第百五十八話 武闘会開始
「アラン?今日は武闘会の応援を終えたら街でタルトのベッドと布団を買いたいのだが?」
「わかった!じゃああたしが買った事にするから何でも好きな物買いな?」
朝食を食べながらアランと今日の予定を決めておく。
アランはすぐに俺の言いたい事を理解してくれるので大変ありがたい。
タルトのために最高級の布団を買って上げたいのだが、俺のような平民の子供がそんな物を買えば絶対に目立ってしまう。
アランはそれをすぐに理解して隠れ蓑になってくれると言ってくれる。
「すまんな?タルトの物をケチりたくなくてな?」
「わかってる!ニコの性格はわかってるから!」
「タルトさんはどんな高級品で寝るのだろうか・・・」
「私は最低限の物を準備して下さるだけで十分なのですが・・・」
サミュエルは俺とアランがタルトのために買う寝具について想像を膨らませ。
タルトは困ったように呟いている。
魔族は寿命が長いのでとてものんびり屋が多い。
ルルやエドに至っては数百年単位の構想で魔法などの研究を行っている。
それと同じ様にタルトも人間のように日の動きに合わせて行動などしてなかったはずだ。
それこそ下手をすれば年単位でお昼寝とかそんなレベルだと思う。
表には出さないがタルトは人間の生活リズムに合わせるために相当な無理をしていると思う。
なのでせめて生活に関するものは出来る限りの事をしてやりたい。
その後朝食を食べ終わりサミュエルは城に帰り、俺達は三人で武闘会が行われる王都内にあるコロッサスへと向かう。
コロッサスとは王都の端にある円形の闘技場で約五万人が入れる超大型の施設だ。
なんでも魔大戦以前の遺跡で三千五百年経った今でも現役で使われている建物らしい。
本で読んだだけなので実物を見るのは今日が初めてなのでとても楽しみだ。
「人が多くなってきたな?」
「やっぱり新年と言えば武闘会だからねぇ?」
「人の多さに酔いそうです。」
人の賑わいを避けて王都の中心街を避けて闘技場へと向かっているはずなのにどんどん人が増えてくる。
みんな誰が一番になるかと口々に話しているのが聞こえる。
「・・・なぜみんな誰が一番になるか予想してるんだ?」
「一位を当てる賭けのためだね?新年一発目の・・・人によっては運試し。人によっては目利きの勝負だね?」
どうやら賭けを行っているようだ。
それを聞いたら参加をしてみたくなってしまう。
「アラン?どこで賭けるんだ?」
「闘技場に行けばすぐにわかるよ?」
アランが不敵に微笑んで答える。
タルトも賭けと聞いてマジックバッグの中身を確認しているのでやる気満々のようだ。
そのままアランの後ろを付いて闘技場へと向かって行く。
「ほら!ビップルームに通しな?」
「神銀!?アラン・・・さん?どうぞあちらへお進みください!」
闘技場の入口で係員にアランがギルドカードを見せている。
係員はアランのギルドカードを確認して大慌てで観客達が進んでいる方向とは別の方向へと手を差し出す。
アランは当然のように係員に言われた方向に進んで行き階段を上って行く。
そのまま階段を上りきるといくつもついたてで仕切られた机が並ぶ場所に出た。
アランがドカリと一つの机を囲む椅子に座るので隣にタルトと一緒に座り、落ち着いて辺りを眺めると今いる場所はコロッサス全体が見渡せる一番上の場所だった。
コロッサスは円形の建物で中央にいくつもの石造りの舞台が並んでいる。
そして俺達の真反対側にあたる、対面のビップ席にはアレク親子が座り、両脇に護衛役なのだろう、完全武装したフィルとアルフォンスが立っている。
「ニコ?タルト?この席の周りはかなり偉い貴族とかばかりだから問題を起こさないようにね?」
「わかった。」
「かしこまりました。」
アランが珍しく周りの目を気にしながら言って来る。
アランが周りを気にしていると言う事は問題を起こすと余程面倒臭いのだろう。
俺はアランの言葉をしっかりと胸に刻む。
「アラン様。賭けは参加なさいますか?」
タルトが入れてくれた紅茶を楽しんでいると素敵な老紳士が音も無くやって来て一枚の紙を机の上に置く。
全く気配を感じなかったのでこの老紳士はかなりの使い手である。
タルトも同じだったようで、マジックバッグに手を突っ込んでいつでも臨戦態勢に入っている。
タルトがどんな武器を取り出すのかとても気になるがここで武器などを取り出すと大騒ぎになって面倒事になるので手で押さえて諌めておく。
「ふーん?やっぱりマルスが一番人気なんだねぇ?」
「ほっほっやはり次期剣聖と呼ばれる程の有力株ですからなぁ?」
アランが老紳士が持ってきた紙を見ながら老紳士と話す。
隣から覗き見ると数え切れない程の数の名前が羅列していて、一番上にマルスの名前があり、隣には3.2倍(予想)と書かれている。
