第百四十五話 ウランとアラン、九人の美女
数日経ちいつも通りに座学を受けていると突然血相を変えたフィルが教室に入って来てバルテ先生に耳打ちをし始める。
「なぁ何かあったのかな?」
「何かあったのだろうな?」
いつも通りにマットが無邪気な様子で聞いて来るがフィルに耳打ちをされたバルテ先生の顔色が見る見る真っ青になっているので、中々の事態のようだ。
「み、皆さん!今日の授業は終了です!速やかに寮に戻って自習するように!そして部屋から絶対に出ない様に!!ではごきげんよう!」
バルテ先生はいつも以上に早口で言うだけ言って忙しなくフィルと一緒に教室を出て行く。
「自習か・・・まぁいっか!行こうぜ?」
「そうだな。」
教室内の生徒達がざわつく中マットは平常運転で言って来るので、一緒に教室から出て寮へと向かう。
ターニャ達はマットにもっと物事を考えろと小言を言うが、俺はこうやって下手に勘ぐってパニックにならないのはマットのいい所だと思う。
「にしてもさぁ?自習の上に部屋から出ちゃ駄目って何だろうね?」
「さぁな?なんにしろ非常事態なのだろうな?」
マットと話をしながらガラガラの廊下を歩いて行く。
おそらくもう少しして教室内のざわつきが納まると次は一斉に寮に帰る生徒で渋滞になるだろう。
マットがこういう性格だったおかげで、俺一人で教室を出るのに比べると格段に目立たずに出られたのは僥倖である。
「じゃあ・・・また昼食にね?」
「部屋から出るなと言われたからどうなるだろうな?」
マットと話しながら別れて自分の部屋へと入る。
扉を閉めていると後方から二人の気配を感じる。
結界を張っているこの部屋に入れる人間は少ない。
もし敵が無理矢理入ってきたのだとすれば、今頃俺は攻撃されていなければおかしい。
と言う事は二人の気配は誰か容易に想像がつくフィルとアランだ。
「で?何がどうなって・・・」
扉を閉じてから聞くが、部屋にいる人間が予想外すぎて思わず固まってしまう。
「プクク・・・モルガンが計画の一つって言ってたじゃん?他の計画が発動したみたいだよ?」
「んむ!南からゴブリンの群れ、西と北からもよくわからんが魔物の群れなのじゃ!」
「その異変を察知してウランが来たって事か?」
俺はよほど驚いた表情をしていたのだろう。
アランが笑いを堪えるために口を押さえながら言い、ウランが俺の言葉に胸を張って笑顔で頷いて答える。
賢い竜族の魔族であり、結界魔法が得意なウランなら俺如きの結界こじ開けて入る事など朝飯前だろう。
「で?」
「ここに来る途中に適当にじゃがゴブリンを数えたが万は越えておったの?一応集落の全員を連れて来ておるのじゃ!」
「西からはストームクロウ。北の森からはオーガが確認されて、今も大至急でギルドと騎士団が協力して調査中だよ!」
俺の短い言葉にウランとアランが丁寧に説明してくれる。
ウランを合わせて十体の水竜が手助けしてくれるのは大変心強いのだが、何も説明をされてないので俺はどう動けばいいのかさっぱりわからない。
「それで?俺はどうすればいいんだ?」
「とりあえず・・・ご飯にする?」
「おぉ!楽しみなのじゃ!皆もおるでな?」
まだ何も決まっていないようだ。
アランの言葉に反応してウランが俺達に認識阻害魔法を掛け始める。
「では出発なのじゃ!」
「どこで料理を作るんだ?」
「うーん・・・学校で作る訳にも行かないし、外?」
「今まさに魔物が王都に迫っているのにか?」
「ウラン達がいるし大丈夫なんじゃない?」
ウランが足取りも軽やかに部屋から出て行くので大慌てでルドルフになってアランと話しながら後ろを付いて行く。
「主ら待たせたの?待ちに待ったルドルフの食事なのじゃ!」
上機嫌なウランが校門で待っていた九人の美女に声をかけて、そのままどこかへ向かって進んで行く。
九人の美女こと水竜の魔族達は静かに俺とアランの後ろを付いてくる。
