第百五十二話 俺の影武者とスパイの苦悩
「あえ?リュドリュフュしゃんがふちゃり?」(あれ?ルドルフさんが二人?)
「タルト?後で教えるから静かに!」
「ひゃい。」(はい。)
学校に着くと校門にニコと野外実習の時に死んだはずのレナエルが立っていた。
タルトが俺と校門のニコを交互に見ながら驚き、アランが辺りを伺いながら必死にタルトの口を押さえている。
「やはり俺の影武者はお前か、オーグ。」
俺が声をかけるとニコは楽しそうに笑いながらくるっと一回転すると老紳士に変身する。
どういう方法で化けているのかはわからないが見事の一言である。
「ホッホッホッ。少しお話しをしたいのですがよろしいですかな?」
「問題無い。では俺の部屋が安全だろう。」
オーギュストとレナエルを連れて部屋へと戻る。
アランとタルトも付いて来るようだ。
「そのソファに座ってくれ。で?話しとはなんだ?」
部屋に入りレナエルとオーギュストにソファを勧めながら話を促す。
アランはベッドに興味津々のタルトと一緒に俺のベッドを触ったりして遊び始めているのでほっといて問題無いだろう。
「お久しぶりね?この度は多大なる功績を上げられたようで「そういうのはいい。思ってもいない事を言うな。さっさと本題を言え。」
レナエルがスカートの裾を持って恭しく貴族式のお辞儀をしながら歯が浮くような台詞を言い始めるので、遮ってレナエルに言う。
レナエルは普段は貴族のお嬢様のように振舞っているが、本性は全然違う事を知っている。
「ちっ!見られていたのか・・・」
「あぁ。いつも俺の結界を抜けられずに好き放題に悪態を吐いてくれていたな?」
「・・・ちっ!なら早く言え!」
「そう。それでいい。」
レナエルは今までの様子が嘘だったかのように豹変してソファにどかりと座りながら悪態をつき始める。
これこそがレナエルの本性なのだ。
「客だぞ?茶くらい出せや!」
「そうだな。」
何一つとして教養が感じられなくなったレナエルがお茶の催促をしてくるので、ティーポットに紅茶の葉を入れて魔法でお湯を出して淹れる。
「さすがだな・・・本題だ!この学校で俺達が勝手に入れない場所が三箇所だけある!どこかわかるか?」
「校長室と俺の部屋。そしてエミールの部屋だろ?そして見栄を張るなサミュエルの部屋もお前らじゃ入れないだろう?」
俺が紅茶を入れているとレナエルが乱暴な口調で聞いて来るので答える。
レナエルは俺の答えを聞いて面白く無さそうにお手上げとジェスチャーで伝えてくる。
紅茶は出来たのでティーカップに注いでレナエルに渡す。
「申し訳ないが机が無いから手で持っていてくれ?」
「オーグ!」
「かしこまりました。」
俺が言うとレナエルはオーギュストに声をかける。
オーギュストは即座にレナエルの前で四つん這いになり机になる。
「中々の主従関係だな?机になってくれるのか。」
「机じゃねぇよ!無駄に美味い紅茶ありがとよ!」
この二人が本当に主従関係なのはわかっていたが、ここまでとは思ってなかったので少々驚くが、レナエルが一息で紅茶を飲み干してオーギュストにドカリと足を乗せながら空になったティーカップを差し出してくる。
オーギュストは机ではなくオットマンだったようだ。
「で?エミールは黒なのか?俺達の調査ではマリユス家の三男で全く問題無いのだが?」
「真っ黒だ。あいつはかなり危険だ。さっさと片付けろ。」
「どこで真っ黒って判断したんだ?調べれば調べるほど白の結果だぞ!?」
「知らんがな。」
レナエルが何やらガヤガヤと言っているが、そんなものお前らの仕事であって、俺の仕事では無い。
一言でばっさりと切り捨てる。
レナエルとオットマンになったオーギュストが間抜けな顔で俺を見てきているが俺の知った事ではない。
「いいか?俺の言葉を信じるのも、調べたから白と決めて一笑に付すのもお前らの自由だ。」
「こいつ汚ねぇ!オーグ聞いたか!?こいつ汚ねぇ!」
「はい聞いてございます!最低でございますな。」
二人は俺の言葉に好き勝手に罵倒してくる。
確証は無いのでこいつらに証拠を掴んでもらわないと駄目なのだから仕方ない。
「わかった。俺が黒だと思ったのはな?朝一にヴァネッサの香りがする時がある。そして休み明けは確実にする。」
「ヴァネッサ・・・シモンヌか。って事は部屋に転移してるって事か?」
「では転移魔法用の感知魔法を展開致しましょう!」
「エミールは確実に力を隠している。気を付けろ?」
「んなこたぁ言われなくてもわかってるよ!」
「お嬢様お待ちください!」
レナエルが走って部屋から出て行くので念のために言っておく。
それを見たオーギュストが器用に背中に付いた足跡を払いながらレナエルの後を追って部屋を出て行く。
「仕事熱心なのはいい事だが騒がしい事だ・・・」
思わず二人を見送って1人ごちりながらソファに寝袋を敷いて鍛錬を行う。
俺のベッドはアランとタルトが寝て占領している。
俺はソファの横に強欲の壷を設置して手すりを枕にして寝袋で寝入る。
「朝か・・・なぜタルトが目の前に?」
目を覚ますとタルトがソファの上で一緒に寝ていた。
なぜ狭いソファの上でタルトが寝ているのか?それよりもいつの間に隣に来たのだろうか?
