第百四十三話 強欲の壷
そして寮に戻り当然の様に部屋に入って来ているアランのために心地よいソファに腰掛けながら料理を作る。
「ねぇ?その魔力操作は非常識なの理解してる?」
「まぁ今まで出来そうな人間は見た事無いな?」
空中に火球を制止させて料理をしていると呆れた表情でアランが言って来る。
今まで見た人間は火を熾すのも手作業で苦労して火を点けていたのでそんな事は今更の話である。
それにこうやって料理しているのもアランが昨日のティラノサウルスの肉が美味しかったからハンバーグも絶対美味しいから食べたいと言われたから仕方なく作っていると言うのに誠に遺憾だ。
「わかった。非常識ならやめて出来合いの夕食にしよう。」
「やだ!もうハンバーグの舌になってるもん!」
隣に座っているアランが慌てて腕に抱き付いて来る。
出来れば料理をしている邪魔なので本当にやめて欲しい。
「なら最初から非常識などと言うな。それくらいは理解している。あと邪魔だ離れろ。」
「ちっ!・・・にしてもあの爺共かなりあたし達を舐めてるね?」
「どうした?まだマジックアイテムで怒ってるのか?」
「そうよ!悪い?あんなみんなが持て余して金庫の隅で埃を被ってたマジックアイテムで一億とろうだなんて舐めすぎよ!」
「まぁそうがなるな。夕食を食べたら試してみるぞ?」
「へいへい!」
アランは憤慨しているが、俺は強欲の壷も魔力を貯められる指輪も納得して報酬として貰った。
指輪はわからないが、強欲の壷は上手く使う事が出来れば一億ゴールド以上の価値があるはずだ。
「さぁさっさと食べてマジックアイテムの検証だ。」
「検証はどうでもいいけど。ご飯ご飯!こうなると愛の巣なんだし机が欲しいわね・・・今度持ってこようか?」
料理を載せた皿を床に置いているとアランがいつも通りの妄言を言いながら恐ろしい提案をしてくる。
「いらん。絶対に持ってくるな。」
アランは俺の言葉にいつも通りに不満そうに頬を膨らませて無言の抗議をしてくるが断固として拒否だ。
一度許せば次々とアランの私物を持ち込まれ、最終的にアランの部屋なりかねない。
そんな事になれば最終的には護衛のためにサミュエルとアランと一緒の部屋で・・・などと言う事にもなりかねない。
そんな事になれば俺のプライベートな時間など無くなるのは火を見るよりも明らかだ、絶対に阻止せねばならない。
とりあえず結界の設定を弄ってアランの出入りを制限しようと心に固く決意する。
不満そうに料理を食べるアランは無視してさっさと料理を食べて強欲の壷の検証を始める。
まずは魔力を少しだけ流してみると壷の中へと吸い込まれて行く。
「まずはどれくらいの量を流せば出来るのだろうな・・・」
「とりあえず流せるだけ流してみたら?」
「そうだな。」
アランの提案に乗っかって今流せるだけの魔力を壷に流し込む。
壷は名前通り強欲に流せば流すだけ全ての魔力を吸い込んで行く。
「ニコ?そろそろ止めないと溢れそうだよ?」
「む?百人で一ヶ月かかるんじゃないのか?」
魔力を流す事に集中して気付かなかったが、壷からは零れんばかりに並々と透明な液体でいっぱいになっていた。
百人が毎日魔力切れになるまで一ヶ月頑張って作ったと聞いていたのに拍子抜けしてしまう。
「ねぇ?魔力切れは?」
「魔力切れ寸前ではあるが、昼間に結構な量の魔力を使ったのにな?」
「とりあえず液体の鑑定を・・・」
アランが謎のガラス瓶で壷の液体を掬い取って振ったり魔力を込めたりとゴソゴソし始める。
「それは何だ?」
「フフフ!何を隠そうあたしは錬金術師でもあるのよ!そしてこのガラス瓶は作った回復薬の品質を鑑定するアイテムなの!」
「ほう?それで?」
「黒くなればなるほど良質な回復薬で・・・って!?これ全部回復薬!?」
アランの持っていたガラス瓶の中身が黒く染まり、それを見たアランが驚いている。
どうやら強欲の壷は完全回復薬を作るマジックアイテムではなく、魔力を回復薬に変換する壷だったようだ。
「ふむ。これでいくらだ?」
「壷の容量は三リットルくらいかな?なら・・・二十本分だから買えば八万ゴールドって所かな?」
「回復薬とは中々の値段なのだな?」
「まぁ回復薬じゃ切り傷を治す程度だけどね。特級回復薬なら骨折や千切れたばかりの腕ならくっつけれるけどね?はいこれ回復薬用の瓶を上げる!」
