第百七十一話 さらばリーオ
「お待たせしました。こちらへ。」
一時間受付で待たされ続けてやっと最初の門兵が戻ってくる。
普通これだけの時間を待たすとなれば日陰なりに誘導するものだと思うのだが、受付の前で日に当てられながら一時間待ち続けさせられた。
俺はまだいいが、クリスティアナとパンジーは鎧を着ているのでかなり辛そうだった。
「おい。一時間もただ待たせておいて謝罪は無いのか?」
「どうぞ城の中で迷われませんようにしっかりと着いて来て下さい。」
我慢出来ずに案内をする門兵に話しかけるのだが、清清しい程に無視される。
俺はイライラとした雰囲気を出してしまっていたのか、パンジーとクリスティアナが「我々の不手際で申し訳ありません!」と小声で言ってくるが、俺は二人にではなくこの国の対応に怒っているのだ。
だがここで何か問題を起こしてはエスガルド王国に迷惑をかける事は考えなくてもわかる事なのでグッと我慢する。
「どうぞこちらの部屋です。」
そう言って門兵は一つの扉の隣に立つので、三人で扉を入る。
「なんだね!?君達は!?」
「・・・エスガルド王国第九番隊々長、兼金級冒険者ルドルフ殿をお連れしたエスガルド王国第四番隊々員クリスティアナ・ジャフルです!ブールニア女王国からの救援要請を受けて参りました!」
部屋に入ると小太りのハゲたオッサンが机に座って仕事をしていたようだ。
クリスティアナは再度長々とした言葉を噛まずに言い切る。
どれだけ練習すればこれだけよどみなく言えるのだろうか?
「本当に来たのか?エスガルド王国では不要なのかもしれないがノックをしたまえ!」
「申し訳ありません!ここまで案内して頂いたので話が通っていると勘違い致しました!」
小太りのおっさんは嫌そうな顔を隠しもせずに嫌味を言って来る。
大事そうに生やした即頭部の髪と口元のひげをむしってやりたいが我慢だ。
「わかればいい!ではこれが救援要請に関する誓約書だ!サインをしてくれ。」
「文面を確認させて頂こう。」
「必要無い!要約して言おう、お前らは後ろで解決するのを眺めていてくれ。」
ハゲの言葉に頭に血が上りそうになるが、必死に抑えて誓約書の中身を確認する。
「相変わらずこういう紙は難しい言葉を並べればいいと思っているのだな。」
「要約すると、ブールニア騎士団の指示に従う事。報酬は自分で確保する事。何かあっても自己責任で処理する事。簡単に言うとこの三つですね。」
中々高圧的だとは思っていたがここまで来るともう何かを言う気も起きない。
呆れながら誓約書にサインをする。
「御苦労!では諸君らの活躍を祈っている!」
「「失礼致します!」」
サインをするとハゲはシッシと手を振って俺達を部屋から追い出すように言って来るので踵を返して部屋から出る。
このままこの場所にいたら暴れずに我慢しきる自信が無い。
クリスティアナとパンジーはしっかりと頭を下げてから部屋を出るので、とても大人だなと感心する。
まぁ俺は謎の金級冒険者にして普通の九歳児なので仕方無い事だ。
「門兵はどこだ?」
「・・・いませんね?」
「女王様との謁見も無いのですね。」
扉の横に控えていた門兵がいなくなっていた。
どうやら勝手に帰れという事なのだろう。
地上の滅びをぶっ放していいんじゃないか?と言う気持ちになってくる。
「もういい!俺の我慢の限界が来る前にさっさと出るぞ?」
これ以上城にいると無意識に発動してもおかしく無い程度には不快なので二人を連れてさっさと城を出る。
「お?迷わず出れたんですね?」
城を出ると門兵が声を掛けてくるが無視をしてそのまま監視所を抜けて街へと出る。
門兵の舌打ちが聞こえたが、反応して一悶着が起こってしまったら大人しくする自信が無いからだ。
今も気付いたら右手に魔力が集中していたので慌てて手をほぐすように振って魔力を霧散させる。
「・・・ではギルドは任せてもいいんだな?」
「はい!お任せ下さい!」
「こちらをどうぞ!我々が書き込みをしておりますので幾分は分かりやすいかと!」
クリスティアナが一枚の地図を渡してくる。
広げてみると中にはびっしりと書込みがしていて、二人が一生懸命勉強した事が一目でうかがえる。
「これはありがたい。では申し訳無いが頼んだ。ギルドでも同じ対応だったら我慢出来る自信が無い。」
「「お任せ下さい!」」
二人と別れて食材を買込みに街へと向かう。
二人の地図は本当にわかりやすく、全く迷う事無く始めての街で買物を済ませて行く。
外国なので通貨が違うのでは?っと心配もしていたが、ギルドカードの貯金が使えたので全く問題無かった。
普段ギルドカードを一切使ってないので存在を忘れていたのは内緒だ。
買出しを終えて宿に戻るとパンジーとクリスティアナが待ってくれていた。
「どうした?暑いのに何をしているんだ?」
