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第百六十話 タルトの願い

タルトと一緒に食堂に入るとサミュエルを除いたいつものメンバーが机で待っていた。

「待ってました!」

「ふぇっふぇっふぇっ!美味しそうだ!」

タルトが机の上に料理を置くとアランとフィルが声を上げているがそれどころではない。

なぜか二人と共にマットやエミールも座っていていつものメンバーが顔をそろえていた。


「おい。フィルもだがマット達も聞いてないぞ?」

俺は何も聞いてないのでアランと俺とタルトの分しか夕食は作っていない。

正確にはタルトが五人前食べるので合計七人前しかない。

これを全員で分けるとなると明らかにタルトの分の料理が足りなくなってしまう。


「・・・あんな目で見られたらおいでって言うしか・・・ないよね?」

「御主人様どうなさいますか?」

「御主っ!?ニコメイドなんて雇ったの!?」

アランが申し訳無さそうにしているのでこれ以上責めるのも気が引けてしまうが、タルトからは殺気を含んだ魔力が漏れ始めているので考える猶予は長く無さそうだ。

どういう意味のどうなさいますか?なのかとても気になるが聞いては駄目だと俺の直感が警鐘を鳴らしている。

そしてターニャが驚いて何やら言っているが今はそんな些事を気にする暇は無いので無視して必死に頭を働かせる。


「よしわかった。この料理はお前らで食べていい。俺とタルトは部屋に戻って作り起きの料理を温めて食べる。食器などはアランが回収しておいてくれ。じゃあタルト行くぞ。」

「・・・では失礼致します。」

俺はみんなの返答も聞かずにタルトの手を引いて食堂から出る。

余程今日作ったハニーチキンを食べられない事が悔しいようで引っ張るタルトから放たれる魔力に含まれる殺気が増大したので大急ぎで寮に帰ってタルトの機嫌を取らなければならないからだ。



