第百四十六話 王都防衛戦 準備
「あたしを美人って・・・ウフフフフフ」
「あいこで、っしょ!・・・あいこで、っしょ!・・・あいこで、っしょ!」
俺が昼食を終えるがアランは相変わらず蕩けた表情で辺りをうろうろし、水竜達は十人で一斉にじゃんけんしているのでまだ勝負が付いてないようだ。
「何をしてるんだ?」
「フィルか・・・どうした?」
俺がこのカオスな状況をどうしようかと考えているとフィルが声を掛けてくる。
これから何をどうすればいいのか皆目検討も付かない状況なのでとてもありがたい。
「どうしたでは無い!城に来いと言ったのに来ないから探したんだぞ!?」
「俺に怒るな!何も聞いてない!」
フィルは何やら俺に対して鬼の形相で怒って来るが俺は昼食を食べようとしか聞いてないのでお門違いも甚だしい。
俺が憤慨して答えると、フィルは鬼の形相のまま上の空のアランへと進み肩に掴みかかる。
「アラン!?どうなっている!?なぜ城に来ないんだ!?」
「煩い!あたしの幸せな時間を邪魔すんな!今回はあたしもルドルフもウランも参加しない!お前らでどうにかしろ!」
「何を言っているんだ!?」
アランが自分の世界から無理矢理呼び戻されてフィルに憤慨して中々無茶苦茶なことを言っている。
フィルが目を白黒させているが仕方がないと思う。
「どうせあたし達が働いたって倉庫の端で埃を被ってたマジックアイテムを出してぼったくるつもりなんだろ!?違うんなら少しはマシなマジックアイテム出しやがれってんだ糞爺!」
「大丈夫だ!更にいい物を用意している!」
「言質取ったからね!?嘘だったら城を平地にするからよ!?」
「わかった任せろ!」
どうやら前回のアランの交渉は普通だなと思っていたが、この時のための布石だったようだ。
道理で報告書にモルガンの「計画の一つ」という文言を入れないようにと悩んでいた訳だ。
だがそのために王都を危険に曝しているのは事実であり絶対に見過ごせない、後で説教をするとしてとりあえず安心したのかわからないが、フィルが項垂れているので肩を叩いて慰める。
「ルドルフ・・・すまんな?」
「あぁ、俺もいつもアランにはやられているからな。それで?俺達は何をすればいいんだ?」
「北のオーガ達はワシと共にウラン殿達で。南のゴブリンはアランに。そしてルドルフには西のストームクロウをお願いしたい!勿論それぞれに冒険者と騎士が補佐に付く。」
フィルは無駄な質問もせずに決定事項だけを伝えてくれる。
本当に俺の性格をよくわかってくれているので無駄に考えなくて済むのでとても助かる。
「わかった。では俺は西門に向かおう。アラン?」
「わかってるわよ!爺?これで碌なマジックアイテムじゃなかったら本当にルドルフと一緒にボイコットするよ?」
「期待していろ?ではワシはウラン殿達と一緒に北門を守るから頼んだぞ?」
俺とアランはフィルの言葉に顔を見合わせてしっかりと頷いてから重たそうな鉄の門を上げて貰い王都の中へと戻る。
ウラン達はまだパエリアを囲んでじゃんけんをしていたがフィルが収めてくれるだろう。
「じゃあルドルフまた後でね?明日もこれの魔力込めるのはあたしだからね?」
「あぁまた後でな?明日も頼んだ。」
いつも通りに軽い口調でまた会う約束をしながら強欲の壷を受け取り、そのまま別れて西門へと向かう。
アランは口調はいつも通りだったが、いつも通りに接しようと無理をしていたのが丸分かりだ。
俺も気合を入れ直して西門へと歩を進める。
「ルドルフ殿!西門補佐係隊長を勤めるフォルナです!指示をお願いします!」
「私副隊長を任命されましたジャックです!指示をお願いします!」
西門に到着するとフォルナとジャックが駆け寄ってきて敬礼をして俺に言う。
見慣れた二人が他所他所しい様子で俺に指示を仰いで来るので違和感しか感じない。
そしてフォルナとジャックの後ろでは明らかに二人よりも年上の騎士と冒険者達が俺からの指示を待っている。
明らかに隊長と副隊長の人選がおかしい気がしてならない。
「御苦労。戦力と状況と教えてくれ。」
「はっ!西門部隊は弓の腕に覚えのある騎士二百人と冒険者百人が控えております!西の森からストームクロウ約千体がこちらへ向かって来ています!接敵まではおよそ三十分です!」
フォルナが淀みなく答える。
ストームクロウとは体長五十センチのカラスに似た魔鳥で風魔法も使う中々危険な魔物だ。
こちらの戦力を把握するためにも続けて尋ねる。
「わかった。ストームクロウはここにいる人間にとってどれくらいの魔物だ?」
「はっ!安全に戦うならば前衛に一人、後衛に二人は欲しい所であります!」
フォルナの言葉を聞いてジャックを見ると力強く頷くので冒険者も同じ戦力を有するようだ。
