第十六話 友達が出来ました
朝目覚めるとマットが目の前で寝ていた。
なぜかはわからないが布団を俺のほうに寄せて寝袋とくっ付けたようだ。
正直汚い布団が俺の寝袋に触れていて不快だ。
「(だが同じ学校に通う仲間だ。怒っては駄目だ。)」
そう自分に言い聞かせて寝袋をマジックバッグに入れて、布団に触れないように注意してマットを揺さぶって起こす。
「ん・・・もうちょっとだけ・・・」
親指を咥えて丸くなるマットに軽く蹴りを入れる。
痛かったのだろう布団がばさばさと暴れて埃が舞う。
「なんだ!?魔物か!?」
「朝だぞ。」
マットが布団から顔を出して辺りを伺っている。
そして俺の顔を見た瞬間に固まる。
「なぜ固まる?」
「いや・・・昨日興奮して話しすぎたから・・・」
「ほう?自覚があるのか。朝食を食べながら話そう。」
「いや・・・俺金持ってないから・・・」
もじもじしながら申し訳無さそうに上目遣いで答えるマット。
「俺がおごってやる。行くぞ。」
「いいのか?やったー!」
はしゃぐマットを連れて宿の食堂に行って、マットに注文を任せる。
今までジャック達に任せっぱなしだったので注文の仕方がわからないのだ。
「マット?鉄クラスとか言っていたがどういう意味だ?」
「あぁそれはねぇ?入学試験で得点上位から順番に金・銀・銅・鉄クラスに振り分けられるのさ?」
「それで何が変わる?」
「何も?人数が変わるだけのはずだぜ?」
「ほう?」
「君達も学校に行くのかい?」
突然隣の机に座っていた男女の子供の中の一人が声をかけてくる。
今までみたどの人間よりもシンプルで仕立てがしっかりした服を着た同年代の男の子だ。
「始めまして!エミール・マリユスだよ。僕達も同席いいかな?」
「あぁ。」
俺が返事をすると満面の笑みの男女がこちらの机に移ってくる。
全員大きなカバンを持っている。
六人掛けの机のはずなのに、六人で座ると若干狭く感じる。
「始めまして!ターニャ・マンサールよ!」
「始めまして。俺はロジェ。」
「どうも。シモンヌです。」
「僕はマットです!宜しくお願いします!」
「始めまして、ニコと申します。」
「お待たせしましたぁ!」
挨拶を終えると店員が俺とマットの朝食を運んできた。
いつも通りの野菜スープ・パン・オレンジジュースにサラダとベーコンエッグが付いていてパンが3個も皿に乗っている。
「ほう?君達一番高いメニューを食べるとは豪勢だね?」
エミールが感心したように俺達の朝食を見て言う。
「マット?」
「どれでも好きなの頼めって言われたから・・・」
「・・・食べようか。」
頼んでしまったものは仕方がない。
俺とマットが食べていると四人の料理が運ばれてくる。
野菜スープとパン一個だけの質素な朝食だ。
「そうだ。クラスの話しをしていたね?寮が全然違う以外は全て同じだよ?同じ広さの教室で同じ授業をする。」
エミールが先ほどの続きを説明してくれるようだ。
男前な上に律儀な男だ。
「ふむ。という事は人数が違うのか?」
「その通り!金クラスは十人、銀クラスは三十人、銅クラスは六十人で残りは全部鉄クラス。そして半年毎に試験をして変動するんだ。」
「ほう?」
「しかも今年は王子と勇者が同時に入学するからかなりの人数が来るだろうね?普段なら二百人くらいって聞いてるけど今年は無理をして子供を送り出す貴族も多いだろうからね・・・僕の家みたいにね?」
自嘲気味に笑ってエミールが言う。
差を作って競い合わせるっていう事か。
「(それにしてもなぜ王子と勇者が入学すると貴族は無理するのだろうか?)」
さっぱりわからん・・・。
「人脈作りだよ。王子や勇者との人脈作りに成功すれば家を盛り立てられるからね。」
エミールは俺の心を読んでいるのかと思えるくらいに的確に説明をしてくれる。
「みんなもそうなのか?」
俺が尋ねるとみんなが顔を見合わせる。
「(俺は非常識な質問をしたのだろうか?)」
そう思っているとマットが口火を切ってくれた。
「俺は貴族の妾の子で今まで無視されたんだけど、一人息子が不治の病とかで学校に行かされる。」
マットが説明をすると、みんなが一様に驚いた顔をする。
俺にはよくわからないが大変な話しらしい。
「私はエミールと同じよ。四年生に上がる時に鉄クラスだったら人脈作りに失敗って事で学校中退させられてどこかに嫁がされるらしいわ。」
茶髪で少しパーマがかかった髪形の女ターニャが言う。
「俺も・・・同じ理由だ。」
短髪の男ロジェが手短に言う。
俺と一緒で感情表現が苦手そうだ。
「私は商会の娘なので完全に人脈作りですね。」
蒼色の長い髪が特徴的な女シモンヌが言う。
