第百六十九話 聖騎士の実年齢
最初こそ楽しんだが、思ったほど変化も無いので上空からの景色に飽きてしまい読書を始める。
隣のクリスティアナとパンジーは意識を取り戻してからは上空からの景色に目を奪われてずっと静かに二人並んで窓に顔をくっつけていて、聖騎士の二人も同じ様に窓に張り付いているが、ほとんど動きの無い景色を見続けて飽きないのか不思議である。
「おい!あれリーオだろ?そろそろじゃねぇのか?」
「ロン?そろそろ静かに出来ませんか?」
ヴィンガの言う通りロンヴァルトはもう少し静かにして頂きたい。
俺の願いも悲しく騒がしく空の旅は続き、日が海の端に差し掛かった頃に天井から声が聞こえてくる。
「到着なのじゃ!また揺れるでの?各々しっかりと捕まってたもぉ!」
出発時の揺れを思い出し今度は全員が近くの掴まれる場所を見つけてしっかりと掴んで揺れに備える。
なぜかパンジーは小さく「すみません」と言って俺の膝に乗って抱き付いて来た。
アランやタルトが見たら間違いなく揺れを無視してパンジーを引き剥がすのだろうが今は二人共いない上に俺は揺れに備えて窓枠にしがみ付いているのでされるがままだ。
「ひゅう!メイドの次は騎士さんかよ!?いつの間に口説いたんだ?気付かなかったぜぇハッハァ!」
「ロン!?茶化している場合ではありませんよ!?」
ロンヴァルトが口笛を吹いて茶化してくるがすぐにガタガタと車が揺れ始める。
ただそれだけで飛び立つ時ほど大きく揺れる事も無くゆっくりと地面が近づき、最後に少し大きめの縦揺れが起きる。
「着地したのじゃ!」
「御苦労。」
俺は入口の扉を開けてウランを労いながら地面へと降り立つ。
ウランが降り立った場所は上空から見ていた情報と今の認識が合っていればだが、リーオの街の西の森の中だ。
「主よ!少し離れているので申し訳無いがこれでよいかの?」
「あぁ満点どころではない!完璧だ!」
「そうかそうか・・・ではベッドを整えて待っておるでのぉぉぉ!」
ウランが謎の言葉を言い残して飛び立つ。
「(この件が片付いたらウランの添い寝をすればいいのだろうか?)」
飛び立ち小さくなっていくウランに手を振りながらとりあえずとぼけておく。
もしウランが本気ならば部屋を真っ暗にしてからフィルと交代しようと思う。
「それでは我々は馬を買って来ます!」
「ここでお待ちになっていてください!」
車から降りてきたクリスティアナとパンジーが敬礼をして言い、そのまま街があったと思われる方向へと駆けて行く。
今度は騎士達を見送って焚き火を用意して夕食の準備を始める。
ずっと飛び続けた上にこれから帰るウランには申し訳無いが昼食を食べていないので腹が減ったのだ。
「(何度目かわからんがこの件が片付いたらウランにもタルトにもしっかりとお礼をしなければならない、今回は助けられすぎだな。)」
そんな事を思いながら夕食を作りながらアランにそっと渡された手紙を広げて中を確認する。
ルドルフへ。
一応覗き見防止とかの魔法を使ってるけど見られないようにね?
今回の任務は本物だけど無理に解決しなくていいからね?
聖騎士を撒いて帰ってきな?
撒くのが無理ならルドルフは殺せばいいからね?
あなたが無事に帰ってくる事だけを考えてます。
あなたのアラン
中々嬉しい手紙だった。
ザザッと読み終えてヴィンガとロンヴァルトに気付かれる前に焚き火にくべて燃やしておく。
「(いざとなればルドルフは捨ててもいいと言うのはありがたい。)」
ルドルフを捨てていいと言うだけでこの二人を撒く方法の数は跳ね上がる。
だがルドルフという人間にも色々と実績が出来たし、いなくなってはニコの隠れ蓑が無くなってしまうので出来れば捨てたくは無い、ルドルフを捨てるのは最終手段だ。
ザザッと読んだので最後の方に何か意味不明な文字が書いてあった気がするがもう覚えてないしもう燃やしたので確認のしようがない。
残念だが秘密の文書故致し方ない事なのだ。
「何を食べさせてくれんだ?」
「地底湖で釣った魔魚の燻製だ。」
「ほう?私は魔魚には目がなくて楽しみですね?」
俺が料理をしていると聖騎士の二人が言って来る。
「(なぜ俺の周りにはたかってくる大人しかいないんだ?)」
料理を代わるとは一言も言わない二人にそんな事を思いながら料理を続ける。
「そういえば・・・お前らは何歳なんだ?」
「俺達か?ヴィンの歳は知らねぇが、俺は四十八だ!」
「ロン!!・・・まぁルドルフ殿には隠さない方がいいんでしょうね?私は四十四です。」
「なっ!???ヴィン年下だったのかよ!?」
「知らなかったのですか?私はあなたの四個下ですよ?」
「年上・・・それこそ百歳超えだと思ってたぞ!?」