一体のストームクロウに三人、思った以上に危険度は高いようだ。
ならば騎士と冒険者を合わせて三百人で無理なく迎撃するための計算を始める。
「わかった。俺が九割を落とす。だからお前らは騎士と冒険者で協力した混成軍で残りの一割を頼めるか?」
「了解しました!」
「合点でさ!」
「(この采配に感謝だな。)」
先程聞いた危険度で言えば、普通なら呆れられるであろう俺の言葉もフォルナとジャックは即座に聞き入れて二人で西門に詰める騎士と冒険者達の下へと走って行く。
それを見て思わず二人を隊長と副隊長に任命したフィルかサンドラかはたまた俺の知らない人物かもわからないがとりあえず感謝をしておく。
そうでなければまだ十六歳のフォルナが隊長で銀級のジャックが副隊長などありえない話だ。
「さて、相手が飛行系なら準備をしないとな・・・」
一人ごちながら王都の外壁の上に行くために必死に指示を出すフォルナとジャックの隣を通り過ぎて階段を上る。
階段を上り切り外壁の上に出たので、強欲の壷をマジックバッグに仕舞って魔法の準備をする。
西の森は俺の地上の滅びによって半分になった山があり、その麓には湯気を出す建物が見える。
「(今週の休みは温泉でゆっくりなんてのもいいな。)」
そんな事を考えながら魔法陣を描いていく。
魔法をイメージしてもいいのだが、今回も何が起こるのかわからないので不測の事態が起こっても魔法を途切れさせずに行動に移せるように魔法陣で発動する事にした。
「ルドルフ殿!配置完了しました!」
「御苦労。静かだな?」
「そうですね?数分後には三方向から魔物が襲来して死闘が始まるとは思えませんね?」
「他の門は知らんが西門で始まるのは死闘では無い。ただの蹂躙が始まるだけだ。」
「フフフ!その言葉は私だけでは無く。全員に聞かせて頂けますか?」
「すまんが注目を浴びるのは苦手でな?」
「ルドルフ殿はちぐはぐですね?人知を超えた力を持っているのにとても慎ましい方だ。」
フォルナと話しながら魔法の準備を進める。
魔法の準備も大詰めで後は魔力を込めれば勝手に展開するのでフォルナと一緒に外壁の上で静かに遠くに広がる森を眺める。
「報告します!南門接敵しました!ゴブリンは森から王都までの平地を覆っても余るほどの数です!」
「わかった。ご苦労!」
「では失礼します!」
早馬に乗った兵士が伝令にやってくる。
どうやらアランの戦いが始まったようだ。
フォルナが労いの声をかけると兵士は敬礼をして慌しく去って行く。
「先輩がいるので大丈夫でしょう!それに金級冒険者チームのグリーンファンタジーにバルテ先生もいらっしゃいます!」
「そうだな。雑魚戦に滅法強いアランだから心配する必要は無いな。それにしてもバルテ先生はそんなに強いのか?」
俺の様子を察したフォルナが励ましてくれる。
アランもフォルナもマジックアイテムの効果で表情は見えないはずなのになぜ俺の感情が読めるのか本当に不思議である。
「元エスガルド王国騎士団魔法隊々長ですからね?それにしても先生ですか?ルドルフ殿も学校に?」
「いや、フォルナが先生と言ったのでな?先生がそんなに強いのかと思っただけだ。」
「成程!引退した今でも魔聖バルテ先生と言われる程の腕前なので御安心を!」
「そうか。」
危ないところだった。
まさかこんな所でボロを出すとは夢にも思ってなかったので、かなり焦ったがフォルナの様子を見る限り誤魔化せたようでホッと胸を撫で下ろす。
「報告します!北門接敵しました!状況は・・・あの・・・」
「なんだ?早く言え!」
「・・・剣聖と十体のドラゴンがオーガを圧倒しています。」
「わかった。御苦労!」
なぜ兵士が言い淀んだのかがわかった。
有体にこの報告をして怒られないかと危惧していたのだ。
「え・・・」
「どうした?報告は終わったのだろう?御苦労!」
「で、では失礼します!」
フォルナに言われて兵士はポカンとした表情のまま王都へと去って行く。
「フフフフ。ルドルフ殿と出会った当初はあんな感じだったのですね?」
「そうだな。さ、俺達も蹂躙するぞ?」
フォルナが照れ臭そうに言って来る。
始めての任務での魔熊狩りの時のフォルナとアイリーンは先程の兵士よりも間抜けな顔をしていた事を思い出す。
思わず口元が綻ぶが遠くに魔物が見え始めたので、自分の気を引き締めるためにもフォルナに言う。
「かしこまりました!・・・みんな戦闘配置だ!指示があるまで待機!」
フォルナも俺の言葉に表情を引き締め直して、指示を出しながら階段を降りて壁の中へと入って行く。
俺も準備をするべく魔法陣を発動する。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




