第百五十一話 デザートお披露目会
「ウップ、待たせたの?何を飲んでいるのじゃ?」
三人で紅茶を飲みながら待っていると、ウランがゲップをしながら歩いて来る。
紅茶に興味を示しているが十人分の紅茶を用意するとなると、俺の持っているティーポットでは最低でも二回淹れなければならない。
これ以上時間を割くのは嫌なのでフィルに丸投げを試みる。
「これは紅茶と言う飲み物だ。フィル?こいつらにも報酬出るんだろう?用意してやってくれ。」
「心得た。」
「いい香りじゃの?楽しみなのじゃ!」
フィルとウランは渋るかと思ったが、思いのほか二人共乗り気な様子なのでとても助かる。
「で?そこの水竜はどういう意味で私を連れてって。と言ったんだ?」
「あーお主に付いての?料理など人間の技術を学びたいそうじゃ。」
「ふむ。嫁とかそういう話では無いんだな?」
「望むならそれでもいいでの?」
「それは本当に遠慮する。だが俺の一存では決められんな・・・」
水竜の言いたい事はわかった。
だが水竜を俺の傍に置くには、まずは身分証が必要だ。
それに森を出る時の俺くらいは常識が無いと思っていいだろう。
そう考えると問題は山積みである。
俺の裁量を遥かに超えているのは少し考えれば分かる。
「まずは身分証だな?わしがなんとかしよう!」
「次は、礼儀作法・・・いやまずは常識ね?あたしが心当たりがあるわ?メイドとして雇って上げな?」
「二人がそう言うなら、引き受けよう。」
「ありがたいのじゃ!気に入ったら死ぬまで近くに置いてもいいのじゃぞ?」
フィルとアランが俺の考えを読んでいるかの如く的確に言って来る。
身分証も常識も解決するのなら俺のメイドとして雇っても問題無いだろう。
ウランが何か戯言を言っているが、俺はどんなに美人でも魔族では無く人間と結婚するつもりなので答え代わりに適当に手を振っておく。
「第二婦人なら許す!てゆうか第一はあたしだから?第二以外は不可能だけどね?」
「とりあえずお前は黙れ。それで?名前はなんだ?」
「・・・無いのじゃ!すぐに、すぐに!決めるのじゃ!」
俺はウランの言葉を適当に流したのに、アランが過敏に反応していつも通りに何やら妄言を言い出す。
俺は殺気を込めた魔力をアランに放って威圧しながらウランに聞く。
殺気にあてられたウランが慌てて食べ終わった皿を舐める水竜達の下へと走って行く。
ウランは慌てる程度だったが、アランとフィルのティーカップを持つ手はカタカタと紅茶が零れそうなほどに震えている。
「ね・・・ねぇ?ごめん!もうわかったから殺気収めて?」
「ん?ああ、気付かなかった。出てしまっていたか。」
「わし・・・巻き添え・・・」
俺が魔力を納めるとアランとフィルは紅茶を一口飲んで一息吐く。
俺が本気で殺気を込めれば剣聖や国崩しだけで無く水竜の魔族にも効果がある事がわかった。
三人でそんな事をしているとすぐに水竜を引き連れてウランが歩いて来る。
「早かったな?」
「んむ!みんな希望があったようでの?右からマカロン・ビスケット・プリン・クレープ・ブリュレ・ショコラ・シフォン・チーズ・タルトなのじゃ!」
ウランが矢継ぎ早に全員を紹介してくるが覚えられるわけが無い。
とりあえず俺のメイドとなる水竜はタルトと言う名前のようなので、タルトの事だけはしっかりと覚える。
タルトは少しだけ青みがかった銀髪の女性だ。
慎ましい胸がとても可愛い文句なしの美人だ。
補足だが今まで魔族の不細工を見た事が無い。
「言いたい事は分かるのじゃ!料理本で学んだが蜂蜜が無くて作れんでの?皆デザートという甘味に憧れが強くてのぅ・・・一体どんな味がするんじゃろうのぅ・・・?」
「どこでその遠まわしな言い方を覚えたんだ?文句は受け付けんからな?」
ウランがちらちらと俺を見ながら言って来る。
デザートは無いのかと副音声が聞こえる。
俺は溜息を吐きながら、時忘れのマジックバッグから練習で作った大量のチーズタルトを取り出す。
「え!?今までデザートなんて出た事ないじゃんよ!?」
「デザート作りは苦手でな?こっそりと練習してるが人に出せるレベルのデザートを作れなくてな。」
