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第百五十六話 ルドルフブートキャンプ

「お待ちしておりました!」

校門を通るとウィンストンが駆け寄ってきて、敬礼をしてくる。

突然の出来事に何事か理解出来なくてアランとタルトと顔を見合わせる。


「突然申し訳ありません!大活躍なさったフォルナ教官の話を聞いてからいても立ってもいられず・・・今日は休みですが本来は学校の日です!なので・・・だから・・・」

「(まぁ普段は二人にボコボコにされているからこういう話でも聞かないと実感は出来ないか。)」

いつも剣を合わせているフォルナの大活躍を聞き、自分が如何ほど成長したのか感じたのだろう。

どうやら先程まで俺を待ちながら校庭の端で素振りをしていたようで、ウィンストンは汗びっしょりだ。



「確かに学校の日だな。では夕食を食べたらいつもの時間に演習場で訓練をしよう。」

「よろしくお願いします!」

俺が言うとウィンストンは満面の笑みで答えて小走りで校門から出て行く。


「・・・学校に戻るんじゃないのか?」

「あールドルフは知らないのね?二年生からは校舎が変わるからそっちに戻ったんでしょ?」

「(校舎が変わる?そう言われれば上級生は滅多に見なかったな・・・)」

アランは当然の様に言っているのだが重要な話なのに全くもって初耳である。

とりあえず今は部屋に戻る事を最優先にして部屋に戻ったら詳しく聞かせていただくとしよう。




「アラン初耳だぞ?」

「入学式で説明されたでしょ?どうせバルテの無駄話が始まったって読書でもしてたんじゃないの?」

「(入学式か・・・結局お前らのせいじゃないか。)」

部屋に戻って料理を作りながら問いかけるとアランが呆れたように言って来る

だが入学式にはルドルフとして魔熊を狩っていて参加出来なかったのだ。

俺が初耳なのは俺のせいではなくアラン達のせいでだった。


「何かをしていて入学式は出られなかったと記憶している。」

「あ・・・ご飯を食べながらお話ししましょ?」

アランは分かりやすく申し訳無さそうな顔を浮かべるのだが、先程俺が読書をして聞いていなかったと呆れていたのは看過出来ない。

とりあえず今作ったアランの唐揚げが一つタルトの皿へと移動する。



「あ!あたしの唐揚げ!・・・えっとね!えっとね!最初の一年間は団体生活をし、授業で頭脳と肉体を、日常生活で精神を育んで個性を伸ばし・・・とかそんな感じの理由だったはずだよ?表向きはだけど。」

「ふむ。本当の理由は一年生を一箇所に集めて監視するためだな?」

「その通り!後は二年生からの授業を見られないようにするためでもあるね?だから二年生からは学校の場所も変わるよ?」

「成程。弓の練習は一瞬で終わるし、魔法も初級魔法以外は全く練習しないしおかしいとは思ってた。」

アランと話しながら料理を作る。

どうやら一年生の間は隔離して監視と共に基礎の基礎を学ぶための期間であり、二年生からが本番らしい。



「てかなんで上級生に一切会わない事に疑問に思わなかったの?」

「そう言うものだと思っていた。」

「教官が騎士ばかりなのも?」

「同じ理由だ。」

アランは呆れているが、そういった予備知識どころか人間社会の常識も無かったのにそれを求めるのは酷と言うものである。

というかそもそもが俺がルドルフなどと言う面倒臭い役をしていなければ、入学式での説明を聞いてしっかりと理解出来ていた事だ。

とりあえずアランのスープを具無しにしておく。


「さぁ、夕食にしようか。」

「・・・唐揚げ少ないし、スープに具が無いよ?」

「まず唐揚げが少ないのはお前らの都合で大事な情報を聞き逃したのにフォローしなかった罰だ。そしてスープは交渉のためとは言え王都を危険に晒した罰だ。」

配膳を終えて夕食を始めるとアランが自分の夕食をみて不満たらたらなので、なぜアランの夕食が俺とタルトのに比べて貧相なのかしっかりと説明する。

唐揚げに関しては俺がもっとマット達とコミュニケーションをとっていれば聞き得た情報なので、八つ当たりに近いかもしれないがスープに関しては本気だ。

アランが指示をしなければ俺はこの前の討伐戦の報告書にモルガンの「計画の一つ」という言葉を書いていたし、それを書いていれば即座に騎士団が派遣されてこんな大事にはなってなかった可能性が高いからだ。

