第百五十三話 褒美改め宝物庫漁り
「はいタルト!マジックバッグに関してはウランも持ってるし説明は不要ね?」
アランがマジックバッグを渡しながらタルトに言う。
タルトは満面の笑みで頷きながらマジックバッグを受けとって腰に装着しているので問題無さそうだ。
「とりあえず金を渡しておく。使い方はこれからアランに教えてもらうといい。」
「ひゃい!」
「え?それの中身全部金貨?多すぎない?」
適当な皮袋を取り出してタルトに渡しておく。
アランが驚いているので少々適当すぎたかもしれないが、タルトは無邪気な様子で渡した皮袋をマジックバッグに出し入れして遊んでいるので返せとはもう言えない。
「ま、いっか!タルト行きましょ?」
「ひゃい!」
「待て、魔法をかける。」
アランがタルトを引き連れて部屋から出ようとするので止めて認識阻害魔法を発動する。
こうしておかないと部屋から出るのを誰かに目撃されては面倒臭い事態になるのはわかりきっている事なので絶対に必要な作業だ。
「あー面倒臭い!ルドルフは面倒臭い!」
「煩い。仕方ないだろう?」
「かめぇんちゅけたらリュドリュフ・・・はじゅしたりゃにこ・・・にゃんじぇ?」(仮面つけたらルドルフ・・・外したらニコ・・・なんで?)
学校を出てからルドルフになって魔法を解除しているとアランが喚き散らしてくる。
タルトはなぜ仮面一つで名前が変わるのか理解が出来ないようだ。
「混乱するなら・・・これから色々教えてもらうんだから師匠とでも呼びな?」
「ひゃい!ししょー!」(はい!師匠!)
「何歳か知らんが年上の弟子か・・・」
タルトはとても素直な子だ。
アランに言われて俺を師匠と呼ぶ事にしたようだ。
すこし背中がむず痒くなるが、混乱したまま覚えて名前を間違えられるよりは断然マシであるのは確かだ。
三人で城の外周を歩いて正面の跳ね橋へと向かう。
「今日はちゃんと来たな?」
「当たり前じゃん!宝物庫漁りに来たわよ?」
「さぁ案内してくれ。」
跳ね橋の前でフィルが仁王立ちで待っていた。
どうやらフィルは宝物庫に直行するようで顔パスで検問を通り城へ入って行くので慌てて三人で後ろを付いて行く。
「ほえー・・・」
「ここは城!この国で一番偉い人が住んでる建物なのよ?」
「ふぇっふぇっふぇっ!初々しいのぅ!」
物珍しそうにキョロキョロするタルトにアランが常識を教えているが、タルトはわかりやすく心ここに在らずといった様子なので聞こえているのかは不明である。
フィルは面白そうに笑いながら石造りの階段を降りて行く。
地下には宝物庫の他に牢屋や非常事態の避難場所が設けらているらしく。
一階の豪華なカーペットや飾りつけも無く、とても質素で頑丈さだけを考えて設計されているらしい。
「そうだ。これはタルト殿の身分証だ。」
「早いな?ありがたい事だ。タルトこれが身分証だぞ?失くすんじゃないぞ?」
「ひゃい!」
階段を降りながらフィルが騎士証を渡してくる。
第九番隊三席タルトと書いてあるので、これがタルトのエスガルド王国での身分になるようだ。
「(恐らくだが、一席は俺で二席はアランなのだろうな。)」
タルトに渡すと大事そうにマジックバッグに入れているので問題無さそうだ。
「待たせたな?」
「いや我々も今来た所だ。」
「ほう?新しくメイドを雇ったんだね?」
階段を下り、宝物庫に着くと数人の兵士と共にアレク王とサミュエルが待っていた。
無駄が無くて大助かりだが、俺達が王を待たせて問題は無いのかなど色々と疑問に思うが誰も何も言わないので俺も態々薮を突くような行為はやめておく。
「オホン!それでは・・・褒美を出す前に・・・一つお願いが・・・」
「お願い?命令でなくて?」
アレク王が咳払いをしてとても言い難そうにごにょごにょと言って来て、アランが首を傾げている。
「今回の功績を称えてフィル、アラン、ルドルフの三人には功績勲章を授与したいので・・・授与式を・・・したい・・・」
「え?やだ。いらない。」
アレクの提案をアランが一蹴しそれを聞いたアレクはその場に崩れ落ちる。
「そう言わずに受け取ってよぉ!そうしないと風竜をギルドに取られるんだよぉぉぉぉ!」
