第百五十五話 解体を手伝う
「ぼうけんしゃぎるどー!」
「そうね?食べない魔物はここで売ればいいわよ?」
「わかりました!」
王都に戻り冒険者ギルドが見えてタルトが大はしゃぎしている。
アランの言葉に無邪気な様子で答える元気一杯のタルトを見ていると思わず表情が綻んでしまう。
「ゴブリンの売却にきたわよ?ルドルフ?」
「わかった。」
アランが真っ直ぐ受付に向かって言うのでカウンターの上に狩ったゴブリンを乗せて行く。
「生き残ってたのかな?南の森で突然囲まれたの。」
「そうでしたか!ではその報告と合わせて報酬を計算致します!」
職員がゴブリンを解体場がある裏の演習場へと運んで行き、受付嬢は奥の部屋へと消える。
「いい?ここに魔物を持って来ればお金と交換出来るの。」
「わかりました!おかねはものとこうかんできる!」
「タルトは本当に賢いね?その通りだよ!?」
「やった!」
アランに褒められてタルトが無邪気に喜びながら謎のダンスを始める。
この様子だけ見ればとても仲のいい姉妹にも見えるのだが、忘れてはいけないのがタルトは俺達よりも数十倍以上年上の年長者である。
「おぉ。お前ら手伝いに来てくれたのか?助かるぞ?ふぇっふぇっふぇっ!」
「違っ!ゴブリンを売りに・・・話を聞けぇ!」
俺達が受付嬢が帰ってくるのを待っているとフィルがやって来て強引に演習場に連れて行かれる。
アランが抗議しているが俺とアランの手を引くフィルの耳には届かないようだ。
演習場に連れて行かれてフィルがなぜこんなに必死なのかすぐに判明した。
演習場には文字通り山積みにされた魔物をひたすら解体するために走り回る冒険者と騎士達で溢れかえっている。
手前にはゴブリンとストームクロウが山積みにされていて、解体している人間の中にはマットやロジェの姿も見える。
「えー・・・解体場は何してんの?」
「解体場も頑張ってるが人手が全く足りんのだ、手伝ってくれ!このままでは折角の魔物が腐ってしまう!」
アランは露骨に嫌そうな顔して聞くと、フィルが真剣な表情で答える。
フィルは昼食の時と比べるとわかりやすく疲れた顔をしているので俺達と別れてからずっと魔物の解体をしていたのだろう。
「で?なんでこんなちょっと間でそんなに疲れてんの?」
「風竜の鱗が抜けんでな・・・」
フィルが遠い目をして答えている。
視線の先には解体場の前で横たわる風竜の鱗を抜こうとしているのだろう。
鱗に繋いだ鎖を大勢の騎士が必死に引いているのが見える。
「フィル?あの風竜は腹を開いて無い様に見えるが?」
「まずは鱗だろうと思ってな?なんせグレートドラゴンの解体は始めてでな。」
魔物の解体は体の大小や形状の違いはあれど基本は同じはずである。
そして演習場には何百人もの人間がいるのに誰も気付かずに必死に鱗を抜いているのかと思うと呆れてしまう。
「風竜の皮剥ぎまではしてやる。まずあの無駄に鱗を抜いてる馬鹿共をどかせろ。」
「わ、わかった。さっきまでわしのあの中の一員だったのだがな・・・」
フィルが俺の「馬鹿共」と言う言葉に反応してブツブツ言いながら風竜の鱗を抜こうとかんばる騎士達の元へと駆け寄って行く。
「さて、ヴァンパイアニードルを試してみるかな。」
俺は一人ごちながら腹の柔らかい部分にヴァンパイアニードルを突き刺す。
竜の皮膚を貫けるのか?皮下脂肪に阻まれて血を吸い出せないのでは?
