第百四十八話 王都防衛戦 中
「エェェェェクトォォォォォォ!さっさと来い!」
結界を交代した途端にアランは鬼の形相になって突然叫び始める。
俺は何を言ったのか理解出来なかったが、近くで魔力切れで座り込んでいた冒険者が慌ててアランの下に駆け寄っている。
「(さっきのはエクトルと言ったのか・・・)」
確か今大慌てで駆け寄った人物は蒼炎のエクトルという金級冒険者だったと記憶している。
「遅い殺すぞ!?ゴブリンロードはどこだって?早く言え、一秒以内に言え!」
「はいすみません!あの森の中の少し盛り上がった・・・あそこにいたと報告を受けました!」
余程アランは今回の防衛戦でストレスが溜まっていたのだろう。
エクトルに対して言いたい放題にも程があるだろうと思わざるを得ないような指示を出している。
エクトルは即座に謝り、遠くの森を指差して報告をしている。
とても出来た人間である。
「死ぃぃぃぃぬぇやぁぁぁぁぁっっっ!!」
エクトルの報告を聞きアランは空中に氷で出来た槍を作りだして鬼の形相で森へと向けて投げる。
アランの頭にオーガのような角が幻視出切る程度には恐怖を感じてしまう。
「よし!これでゴブリンロードは片付いたはずだから・・・とりあえずお前らも凍れ。」
スッキリした表情のアランが今度は水色に光り輝く球体を何個も作り出し無造作に壁の外にポイポイと投げ始める。
俺は何をしているのかと思って外壁の下を覗き込むと外壁を登って俺の結界を叩いていたゴブリンが凍っている。
更にその奥、外壁の下に視線を送ると外壁付近のゴブリンも凍り、大量のゴブリンの氷像が出来上がっていた。
「(さっきの球体は周りを凍らせる魔法か・・・にしてもなおざりすぎるだろう・・・)」
とてもぞんざいに凍らされたゴブリン達の事が少しだけ不憫に思えてしまう。
アランの魔法を分析したりしながら視線を上げて、先程氷の槍を打ち込んだ場所を見る。
「(こっちも凍らせる魔法か。だが範囲が段違いだな。)」
槍が飛んでいった場所を見るとゴブリンが木が、かなり広い範囲の全てが凍っていた。
アランの魔法は氷を飛ばす魔法以外は見た事無かったが、さすがは神銀級と言いたくなる威力だ。
そしてゴブリンロードを仕留められたのだろう。
ゴブリン達は先程までの統率されていた動きはどこへやら。
全員が一様にギャーギャーと騒ぎ始め、中には共食いを始めているゴブリン達も見受けられ、わかりやすく大混乱と言った様子だ。
俺が感心してアランの方に視線を向けると、アランはまた鬼のような形相で外壁の上で座り込んでいる冒険者を蹴り起こしていた。
「(先程はスッキリした表情だったのに・・・本当に情緒が不安定な奴だな。)」
「おい起きろ!統率を失ったゴブリンを皆殺しにしろぉぉぉぉ!」
「アランさん!こいつらは魔力切れで・・・これ以上は死んじゃいます!」
「うるせぇ!今あたしに殺されるのと、王都の平和の礎になるか、好きな方を選ばせてやる!」
「この人無茶苦茶だよ!」
エクトルが必死にアランを止めているが、無理なようだ。
エクトルは頭を抱えて今にも泣き出しそうな表情で途方にくれている。
「アランやめろ!無茶苦茶すぎだぞ?」
「違うの!こいつらがね?まともな結界を張れなかったの!えっと・・・金級冒険者の面汚しだから!」
「アラン?お前が総責任者だろう!責任を部下に押し付けるんじゃない!」
「そうね・・・ルドルフが来てくれたからいい所見せなきゃね?」
「そうだ。守りは俺に任せろ。」
「あいよ!あたしの本気を見せるよ?」
俺はテンパッたアランを諌める。
アランは落ち着きを取り戻して、気合を入れながら壁から飛び降りる。
「あ、この後北門に行ったら風竜退治だからな?」
「え?マジで・・・」
俺は魔力を使いきるなよ?という意味でもこの後の予定を手短に伝える。
アランが驚いて振り向きながら壁の向こうへと消えて行くのでなんとか間に合ったようだ。
「ルドルフさん・・・助かりました。」
「俺はアランが非常識だったから当たり前の事を言っただけだ。ゴブリン退治が終わったら俺とアランはここから離れるから、忙しくなるぞ?今はしっかり休め。」
エクトルにこれからの予定を伝えると、そのまま静かに頷いて他のメンバーと一緒に横になって目を閉じる。
「(にしても・・・アランは凄まじいの一言だな・・・)」
エクトルとの会話を終えて、王都の外に目を向けるとアランが大暴れしている。
アランはゴブリンを踏みつけながら群れの中を駆け回り近くのゴブリンは魔力特性で凍らせ、離れたゴブリンには先程の水色の光球を手当たり次第に投げまくってゴブリンの氷像を量産しまくっている。
「(少し手伝ってやるか。)」
