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第百六十一話 地底湖を堪能する

朝起きてタルトと準備をして朝一でダンジョンへと向かうが、常に大勢の冒険者達が列を成しているダンジョンの入口には人が一人もいない。

不思議に思いながらも受付に行きルドルフのギルドカードを提示する。

「・・・誰もいないな?入っていいのか?」

「月に一度の確認日だ。金級か十階までは狩り禁止だぞ?」

確認日。そういえばそんな制度があったのを思い出す。

月に一度銅級と銀級冒険者の出入りを禁止して、生存確認するための期間だ。

あと一定時間狩りをしない事によって魔物の出現を促すためでもあるらしい。

そして金級以上は人数も少なく入場者を把握出来ているので自由に出入りできるらしい。

俺達は狩りはしないので問題ないだろう。

目的地の地底湖は十五階なのでまず冒険者が来る場所では無いので問題無い。


「そういえばそんな制度があったな。狩りはしないから問題無い。」

「ふむ・・・その肩に乗っているベビードラゴンは?」

「従魔だから危険は無い。」

「そうか。なら気を付けて言って来い。」

ベビードラゴンに変化して俺の肩に乗っているタルトの説明をしてダンジョンへと入る。

なぜそんな事をしているかと言えば、タルトはニコのメイドである。

そのニコのメイドがルドルフと一緒にダンジョンに入るのは不自然だ、だがニコは鉄級冒険者なのでダンジョンには入れない。

という訳でタルトはベビードラゴンになって俺の従魔としてダンジョンに入る事にした。

タルトならば一度行けば問題無く一人で地底湖に行けるようになるだろうから今回だけの苦肉の策である。


「面倒で申し訳ないな。」

「いえ!私のわがままのせいでばれる訳には行きませんから!」

「そう言って貰えるなら何よりだ。では行くぞ?」

「はい!付いていきますので本気でどうぞ!」

ダンジョンに入り人型に変化するタルトに認識阻害魔法をかけながら言うと、タルトは元気一杯な様子で言って来る。

タルトの実力も知りたいので遠慮無く本気でダンジョンを駆け出す。



「(ほう?十階までは余裕か。)」

十一階に通じる階段に着いてタルトを確認する。

タルトは余裕の表情で俺の後ろで地底湖を楽しみにしている様子だ。

「少し遅かったか?」

「いえ!いっぱいいっぱいです!」

タルトは満面の笑みで答えるが、息も整い汗一つかいてないのにいっぱいいっぱいな訳が無い。

俺に気を使っているのが丸見えである。

十一階からは森だったり地底湖だったりと階層によって全く様変わりする。

ここまでのハイコボルトが作ったと言われる神殿風の道のりと違って更に進みにくくなるので、タルトがどこまで付いてこれるのか楽しみだ。

十一階からは森になるので一気に進みにくくなる、魔の森で過ごした俺がエアーバッシュによって立体機動と空中機動を駆使して本気で進んでタルトを迷子にさせてやろうと決意する。


「あと五回下に下りたら目的地だぞ?」

「かしこまりました!」

タルトが余裕の表情で答えるので最後の階段を降りて森へと飛び込む。

枝を蹴り、時には空中を蹴って鬱蒼と草が茂る地面には一切足を付ける事無く十二階への縦穴に辿り着いたので後ろを見ると、タルトは背中からドラゴンの羽を生やしたパタパタと飛んでいた。