色々と心配しながらも試したのだが問題無く発動し、刺したバンパイアニードルから血が噴き出し始める。
見た目は金属製のストローだが思った以上にスピーディに血を吸いだしてくれるようで何よりである。
「あぁぁぁぁぁ勿体無い!誰か樽でも何でもいい!受け止める物を!」
「はい!」
噴き出すドラゴンの血を見てフィルが大慌てで騎士達に指示を出している。
「(そういえばグレートドラゴンは捨てる所は無いんだったか。と言う事は内臓も傷付けないようにしないと駄目なのだろうな・・・)」
必死にヴァンパイアニードルから噴き出す血を樽で受け止める騎士達を見ながら考える。
「タルト?グレートドラゴンの解体が始まるが大丈夫か?」
「だいじょうぶ!」
数分経ち血が出なくなったので、風竜の解体を始める前に一応タルトに聞いておく。
昨日今日と美味しそうに風竜を食べていたので大丈夫だろうとは思ったが、属性が違うだけで同じグレートドラゴンなので心配になったのだ。
タルトは即答するので、血が出なくなったのでヴァンパイアニードルを抜いて内臓を傷付けないように慎重に腹を割いて行く。
「これもいるんだろう?さっさと入れ物を持って来い。」
「ふぇっふぇっふぇっ!用意しておる!」
フィルがすぐに内臓を巨大な樽へと入れ始める。
ヴァンパイアニードルが本当にほとんどの血を吸い出してくれたので、腹を割いて血溜まりが出来ていて血が噴き出してくる事も無く、本当にいいアイテムを手に入れたと感心する。
「ルドルフ・・・この内臓はどこで切ればいいんだ?」
「知らん。」
魔の森で捌いていた時は内臓は捨てていたのでそんな事を聞かれても知らない。
「(そういえば血はルルが「竜の血は万能なのだ!ヌァッハッハッ!」と高笑いしながら回収していたな。)」
そんな事を思い出しながら魔石を取り出すべく開いた腹に体を突っ込む。
どういう作用が働いているのかはわからないが、魔石を出来る限り早く取り出さないとなぜか周りの肉が臭くなって食えたものじゃなくなるからだ。
「生まれたてにしてはまぁまぁのサイズだな。」
「ぬぉ!?でかいな・・・」
「いいからさっさと内臓を取り出せ。」
取り出した魔石をフィル達が切り分けて内臓を入れているかごの中に放り込む。
フィルが魔石の大きさに驚いているが、次の作業に移るためにさっさと内蔵の摘出を終えて欲しいのでフィルに作業を促す。
「終わったぞ!」
「わかった。次は少々派手だからみんなを離れさせてくれ。」
「わかった。」
フィルが騎士達を離れさせている間に俺は次の作業に移る。
首や足首などに皮に切り込みを入れ風魔法で皮と皮下脂肪の間に空気を流し込んで行く。
「いつでもいいぞ?」
「わかった。」
風竜を引っくり返してうつ伏せにする。
中々の巨躯なので少し重たいが死後硬直によってカチコチになっているので見た目よりは簡単だ。
そして首の上に上ってから切り込みを入れた首の根元を掴んで力任せに一気に引き剥がし、そのまま風竜の背中を一気に走りぬける。
ルル達に教えてもらった技なのだが、こうすれば竜の皮は綺麗にはがれる。
この方法以外だと皮を皮下脂肪から少しづつナイフで切り離す以外は知らない。
非常識だろうともグレードドラゴンの巨躯でそんな作業はごめんなのでこの方法を取る。
そのまま背中を走り抜け、尻尾から地面へと降り立ち、裏表反対になった皮を一本背負いの要領で前へ投げて皮を剥ぎ終える。
「これを一日か二日乾燥させれば皮が乾いて鱗が立つ。それから鱗を回収すれば簡単だぞ?」
「・・・あぁ。」
「後の作業は問題無いな?」
「・・・あぁ。」
フィルは内臓も取り終わり、皮も剥ぎ終わったピンク色の巨大な肉をなぜか焦点の合ってない目で眺めながら真顔で答える。