おかげでまた宝物庫に入れたのは僥倖だったが、次も同じ事をされては困るので当然の処置だ。


「まぁいいわ・・・タルト?女性にこんな対応する男は駄目男よ?」

「はい!わかりました!」

「毎食たかって来る上に駄目男呼ばわりする人間は残念な人と言うんだぞ?タルトはそんな事はするなよ?」

「わかりました!だめししょう!ざんねんあらん!」

「「んぐっ!?」」

アランがタルトに何やら吹き込んでいるので、俺も仕返しをするのだが、無邪気なタルトによって見事に玉砕される。

この後の夕食はタルトに呼び方を必死に訂正させていたら食べ終えてしまった。




「お待ちしておりました!」

演習場に入るなり端で鍛錬を行っていたウィンストンが駈け寄ってくるが構わずに舞台に上がり結界を発動させる。


「では今日は俺が相手をしよう。何をしてもいい。とにかくお前の力を見せろ。」

「了解です!」

木剣を正眼に構えて言うと、ウィンストンは魔法を発動しながらがむしゃらに斬りかかって来るので適当にいなす。


「いいか?魔力も体力も有限だ。適当に魔法を発動するな。」

「はい!」

ウィンストンの剣を払いのけながらアドバイスをする。

ウィンストンはやる気十分と言った様子で答えながら、俺に向かって衝風(エアブラスト)を発動しようとしている。


「だから適当に発動するな。単発で使わずに連携させるんだ。」

「ほげっ!」

しっかりとアドバイスをしながらウィンストンを舞台の端まで吹っ飛ばす。

ウィンストンは肺の中の空気を拭き出しながら結界まで吹っ飛び舞台の上に落下する。



「(まぁでも俺が戦った時のマルスよりは強くなったかな?)」

そんな事を思いながら苦痛で顔を歪ませながら結界を張り直すウィンストンを眺める。

だがそれを言ってしまってはウィンストンは訓練終了などと勘違いして、やる気を出さなくなってしまうかもしれないので絶対に言わない。

今回の訓練の目的はウィンストンがマルスを倒して武闘会に優勝する事だが、マルス如きを目標にしていては優勝した所で全てが完結してしまうからだ。

ウィンストン先輩には是非とも優勝してからの人生を楽しんでもらいたい。



「すみません!一人で連携とはどういう意味ですか!?」

「例えばだな・・・風の刃(ウインドカッター)と同時に斬りかかるとかか?もし同時発動出来て同時に斬りかかれるなら更に効果的だ。」

「成程・・・」

ウィンストンは一瞬考え込んで俺に連続で風の刃(ウインドカッター)を発動しながら斬りかかって来る。

俺に言われた通りに魔法の着弾と同時に斬りかかろうとしているようだが、一瞬のタイムラグがあるし、魔法の発動に集中する余りに身体能力強化魔法が疎かになってしまっているので対応は容易だ。

まずはニ発の風の刃(ウインドカッター)を木刀で切ってかき消し、続いてウィンストンの剣を横薙ぎに払う。


「まだ俺との訓練は早かったか?風の刃(ウインドカッター)如きの発動に気を取られ過ぎだ。初級魔法だぞ?息を吐くように発動出来る様になれ。」

「く・・・」

「一丁前に悔しがっているのか?今の風の刃(ウインドカッター)なら身体能力強化魔法だけに集中して剣一本で向かってきた方がマシだぞ?」

「クソォォォォ!」

ウィンストンががむしゃらに剣を振るってくる。

怒りで我を忘れているのか、型は無茶苦茶だが剣速には目を見張るものがある。


「武闘会までに平常時でこの剣速を出せるようにしろ。今日はここまでだ。」

ウィンストンの訓練の進捗具合は大体分かった。

横薙ぎに振るう剣を下から打ち上げてウィンストンの剣を弾き飛ばして訓練を終了させる。


「・・・もう終わりですか?」

「あぁ。今日からはこれを両手両足に身につけろ。」

マジックバッグから四個のブレスレットを取り出して渡す。


「重たっ!・・・これは何ですか?」

「魔力を流さないと重たくて動けないだろう?四つのブレスレットに同じように魔力を流さないと日常生活は送れないぞ?」

このブレスレットの本来の使い道はメイスなどの先に取り付けて、振り上げる時は魔力を流して軽くし、振り下ろす時に魔力を切って重量を出して破壊力を上げるための部品を改造した物だ。

使用する魔力は比較的少ないのでウィンストンの魔力量でも問題無いだろう。

これを着けたまま日常生活を送るには、体の端である両手両足に魔力を流し続けなければならないので、かなりの魔力操作の練習になるはずだ。


「寝る時と魔力切れになりそうな時は外す事を許可する。」

「・・・わかりました。」

ウィンストンは右手右足、左手左足を交互に一緒に出して体全体で歩きながら演習場から出て行く。

これで普通に日常生活が送れるようになれば魔法の同時発動も出来る様になるだろう。



「待たせたな?」

「早かったね?」

「最後のステップだ。あれを越えれば強くなるぞ?マルスなんか足元に及ばないほどにな。」

「へぇ?ルドルフブートキャンプとか言って人気になったりしてね?」

「そうなった時はアランにお願いして依頼が来ないようにするとしよう。」

「うへへ!まっかせなさぁい!」

そういう面倒な事態は避けたいが、受けた依頼で中途半端なことはしたくない。

ウィンストンに教えられる事は全て教えたつもりだが、今回は俺が原因で起こった事態の収拾も兼ねて受けただけなのだ。

また訓練の依頼が来ても受ける気は一切無い。

そうなった時は断わるために少々の荒事も辞さない覚悟をしている程度には御免である。


「じゃあタルトお部屋に帰ろう?」

「タルト?必要な勉強が終わったら好きなだけ料理でも何でも教えるから頑張れ?」

「わかった!」

アランとタルトと一緒に演習場を出て行く。

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