ウィンストンの名前を必死に探すが全く見つからない。
「ならあたしは圏外のウィンストンに賭けるわ?」
「俺もアランと同じ額賭けよう。」
「ではメイド如きですが私も同じ額を。」
アランが金貨を五枚取り出して言うので、俺とタルトも同じ様に金貨を五枚づつ取り出して老紳士に言う。
「皆様ギャンブラーですな?騎士団長の御子息だからと期待しすぎではございませんかな?ホッホッ!」
「賭け札を渡しなさい?あとさっさと帰りたいから金はさっさと持ってきなさいよ?」
「かしこまりました。ではアラン様ですので説明も不要ですな?」
「問題無いって言ってるでしょ?」
「かしこまりました。では武闘会お楽しみください。」
老紳士はウィンストン金貨五枚と書かれた札を三枚アランに渡してから恭しくお辞儀をして隣の机へと歩いて行く。
「アラン?この賭けはどうすれば勝ちなんだ?」
「・・・知らずに賭けてたのね?」
アランが呆れ半分だが、タルトも真剣な表情でアランを見ているので俺と一緒で何も分かっていないようだ。
「今のは誰が本選。つまり今日の予選を勝ち抜いてベストエイトに入れるかって言う賭けなの。だからウィンストンがベストエイトになったらあたし達の勝ちよ?」
「ならば負けようが無いな。」
「そうですね。ルドルフ様に教わって優勝出来ないような雑魚は生きていても社会に不利益しかありませんね。」
アランの言葉に安心する。
安心したのも束の間タルトの言葉でウィンストンの応援に力が入りそうだ。
今の淡淡としたタルトなら優勝出来なかったら本当に殺しそうなので本気でウィンストンには頑張っていただきたい。
三人で話しているとすぐに大勢の人が入場して来るので開会式が始まるようだ。
「大人もいるな?今日は生徒達の予選じゃないのか?」
「今日は生徒達の予選で、あそこにいる大人部門の参加者は開会式のためだけに来てるのよ?」
アランの言葉に納得する。
参加者の中にはジャックやセルジュの姿も見えるので大人部門は中々激しい闘いになりそうである。
「今年もこうして皆の前で宣言出来る事を幸せに思う!正々堂々と武を競い・・・」
「どうしてこうお偉いさんの話って長いのかしら?」
「ありがたみが増すんじゃないのか?」
アレク王が高らかに宣言しているとアランがうんざりした様子で口を開く。
アレク王の長い長い宣言が終わり、続いてアルフォンスの騎士団の警備などに関する長い長い説明が始まる。
「さっさと闘いを見たいんだけどねぇ?」
「まぁそう言うな。こういう説明は大事だぞ?」
アレク王の宣言は置いといてアルフォンスの説明は知らない事だらけなのでとてもありがたい。
この闘技場は治癒魔法の効果が増幅されるので余程の怪我でも死なないことや、観客席では魔法や物理攻撃は全て無効化されるそうだ。
魔大戦以前の遺跡というのは本で読んで知っていたが、そんな機能があるとは知らなかったのでとても驚く。
「御主人様?後でお試しになられますか?」
「そんなに試したそうだったか?」
俺が魔大戦以前の技術はどれほどのものかと考えていると、タルトが話しかけてくる。
「目が燦々と輝いてらっしゃいますよ?」
「いや、危ないからやめておこう。」
タルト相手ならば本気で魔法を発動しても大丈夫そうなので、タルトの言葉に気持ちが揺らぐがやめておく。
タルト自身は大丈夫でも貴重な遺跡が壊れでもしたら大事になってしまう。
知的好奇心に負けて貴重な遺跡を壊しかねない行為は自重しておく。
「二人共!始まるよ?」
「そうか。」
タルトと二人でコロッサスの机や椅子を調べているとアランに声をかけられるので椅子に座って観戦を始める。
中央の闘技場にたむろっていた人達はいなくなり大歓声に囲まれて八人の生徒が入ってくる。
その中の一人はマルスだ。
「早速マルスの今の力を確認出来そうだな?」
「・・・だといいけどね?」
俺はマルスを見つけて一番に今の戦闘力を計れるのは僥倖だと思ったのだが、アランは違うようだ。
「第一回戦始め!」
俺はなぜアランが浮かない顔をしているのかとても不思議だったが、開始の合図と共に納得する事になる。
合図と共にマルスが相手を一発で気絶させたのだ。
「相手よりも強かったとしかわからなかったな?」
「ね?」
アランがしたり顔で言って来るのがとても腹立たしい。
だがアランは予想していて俺には予想出来なかったのは事実なので何も言えないのが更に腹立たしさを助長する。
他の舞台で行われていた試合が終わり、すぐに次の生徒達が大歓声の中入って来て次の試合が始まる。
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