直後男泣きし始め、石造りの地下の廊下にアレクの叫びが響き渡る。
サミュエルが男泣きする父親を見て顔を引き攣らせている。
周りの兵士達は何も見えてないかのように遠くを見つめて微動だにしないので、とても訓練された兵士達のようだ。
「フィル?どういう事だ?」
「わしらを騎士として周知させる事が出来れば今回の防衛戦で手に入れた魔物の所有権は王国に、そうでなければ冒険者として働いた事になり魔物達はギルドが引取ると言う事だ。」
「人間社会とは面倒臭いのだな?」
「だから宝物庫の中に入りたければ勲章の授与式をしなければならない。」
道理で褒美が出るのが早すぎると思っていたが、合点が言った。
要約すると防衛戦で手に入った素材や肉の行方は最大功労者である俺達三人の立場によって所有権が王国かギルドか決定するようだ。
「・・・一番・・・最高に速いなやつにしてよ?」
「ほんと?やった!逆にお前らが不安になるくらい簡素な授与式をしてやる!驚くなよ?」
アランがとても不満そうに言うと、アレクは子供の様にはしゃいで大喜びしながら兵士の一人に何やら指示を出す。
兵士は即座にどこかへと走って行く。
そして隣のサミュエルは父親の豹変具合を見て表情から感情が無くなった。正に無と言った様子だ。
「オホン!では宝物庫開け!」
「「はっ!」」
小躍りして喜んでいたアレクが居住まいを正しながら咳払いをして兵士に命令する。
宝物庫の重厚な扉が開き怪しく輝く金銀財宝が姿を現す。
「ふぁー・・・」
宝物庫の中を見てタルトが目を輝かして大興奮している。
そういえば竜族は光物が大好きな種族だった。
「そういえば褒美っていくら貰えんの?」
「決まってないからとりあえず欲しい物を選んでくれ!そこから褒美で出せるか判断する。」
「ふーん・・・わかった。タルト行きましょ?」
「ひゃい!」(はい!)
アランとタルトが目を輝かして宝飾品が置いてある場所に行って色々なアクセサリーを身につけ始める。
アランは前に宝物庫に入った時に欲しがっていたティアラを真っ先に被っている。
「余程あのティアラが欲しいんだな・・・」
「まぁあいつらはほっとけばいいだろう。ワシらは奥だな。」
フィルと一緒にマジックアイテムや武具を並べている場所へと行く。
フィルは壁にかけられている武具を吟味しているが、俺は部屋の端にある乱雑に積まれたマジックアイテムの山を漁って面白そうな物を探す。
「この靴はなんだ?」
「それは魔力を消費して空中を歩ける靴です。結構な魔力を使いますがルドルフ殿なら問題無いかと。」
「成程。ありがとう。」
後ろを付いてきた兵士に尋ねるとマジックアイテムの説明をしてくれる。
おそらく説明をするために付いて来ているのだろうと思って尋ねたがその通りだった様だ。
その後もずっと漁って前回は見落としたマジックアイテムを見つけては効果を聞く。
「これは何だ?」
「えー・・・それは魔力を込めると水が湧くマジックアイテムですね。」
「いらんな・・・」
漁れども先程の靴以上に俺の食指が動く物は出てこない。
仕方ないのでマジックアイテム漁りはやめてフィルの下へと行く。
「フィル?面白そうな物はあったか?」
「これルドルフなら扱えるんじゃないのか?」
フィルがそう言って巨大な片刃の斧を差し出してくる。
幼児ならば斧の後ろに隠れられそうなほどに巨大なのに、柄が異常に短いので手斧のようだ。
「重量もかなりあるがルドルフなら扱えるんじゃないのか?それに・・・見てみろ?」
渡された手斧を見ているとフィルが刃の根元からワイヤーを引っ張り出す。
どうやら鎖鎌のように使う武器のようだ。
「しかもこれはマジックウェポンでな?魔力を込めると刃の背中から水が出て回転しながら飛ぶらしいぞ?」
「ほう?扱える人間がいるのか?」
「まぁ人間用の武具じゃないからな。この斧の名は魔王の手斧だ。」
「ふむ。タルト!ちょっと来てくれ!」
俺が呼ぶと全身宝石だらけになってはしゃぐタルトが駆け寄ってくるので魔王の手斧を振ってもらう。
「どうだ?重たいか?」
「じゃいじょーびゅ!」(大丈夫!)
