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第百六十七話 聖騎士に勧誘される

「ルドルフよく帰った!聖騎士のお二人もよくご無事で・・・どうぞこちらへ。」

タルトはちゃんとみんなに報せてくれたようだ。

城の跳ね橋まで行くとフィルが出迎えてくれた。

珍しく鎧を着て武装ているのでおそらく武闘会の観戦をしているアレク王達の護衛を抜け出して来てくれたのだろう。

今の状況はよろしくないとは思っていたが、王の護衛を抜けてまで出迎えに来るとは思っていた以上に大事になっているようだ。





「昼食は食べられたのですかな?」

「朝食をルドルフ殿に頂いてからはダンジョンを走りづめでしてまだです。」

「腹が減ったなぁ?」

「ふぇっふぇっふぇっ!では食事を御用意してますので部屋までお送りましょう!」

「いえ!申し訳ありませんが我々はルドルフ殿の監視をしなければならないので。」

「そうだ!昼食は惜しいがルドルフからは目を離せねぇ!」

恐らく聖騎士のために部屋も食事も用意していたのだろうが、ヴィンガとロンヴァルトにきっぱりと断わられフィルは営業スマイルを引き攣らせている。

おそらく二人は目を離した隙に国を上げて俺を助けるためにあれこれと画策すると思っているのだろう。

ちくしょうめ!とフィルの心の声が聞こえた気がする。



「フィル?こういう訳だ。大部屋でゆっくりさせてもらえるか?」

「わ、わかった。」

「どうせ王は武闘会を観戦なさっているから、話を出来るのは夕方だろう?ならば夕方まで三人でゆっくり待つ。」

「了解した!そっちの五人は別で話を聞かせてもらうぞ?」

「頼んだ。」

これで夕方までにフィル達がどうにかしてくれるだろう。

という訳で俺の仕事はこの邪魔な二人を夕方まで大部屋に缶詰にしてみんなが自由に動けるようにする事だ。


「ではここでゆっくりとしていてくれ?そっちの五人はこっちだ!」

しばらく歩いて大部屋に案内され。

フィルはニッグ達を連れてそそくさと立ち去っていく。

部屋の中を見ると会議室のようで部屋一杯の円形の机が置かれ椅子が周りに何十個も椅子が並べられている。


「おいおい!この城はこの部屋以外空いてないのか!?」

「ロン!我々は突然伺ったのですよ?しかも用意してくださっていた部屋を断わったのに、こうして我々の意向に沿う部屋を用意して頂けるだけでもありがたいことです!」

二人はこの部屋に入った事があるようだ。

ロンヴァルトが文句を言いながらドカリと椅子に座り込み、ヴィンガはそれを諌めながら隣に腰掛ける。

俺は二人を見ながら適当な席に座って解体用ナイフの手入れを始める。



「なぁなぁルドルフさんよぉ?従魔のベビードラゴンは戻ってこないのか?」

「呼べば戻ってくるが、普段は自由にさせているので。」

昼食も食べ終わり暇を持て余したロンヴァルトが尋ねて来る。

ちなみにヴィンガは具現化させた教典を熱心に読み込んでいる。



「はぁ!?それで従魔が人を襲ったらどうすんだ?」

「ドラゴンは人間如きを襲いません。人間相手に戦うのは自衛手段以外にはありえませんから。」

人間を捕食のために襲うのは食物連鎖最下層の魔物だけだ。

ドラゴンがわざわざ保有魔力量の低い人間を好んで襲うなどと聞いた事がない。

ドラゴンが人間を襲うとすれば、身を守るためか縄張りに入られた時くらいのものだ。

ロンヴァルトは呆れたような表情をしているが事実なので仕方が無い。


「ならなんで地底湖には連れて行ってたんだ?」

「あいつが水浴びをしたがってたので。ゆっくりと地底湖で水浴びをさせてやろうと思いまして。」

「魔物と意思を疎通出来んのか?さすがは水竜と魔人を眷属に持つ人間は違うなぁ?」

「・・・今認めましたね?監視は終了ですね?」

「ちょっ!まっ!!・・・ヴィンガ!何とか言ってやってくれ!」

ロンヴァルトが水竜は俺の眷属である事を認めた。

こんなに早くにボロを出してくれるとは思ってもみなかったので驚いてしまったがこれで俺を監視する理由が無くなった。

ロンヴァルトは分かりやすく狼狽しながらヴィンガに助けを求めているが、この状況を引っくり返せるわけが無い。

ヴィンガの反応を待つが今の俺はかなりのドヤ顔をしているだろう。



「ロン?落ち着きなさい!そしてルドルフ殿もそんな顔をしてますが無駄ですよ?気付いていると思いますが、監視とはただの口実で本当の目的は聖騎士団への勧誘です。」

「全く気付いてませんでした。お誘い誠に光栄です。ありがとうございました。ではお帰りはあちらです。」

ヴィンガがとんでもない事を言い放つ。

大真面目な様子なので嘘では無いだろう。

精霊教の教えを一切信じてない・・・それどころか一応学を広げるために教典を見た時に「魔物は人類の敵、魔族は世界の敵」という最初の文言を見て興味を無くしたのでまともに見た事もない。