「なるほど。そういう手があったか。」

「さすがは師匠です!本気を出しました!」

タルトは文字伊通り万歳をして手放しに賞賛しているが、裏を返せば十階までは本気を出していなかったという事だ。

人間とは文字通り桁違いの強さを誇る竜種の魔族に本気を出させたのは誇りに思っていいのはわかっているのだが、これでは師匠としての面目が立たない。


「次はもっと早くても大丈夫か?」

「頑張って付いていきます!」

タルトはまだ余裕がありそうな様子なので、次は身体能力強化魔法を使って本気の本気で進む事にする。

一つ頷いて縦穴を飛び降りて地面に着地すると同時に一気に地面を蹴り出す。

今度はジャンプしてから、更に枝を蹴って森の上に出てエアーバッシュをフル活用して森の上を駆ける。

今度こそタルトは追いつけていないと自信を持って振り返ると、若干の汗を滲ませたタルトがパタパタと後ろを飛んでいた。


「あの速度で進んだのに涼しい顔!さすがは師匠です!」

「やはり水竜の魔族と張り合ったのが間違いだった。」

タルトが満面の笑みで褒め称えてくるので、余裕の対応に負けを認めざるを得ない。

がっくりと肩を落としながら十三階へと進み、地底湖へとタルトと一緒に進んで行く。



「師匠!この坂を下ると・・・?」

「地底湖だ。」

「では先に失礼します!」

目を輝かせたタルトがなだらかな坂をパタパタと飛んで進んで行く。

余程水浴びが楽しみなのだろうが、不用意にも程がある。

もし行った先に人間がいれば大騒ぎになってしまうので大急ぎでタルトの後を追う。



「ひゃっほーい!!」

俺が坂を下りて地底湖に到着した時にはタルトは変身を解いて水竜の姿で地底湖に飛び込んで巨大な水柱を上げていた。

慌てて捜索魔法(サーチ)を発動して周りに人がいないか確認する。



「(大丈夫そうだな。)」

かなり入念に辺りを探索したが人の反応は無い。

安心してタルトが脱ぎ散らかした服を拾い集める。

タルトの服は羽を無理矢理生やしたので二つの大穴が空いている。

黙ってマジックバッグから裁縫道具を取り出して背中の穴を塞ぐ。





服の修繕を終えて釣りを始めたのだが魔魚達はタルトの存在感に気圧されて離れているのか俺の持つ竿はぴくりともしない。

「あいつ・・・寝たのか?」

水竜のタルトは目を閉じてぷかぷかと水面に浮かんでいる。

本来ならば魔魚に気付かれないように地底湖にかかった橋を渡って進む凶悪な階層のはずだが、今の地底湖はとても静かだ。

「(まぁなんにせよ気に入ったのなら何よりだ・・・だが釣れないな。)」



「魚が釣れないから移動する。タルトは気にせずゆっくりしててくれ?」

「はっ!?すみません!私が離れますのでそこで釣りを楽しんでください!」

俺が言うとタルトは慣れた様子で器用に泳いで地底湖の奥へと消えて行く。

タルトが見えなくなるくらいに遠くに行くとすぐに竿が引っ張られる。

「(改めて初釣りだな。)」

竿を上げると三十センチの鮎のような魔魚が姿を現す。

ただ見た目は鮎そっくりだが、口はギザギザな牙が生えていて人間の皮膚など簡単に食い破りそうだ。

俺は大満足で魔魚を地面に降ろして針から放そうとするが、どうやっても口を開けないので諦めて針にかぶりついたままの魔魚を活き締めしてそのまま捌く。



タルトが離れると入れ食いで釣り針を落とすとすぐにさおが引っ張られる。

引くと凶悪な顔で針に齧り付く魔魚と御対面。

そして釣り針に食いついたままの魔魚を活け締め。

鱗をはぎ腹を割いて内臓と魔石を抜き取り。

死んだ魔魚を針から外して時忘れのマジックバッグに入れてまた釣り針を湖に垂らす。

ひたすら繰り返す。

最初は釣れるたびに嬉しくてはしゃぎながら魔魚を捌いていたのだがそれも十体を越えた辺りで億劫になって来た。

今はただ飯の材料を調達しているという認識である。






「初めてで大物が釣れて、二回目は大漁でいう事無いはずなんだがな・・・」