水竜達はアランと同じようにワンピースを来て、真っ白な下駄の様な履物という出で立ちだ。
「皆さん!まだ時間はあります!焦らずに落ち着いて移動してください!おいそこの避難所はまだ入れるのか!?」
「まだ百人は入れます!」
街のあちこちで騎士と冒険者が協力して住民達を避難所へと誘導している。
俺達はそれを眺めながら十一人で街をそぞろ歩いて行く。
「今は危険なので、王都からの外出は禁止です!」
「煩いのじゃ!これが許可証なのじゃ!」
「・・・これは剣聖の・・・どうぞ。」
北門で門兵に止められるがウランが一枚の紙を見せるとすぐに了承される。
確かあの紙は「これを見せればワシが飛んで行く」とか何とか言って渡していた紙だ。
何が書かれているのかとても気になる。
そんな事を思いながら王都から出ると門が閉まり、上からガラガラと音を立てて鉄製の門が降りてくる。
「この門が閉められるのは久々ね・・・」
「ほう?こんな風になっているのだな。」
「ルドルフよ!決戦の時はすぐなのじゃ!腹ごしらえしたいのじゃが?」
初めて見る門の登場に感心していたがそういう状況でも無い様だ。
門から視線を外して振り返るとウランと九人の美女達が期待の眼差しを向けて来ている。
さっさと少し離れた場所で火を熾してとりあえずスープを作り始める。
「何かリクエストはあるか?」
「オムッオムリェツ!」
「「「「オムリェツッオムリェツッ!」」」」
俺が聞くと水竜の一人が何やら謎の言葉を言い始め、他の八人も声を揃えて謎の言葉を唱えながらダンスと言えばいいのだろうか?
謎の動きをし始める。
俺がキョトンとしているとウランが美女達を手で諌めながら口を開く。
「すまんのぅ?我々は普段念波で話してるせいで、こやつらは舌が未熟での?我々では上手く作れんかったからオムレツをお願いしたいのぅ?」
「成程。何が始まったのかと思った。ではオムレツを作ろう。」
見目麗しい美女達が一斉に謎のダンスをしながら舌足らずの合唱を始めるので何かの儀式かと思って若干引いてしまったがウランの言葉で納得した。
俺はさっさと焚き火を増やしてオムレツを作って行く。
フィルやマット達には申し訳ないが、こんなに美女が心待ちにしてくれているとなるとかなりやる気が出てしまう。
今日のオムレツは特別にチーズを入れて、滅多に出さない秘蔵のデミグラスソースを使おうと思う。
「・・・ねぇ?あたしそんなチーズ入りの食べた事無いんですけど?それにそのデミグラス!もう無くなったって言ってたやつじゃない?」
「チーズは最近やっと入れて作れるようになった。デミグラスは・・・この前作ったんだ。お前らのせいで練習する時間もこういう手間隙がかかるものを作る時間も無くてな?」
アランが俺の料理する姿をみて目聡く気付いて言って来る。
正確には前に作ったデミグラスソースに新たに作ったデミグラスを継ぎ足したので嘘では無いがオムレツに関しては嘘だ。
どうせアラン達はチーズを入れようが入れまいが関係無いどころか気付かない可能性もあるので面倒臭くて作ってなかったのだ。
「アランが望むならまた作ってやるから黙ってろ。」
「えー?いつでも?なら毎日あたしのために・・・」
「アラン殿はいいのぅ・・・わらわも毎日食べたいのぅ・・・」
アランが何やら俺の言葉を歪曲させて自分の世界にトリップし、それを見たウランを初めとした水竜達が恍惚の眼差しを向けてくる。
とりあえず一つ目のオムレツが出来上がったのでフライパンから皿に移してデミグラスソースをかける。
「ほら次を作るから誰か食べろ。スープとトーストは各自好きに食べろ。」
「ならばまずはわらわじゃ!・・・ご苦労なのじゃ!」
俺が皿を渡すと満面の笑みのウランが受けとり、丁度いいタイミングで水竜達がスープとトーストをウランに渡す。
おそらく念波で命令したのだろうが、なんとも便利な技である。