「そうか。ならこれを貰おう。タルトはアランの所に戻ってくれていいぞ?」
「ひゃい!」(はい!)
フィルの話を聞く限り水属性のマジックウェポンのようなので、タルトならば扱えるかもしれない。
駄目だったら駄目だったでルル達への土産にすればいいだけである。
「フィルは何を選ぶんだ?」
「わしはこれだ!オーガジェネラルも斬れるだろう。」
フィルは何の変哲も無い剣を選ぶ。
この宝物庫にあると言う事は何かしらのマジックウェポンなのだろうが皆目検討も付かない。
「この剣はどういう物なんだ?」
「光の剣だ。褒美で貰えるんなら名前はアロンダイトだな。」
フィルが光の剣と言うので隅々まで調べてみるが普通のロングソードだ。
しかもまた神話に出て来る武具の名前を付けようとしている。
「ルドルフ?このマジックアイテムもいいんじゃないのか?」
「なんだ?この針は?」
フィルが仰々しい木箱に入れられた針を渡してくる。
「これはヴァンパイアニードルと言ってな?全身の血を全て抜いてしまうとても危険なマジックアイテムだが・・・」
「上手く使えば、魔物の血抜きが簡単に出来るのか?」
「わしも効果しか知らんからどうなるかはわからんがな?」
「ではそれも頂こう。」
針を刺すだけで血抜きが完了するのであればとても便利だ。
ただ思惑通りに動いてくれるのかは検証をしなければならないし、アレクから許可が出るかもわからないのでフィルと一緒にアレクの下へと戻る。
「決まったのか?報告を!」
「はっ!フィル・バダンテール殿は光の剣と栄光の指輪。ルドルフ様はヴァンパイアニードルとエアーバッシュと魔王の手斧であります!」
「問題無い与える!」
アレクが俺達に付いていた兵士の報告を聞いて満足そうに頷いて答える。
「ありがたきしあわせ!」
「ありがたきしあわせ。」
フィルが跪いて言うので、それに倣って俺も跪いて真似をしておく。
そのまま宝物庫の出口にでアレク達と一緒にアラン達が褒美を選び終わるのを待つ。
とはいえ女の買物といい物を吟味する作業になるととても時間がかかる。
しかも今回は買うのでは無く、貰えると言うのだから二人共キャッキャと身に付けて遊んだりして宝飾品を吟味している。
「やめて!そのネックレスは絶対だめだから!あとどれか一つにしなさい!」
「(街中でお菓子を持ってきた子供にお母さんらしき人間が同じ様な事を言っていたな・・・)」
「何よ!?ケチッ!」
「むぅ・・・」
全身にこれでもかと宝飾品を身に付けて全身が光り輝くアランとタルトが来て呆れた様子のアレクが相手をしている。
「じゃあ私はこのティアラ!」
「あちゃしこえ!」(あたしこれ!)
「フィルとルドルフは良心のある選択をしてくれたのに・・・持って行けぃ!与える!!」
アランは前回手に入れられなかったティアラを、タルトは大小様々な宝石の着いたブローチを選んだようだ。
アレクが項垂れて許可を出し、アランとタルトは喜びながら俺達の下へと駆け出す。
「お前ら待たんか!!跪かんのは百歩譲っていい!だが身に付けた物を外して来るんだ!王令だぞ!?めっちゃおもぉぉぉぉい罰与えるぞ?」
「ちっ!ばれたか・・・タルト返しに行こう?」
「あうぅー・・・」
アランとタルトが身に付けた宝飾品を外して元あった場所に戻し始める。
後ろに付く兵士がメモをしながら監視しているので、何々を身に付けたのか全てチェックしていたのだろう。
「あー終わった終わった!」
「キラキラ・・・」
宝飾品を外し終えたアランが本当に名残惜しそうなタルトを引っ張りながらこちらへと歩いて来る。
「はい終わり!もうこのまま続いて勲章授与するから付いて来なさい!サミュエルも来なさい。」
「はっ!かしこまりました。」
そう言って大急ぎで宝物庫の扉を閉めた兵士が先導してアレクとサミュエルが歩いて行くので四人で後ろを付いて城を進んで行く。
「(書物で読んだ限りでは俺達授与者は正装で参加し、パレードを催したりして盛大に行うものだと書いてあったと思うが・・・)」
アレクはこれから授与すると言う。
一抹の不安を覚えつつもアレク達の後ろを付いて行く。
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