様々な疑問が頭の中を流れるが、視線を上げてベッドを見ると全てわかる。
ベッドにはアランが大の字でベッド一杯に手と足を広げて涎を垂らしながら気持ち良さそうに寝ている、そしてタルトの額には涎の跡が残っている。
名探偵でなくても簡単に真実へと辿り着ける。
タルトはアランの寝相の悪さに我慢しきれずに俺の隣に避難して来たのだ。
目覚めて一番に目に映るのが眠る美女なのはとてもありがたいがソファの上で二人で寝るというのはとても狭い。
タルトを起こさない様に注意しながらソファから出て朝食を作る。
「ん・・・おいししょうにゃにおい!」(ん・・・美味しそうな匂い!)
「起きたか。」
俺の料理の匂いでタルトが目を覚ました。
ソファの上で朝日を浴びながら伸びをする彼女は思わず見惚れるほどに綺麗だ。
「ありゃんはききぇん!にゃんどもべっじょからおとしゃれちゃ!」(アランは危険!何回もベッドから落とされた!)
伸びを終えたタルトがベッドで涎を垂らすアランを指差して俺に言って来る。
「知っている。だから俺はソファで寝たんだ。」
「ちゅぎはりゅ・・・にきょとにぇる!」(次はル・・・ニコと寝る!)
本当に竜種は賢い。
タルトは一瞬で仮面をしていない俺を見てルドルフでは無くニコと言い直す。
「お前は本当にいい子だな。」
タルトの頭をワシワシと撫でてから、朝食を準備して続いてデザートを作る。
「タルト?食べてていいぞ?」
「ひゃい!」
タルトが朝食を見つめて涎を垂らしているので、俺が言うと一心不乱に食べ始める。
それを見てすぐに作れるクラフティを作る。
材料をミキサーで粉々にしてピザ釜で焼く。
ピザ釜はピザ以外にも色々と使えるので作って本当に良かったと思う。
ただ時忘れのマジックバッグがなければ毎回窯をあたためて使えるように準備するのが大変で使い勝手は最悪だろう。
「食べ終わったな?ほら、イチゴのクラフティだ。」
「わーい!」
口の端にパン屑をつけたタルトが喜びながら俺が作った焦げ焦げのクラフティを笑顔で食べている。
材料をミキサーで粉々に混ぜて焼くだけの料理なのになぜ失敗するのか不思議なのだが、デザートとなると必ず失敗してしまう。
俺が作ったクラフティは一口食べると焦た部分の苦味が口いっぱいに広がる酷い出来だった。
「すまんな?デザートをもっと上手く作れるように精進する。」
「おいちいりぇしゅ!おきゃわりっ!」(美味しいです!お替りっ!)
甘味に飢えたタルトは俺の失敗作を美味しそうに食べているのがせめてもの救いだ。
「ふぁっ・・・おはよっ!」
俺達がソファで仲良くクラフティを食べているとアランが目覚めて気持ち良さそうにベッドの上で伸びをしている。
ちなみにアランの髪は爆発し、服が捲れ上がった状態で伸びをしているのでもう少しで胸が顕わになりそうな残念な様子である。
「タルト?あいつの寝相と今の姿は人間の女としては非常識だからな?」
「ひゃい。」(はい。)
タルトが今のアランを真似しないように言っておく。
真似をしようと思っても出来るようなものでは無いとは思うが念のためだ。
「さて・・・準備、いややっぱり朝食!やっぱり着替え!タルトおいで?」
「ひゃい!」(はい!)
アランとタルトが着替えを始めるので、マナーとして背中を向けて食べ終わった食器の片付けを始める。
「お待たせ!これ食べるよ?」
「あぁ。食べてくれ。」
アランに返事をしながら振り返ると、いつもの服装のアランとメイド服を着たタルトが目に写る。
黒地のメイド服に白いエプロン、頭にはホワイトブリムまで着用した完璧なメイドである。
「なぁ?なんでメイド服なんて持っているんだ?」
「ニコのメイドに立候補しようと思って用意してたのよ?」
アランがいつも通りに馬鹿な事を言い始める。
まともな料理を作れないメイドなどクビ・・・以前に雇う訳がない。
というか人の世話をするアランを想像出来ない。
「はいはい!昔任務で変装するのに使ったのよ!サイズが合わなくなったからタルトに上げる!」
「そうか、ありがたい。」
俺が呆れてアランを見ていると、アランは居た堪れなくなったのか本当の事を言う。
確かに言われてみればタルトが着ているメイド服はアランでは少し小さそうだ。
特に胸の辺りはどう見てもアランの豊満な胸は納まりそうには無い。
「ちなみにだが何歳の時に使ったんだ?」
「確か三年生の時だったから十歳かな?」
「よくも俺のマジックバッグの中身は要らない物ばかりだと言えたもんだな?」
「・・・役に立ったからいいじゃん!」
アランは今十六歳のはずだ。
着れなくなったメイド服を六年間も入れているとなると、アランのマジックバッグの中身こそ不用品だらけだろう。
「アラン?マジックバッグは何個持っているんだ?」
「今は・・・十個かな?」
「そんなにか?ならば一個タルト用に譲ってくれないか?」
「いいよ?整理するからちょっと待っててね?」
朝食を食べながらアランがマジックバッグの中身を移動させ始める。
それにしてもアランの魔力量なら容量も相当のはずなのに十個も持っているのは異常だろう。
思わず何が入ってるのか気になってしまうが、上機嫌な様子でマジックバッグの整理をしてくれているアランの機嫌を損ねるような事は出来ない。
「タルトはこれでどうだ?」
「おいちい!」(美味しい!)
蜂蜜入り紅茶を渡すと満面の笑みで飲み始めるタルトを見てほっこりしつつアランのマジックバッグ整理と朝食が終わるのを待つ。
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