「御主人様?命じて頂ければ証拠は残しませんが?」

「何の証拠・・・いやいい。ハニーチキンはまた作るから今日は我慢しろ?」

足早に寮に向かっているとタルトが物騒な事を言って来る。

何の証拠を残さないのか気になるところだが絶対に碌でもない事なのでそれ以上は何も掘り下げないようにする。




「これとこれと・・・これとこれで足りるか?」

「やった!美味しそうです!」

部屋に戻り作り起きの料理を取り出して言うとテンションマックスのタルトが満面の笑みで答える。

部屋に入った途端に元気一杯の見慣れたタルトに戻るのでホッと一息吐く。


「そうだ。タルトだけだからな・・・パエリア食べ損ねたんだろ?パエリアも食べな?」

「いいんですか!?是非食べたいです!」

「今日一日頑張ってくれたからな。なんでも言ってくれ?」

「師匠に付いて来て本当によかったです!」

俺がパエリアを差し出すとタルトが口の端に米粒を付けながらパエリアを頬張っているのを見るだけでも嬉しいのに、更に嬉しい事を言ってくれる。

昼間の淡淡とした出来るメイドのタルトからは想像もつかない変貌ぶりだが、今のタルトが素なのである。

美味しそうに夕食を食べるタルトを眺めながら俺も適当に作り起きの料理を取り出して夕食にする。



「タルト?人間の生活リズムに合わせるの大変じゃないのか?」

「少し忙しないですが楽しいです!」

「ならよかった。明日から何かしたい事はないのか?」

「しいて言えばですが・・・水浴びしたいですね?ウラン達と過ごしていた時は湖で水浴びしていたので・・・」

「それは水竜になってか?」

「水竜になれればいいですが・・・今の姿でも出来ればありがたいです!」

タルトは水浴びがしたいらしい。

一番に王都ダンジョン内の地底湖が思い浮かぶが魔魚で溢れているので水浴びは厳しいかもしれないが一応聞いてみる。



「魔魚が泳いでいても大丈夫か?」

「はい!魔魚程度問題ありません!」

「そうかなら明日は王都のダンジョンに行こう。」

「楽しみです!」

問題無いらしい何でも聞いて見るものである。

明日は二人でダンジョンに潜ってタルトは水浴び、俺は釣りでもして過ごすとしよう。



「タルト?まだデザートは食べられるか?」

「食べたいです!」

ご機嫌取りの意味もあって料理を多めに渡したので軽く七人前はあったはずなのにまだ食べられるようだ。

マジックバッグから金型を取り出して端に少しだけ包丁を入れてから皿の上で底をポンポンと叩くと綺麗に焼きあがったシフォンケーキが出て来る。

なぜ生地は一緒なのに成型と焼く作業を任せただけでここまでの違いが出るのか不思議に思いながらもシフォンケーキを切り分ける。


「ほら食べていいぞ?」

「師匠は・・・?」

「俺は三切れで十分だ。紅茶も淹れたからな?」

「わーい!」

タルトは満面の笑みでほとんど丸々一ホールのシフォンケーキと共に大量のクリームと果物を満面の笑みのままペロリと平らげた。

ちなみに俺は一切れは素で食べ、二切れ目はクリームをつけて、三切れ目はクリームとバナナを乗せて美味しく食べたのだが、もう一切れ食べれば胸焼けがしてくるだろう。

どうすればそんなに食べて気持ち悪くならないのか本当に不思議である。



「御馳走様でした!師匠ベッドはどこに出しましょうか?」

「御馳走様でした。そうだな・・・スペース的に俺のベッドにくっつけるしかないか・・・」

タルトが聞いて来るので部屋を見渡すがもう一つシングルベッドを置くスペースは俺のベッドの隣しかない。

男と女がベッドをくっ付けて寝るのには抵抗があるのでどうにかスペースを作れないかと考える。


「ではこうしましょう!」

「いいのか?」

「何がでしょう?」

「タルトがいいなら問題無い。」

タルトは俺のベッドの隣に今日買ったベッドを取り出して寝具を設置し始める。

パッと見はダブルベットにシングルの布団を二つ並べているようにも見えてしまう。

俺の質問に意味がわからないと言った様子でタルトが首を傾げている。

「(まぁタルトは寝相はいいはずだから問題ないか・・・)」

昨日アランにベッドから叩き出されて、俺と一緒にソファで寝ていたので寝相が悪いという事は無いだろう。



「では明日に備えて鍛錬して寝ようか?」

「はい!寝間着に着替えます!」

タルトはスカートの裾をおもむろに掴んで一気に持ち上げて下着姿になるので、慌てて背中を向けて俺も寝間着に着替える。

先程のベッドの設置といい、行動が早いのは素晴らしいがもう少し恥じらいと言うものを覚えて欲しいものである。


「師匠洗いますから洗濯物を下さい!」

「俺がしてやるからタルトの洗濯物を渡してくれ?」

「わかりました!」

タルトが言って来るが、洗浄魔法(クリーン)で一発で綺麗に出来るので逆にタルトからまだ温かい下着と肌着を預かる。

俺のパンツと肌着と一緒に洗浄魔法(クリーン)で綺麗にしてタルトに返す。

そしてどうでもいいが、タルトの寝間着はネグリジェでとても妖艶な雰囲気だ。



「ほえー師匠今の魔法は私にも使えますか?」

「魔法陣で発動する魔法じゃないからな・・・」

タルトに綺麗になった肌着と下着を渡すと目を輝かせながら聞いて来る。

この魔法は俺の胸に刻まれたルル特製の魔法陣によってイメージで発動しているので、とても返答に困ってしまう。


「それは師匠の胸の魔法陣に秘密があるのですか!?」

「そうだ。みんなには秘密だからな?」

「ウランのに似てますね!?」

「ほう?ウランにもこの魔法陣が刻まれているのか・・・」

「だからウランはあたし達の中で一番魔法が得意なのです!」

タルトから思わぬ情報が聞けた。

ウランも胸に魔法陣を刻んでいるらしい。

今度ウランと二人っきりになるタイミングがあれば是非とも聞いてみたいものだ。



「では鍛錬を行う。」

「はい!」

タルトと鍛錬を行う。

昨日鍛錬を始めると俺は教えてないのにタルトは淀みなく鍛錬を始めた時はアランが教えたのかと思っていたが違うかもしれない。




「鍛錬しながら聞いてくれ?この鍛錬は集落でもしてたのか?」

「はい!ウランが魔力操作こそ魔法の極意なのじゃ!と言っていました!」

「そうか。わかったありがとう。」

タルトの言葉で確信する。

ウランの言葉はルルがいつも言っていた言葉だ。

「(胸に魔法陣があり、そしてルルの格言。馬鹿でも推理出来るな。)」

ウランは俺の親であるルルと会った事があるようだ。


「続けてすまん。ウランは名前は自分で決めたのか?」

「いえ!私が生まれる遥か昔に魔王様に名付けてもらったそうです!」

俺の推理は大正解だったようだ。

そもそも名付けとは格上の者が格下にする行為なので、ウランに名前がある事が不思議だったのだが全て合点がいった。



「鍛錬中に質問して悪かったな?じゃあ寝ようか?」

「はい!明日は水浴びですね?」

「そうだ。少し行くまでが面倒臭いが我慢してくれ?」

「問題ありません!おやすみなさい師匠!」

「おやすみなさいタルト。」

二人で布団に入りタルトと一緒に夢の中に意識を手放す。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。

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