「ル、ルドルフどのぉぉぉぉ!」
「わだじかえりだいでずぅぅぅぅ!」
俺が声をかけると二人が大泣きしながら抱きついて来る。
金髪美女二人に抱きつかれて周りから見れば羨ましい光景なのだろうが、二人の鎧ががちゃがちゃとぶつかって雰囲気も何もあったものでは無い。
「どうした?」
「何時間も待たされて・・・待たされて・・・ビエェェェェ!」
「あのギルドマスター・・・最低です!」
とりあえず何時間も待たされた挙句に何かあったようだ。
二人は堪えきれずにまた俺に抱きついて泣き始める。
「どうしたのですか?」
「帰ったらルドルフが天下の公道で二人の騎士とイチャイチャってか?」
二人が落ち着くのを待っているとヴィンガとロンヴァルトが帰ってきて茶化してくる。
丁度いいタイミングだ。たまにはこいつらに働かせよう。
「おい二人共。さっさとこの胸糞悪い街を出るぞ。馬車の準備をしろ。」
「・・・大体把握しました。」
「ちっ!聖騎士を顎で使うなんざルドルフじゃなきゃ出来ねぇぞ!」
ロンヴァルトは文句を言いながらだが、厩へと向かって行くので一安心だ。
続いて二人を何とか泣き止ませて宿で支払いを済ませる。
今日の宿泊はキャンセルできないと言われたが、さっさと街を出るのが先決だ。
今日の宿泊費も込み込みでギルドカードで支払いを済ませて宿を出る。
「準備万端だぜ!」
「何があったか聞きたいですし今日は我々が御者を致しましょう。」
「助かる。さぁ乗れ。」
「ありがとうございます!」
「申し訳ありません。」
珍しく聖騎士二人が気を利かせてくれるので、御言葉に甘えて扉を開いて騎士二人を馬車の中へと促す。
二人は大人しく頭を下げて馬車に乗り込むので俺も一緒に馬車に乗り込む。
「乗ったな?行くぜ!!」
「行き先はドラゴンケイブ大迷宮でいいのですね?」
「あぁ頼む。」
俺の言葉を合図にヴィンガとロンヴァルトが馬に鞭を打って馬車が進み始める。
それにしても今の状況が可笑し過ぎて笑えてくる。
「ルドルフ殿何を笑ってらっしゃるので?」
「我々が何かおかしかったですか?」
「いや?今日一日この街で邪険に扱われた俺達が、みんなの尊敬の的である聖騎士様の御者で移動していると言うのが面白くてな。」
「確かにそうですね?」
「確かに聖騎士様には申し訳ないですが面白いです!」
この国の人間に苛められたから聖騎士様が御者をする事になった。
皮肉な結果にクリスティアナとパンジーにも笑顔が戻り一安心だ。
「それで?何があったんだ?」
「はい!ギルドへ行きギルドマスターへの面会を申し込んだのですが・・・何時間も待たされた挙句に多忙につき会えないと言われて、この紙を一枚渡されました。」
そう言ってクリスティアナが一枚の紙を手渡してくる。
中身は隊列表が書かれており、先頭には騎士団長や聖騎士勇者と書かれており俺達の名前は一番最後尾にとって付けたようにルドルフと殴り書きされているものだった。
「こんな最後尾!我々は何も出来ません!それにどうやってお金を稼げと言うんでしょうか!?」
「しかも文句を言おうとしたら、門前払いされて話をしようとしません!もう私、悔しくて悔しくて・・・」
「フン!逆に考えろ。ここまで最後尾なら俺達の出番は無い。いてもいなくても一緒なら国の金でゆっくりと遊ぼうじゃないか。」
パンジーとクリスティアナは憤慨しているが、俺はそんなに真面目な人間では無い。
むしろヴィンガとロンヴァルトの前で戦闘をせずに今回の以来をやり過ごせるとさえ思う。
「おいおいおいおい!それじゃ俺達はルドルフの実力が見れねぇじゃねぇか!」
「そうですよ!それは大問題です!」
二人は困った声を上げているので、俺は一応慰めておく。
「俺達はこの国の人間じゃないから従うしかなくてな、すまんな?」
少々心にも無さすぎて棒読みになってしまった気がする。
御者台の窓から顔を覗かせる聖騎士二人が呆れているが、言っている言葉は本当の事なので問題無いだろう。
「では俺達はドラゴンケイブ大迷宮が解放されるのをゆっくりと待ちながら観光だな。」
もうこの国のために率先して動こうとは思えない。
俺達に動いて欲しく無いと言うのであれば一切動かずに静観する事にしよう。
俺の言葉に対面に座る騎士二人は困惑の表情を浮かべているが、人間界に出て来てからずっと最前線で動いていたのでたまにはこういうのもいいものである。
「という訳で途中で観光名所などがあったら遠慮無く、いや率先して寄ってくれ。」
「観光名所は勉強不足ですね・・・」
「ドラゴンケイブ大迷宮の先に海女の村があったような・・・」
二人は俺の言葉に地図を広げてあれこれと話し始めるので、どんな新しいものとの出会いがあるのか楽しみだ。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