アランからの回復薬講習を受けながら慎重に回復薬を瓶に移し替える。
どうやら完全回復薬を百倍に希釈した物が特級回復薬。
そして特級回復薬を更に百倍に希釈した物が回復薬となるそうだ。
「で?何で完全回復薬じゃなくて回復薬が出来たんだろうね?」
「あくまでも仮説だからこれからゆっくりと検証しなければならないが、おそらく俺が一気に魔力を流しすぎたんだろう。ゆっくりと魔力を流せば回復薬の純度が上がるんじゃないか?」
「成程・・・一気に魔力を変換させたから純度が下がって回復薬が出来たって事か・・・じゃあお姉さんも検証に協力しよう!」
アランが俺の仮説を確かめるために強欲の壷にゆっくりと魔力を流し始める。
「暇だな・・・」
「なら今日の結界はどうやって張ったんだ?魔法陣をどこかに持ってるのか?」
壷に魔力を流すのに慣れて手持ち無沙汰になったアランが分かりやすく暇そうにし始めるので気になっていた事を聞く。
「ニコはあたしの奥の手を聞くの?教えてもいいけどその覚悟はあるの?」
「ふむ。そう言うのなら聞かないでおこう。なら次だ。オークションでは何か買ったのか?」
「それが目当ての物が出品されなくて何にも買ってないよ?」
「俺の家具の話の時にオークションを思いついていたが何が目当てだったんだ?」
「それは買った時のお楽しみっ!」
「じゃあ次だ・・・」
いい機会なのでアランに気になっていた事を質問して行く。
その後もアランに悉くはぐらかされてしまい、わかった事と言えばアランは俺に言えない事だらけと言う事だけだ。
アランに何かを聞くのは諦めて報告書を書くことにする。
「そこ!もっと詳しく!」
「・・・別に空気拘束で動きを止めて目を突き刺して雷魔法で仕留めたでいいんじゃないのか?」
「雷魔法を雷撃にしておきなさい?」
隣で俺の報告書を監修するアランから駄目出しされる。
今までの旅ではこんな物は書いた事なかったが、大変面倒臭い。
本当にフォルナとアイリーンの存在のありがたさを痛感する。
「こんなもんか?」
「いいんじゃない?あたしの方ももう魔力限界!」
書き終えた報告書をアランに確認して貰う。
アランは俺の報告書を確認してすぐさま強欲の壷の中の液体を鑑定をし始める。
鑑定用の瓶の中身は先程の回復薬とは比べ物にならないほどに黒く染まる。
「これは詳しく鑑定しないと駄目だけど特級回復薬の可能性が高いわね。」
「ほう?しかもアランで魔力切れしないとなれば量産出来そうだな?」
「これが特級回復薬なら十本は取れそうだね?一本三十万だから三百万くらいかな?あとちなみにだけどあたしは魔力切れ寸前だよ?」
「成程・・・やはりこのマジックアイテムは一億の価値有りだな。」
「悔しいけどニコの先見眼と言うか鑑定眼と言うか・・・とにかくお見それしました!」
アランと回復薬用の瓶に移し替えながら話をする。
俺達の手に余ればルル達への土産と考えていたのだが、嬉しい想定外だ。
だがまだ検証は始まったばかりだ。まだまだ試してみなければならない。
「ニコ?これからこの壷はどうするの?」
「ふむ。どうにか常に身につけられるようにして、壷が吸い込むだけの魔力を流し続けたいな。」
「ふむ一ヶ月かけるのね?」
「それくらいはかかるだろうな。」
おそらく王国魔術士達は魔力操作が稚拙で壷に吸い取られるままに魔力を流していたのだろう。
次はそれを真似してゆっくりと壷を流してみようと思う。
それで完全回復薬が出来れば俺の仮説は正しいと証明出来るし、出来なくても結果を見てまた別の仮説を建てる事も出来るだろう。
「なら・・・絶対に大量の完全回復薬を作ってさ?爺に自慢してやろうね?」
「そうだな。強欲の壷を安売りしたと後悔させないとな?」
「じゃあもう遅いしあたしは帰るね?」
「あぁ。また明日だ。」
アランがいそいそと瓶詰めした特級回復薬をマジックバッグに入れて部屋から出て行くので手を振って見送る。
魔力切れで動けないから今日は泊まる!などと言い出さないかと心配していたので、報告書も書き終わったし、アランのおかげで予想外の検証も出来たので特級回復薬で済むのなら安い物だ。
俺は魔力の鍛錬をしてから強欲の壷用のショルダーバッグなどを作り、強欲の壷を枕元に置いて魔力を少しづつ吸わせながら眠りにつく。
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