第百五十話 水竜達との夕食会
「お前ら、リクエストはあるか?」
「ヒャンビャーギュ!」
「ビェーキョン!」
「ニャキチョリ!」
「シチュー!」
「ケーキ!」
「キャリャアギェ!」
「ピキャチャ!」
「シュチェーキ!」
「リョーシュトビーフ!」
俺が聞くと周りで謎ダンスをしていた水竜達が一斉に言う。
絶望的な滑舌で一斉に言うので、かろうじて聞き取れたシチューとローストビー・・・では無くローストドラゴンを作ることにする。
組み合わせが悪いなどと言うクレームは受け付けない。
実はケーキも聞き取れたがデザート作りは苦手なので聞こえなかった事にする。こちらもクレームは受け付けない。
「わかった。シチューとローストドラゴンにしよう。そういえばアランはどこに行った?」
聞くのだが、水竜達はシチューとローストドラゴンと聞いて謎ダンスが一層激しくなり俺の言葉の後半は聞こえて無い様だ。
俺は諦めて料理を作り始める。
まずはシチューから作り始める。
焚き火は準備しているのでひたすらにシチューの具材を切り始める。
寸胴鍋三個分の具材を切り終え、大量の野菜とドラゴン肉を寸胴鍋に投入する。
「しばらく優しく混ぜ続けて欲しい。」
「ひゃい!」
自主的に手伝いに来てくれた水竜に指示を出す。
昼食の失敗から学んで持っている寸胴鍋三個をフル稼働なので、水竜に一つ任せられたので鍋二つの中を交互に混ぜながら具材を炒める。
全体に火が通った頃合を見計らって魔法で寸胴鍋に水を入れて次の指示を出す。
「いいか?ここからは沸騰しないように火を調節してくれ?あと灰汁取りも・・・三個任せられるか?」
先程まで寸胴鍋を混ぜてくれていた水竜に指示を出す。
水竜は真剣な面持ちで頷くので任せる。
続いて新たに焚き火を焚いてシチューの命でもあるホワイトソース作りにとりかかる。
他の水竜達は俺の料理の手順を覚えようと思っているのか、食い入るように見つめて来ているので説明も交えながら料理を作りたい所だが、申し訳ないが今日は普段の三倍の量を作っているので一切余裕が無いので料理に専念させて頂く。
「こえなんりぇすか?」
「これか?バターだ。後で作り方を教えてやる。」
バターを溶かしていると水竜が聞いて来る。
耳が慣れて来て水竜達の発音が聞き取れるようになってきた。
さっきのは「これなんですか?」と聞いてきたと思われる。
溶けたバターに小麦粉を加えて牛乳を加えて手早く掻き混ぜながら答えるとニパッと無邪気に笑うので問題無さそうだ。
「・・・火力が全然足りない。」
いつもの三倍以上の量を作っていることを失念してしまっていたようだ。
気にしないようにしていたつもりだったが、美女達からの熱い視線を浴びせられて、少々テンパッているようだ。
慌てて焚き火に俺の火魔法を追加して無理矢理火力を上げる。
「間に合った・・・」
火力不足で思った以上に時間がかかったが間に合った。
出来上がったホワイトソースを入れて塩コショウで味を整える。
「ここからが肝だ。一時間かけて冷やすぞ?そしてもう一回温めて完成だ。」
「にゃんりぇひやしゅんりぇしゅか?」(なんで冷やすんですか?)
「味は冷える時に染みこむ。一回染み込ませてから食べるんだ!」
「ちゃにょしみ!」(楽しみ!)
会話を終え俺が寸胴鍋を火から離して十倍のマジックバッグに入れていると水竜達が再び謎ダンスを始める。
続いてローストドラゴンを作り始める。
大体だが四百グラムの塊肉を十個用意した。
シチューに比べて用意するものが少なくて大変ありがたい。
ドラゴン肉を下拵えしてじっくりと焼き、布巾で何重にも包んで十倍のマジックバッグに入れ、すぐに次のドラゴンの塊肉を焼き始める。
十個の塊肉を焼き終わり、再び寸胴鍋を取り出して火にかける。
十倍のマジックバッグで約一時間、つまり約十時間ゆっくりと冷やしたので味はしっかりと染み込んでいるはずだ。
「ほう?肉だけかと思ったらクリームシチューという料理だったかの?食べるのが楽しみじゃの?」
「そうですな!しかも風竜の肉!美味いに決まっておるわい!」
いつの間にか戻ってきていたウランとフィルが俺の料理を眺めて話している。
「ウラン?あそこの右から二番目の水竜が「あたしを連れてって」と言った。どういう意味かしっかりと聞いてきてくれ。」
「ほう?あやつらがわらわに断わり無く動くとはのぉ?聞いて来るのじゃ!」
焚き火の周りを満面の笑みで謎ダンスをしながら待つ水竜達を見ながら俺がウランに言うと嬉しそうに笑みを浮かべて歩いて行く。
適当に了承して嫁として連れてって、という意味だったらたまったもんのではない。
ウランがしっかりと水竜の言いたい事を把握した上で俺に正確に伝えてくれる事を願うばかりである。
「フィル?王都は問題無しか?」
「おぉ問題なしだ!今王都はお祭り騒ぎだぞ?わしら主役がおらんでアレクが困っておったわいふぇっふぇっふぇっ!」
「無事ならいい。学校のみんなは?」
「それは問題無い!今日はゴブリン肉をふんだんに使った料理で楽しんでるだろうよ?」
フィルが楽しそうに言っているが、俺はとても心配になる。
朝から何も食べてないのに寮から出てこないとなると、怪しまれるのでは無いだろうか?
