第百五十九話 訓練の成果
その後もどんどんと試合が進んで行き、ウィンストンが出て来る。
「さて!いよいよね?」
「そうだな?マルスに負けないように圧勝して欲しいものだ。」
「不甲斐無いようであれば、私が始末してウィンストンになりましょう。」
タルトがとんでもない事を言い始める。
確かにタルトならば変化でウィンストンに化けられるし、竜種にタイマンで勝てる生徒はいないだろう。
ウィンストンの知らぬ所で彼の命運が決しようとしている。
タルトの真っ直ぐな目をみて冗談で言っていないと確信する。産まれて始めて手を合わせて神に向かってウィンストンの勝利を願う。
「第一回戦二十五試合始め!」
ウィンストンが開始の合図と共に相手の上段からの振り下ろしを避け、横薙ぎに剣を振るい相手をコロッサスの壁まで吹き飛ばす。
「よし!余裕ね?」
「そうだな?」
「勝者ウィンストン!」
審判がウィンストンの勝利を宣言すると、下の観客席から一斉に悲痛な嘆きと共に紙吹雪が舞う。
壁にぶつかって地面に伏した対戦相手を見たウィンストンは目を開いて自分の体を確認している。
普通に考えてしっかりと鍛錬した魔力操作で身体能力強化魔法を発動したウィンストンからすれば、適当に体の中を流れているだけの魔力を使った人間など雲泥の差が出るのは当然である。
頭では分かってはいたのだが、先程のタルトの言動でとても心配だったので思わず胸を撫で下ろす。
「しかも相手はかなりの有力選手だったみたいよ?他の三箇所の試合はまだ終わってないから今飛び交ってるのはウィンストンの対戦相手の賭け札って事よ?」
「それは僥倖だ。」
観客席で飛び交う紙吹雪を見ながらアランが楽しそうに言って来る。
ざっとみても半分近くの人間が賭け札を破り捨てている。
これだけの人数が賭けていた有力選手を余裕で倒したのならウィンストンの優勝もかなり期待が持てそうだ。
マルスの力は計れなかったが、同じくウィンストンの力も計れなかったので少なくとも圧倒的に負けていると言う事はなさそうだ。
その後もさくさくと試合は進み四十試合終わり一回戦が終了して昼食の時間になる。
「御主人様お手を煩わせて申し訳ありませんがお願い致します。」
「気にするな。」
タルトに言われて机の上に朝作った料理を出す。
時忘れのマジックバッグに入れていたので湯気が立ち上り熱々の状態だ。
俺が取り出すと手馴れた手付きでタルトが配膳を済ませてくれる。
「さて!昼食昼食!」
アランが配膳されたから揚げを食べようとしてタルトが腕を掴んで阻止する。
「・・・何?」
「御主人様よりも先に手を付けるのは如何なものかと。」
俺はアランが先に食べようが全く気にしないのだがタルトにとってはとても大事な事のようだ。
気にしてないと声をかけたいのだが、タルトから発せられる凄まじい威圧感に気圧されて何も言えずただ固まってしまう。
「異議は無い様ですね?では引き続き昼食の準備を致しましょう。」
「タルト・・・こんな子じゃなかったはずなのに・・・」
アランは余程タルトの対応がショックだったのだろう頭を抱え込んでブツブツと呟いている。
だが頭を抱えたいのは俺のほうだ、対当の立場でウランから引き受けたつもりだったのにどうしてこうなってしまったのか本当に謎である。
「御主人様準備が整いました。」
「ありがとう。では昼食にしよう?」
「頂きます!」
タルトが配膳を終えて声をかけてくるので、昼食を始める。
アランがタルトの顔色を伺いながら唐揚げに手を伸ばす。
今度は俺が号令をした後なのでタルト的にセーフのようだ。
「タルト美味しいか?」
「朝食もですが、御主人様の料理は格別で御座います。ですが特別な事はしてらっしゃらなかったのになぜこんなに美味しいのでしょう?」
「それはね?ニコの魔力特性が関係してるとあたしは睨んでる。」
タルトが首を傾げ、アランがドヤ顔で答える。
「魔力特性ですか?」
「そ!ニコの魔力特性は強化。しかも無属性だから全ての料理の味を満遍なく強化してるんじゃないかと睨んでいる!」
アランは自信満々に答える。
アランの言っている事は確かに説得力はある。
だが俺が無属性という事はアランにも言っていないはずだ。
