第百四十四話 ルドルフは魔族
「んっ!気になるほどじゃないな。」
朝目覚めて伸びをしながら魔力量を確認するが、強欲の壷が吸い取る量よりも俺の自然回復量のほうが多いようだ。
これなら常に吸われていても問題無く生活出来そうだ。
満足しながら着替えて調理室へと向かう。
出来れば学校生活中も魔力を入れたいがルドルフとニコの接点を作りたくないので我慢だ。
「ニコ君おはようございます。今日は少しお疲れのようですな?」
「おはようございます。そうですか?いつもと変わらないつもりだったのですが・・・」
いつもの調理台に行くとクラウスさんが話しかけてくる。
クラウスさんは俺のちょっとした変化にも気付いて声を掛けてくれる。
「ほう?気付かない疲れというのは危険ですよ?しっかりと夜は寝るのですよ?」
「はい。気をつけます。今日のジャフル家は豪華ですね。」
「ハッハッハッ!ジャイアントフロッグが手に入りましてな?おかげで今日は豪勢にさせて頂いております。」
「いつも通り色鮮やかな料理で羨ましい。」
ジャフル家の朝食はジャイアントフロッグのステーキと野菜スープのようだ。
ステーキには色とりどりの飾り切りをされた野菜が添えられ、俺が作る濃淡はあるものの茶色一色のステーキとは比べ物にならないほどに美味しそうだ。
「やぁおはよう!今日のスープは・・・ほう?色々な野菜を使ってるんだね?」
「おはよう。事情があってな?今週は色々な野菜を少しづついっぱい食べる週だ。」
サミュエルがやって来ていつも通りにスープを掻き混ぜ始める。
休みの日に買出しが出来なかったので、マジックバッグ内の掃除も含めて今週は残していた様々な端切れ野菜を消費する週に決めた。
「成程。理解した!」
「話しが早くて助かる。」
物分りのいいサミュエルは俺の事情を即座に察していつも通りスープを作り始める。
「サミュエル様おはようございます。今日のスープはカラフルですね?」
「エミール君ロジェ君おはよう!今週はね?色々な野菜を食べる週間だってニコが言ってたよ?」
「エミールそんなんえかろぉ!?美味そうじゃけん、はよぅ行こうで!」
エミールとロジェがやって来ていつも通りのやり取りをしながら料理を持って調理室から出て行く。
サミュエルと一緒に見送って調理台を掃除してから食堂へと向かう。
「待たせた。では朝食にしよう。」
いつも通り席に着きながら俺が言うと待っていたみんなが一斉に朝食を食べ始める。
「アラン先生!休みの日はアラン先生も出動したんですよね?討伐隊は、東の森は片付いたんですか?」
「あら?ターニャ気になるの?心配しなくても全部片付いたわよ?今頃湿地帯にいた冒険者も王都に帰って総出で魔物の解体をしてる頃じゃない?」
朝食を食べていると突然ターニャがアランに質問をしている。
フィルが俺を呼びに来た時にみんなで武具の手入れを教わっていたようだったので全てを聞いていたのだろう。
「ではアラン先生!ルドルフさんとは・・・何者なのですか?」
「うーん・・・あたしもよくわかってないんだよねぇ?」
アランがターニャの質問をはぐらかすと、それを聞いたマット達がなぜかドヤ顔でターニャを見ている。
「ほらね?だから王族とかそれくらい権力のある人間なんだって!国家機密なんだよ!」
「そうじゃそうじゃ!それならとてつもない魔力を持っとるのも説明が付く!」
「僕は人間に与する魔族だと思うけどねぇ?じゃなければあの背丈、女性か子供だよ?」
「煩い煩い!聞いてみないとわかんないでしょ!?・・・アラン先生なら知っていると思ったのに・・・そうだ!サミュエル様は何か知りませんか?」
「すまないが僕もルドルフ殿の事はさっぱり皆目検討が付かないんだよねぇ?父上、王に尋ねても教えてくれないんだ。」
マット、ロジェ、エミールにあれこれと言われてターニャが顔を真っ赤にして反論してから思い出した様にサミュエルにも尋ねているが、サミュエルも適当にはぐらかしている。
まだ諦めきれない様子のターニャは続いてフィルへと視線を送るが、フィルは必死に首と手を振って何も知らないとジェスチャーで伝え、ターニャが分かりやすく溜息を吐いて項垂れている。
「(王族か魔族か・・・絶対に正体がばれないようにしないとだな。)」
ルドルフの正体に尾ひれが付きすぎてとんでもない事になってきている。
日が経つにつれどんどん俺がルドルフとばれる訳には行かなくなってきている気がするがこういうみんなのやり取りを見ていると休みの間の死闘から日常に戻ってきたのだなと心から実感する。
戻ってきた日常を噛み締めながら楽しく朝食を食べながら一日が始まる。
その後もいつも通りにバルテ先生の座学をしてから昼食を食べ、午後は張り切るアラン先生の下で魔法実習を、同じく張り切るアイリーン先生の下で剣術実習をして夕食を食べる。
「さて!ではみんな校長室に行くぞ?今日は皮の鎧のメンテナンスだ!」
「「「「はい!」」」」
夕食を食べ終わり、ターニャとアランが食器を洗い終わって帰って来るとフィルが待ってましたとばかりに言ってみんなを引き連れて食堂から出て行く。
「じゃああたし達も演習場に行きましょうか?」
「そうですね?ニコ?また明日だね?」
「あぁまた明日だ。」
アランとサミュエルも食堂から出て行くので、俺は一人寮に戻りルドルフになり、強欲の壷が入ったショルダーバッグを肩に掛け演習場へと向かう。
