないので一緒に金庫を開けられなくて悔しいとかそんな所だろう。

クネは目を閉じて集中し始め、俺をここまで案内したクラウンズがわちゃわちゃとおどけながらギルドから出て行く。

さっさと金庫破りを成功させてクネとの積もる話をしたいものである。

クラウンズを見送ってからカウンターの奥へと歩き始める。


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