そう思って群れの端で逃亡を図っているゴブリンに向けてアランの魔法を参考に魔法を発動する。
ずっと雷を受け止め続けて、暴発寸前の避雷針をイメージする。
雷で出来た避雷針を作り出してゴブリンの群れの端に投げ込む。
「(俺のイメージ通りに魔法が発動していれば地面に刺さった避雷針からしばらく雷が放出され続けるはずだが・・・)」
注意深く観察していると、逃げようと避雷針の近くを通ったゴブリンがビクリを体を震わせ、その場に倒れて動かなくなるのでイメージ通りに作動しているようだ。
続けて何本も雷の槍を作り出してゴブリンの群れを囲むように地面に突き刺さるように投げる。
森もアランが投げた氷の槍が発動しているようで近づいたゴブリンは全て氷像になっているのでこれでゴブリンの逃げ道は無い。
そのまましばらくアランがゴブリン達を蹂躙するのを眺める。
「報告します!西門内側に突然オークの群れが発生しました!怪我人は出ていますが死者は確認されていません!」
十分程経ちゴブリンの万を軽く越える群れの九割以上が氷像になっていくのを眺めていると慌てた様子で早馬がやって来て声を張る。
オークとは人型で二メートルもある筋骨粒々な豚面の魔物だ。
一体ならジャック一人でも十分相手を出来るだろうが群となるとかなりやばいだろう。
「(突然?壁の内側に?ヴァネッサの転移魔法だろうな・・・)」
俺は瞬時に判断して、大急ぎでアランに声をかける。
慣れてないのであまり大声は出したくないので仕方ない。
「アラン!恐らくだがヴァネッサのせいで西門にオークの群れだ!俺は行くぞ?」
「待って!あたしも行く!」
俺が言うとアランが一目散に俺の所へと走り寄ってくる。
外壁の下にはゴブリンがうず高く積みあがっているので外壁まで普通にジャンプしてくる。
「バルテ!エクトル!十分休んだでしょ!?あたしはルドルフと別の門に救援に行って来るから後は任せた!」
「オークにオーガジェネラル・・・頑張って下さい。」
「かしこまりました!ここはお任せください!」
アランが隊長と副隊長である、バルテ先生とエクトルに声を掛ける。
二人はしっかりと頷いて返事をするのを見たアランは満面の笑みで振り向いて口を開く。
「じゃあルドルフ行きましょ?」
「あぁ。まずは西門だ。」
二人の返事を受けてアランが笑顔で言って来る。
俺は即座に振り返って全力で来た道を戻って行く。
「はやっ!!追いつけないって!!」
後ろでアランの声が聞こえるが無視する。
俺が担当する西門で死人を出すのは絶対に阻止したい。
「(ヴァネッサ・・・貸し一つ追加だ・・・)」
ヴァネッサに請求すべき貸しが増えた。
この場合は借りと言うべきか迷うところだが、俺がいつも解決してやっているので貸しとしておく。
しばらく走って西門の内側で門を背に鎧を着て剣を構えるオークと戦う冒険者と騎士の混合軍が目に入った。
「(なぜ門の内側で人間が門を背に戦っているんだ・・・)」
突然門の内側にオークが出現したので仕方ないのだが、とてもちぐはぐな状況である。
「グレイユキカサネだ!みんなも踏ん張りどころだぁ!出し惜しみすんな!?」
「「「「おう!」」」」
「騎士団行くぞ!冒険者達にばかりいい所を取られるな・・・王都は我々騎士団が守るんだ!」
「「「「はい!」」」」
最前線でオークと戦うジャックとフォルナが混合軍に喝を入れるのが聞こえる。
フォルナは剣に炎を纏わせる魔法、炎の剣を発動してオークを鎧ごと溶かし切っている。
「(ウィンストンよりもアイリーンとフォルナの方が戦闘力上がってるんじゃないか?)」
そんな事を考えながらフォルナ達の援護をするべく弓を構えてオークに向けて矢を放つ。
「やっと追いついた・・・ってもうほとんど終わりじゃない。」
「俺の援護無しでも勝ててただろうからな?」
追いついてきたアランがフォルナ達を見て残念そうに言う。
オークは百体程いたが、フォルナとジャック達が獅子奮迅の勢いで戦っていたので俺の援護はいらなかったとさえ感じる程だった。
「ジャック達もフォルナもルドルフの武器に慣れていい感じね?・・・で?あれが風竜か・・・」
「そうだ。北門を治めたらフィルとウラン達と協力して狩るぞ?」
アランが温泉の上で丸まって休む風竜を見つける。
俺も一緒に風竜を睨みつける。
「(入ろうかと考えていたのに・・・忌々しい!)」
入りたいなと思いながら温泉を見た時に愕然としたのを思い出す。
人間とは不思議なもので温泉施設が壊されて入れないとなるとどんどんと温泉に入りたい気持ちが大きくなって行く。
あの風竜は絶対に退治しよう。
心に固く誓い、アランと共に北門へと走り始める。
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