俺のチーズタルトを見てアランが不満たらたらで言って来る。
今取り出したチーズタルトも形は不揃いだし、中には焦げている物もあり自分で楽しむ分には問題無いが人に出すには少し気が引ける出来だ。
だが一つ大きな問題があった。
失敗作を食べていて気付いたのだが俺は甘い物が得意では無い様ですぐに胸が一杯になって気持ち悪くなってしまうのだ。
自分が食べられないからと言って失敗作を人に食べさせるのは気が引けるし、食べ物を粗末にするのも嫌なので失敗作の数が増える一方で、これ以上はマジックバッグの中身を圧迫しすぎるので中々練習出来なくて困っていたのだ。
「こんな出来損ないでいいならアランも食べろ。」
そう言って今まで作った失敗作達を机の上に並べて行く。
「クリームを塗りたくったケーキに、中身はみ出し放題のシュークリーム、大きさがちぐはぐのマカロンにクリームまみれのクレープ・・・どんだけ作ってんの?」
「何か作れるデザートは無いかと思ってな・・・今日で出来損ないのデザートを片付けてくれるならありがたい。」
俺が今まで試しに作った出来損ないのデザートを並べていると、呆れた様子のアランが言って来る。
「次からは出来損ないのデザートも出すように!十分美味しいから!見た目なんて二の次よ!」
「なんと美味な事よ!始めて食べたルドルフの料理並みの感動なのじゃ!」
一斉に女性陣が俺の出来損ないのデザートの争奪戦を始める。
料理人としてとても嬉しいのだが、出来損ないの失敗作なのでとても複雑な気持ちだ。
「ミャカロン!あちゃしの!」(マカロン!あたしの!)
「チージュ?じゃくにきゅきょうしょくっっ!!」(チーズ?弱肉強食っっ!!)
「これ!お前らはしたないのじゃ!喧嘩するなら先に集落に帰るのじゃ!」
水竜達がマカロンを取り合って喧嘩を始め、ウランに怒られてシュンとなっている。
「(デザートは見栄えが大事と本に書いてあったが違うのだな。)」
デザートに夢中の女性陣を見ながら本に書いてある事を鵜呑みにしては駄目だと再認識する。
「それでフィル?タルトの身分証はどうするんだ?冒険者ギルドで登録するのか?」
「いや、魔族ではギルドカードに血を垂らした時にばれるだろう、騎士団に入って貰う!」
「ほう?血を垂らすと魔族だとばれるのか?」
「んむ!あれはカードの使用者特定以外にも魔族では無いと確認するための作業でもあるのだ!」
まさかそんな意味があったとは知らなかったので驚いてしまうが、それよりも騎士団に入ると言う言葉が引っかかってしまう。
「それはわかった。だが騎士団に入るとはどういう意味だ?」
「第九番隊々員で登録して騎士証を発行すればエスガルド国内であれば問題無く行動出来る筈だ。」
名ばかりの騎士団員と言う事なのだろう。
そういう事なら大変ありがたい。
この国でしか使えない身分証という事だがニコのメイドをするだけならば問題はないだろう。
次はアランの心当たりを聞かなければならない。
「それはありがたい。アランにも聞きたいが・・・」
「一つ教えておこう。女性のデザートタイムと買物は絶対に邪魔をするな。」
アランに尋ねようとするとフィルが俺の肩を掴んで遠い目をしながら首を振っているので静かにゆっくりと頷く。
昔に何かあったのだろうか?フィルのこんな目を見るのは初めてなので大人しく従う事にする。
「ルドルフ?紅茶お替り!」
「そう言うと思って全員分用意した。」
デザートを頬張るアランがティーカップを掲げて言って来る。
デザートだけを食べ続けるアランと水竜達を見て絶対に紅茶がいるだろうと思ってフィルと一緒に淹れていたのだ。
折角先程フィルに丸投げしたのに、結局紅茶を入れるはめになってしまい。
丸投げしたのは徒労に終わってしまった。
「ほら。紅茶だお前らも飲め。」
みんなに紅茶を配ると、全員が嬉しそうに一斉に紅茶を飲んで一斉に顔を顰める。
完全にシンクロする水竜達を見て思わず微笑む。
「ルドルフ!この飲み物は匂いはいいのに、味は・・・渋い?で正しいのか?とにかく美味しくないのじゃ!」
「甘味で一杯になった口がリセットされたろ?」
どうやら水竜達には紅茶は渋すぎたようだ。