その後もひたすらオムレツを焼き続け、全員に三個づつ配ってやっと俺のオムレツを作ることが出来た。
スープとトーストを用意しようと席を立つが、寸胴の中身は空っぽで焼いていた大量のトーストは全部なくなっていた。
トーストは予想通りだが、寸胴鍋二つ一杯にスープを作っていたのになくなっているのは予想外で思わず二度見、三度見をして鍋の中身を確認する。
「おい。俺の分の昼食が・・・お前ら十分食べただろうが!オムレツ誰が食べた!?」
余りの出来事に一瞬思考停止して振り返ってウラン達に聞いていると俺のオムレツを乗せていた皿が空っぽになっている事に気付く。
思わず声を荒げるとウランと水竜全員が一斉に自分では無いと手を横に振りながら否定する。
「アラン?誰が食べた?」
「え?わかんない!」
「隠すのか?空腹の俺相手にいい判断とは思えんぞ?」
「本当にわかんない!ルドルフが背中を向けた瞬間にウラン達が全員飛びついたから!」
どうやらアランは本当に犯人がわからないようだ。
俺がウラン達を睨むと一斉に目を逸らして自分は無関係と言わんばかりの様子だ。
とりあえず全員に順番に拳骨をするために拳を握って歩み寄る。
「ウリャン!ウリャンがたべちゃ!」
「うんうん!ウリャンがひゃんにん!」
「ウリャンたべちゃ!」
「主ら・・・我ら一連托生じゃろうに・・・ルドルフよ!今喋った三人が食べたのじゃ!わらわは食べ損ねたのじゃ!」
「成程。未遂の奴らは軽めの罰で許してやる。」
焦った水竜達が自らボロを出すので、ウランと喋った三人の水竜にビンタをして他の水竜には軽く拳骨をしておく。
「うぅ・・・わらわ食べられなかったのに酷い・・・」
「食べたか食べなかったかが問題じゃない。人の分まで食べようとした事が問題なんだ。」
俺のビンタを受けて涙を流すウランが頬をさすりながら恨み節を炸裂させる。
水竜達もそれぞれに俺に叩かれた箇所をさすりながら恨みがましそうな目で俺を睨んで来るので、しっかりと何で俺が全員に罰を与えたのかしっかりと説明する。
「こんな美人な子達にも容赦無しね・・・」
「煩い!食べ物の恨みはなんとやらと言うだろう?それに美人というならアランにも容赦無いだろうが?」
普段アランにも容赦無くビシバシとしているのに水竜達に甘くしては示しが付かない。
俺はアランにしっかりと語弊が生まれないように言って、時忘れのマジックバッグから作り起きのパエリアとスープを取り出して食事にする。
「ぬ?ルドルフ?その料理は何じゃ?美味そうじゃの?」
「一口と言いたいが、お前に言えば他の水竜にもやらなければならなくなるな・・・そうすると俺の分が無くなるから我慢しろ。」
「わ、わかったのじゃ・・・」
ウランはそう言って水竜達と一緒に俺の食べるパエリアを一心に見つめ口からは大量の涎が流れ出ている。
ウランは言葉は素直だが、余程俺の料理が気になるのか涎を流している事にも気付かない様子だ。
何よりもこんなに注目されるととても食べづらい。
俺は深い溜息を吐いて作り起きのパエリアとスプーンを取り出してウランに渡す。
「いいか?これで昼食は終わりだぞ?」
「わかっておるのじゃ!皆のもの!じゃんけんで順番を決めようぞ!無くなるまで順番に食べて行くのじゃ!?」
俺が皿を渡すと全員が真剣な顔でじゃんけんを始める。
ウランも真剣な表情でじゃんけんをしているので、みんな平等と言うのは本当のようだ。
「というか、本当にこれから魔物が王都を襲来するのか?」
パエリアを囲んで真剣な表情でじゃんけんをする水竜達、何やら「美人って・・・」と呟きながら離れた場所でトリップうするアランにパエリアを食べる俺。
そんな光景を客観的に見て思わず呟いてしまう。
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