捌いた魔魚をマジックバッグに入れながら思わず一人ごちる。

自分一人だけならばもう十分すぎる程の釣果なのだが、これからは五人前食べるタルトも加わるのでどれだけ用意しても多すぎるという事は無いだろう。

そんな事を考えながら釣竿を垂らすと一瞬で魚がかかる。

竿を上げて魔魚を捌く、もう慣れたものだ。




その後もしばらく釣りを続けて、捌いた魔魚を時忘れのマジックバッグに入れようとするが入らない。

どうやらマジックバッグが一杯になったようなので気分転換も兼ねて鮭によく似た魔魚がいたので捌いて燻製にする。

保存もきくようになるしこれでスモークサーモンのように美味しくなってくれれば大変ありがたい。



「師匠ご飯ですか?」

「あぁもう出来るぞ?」

昼食を作っているとタルトが匂いに釣られて泳いでやってくる。

釣りに疲れたのに水竜を匂いで釣ってしまった。

今日のメニューは鮎っぽい魔魚のムニエルと適当に作ったスープとパンだ。

タルトは人型に変化しながら地上へと上がって来て服を着始める。


「師匠お手伝いもせずに申し訳ありません!」

「気にするな。二人っきりの時は好きにしてろ?」

慣れない人間の生活をしながら俺のサポートをしてもらうのだから、こういう時くらいは好き勝手に過ごしてストレス発散して欲しい。

タルトの昼食を配膳してスモークサーモンの様子を確認する。


「師匠それは何ですか?」

「これは魚を燻製して・・・ベーコンの魚版だ。」

俺が燻製箱を開けて確認しているとタルトが聞いて来るので、説明をする。

燻製と聞いてキョトンと首を傾げているので、かなり噛み砕いて説明をすると理解してくれたようだ。


「美味しそうですね!?」

「夕食はこれを食べてみような?」

「楽しみです!」

タルトはいつも元気一杯で癒される。

美味しそうに昼食を食べるタルトを見て癒されながら一緒に昼食を食べる。


「今まで魚は生でしか食べた事なかったですが、こんなに美味しくなるんですね?」

「魚料理はあまり作った事は無いが任せろ。そういえば集落にいた時も三食しっかりと食べていたのか?」

タルトは魔魚のムニエルに大満足の様子だ。

俺はふと浮かんだ疑問をタルトにぶつける。

何度も言うが魔族の生活サイクルは種族ごとによって全く違う。

ゴブリンのように弱い魔族ならば獲物や他の脅威となる魔物に合わせた生活サイクルをするが、これと言った天敵もいない竜種などの最上位の魔族はとてもマイペースな生活サイクルの事が多いので三食きっちりと食べるタルトを見て疑問に思ったのだ。


「集落にいた頃は、みんな好き好きに過ごしてましたよ?私は水浴びが好きなので一週間くらい水浴びして、気が向いたらダンジョンに食事に行く感じでしたね?ですが今は食べるのが楽しくてたまらないです!夕食が楽しみです!」

「そうか。」

思ったとおりに人間のように日の動きに合わせた生活はしていなかったようだが、どうやら俺の料理を食べるために生活サイクルを変えたようだ。

それにしても昼食の魔魚のムニエルを食べているのに、今から夕食を楽しみにするとは気が早すぎるというものだ。







「師匠?本当に行っても大丈夫ですか?」

「問題無い。地底湖の水がタルトの出汁で美味しくなるまで水浴びして来い。」

さっさと五人前の昼食を完食したタルトは服を脱ぎ捨てて変身しながら地底湖に飛び込んで優雅に泳いで行く。

地底湖は広いのだが巨大な水竜の姿では狭かったのか今度はベビードラゴンの姿で地底湖の奥へと消えて行く。


「俺が下着を拾うのは問題な気がするな・・・」

タルトが脱ぎ捨てた服を拾い集めながら、思わず一人ごちながる。

タルトの服を畳み終えて昼食を再開するが魔魚は鮎っぽいからという理由だけでムニエルにしてみたが大成功だ。

「(これなら鮭っぽい魔魚も美味いだろうな。)」

そんな事を考えながらムニエルを一口食べてパンを頬張る。

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