ウランが不満たらたらな様子でいい、他の水竜達も一斉に頷いている。
紅茶の良さがわからないとは可哀想な事である。
俺は色々とある紅茶の良さの中でもウラン達が気に入りそうな効果を言う。
「成程!確かにデザートが更に美味しくなったのじゃ!交互に食べれば無限なのじゃ!」
そう言ってウランを筆頭に水竜達がまたとてつもない勢いでデザートを食べ始める。
「紅茶もデザートもお替りは無いからな?」
またティーポット二つ分の紅茶を淹れるのはごめんなのでしっかりと言っておくが、ウラン達は俺の声が聞こえないようで我先にと出来損ないのデザートに食いついている。
俺の話を聞かないのは大変遺憾だが、出来損ないとは言え俺の料理を満面の笑みで食べてもらえるのは嬉しいので、これ以上は何も言わないでおく。
「アラン?心当たりとはなんだ?」
「ん?とりあえずあたしの御付として常識を教えて、礼儀作法は城でメイドをして貰えば大丈夫っしょ?」
デザートを食べ終わり満足そうに紅茶を飲むアランに尋ねる。
確かにその方法なら非常識な行動をしてもアランなら問題無く治めてくれるだろう。
城でメイドとして働けば、賢い竜族だから礼儀作法もすぐに身に付けられると思う。
「やはり酔って無ければ頼りになるな。」
「タルトの世話はお姉さんに任せなさい!」
「おにぇがいちまちゅ!」(お願いします!)
本当に酔っていなければアランは頼りになる。
タルトは必死に口を動かしながら喋ってアランに頭を下げている。
「ではワシはウラン殿と報酬について話さねばならんから、ルドルフとアランは先に帰って明日朝一で城に来るように!」
「え・・・城?パス。」
「報酬は宝物庫から持って行けって事だ!これなら文句はあるまいが!ふぇっふぇっふぇっ!」
「マジで!?いくら分!?ねぇ!?あたし達の報酬はいくらなの!?」
「まだ計算中だ!だが風竜もあるし期待しておけ?」
「なら楽しみにしておかなくちゃね!じゃあルドルフ、タルト帰りましょ?」
フィルは今回の報酬の受け渡しなどの話をするのだろう。
俺とアランはタルトと一緒に王都へと帰ることにする。
「ちょっとまっちぇ!」(ちょっと待って!)
「どうした?」
「なんで脱いで・・・あ!」
タルトが慌ててワンピースを脱ぎ始める。
俺が意味が分からないがとりあえず見ないように背中を向けるとアランが慌てて止め始める。
俺は何事かと思って振り返るとアランに服を抑えられたタルトはキョトンとして動きを止めている。
「タルト常識その一!タルトは人間だから竜にはならない!あたし達は歩いて王都に帰る!面倒だけど人間だから仕方ないのよ?」
「ひゃい!」(はい!)
「(成程。変化を解いて俺達を乗せて帰ろうとしたんだな。)」
アランが慌ててタルトに常識を教えている。
さすがの俺でも森を出た時点でそれくらいはわかっていたので、タルトの教育はかなり大変そうだ。
「アラン?いけるのか?」
「問題無い!ニコって言う非常識な生徒に比べたら可愛いもんよ!」
「とても素直ないい子だと聞いているが?」
「全然!アランを超す問題児ってみんな言ってるよ?」
「そんな事聞いた事もないが?」
「そりゃ本人に言う訳無いっしょ。」
俺が心配してアランに聞くと、思いもよらない話が聞けてしまった。
だが俺が問題児とは全く意味がわからない。
しっかりと毎日休まずに授業も受けているし、とても聞き分けのいい生徒のはずである。
「で?どう問題児なんだ?」
「毎日アランの食材を使ってとんでもない料理を作って、授業中はずっと読書。なのに前回の試験では全て満点以上の怪物だってね?まだまだあるけど聞く?」
「いや、いい。・・・これからは自重する。」
「もう遅いし今まで通りでいいんじゃない?」
アランの説明で全てを理解する。
自分が今ルドルフである事を忘れてしまう程度にはショックを受ける。
アランの言う通りもう手遅れなので、これ以上非常識な事をしないように今まで以上に気を付けなければと決意を新たにしつつ、三人で王都へと戻る。
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