「待たせたな?」
演習場に行くとウィンストンとアイリーンが気を付けして待っているので俺が声をかけると二人が同時に敬礼をして口を開く。
「いえ!今日もよろしくお願いします!」
「私も今来たところです!本日も指導お願い致しますぅ!」
「(練習でもしていたのだろうか?)」
そんな事を思ってしまうほどに二人共淀みなく俺に言って来る。
「なら・・・よし。今まで通りに魔法の練習をした後に剣の訓練をしてくれ。」
「かしこまりました!ウィンストン君行きますよ?」
「はい!よろしくお願いします!」
結界を発動しながら言うと、二人がしっかりと敬礼をして答えてながら舞台に上がる。
俺はそれを見送ってから演習場の端っこに移動する。
「何してんの?」
「なぜこんな端っこに?」
「ここにな?新たに盗聴用魔法陣が刻まれている。」
アランとサミュエルが聞いて来るので答える。
しっかりと隠蔽された魔法陣なのでアランも気付いてなかったようだ。
二人が真剣な表情で俺に先を促すように見つめてくる。
「この魔法陣はこの演習場の会話を魔力に変換して術者に送っている。それは知っているな?」
二人は真剣な表情のまま静かに頷く。
「では・・・」
俺は魔法陣に手を当てて変換して送っている魔力に似せた魔力を大量に流す。
「ギャアアアアアアアアアアア!」
訓練場の外から男の叫び声が聞こえる。
聞き覚えのある声だ。
予想通りだったので驚きは無いが、新たに俺達の盗聴を試みていた人物はモルガンだったようだ。
「今の叫び声は何?何をしたの?」
「変換した魔力に似せた魔力を大量に流した。どうなったと思う?」
「頭に大音量で音が響く?」
「その通りだ。俺はやられた事が無いのでどんな音かは知らんがな。」
一通りの嫌がらせは済んだので魔力を止めて魔法陣を消して、訓練をするウィンストンを見るためにいつもの場所に戻る。
「ちょっ!?今の叫び声モルガンでしょ!?捕まえなくていいの?」
「そうですよ?学校の敷地内に部外者が入っているのも問題ですよ?」
「なら探しに行ってみろ。どうせもう逃げてる。」
追いかけて来た二人が言って来るが、モルガンの逃げ足の速さは尋常では無い。
悲鳴を聞いて即座に駆けつけても、突然の大音量に頭を押さえながらも転移石かヴァネッサの転移で逃げているのは分かりきっている。
俺はあんなやつのために徒労に終わると分かっている無駄な事をしたくは無い。
「ではかかってきなさい!」
「よろしくお願いします!」
ウィンストンとアイリーンは魔力が切れたので剣の訓練を始める。
最初は魔法を碌に発動出来ずフォルナとアイリーンにボコボコにされていたウィンストンも一週間練習をして、魔道具の発動もスムーズになり、魔力無しでする剣での打ち合いもかなり様になって来た。
「ルドルフ殿?その鞄は何ですか?」
「これか?魔力を吸って回復薬を作る壷だ。」
「そうだ!昨日のやつ特級回復薬だったよ?」
二人の訓練を眺めているとサミュエルが尋ねて来るので答えるとアランが思い出した様に重要な事を言う。
「ほう?ならば特級回復薬の量産は出来るな?」
「そうだね?あとは完全回復薬の量産が出来るか・・・だけだね?」
「そそ!しかも今は両方共品薄!かなりの高値になるよぉ?」
「ほう?二千万とか三十万とか言っていたから安定供給されているとばかり思っていたが違うのか?」
「あれは大体の販売価格ね?基本は時価!完全回復薬に至ってはそこから輸送費とかもかかるから実際に必要な人間に届く頃には一億になってても不思議は無いね。」
その後もアランと強欲の壷の話しに花が咲く。
どうやら特級回復薬は一流の冒険者がいざという時のために用意しておくような物らしい。
完全回復薬に至っては金持ちが買って、そこから護衛を雇って輸送など様々な経費が無茶苦茶にかかる超々高級品だそうだ。
そして何よりも完全回復薬を作れる錬金術師が少ない上に材料も希少な物が多いので中々売りに出されず、売りに出されれば即行で売り切れる状態らしい。
「ルドルフ殿・・・また非常識になりましたね?」
「俺は常識的な人間だ。」
静かに聞いていたサミュエルが呆れたように言う。
俺は常識のある普通の生活をしたいのだが、回りは非常識な依頼ばかりしてくるし、この強欲の壷も知的好奇心を満たさないと気がすまないのだ。
それに死なないための備えは出来る限りしておくべきである。
俺が悪いのでは無く、俺の周りが非常識なのでサミュエルの言葉はとても遺憾である。
「ルドルフ?日中はあたしが魔力入れようか?」
「ありがたい。」
アランが魅力的な提案をしてくれる。気付いた時には反射的にお礼を言っていた。
日中はアランが魔力を込めてくれるのなら、言う事は無いのでありがたく言葉に甘えさせてもらう事にする。
「じゃあ明日からは朝食堂に行く前に部屋に取りに行くね?」
「あ・・・わかった。」
アランの言葉に部屋に張った結界の制限を解かなければならない事に気付く。
結局アランを出入り禁止には出来ないようだ。
強欲の壷の検証とアランの入室を天秤にかけて泣く泣くアランの出入り禁止を解く事を決める。
なぜかはわからないが負けた気分になりつつもウィンストンの訓練を見守る。
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