お断りをして部屋の出口へと二人を促す。


「待て待て待て待て!聖騎士になればいい事いっぱいあるぜ?」

「そうですよ?共に魔物と魔族のいない世界を目指しましょう?」

「聖騎士殿の御活躍をお祈りしております。絶対に入りません時間の無駄なので忙しいでしょうし、お帰りはあちらです。」

二人は俺が断った事にとても驚いているが、俺はそれに対して驚きである。

なぜ俺が聖騎士になると思っていたのかとても不思議である。

二人は黙り込んで部屋の中が沈黙になる。

なぜ帰らずに重苦しい空気を量産しているのかは謎だが、静かになったので昼食によって中断していた武器の手入れを再開する。





「なぜだ・・・なぜ聖騎士に入りたがらないんだ?」

「あれじゃねぇか?まだ聖騎士になる利点がわかってねんじゃねぇか?」

二人はコソコソと何やら話しているが例によって丸聞こえである。

聖騎士にどんな利点があろうとも関係無いのだが、俺が何をどう言っても二人は引き下がりそうに無い。

早く解放されたいが、下手に薮をつついてもいい事は無いので黙っておくべきだろうと二人の会話は聞こえてないフリをしながら読書をする。



「だからよ?聖騎士はもてるって事をアピールしてだな?」

「美人な魔人の眷属を持っているのに無駄です!それよりも精霊教崇拝の国ならば公共料金が無料に・・・」

申し訳ないが女は今で一杯一杯だ。

そしてありがたい事に金にも困っていない。

それにしても最初の印象ではとても堅物な二人だったが案外俗っぽい事が判明した。





「ルドルフ殿!」

「何でしょう?」

二人が話し終えてニヤニヤと笑いながら右にヴィンガが、左にロンヴァルトが腰掛ける。

悪い予感しかしないが部屋のどこに逃げても付いて来そうなので諦めて会話をする。


「ハッハッハッ!じき同僚になるのです!敬語はやめませんか?」

「同僚にはならないので敬語はやめられません。」

「・・・ではそれでいいです!まずは敬語をやめませんか?」

「ヴィンガ殿は敬語ですが?」

「これは私の癖と言いますか。これが素なので・・・ですがルドルフ殿は違うでしょう?剣聖と話す時は違いましたよ?」

「では甘えて敬語は止めさせてもらう。」

俺が敬語をやめると二人が俺を挟んでガッツポーズをする。

どうやらまずは俺と仲良くなって懐柔する作戦にしたようだ。

二人共忙しいのだろうに無駄な努力をするものである。



「ル、ルドルフ殿の趣味は何だろうか?」

「そうだな?静かに読書をする事だな?だから静かにして欲しい。」

「ほう!読書かい!?僕も教典を読むのが趣味でね?一緒に見ないかい?何度見ても新たな発見があるのだよ!」

「遠慮する。静かに読書をしたい。」

ヴィンガが顔を上気させながら教典を机の上に広げて見せてくる。

ヴィンガには申し訳ないが精霊教の教典には一切興味がわかない。

そっと教典をヴィンガへと押し返して読書を再開する。


「へっへっ!ヴィンそれじゃ駄目だって!ルドルフはよ!?女のどこが好きだ?俺は尻だ!後ろからのシルエットがよ・・・」

なぜか勝ち誇ったロンヴァルトが意味不明な事を言い出す。

俺は聞く価値は無いと判断して隣で延々と喋るロンヴァルトを無視して読書に集中する。










「お待たせしました!」

「それでよ?その女がいぃーい尻して・・・ってもうそんな時間か?」

「頭が痛い・・・ロンは尻談義を三十分以上していましたよ?」

フィルとアランが部屋に入って来てアレク王を席へと促しながら対面の席へと腰掛ける。

ロンヴァルトのよくわからないどうでもいいこだわりをずっと聞かされて辟易していたのでとても助かる。

ヴィンガが机に肘を突いて頭を抱えているが俺も同じ気持ちである。


「早速で申し訳ないがルドルフ殿にはニール連合国へ行って頂きたい。」

アレク王が真面目な顔で言う。

この大陸はエト山脈という高い山々が連なってできた山脈が大陸の上半分を縦断しており、エト山脈の西側が今いる場所エスガルド王国で東側がニール連合国。大小様々な国が集まって出来た連合国である。