「アラン?なぜ俺の魔力が無属性だと?」
「入学式の時に水晶は透明に光ってたんでしょ?だからよ!」
ギルドカードを作った時と入学式の時に俺の属性を調べるために水晶に触れた時に反応しなかった。
それをアランは透明に光っていたと睨んでいたらしい。
透明に光っていたために光を認識できなかったために俺は魔力無しと判定されたようだ。
特に気にしてなかったがそう言われると納得である。
それで俺が無属性と勘付いたのはわかったが、まだもう一つの疑問が残っている。
「それで?アランは俺が無属性と知っていたのはいい。ならなぜ属性魔法を放てるのか不思議に思わないのか?」
「どうせ変換魔法陣使ってるんでしょ?変換効率が悪すぎて使えたもんじゃないけど、無属性なら・・・例えるなら属性の色を変えるんじゃなくて色を付けるだけだからほとんどロス無しで変換出来るんでしょ?」
「さすがは神銀だ。」
アランは正解に辿り着いていたようだ。
といっても俺の変換魔法陣はルルのオリジナル魔法陣なので胸に刻まれた魔法陣は人間界の変換魔法陣とは全然違うものだが。
人間界にも変換魔法陣はあるのかと気になって調べたがどの魔法書にも無く、廃れて千年以上も昔に使われなくなった古代魔法書でやっと見つけたというのに・・・そんな誰も気にも留めない変換魔法陣を知っているとは本当に感心だ。
「変換魔法陣ですか・・・では私も火竜のように火を吐けるようになりますか?」
「理論上は出来る。だが水属性から火属性に変換するとなると同じ威力の火を吐くには十倍は魔力を使うぞ?」
「それは現実的ではありませんね。」
「だから自分の属性魔法を鍛えるのが主流になり、変換魔法陣は忘れ去られた。」
「成程。」
タルトが残念そうにしているが嘘を言う訳にもいかないので仕方がない。
水属性から火属性に変換しようとすれば変換効率は十%もあればいい方だとルルから聞いている。
九十九%の変換効率で全属性を使える無属性は変換魔法陣との相性が良すぎるのである。
だがルルに出会わずに人間に育てられていたら変換魔法陣の存在には気付けなかったと思うので俺は本当に幸せ者である。
「てか・・・今更言うのもあれだけど、こんな話してて大丈夫なの?」
「大丈夫だ。タルトが結界を張ってくれている。」
「防音と対衝撃と対魔法の結界を張って御座います。」
アランが今更な事を言って来る。
てっきりタルトが結界を張ってくれている事に気付いていたのかと思っていたが知らずにあんな会話をしていたようだ。
「(誰に聞かれているのかもわからないのにあんな会話をする訳が無いだろう・・・)」
「煩い煩い!昼からの武闘会が始まるよ!」
「何も言ってないが?」
俺が呆れながらアランを見ているとアランが喚き散らし始める。
毎度の事だが何も言っていないのに俺の心の声が聞こているのか不思議に思うほどの察しの良さである。
アランの言った通りに休憩が終わり生徒達が入場し始めて観客席から歓声が上がる。
「組み合わせ次第だけど・・・あの子残るね?」
「五年生のブノワトですね。」
「俺はあっちが残りそうだと思うぞ?」
「六年生のサイモンですね。」
アランと一緒に腕前を見ながらベストエイトを予想して行く。
俺達が予想するたびにタルトが対戦表を見て名前を教えてくれる。
その後も試合が進んで行きベストエイトが決定し、最後まで勝ち残った八人が中央の舞台で観客達に向かって手を振ってアピールをしている。
残った生徒はマルスとウィンストン、そして俺達が予想した生徒達が見事に残った。
「アラン様。御明察感服の至りで御座います。」
「御苦労。さっさと出しなさい?」
「かしこまりました。」
老紳士が三個の皮袋を机の上に取り出す。
俺達が賭けたのは五枚のはずなのに皮袋の中が全部金貨だとするなら百枚はかるく超えている。
「最終的に倍率はどうなったの?」
「六十五番人気で二十二.六倍となりましたのでそれぞれに百十三枚入って御座いますので御確認をお願い致します。」
「いい!あんた達を信用する!じゃあ二人共?帰る人で一杯になる前に出ましょ?」
アランが皮袋の一つをマジックバッグに入れて椅子から立ち上がるので、俺とタルトも自分の皮袋をマジックバッグに入れてアランに付いて行く。