「ハッハッハッ!この若々しい私に失礼な男だね?」
俺の質問に二人が何やら喧嘩を始める。
喧嘩はどうでもいいのだが、見た目は二十代半ばなのに二人共四十歳を超えているらしい。
二人共進化をしている様には見えないのに全く持って不思議である。
ちなみに人間も魔族と同じように進化するらしい。
進化すると魔石を持っていないので存在が肉体から精神に寄って行くそうだ。
存在が精神体へと近づいて行くために寿命や魔力限界保有量が跳ね上がるそうだ。
人間の進化に関する文献が不自然なほどに残っていないのでこれ以上はわからないのが現状である。
「(進化して無さそうだが・・・聞いても教えてくれないか。)」
他にも聞きたい事はたくさんあるのだが二人は離れた場所であれこれと言い合いを始めるので諦めて夕食作りを再開する。
今日の献立はスモークサーモンのソテーにポテトサラダとポタージュスープだ。
「いつまで喧嘩してるんだ?飯が出来たぞ?」
クリスティアナとパンジーは帰ってきていないが夕食が出来上がったので三人で夕食にする。
二人は喧嘩をやめて焚き火を囲んで座るので、俺は一つ溜息を吐いて夕食を配膳する。
「さすがは聖騎士様だ。料理を作ってくれたのだからとかは無いのだな?」
「・・・すまん。」
「失念していました・・・私は少々思い上がっているようですね・・・」
「(アラン達のように言い返して来ないんだな。)」
二人は満面の笑みで料理を食べようとしているのでいつものように嫌味を言ったのだが二人は分かりやすく落ち込む。
これがアランなら「やろうと思ってたらあんたが動いたの!」とか言って来るのに逆に申し訳ない気持ちになってしまう。
意気消沈した二人と静かに夕食を食べているとクリスティアナとパンジーが馬に乗ってやって来る。
「お待たせ致しました!すぐに馬を繋いで街へ出発出来る様に致しますので!」
二人が馬から降りて敬礼をして言って来る。
パンジーは手早く二頭の馬を引っ張って車へと繋ぎ始めるが、どうせもう日は暮れているので今すぐにリーオに向かっても二人が夕食を食べてからも一緒だろう。
ならば温かいうちに食べて欲しいと思うのが料理人である。
「夕食を食べてから出発しよう。一時間遅れて出発しても変わらないだろう?」
「お気遣いありがとうございます!すぐに準備を終わらせて御相伴に預かります!」
クリスティアナは俺の言葉を受けて即座にパンジーの手伝いに走っている。
クリスティアナの判断は早いし、パンジーの手際はテキパキとしていてとても安心して見ていられる。
さすがはフォルナとアイリーンの代わりに選ばれただけはある。
「我々の分まで・・・ありがとうございます!」
「これが先輩達から聞いていた夢にまで見るルドルフ様の・・・」
「マジ?」
「ヤバイね?」
「ヤバイヤバイ!」
「これマジヤバイ!」
「「ヤバタニエン!」」
馬をつなぎ終えた二人は俺の夕食を食べ大興奮である。
語彙力の無い言葉を連発しながら夕食をがっつき始める。
「なぁ?ヤバタニエンって何だ?」
「さぁ?私に聞かれても・・・」
「はっ!二人共遅れてんな?俺は聞いた事あるぜ?娼婦を買った時に俺の・・・コヒュゥゥゥゥゥ!」
何やらロンヴァルトが大変不快な事を言いそうな気がしたので腹に拳をめり込ませる。
ロンヴァルトは額に血管を浮かべながら肺の中の空気を吐き出して痛みに耐えている。
思わず殴ってしまったが聖騎士を殴ってよかったのかと心配してヴィンガを見やるが、俺に向かってサムズアップしているので問題無さそうだ。
「落ち着きましたか?何か言いたい事はありますか?」
「あぁ・・・ヤバタニエンってのは・・・娼婦が俺のイッッッッガヒュゥッ
!」
息を荒げながら地面で四つん這いになったロンヴァルトがヴィンガの問いに答えようとしている。
また嫌な予感がしたので思いっきり腹を蹴り上げる。
ロンヴァルトは宙を舞いながらも先程と同じように肺の中の空気を吐き出して必死に痛みに耐えている。
一応ヴィンガを見るが、諦観の笑みで俺に向かってサムズアップしているので問題無さそうだ。
「お待たせ致しました!」
「お待たせ致しました!では宿もとっていますので街に向かいましょう!」
夕食を食べ終わったクリスティアナとパンジーが声をかけてきて、ヴィンガはロンヴァルトを担いで馬車へと歩いて行くので、俺は二人の食べ終わった食器と焚き火の始末をして馬車に乗り込む。
「では出発致します!」
「もうしばしの御辛抱を!」
二人の声と共に馬車が進み始め、馬車はいつも通りの揺れ方をしながら森の中を進み始める。
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