先程早くしないと魔物が腐ってしまうと言っていたのに、なぜそんなにのんびりしているのか理解に苦しむ。
「なら指示をしろ。次はもうついでだ!グリフォン行くぞ?」
「・・・あぁ。」
フィルから返事は聞こえるのだが、一向に指示を出す気配は見られない。
仕方ないので代わりにアランに指示を出す。
「アラン!フィルの代わりに指示しろ!」
「は、はいな!」
同じように呆けていたアランが俺の言葉で再起動して騎士達に指示を出し始め、騎士達が一斉に風竜に群がり始める。
それはいいのだが俺が持っている風竜の皮は誰も受けとりにこようとしない。
「フィル?フィル?・・・フィル!皮を持て!」
「痛い!・・・わかった・・・」
フィルが余りにも無反応なので、尻を蹴り上げて再起動させて皮を渡す。
フィルはよろけながら皮を解体場の奥へと持って行っているので大丈夫だろう、次のグリフォンの下へと向かう。
「・・・やはりこっちもか・・・」
グリフォンの解体している場所に向かうと、騎士達が必死の形相でグリフォンの羽根を毟っていた。
それを見て思わず頭が痛くなり深い溜息が出る。
「(こいつらは鳥を解体したことないのか?)」
普通の鳥ならまだしもグリフォンなんて魔物を何もせずに羽根をむしるのは無理があるだろうと頭を抱える。
「アラン?こいつらに解体の手順を教えてやれ。」
「あたしもよくわかんないんだけど?」
アランが当たり前のように答えるので更に頭が痛くなってしまう。
「(鶏と一緒なのだぞ!?なぜ自分が食べる食材の処理方法を知らないんだ・・・)」
呆れながらも近くに結界で鍋を作って熱湯を用意する。
「お前らどけ。グリフォン・・・鳥の羽根はこうやって抜くんだ。」
騎士達をどかせてグリフォンの足に縄をかけて熱湯へと放り込む。
羽根にお湯が染み込むまで待ってから引き上げ、再度騎士達に羽根をむしらせる。
「おぉ!?簡単に抜けるぞ!?」
「さっきまでが嘘みたいだ!」
騎士達が嬉しそうに話しながら羽根をむしり始める。
「いいか?熱湯に浸けると毛穴が開いて抜けやすくなるんだ。後は任せられるか?」
「「「「はい!ありがとうございます!」」」」
俺がどかせて手持ち無沙汰になっていた騎士達が一斉に返事をして残りのグリフォンの後ろ足に縄をかけて結界で作った鍋に放り込み始める。
「大丈夫そうね?じゃあ帰りましょ?」
「そうだな。そろそろ夕食を作り出せば丁度いい頃だろうな?」
「なにつくりますか?たのしみ!」
アランの言葉に答えると今まで静かにしていたタルトが満面の笑みで抱き着いて来る。
周りが見れば美女が俺に抱き付いているとても羨ましい光景だと思う。
何度も言うがタルトは百歳を越えるかなりの年上なので俺自身はそこまで嬉しくは無い。
「タルト?ふと気になったのだがお前は集落では何番目だ?」
「うらんのつぎです!」
ふと気になったのでタルトに尋ねる。
タルトは二番目らしい。
ウランは一体の魔族が生まれるまでに三万日は待つと言っていた。
三万日を大体で年にすると八十二、三年だ。
しかも寿命の無い魔族は年月に関してはかなりアバウトなので一万日くらい前後していてもまったく不思議は無い。
そしてタルトの後に八人の魔族が生まれているので単純計算で軽く六百五十歳を超えている事になる。
「ルドルフ?女の事は知らない事の方が多いよ?」
「その様だな?タルトの歳を探ったお詫びに・・・何が食べたい?」
「からあげ!」
俺が計算しているとアランが言って来る。
確かに女性の歳を調べるなどマナー違反だ。
反省してタルトに聞くが昼も食べたのに夜もから揚げを食べたいようだ。
「わかった。」
満面の笑みのタルトに一言返して、三人で学校へと帰る。
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