「(人間はその人脈とやらが重要なのか・・・)」
俺は好きに生きろと言われて森を出てきた。
思わず幸せを噛み締める。
「ニコ君は?」
「あぁ俺は山奥で祖父に育てられて学校に行って一般常識を学んで来いと言われて来た。」
俺の言葉に全員が言葉を失っている。
おそらく人間の面倒なしがらみがない俺の幸せな環境に驚いているのだろう。
「あの・・・ニコ君?一般常識のために学校に?」
「そうだが?」
エミールが当然の事を聞いてくるので即答する。
全員が口を開けて俺を見る。
「そろそろ馬車が出発するから朝食を食べよう。」
「そ、そうだね。馬車で話せるしみんな食べようか?」
みんなで朝食を食べて宿を出ると、御者台に乗ったフィリップが待っていた。
「おう!揃ってるな?出発するぞ乗り込めぇ!」
フィリップがみんなの荷物を馬車の屋根に乗せながら言うのでみんなで馬車に乗り込む。
シモンヌが馬車が高いのか登れず、手間取っていたので腕を引っ張って引き上げてやり無事に馬車は出発する。
「へぇ?ニコは山奥で育ってたのに本が読めるんだ?」
本を読んでいると対面に座ったマットが本を覗き込んでくる。
「山から下りてから勉強した。」
「へぇ?俺も勉強しないとな・・・みんなは文字読めるんだろ?」
マットが聞くと四人はこくりと頷く。
俺はマジックバッグから学習本を取り出してマットに渡す。
「貸してやる。俺はこれで勉強した。」
「おぉ!こんな高価な物まで持ってんのか!ニコすげぇな!」
マットが本を開いて隣のエミールに教えて貰いながら勉強し始める。
「ねぇ?ニコ君ってどれくらい一般常識がわかってないの?」
シモンヌを挟んで座るターニャが俺に聞いてくる。
みんなも俺をみて興味津々なようだ。
「簡単に言うと、山から下りた直後は金の使い方がわからなかった程度だな。」
俺が言うと車内の全員が一斉に目を見開く。
「・・・どんな生活してたのよ・・・」
「森の動物を狩って森の食べ物を食べる。それだけだ。」
「森の動物って・・・すごい生活してたのね。」
「だから俺がおかしい事をしていたらすぐに教えて欲しい。」
「わかったわ。」
「すぐに言うと約束するよ。」
「・・・わかった。」
「えぇ。」
みんなが真剣な表情で返事をする。
マットは本に集中していて聞こえていないようだ。
しばらくするとマットが青くなってエミールの膝枕で横になる。
「気持ち悪いよぉ・・・ニコは文字ばっかりの本読んでてなんで酔わないんだよぉ・・・」
「体質だろ?」
「ニコ君はお尻や背中は痛くないの?」
「馴れた。」
「あたしももう駄目・・・シモンヌごめん膝貸して・・・」
ターニャも青い顔でシモンヌの膝に頭を置いて横になる。
膝枕するシモンヌも対面に座るエミールとロジェも顔が青い気がする。
夕暮れになり馬車が止まる。
「夜営にすんぞぉ!」
フィリップの声が聞こえるが全員が車酔いで横になっていて、動き出す気配は無い。
俺が一人で馬車から降りるとフィリップが笑っていた。
「ふぇっふぇっふぇっ!やっぱり元気なのはニコだけだったで!」
「みんな馬車は始めてなんだろうな?」
「この馬車がぼろすぎて揺れがきついでよ?人数増えたが晩飯頼めるか?」
「量がわからんぞ・・・」
「いつもの鍋にいっぱいに作ってくれたらいいで!」
「わかった。」
小川の近くで焚き火をして料理を開始する。
いつもと量が違うので失敗しないために今日は今まで何回も作った野菜スープを作る。
馴れた手付きで材料を切って鍋に放り込んで行く。
「出来たか?」
テントを張り終えたフィリップが声を掛けてくる。
「もういいだろう。」
「ならみんなを呼んでくるで!」
フィリップが馬車の中で横になっているみんなを呼びに走って行く。
鍋をかき混ぜていると頭をポリポリとかきながらフィリップが戻ってくる。
「みんな寝てるで、二人で食べるか。」
「わかった。」
フィリップと二人で夕食にする。
同行人が増えたはずなのに全く変わらない夕食風景だ。
「あいつらはほっといてニコはテントで広々と寝たらええで。」
「わかった。フィリップは待つのか?」
「一応焚き火が消えるまでは待つだな。」
「御者係ってのはあれもこれも大変だな。」
「ふぇっふぇっふぇっ!ニコが夕食を作ってくれるで大分楽させてもらっとでな?」
「それならいい。」
「じゃあ子供は飯を食べたら寝るだで!」
フィリップに追い立てられるようにテントに入り、魔力の鍛錬をして寝袋に入って就寝する。
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