そしてニール連合国は一応自由信仰国だが、精霊教徒が九十九パーセントを占める国だったはずだ。


「精霊信仰国に?俺が?なぜでしょうか?」

「んむ!ニール連合国から緊急の救援要請が来ておってな?誰を行かせるか悩んでいた所だったのだ。半年以上の行程になるだろうが頼めないだろうか?」

フィルが立ち上がって一枚の紙を差し出してくる。

紙は「親愛なる友好国へ」と始まり長々と無駄な言葉の多い文章が並んでいた。



「これは大変だ。」

「やべぇな?」

読んでいると両隣のヴィンガとロンヴァルトが驚いている。

二人は読み慣れているのかもしれないが、俺はこんな文章を読むことはほとんど無いので呼んでから理解するまでに時間がかかってしまうのだ。


「要約すると、ドラゴンケイブ大迷宮でオーバーフローが発生して街が魔物に占拠された、っでいいのか?」

「そうだ。ドラゴンケイブ大迷宮へ行って欲しい。」

「わかった。急いだ方がいいのだな?」

「あぁ。明日の朝準備が整う!頼めるか?」

「問題無い。」

「では頼んだ!詳細は御付を付けるのでおいおい聞いてくれ!」

「わかった。」

「よし!では今日はゆっくりと休んでくれ!三人部屋を用意しましたので聖騎士殿達もごゆっくりとなさってくだされい!」

「では失礼致します。」

余程忙しいのだろう。

フィルに護衛されながらアレク王は忙しない様子で部屋から出て行く。


「では聖騎士殿?ルドルフ殿?こちらへどうぞ。」

アランが立ち上がって部屋を出て行くので三人で付いて行く。

ヴィンガとロンヴァルトは黙り込んだまま静かなのでとてもありがたい。


「ではこちらの部屋でごゆっくりとなさって下さい。すぐに夕食をお持ちしますので。」

アランが扉を開けて丁寧にお辞儀をしながら案内をする。

普段のアランからは想像出来ない丁寧な所作に驚きながらも部屋に入って行き、とりあえず三つ並んだベッドの一番端っこに横になって読書を始める。



「ルドルフ殿!?先程の依頼は何でしょうか?」

「ん?ドランブ大迷宮に行って街に巣くった魔物を始末するんだろう?」

ヴィンガは依頼の内容を聞いてなかったようだ。

仕方ないのでもう一度噛み砕いて簡潔に説明してあげる。


「違うだろっつうの!そんな大仕事をあれだけの説明で受けんのか!?って聞いてんだ!」

「煩いな・・・詳しく聞いてどうなる?状況を見ないと俺の手に負えるかどうかもわからないだろう?聖騎士はどんな魔物が何体いるかわからないと動かないのか?」

ヴィンガが黙ると代わりにと言わんばかりにロンヴァルトが半ば叫ぶように言って来る。

俺にとってはお馴染みとなった、いつも通りの簡素な依頼内容だったのだが、聖騎士にとっては全く違うようで二人共目を泳がせ、かなり動揺した様子である。



「(俺が聞いてもさっぱりだからな・・・)」

詳しく聞かないのにははっきりとした理由がある。

俺が人間の尺度で危険度などを聞いても、逆に分からなくなるので聞かないようにしている。

後々で聞いた話だが、ライネンでのミノタウロス討伐やゲーテでのクラーケン討伐は人間の危険度で言えば災難(カラミティ)だそうだ。

意味がわからなかったのでアランに詳しく聞いたのだが、災難(カラミティ)神銀(ミスリル)級一人で解決出来るだろうと思われるレベルの依頼に付けられる評価らしい。

その上に災害(ディザスター)。これは神銀(ミスリル)級が五人は必要と判断されると付けられるらしい。

そこから上は測定不能(アンノウン)で言葉通りにどれほどの危険度か測定が出来ないそうだ。

そして魔の森にいる魔王、俺の育ての親であるルルは測定不能(アンノウン)

沼で戦ったミスリルメタルサウルスも測定不能(アンノウン)

つまり何が言いたいかと言うと、一定の危険度を超えると全て測定不能(アンノウン)になり全く参考にならないのだ。

そして俺如きの二つ名に災害(ディザスター)という名前が付けらている事からも分かるように、人間が定めた危険度を聞いても逆にわからなくなるのである。



「じゃあ俺は明日に備えて寝るぞ?」

「わかりました。」

「ヴィン?交代で見張るんだろ?まずは俺が見張るぜ!」

俺が布団に入ると二人は寝静まってから俺が何やら行動を起こすと思っているようでロンヴァルトがベッドの上であぐらをかいて俺を見張り始める。

心配しなくても雑事は全てフィル達に任せているので俺はこのままガッツリと寝るつもりなので二人もしっかりと寝て欲しい。



「俺は部屋から出ん。だから寝てくれ・・・」

ロンヴァルトが鼻歌混じりに鎖を磨き始める。

部屋は明るいままの上にジャラジャラと煩いしで安眠妨害甚だしい。

心からの願いを二人に言うが聞き入れられる様子は無い。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。

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