マットあたりは俺の名を呼びながら部屋の扉をずっと叩いていそうだ。
「俺がいないとやばいんじゃないのか?」
「大丈夫だ!お前の影武者は用意してある!元々は緊急の長期依頼用の仕込みだったのだが・・・」
「これも緊急だろう。」
「ふぇっふぇっふぇっ!それもそうだ!とにかく影武者が代役をしてるから問題無い!」
フィルが大笑いしながら言うので大丈夫なのだろう。
シチューが温まって来たので、十倍のマジックバッグからローストドラゴン達を取り出して、切り分ける。
「ほう?風竜の肉は鶏肉のようだな?」
「そうだな。火竜の肉みたいだな。」
「そうかそうか。火竜と似ているのか。」
フィルの言葉に俺が答えると、フィルは笑顔でうんうんと頷きながら水竜の一人と話すウランの元へと歩いて行く。
喋った直後に俺が火竜の味を知っているのは不自然極まり無いので失敗したと思ったのだが、結果はフィルは納得して何もいわずに去っていった。
「(フォルナみたいに俺の正体を知らない人間ならなんとも思わないがフィルが何も言わないのは違和感だな・・・)」
そんな事を考えながらローストドラゴンを切る。
フィルが何も疑問に思わないのか気になってで仕方ない上にここに降り立ってからアランの姿を見てないのも不安を更に煽られる。
ローストドラゴンを切り終えてシチューがポコポコと音を立て始めたのでみんなに声をする。
「待たせたな?出来上がったぞ。」
俺が声をかけると水竜達が満面の笑みで一斉に走り寄ってきて配膳を始める。
明らかに自分の料理を多めに盛っているが大量に作っているので問題はないはずだと信じたい。
「いいタイミングだね?」
「どこに行っていた?」
料理の配膳を終えると同時にアランが近寄ってくる。
「建物は崩壊してたけど地下のビップ浴室が使えないかな?って思って掘り返してたけど駄目ね?完全に崩落してた。」
「成程。アランは合点がいった。ウラン?水竜の話は聞けたのか?」
アランの話を聞いて合点が行ったのでウランに声をかけるが、料理を食べるのに夢中で俺の声は聞こえないようだ。
仕方ないので夕食を終えてから改めて話を聞くことにして夕食を食べる。
「ローストドラゴン・・・美味しいけど鶏肉っぽいから鶏料理の方が合うね?」
「確かにそうだな?だがシチューは絶品だ。」
「ふむ。次は照焼きや・・・油はあるから唐揚げを作るか。」
三人で話しながら食べる。
火竜の肉と似ていたので、大体予想は付いていたがやはり鶏に似てさっぱりとした味わいでローストドラゴンはとてつもなく美味しい鶏ハムのような感じだ。
鶏ハムとして調理していれば違ったのだろうが、ローストビーフとして調理していたので、俺の料理を食べ続けて舌が肥えたアランとフィルは不満とまでは行かないが大満足とか行かないようだ。
ちなみにウランを含む水竜達はお替りのローストドラゴンをかけて真剣な顔でじゃんけんをしているので大満足のようだ。
「ねぇ?まだ帰れないの?」
うんざりした様子のアランがウラン達のじゃんけんを眺めながら聞いて来る。
「あいつらのじゃんけんが終わらないとな?」
「あれは終わらんぞ?昼もオーガが出て来るまでじゃんけんをしておったからな。」
俺もさっさと帰りたいがウランの話を聞いてからじゃないと帰るに帰れないのだ。
俺の言葉にフィルが反応する。
確かに十人で一斉にじゃんけんをして勝負が決まる確立なんて計算するのも馬鹿らしくなるので当たり前の結果だ。
「じゃあ俺のパエリアはどうなった?」
「オーガが襲い掛かってきて水竜達が反撃した瞬間にウラン殿が一口だ。」
「そうか。なら俺が仕切ろう。」
本当に直前までじゃんけんをしていたようだ。
俺はさっさと家に帰るためにもウランの下に歩いていって残っている料理を適当にみんなの皿に入れて行く。
「・・・ルドルフ?何をしておるのじゃ?」
「いつまで経っても終わらんから俺が食べる量を決める。そしてパエリアを食べたお前は一番少ない量だ。」
「ぬわっ!?じゃが夕食はこやつら自分達の分を多く盛っておったのじゃ!」
「なら全員同じ量だ。」
ウランの反論ももっともだ。
目分量で、だが出来る限り全員同じ量のお替りを盛る。
「さっさと食え。そして、そこの水竜の事を話せ。」
「・・・わかったのじゃ。」
ウランに言って、空になった鍋に洗浄魔法をかけて行く。
これでこいつらが料理を食べ終わればやっと話しが出来そうだ。
今日は突然授業を中断されてからは街中を駆け回っていたのでさっさと寮に戻ってゆっくりと休みたいものだ。
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