「御主人様?十分なお金を預かっているので先程のお金はご主人様に。」
「いらん!むしろそれこそお前が欲しい物に使ってくれ。」
コロッサスを出て王都を歩いているとタルトが先程の皮袋を差し出してくる。
この金こそタルトが俺の金で買うのを躊躇する物などに使ってもらいたいので拒否する。
「・・・かしこまりました。」
タルトは一瞬考えて大人しく皮袋をマジックバッグに入れるので問題なさそうだ。
是非とも有意義でなくてもいいのでタルトが納得する使い方をして欲しい。
そんな事をしながらアランの案内で王都を歩き、タルトのベッドなどの寝具を買って学校へと戻る。
「アラン教官!?ルドルフ殿はどこか知りませんか?」
「え?どうしたの?」
学校に戻るとウィンストンが駈け寄ってくる。
もう訓練も終わったのに俺に用とは何だろうか?全く見当が付かない。
「いえ!無事ベストエイトになれたので御礼をと思いまして!」
「ベストエイトで喜ぶな!優勝したら報告に来るって伝えとくね?」
「わかりました!では優勝してから改めてお伺いさせて頂きます!」
アランのおかげでウィンストンは気合を入れなおして駆け足で離れて行く。
是非とも優勝したウィンストンとルドルフとして会いたいものだ。
ウィンストンを見送ってからタルトと一緒に調理室に行って夕食を作る。
朝は昼食分も一気に作ったのでバタバタしていたので中々タルトに教えられなかったが、夕食だけを作るのでしっかりとタルトに手順やコツを教えながら料理を作る。
「さて・・・次はデザートを作ろう。見栄えに関する部分は任せたぞ?」
「お任せください。」
夕食を作り終えタルトと一緒にデザートを作る。
今日はタルトの要望に答えてシフォンケーキを作る。
卵黄を掻き混ぜ、メレンゲを作り、シフォンケーキを作って行く。
レシピは完璧に頭の中に入っているので淀みなく手が動く。
「ここからだ!ここまでは完璧なはずなんだ。」
「全く問題ありませんでした。むしろプロのパティシエかと見間違う程でした。」
俺が型に流し込む直前まで行程を終えて一息吐く。
なぜかここから俺が型に生地を流し込むと底面はガタガタになり、焼きムラだらけのとても食欲をそそらない一品になってしまうのだ。
食欲をそそらないだけならまだしも焼け過ぎて真っ黒になっているかと思えば別の箇所は生焼けだったりと、ある意味これは才能か?っと逆に自画自賛してしまう一品に仕上がる。
「タルト?ここからは任せた。」
「かしこまりました。」
お菓子作りはメイドの仕事ではなかったのだろう。
慣れない手付きで生地を型に流し込みオーブンに入れる。
なぜこれだけの作業なのに俺がすると失敗するのか不思議で仕方が無い。
シフォンケーキが焼き上がるまで余裕があるので付け合わせにクリームを作る。
「となると果物も合わせても美味しいと書物に書いてありましたが?」
「俺が切ると失敗するから任せていいか?」
「御主人様が失敗と思っているだけです。ですが頼っていただけるのであれば喜んで。」
タルトの俺への接し方に少々困ってしまう。
とりあえず俺は何も答えずに果物を出して皮を剥いたりして下処理を終えるとタルトが見栄え良く切って行く。
「御主人様焼き上がりました。」
「なら十倍のマジックバッグに入れて冷やそう。」
「すぐに型から取り出さないので?」
「冷やしてから型から取り出さないとしぼむからな?」
「成程。」
タルトは俺の言葉にしっかりとメモをとる。
ウラン達がデザートを腹一杯に食べる日は遠くない内に実現しそうだ。
「お待たせしました。では食堂へ向かいましょう。」
「あぁ何から何まですまんな?」
「私は御主人様のメイドですので当然で御座います。」
「二人っきりになったら労わってやるからな?」
タルトは手早く調理台の掃除を終え器用に鍋やハニーチキンを山盛りに載せた皿を持って食堂へと向かって歩き出すので、俺は手ぶらでタルトの後ろを付いて行く。
夕食を食べ終わって二人っきりになったらマッサージでもして労わってやる事にしよう。
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