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第百四十一話 VS蜂の巣丸々一つ

重力によって加速した蜂の巣は俺達を含む地面へと落ち、魔法障壁は粉塵で覆われ真っ暗になる。

「きゃあっ!!」

アランが女の子らしい悲鳴を上げるので目に魔力を集中させて様子を確認すると、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでいた。

平和な時に見れば可愛い仕草なのかもしれないが今はそんな状況ではない。

すぐにアランに指示を出す。




「アラン?すぐに結界を張れ。俺は魔法障壁をやめて攻撃に移りたい。」

「わ、わかったわ。」

アランがすぐに魔法を発動し始める。

「(魔法陣を描いた様子は無いが・・・どこかに結界用の魔法陣を持っているのか?)」

俺は疑問に思いながらも大急ぎで攻撃に移るために魔法を準備する。


「ルドルフ?周りはどうなってるの?」

「見渡す限り蜂だらけだな。」

「蜂だらけ?どんくらい?」

「さぁな?見渡す限りだ。周りが晴れても卒倒しないでくれよ?」

俺の探索魔法(サーチ)には発動するが数が多すぎて全く把握できない程度には多い。

恐らく今巻き上がっている粉塵が晴れればアランが張ってくれた結界にはキラービーが所狭しと張り付いているのは容易に想像出来るので、虫嫌いなアランにしっかりと忠告しておく。




「なぁアラン?仮にだ、十メートルのスズメバチの巣があったら何匹いる?」

「知らない!とにかくいっぱいでしょ?」

これから発動する魔法の規模の参考にさせて貰うための重要な質問だったのだが、アランは結界を維持するのにいっぱいいっぱいなようで適当な返事が返ってくる。


「スズメバチそっくりで約十倍の大きさのキラービーの巣だから参考になると思ったのだがな・・・」

「そういう事!?えっとね・・・えっとね・・・そうだ!千匹くらいが最大って聞いた事ある!」

俺の呟きにアランが敏感に反応して答える。

アランの言葉を信じるならばキラービーは多くても千体らしい。


「(それはいい情報を聞けた。)」

不思議な事に魔物の生態は似ている普通の生物と一緒の事が多い。

と言う事はスズメバチに似ているキラービーの生態はスズメバチと一緒という事だ。

アランの言葉を信じてキラービーの数は千体と仮定して戦略を立てる。



「アラン?キラービーも後で回収出来る様にした方がいいな?」

「そうね。でも状況が状況だし地上の滅び(エアフォール)でふっ飛ばしても・・・」

余程虫に囲まれている状況を見たくないのだろう。

アランが普段なら絶対に言わないことを言い出す。

地上の滅び(エアフォール)をニ、三発放てばキラービーは片付くだろうが俺達の後ろにいる帰還中の討伐隊が巻き込まれる可能性があるので却下だ。


「俺が外に出て処理するから粉塵が晴れたら援護してくれ。」

「・・・わかったわ。粉塵が晴れるまでは大人しくしてていいのね?」

俺の言葉にアランが心底嫌そうな顔で言うのでしっかりと頷く。

すぐに魔法で突風を起こして結界に張り付くキラービーを吹き飛ばしながら外に出て新たな魔法を発動する。

今回発動させる魔法は俺のオリジナル魔法雷鎧(サンダーアーマー)だ。

鎧と名付けているが、防御力は皆無で俺に近づく生物に対して無差別に電撃(サンダーボルト)を放つ魔法なのでアランを巻き込まないためにも結界から出て発動する必要があった。



「粉塵で見えないはずなのに俺に向かって来るのか・・・本当にどうやっているんだろうな?」

次々と粉塵の中俺に近づいて来て雷鎧(サンダーアーマー)に焼き殺されるキラービーを見て1人ごちりながら手当たり次第に粉塵の中に雷魔法を発動しまくる。

本当に手当たり次第に雷魔法を発動しているが、発動する毎にゴトリゴトリとキラービーが地面に落ちているであろう音が聞こえるので問題なさそうだ。


「(にしても多すぎだな・・・)」

何体倒したかは数えてないが、千体をゆうに超す数を倒したはずだがキラービーが襲ってくる勢いが衰える様子は無い。

気付けば足元には足の踏み場も無い程にキラービーの屍骸が積み重なり山になってきている。


「どんだけいるのよ!?ニコサボらないで働きなさいよ!?」

「俺の足元が見えないのか?あと俺の名前はルドルフだ。次間違えたら俺も間違えてお前に魔法を撃ち込むぞ。」

粉塵が晴れ、アランは結界に群がるキラービーを見て分かりやすく動転して周りに転がる夥しい数のキラービーの屍骸が見えていないようだ。

キィキィと半狂乱な様子で無茶苦茶な事を言っている。


「おい!急いで霧で覆え!帯電霧(チャージドミスト)で一網打尽にするぞ!」

「わ、わかった!」

アランが俺を中心に霧を発生させ始める。

俺の雷鎧(サンダーアーマー)が霧に溶け込み即席の帯電霧(チャージドミスト)が完成する。


「一気に広げていいの?」

「下準備は出来てる。むしろ一気に広げろ。」

「わかったわ!」

先程まで俺が雷魔法を使いまくっていたおかげで、周囲の空気中に雷属性の魔素で満ちている。

元々は俺の魔力なのですぐに俺の雷鎧(サンダーアーマー)の魔力に呼応して特大の帯電霧(チャージドミスト)となりキラービーを一網打尽に出来るはずだ。

俺は大急ぎでアランの結界へと避難しながらアランに霧を広げさせる。



「アラン結界に力を注いでるな?」

「全力で注ぎ中!!」

「ならいい。目を閉じてそのまま注ぎ続けてくれ。」

これで準備は整った。

俺はしっかりと目を閉じて霧を広げ終わったアランと一緒に結界の維持に集中してその時をじっと待つ。





「きゃあっっ!」

「よし。目を開けていいぞ。」

予想通りに強烈な閃光が起こり、先程までキラービーの羽音で煩かった森に静寂が訪れる。


「うわぁ・・・気持ち悪い・・・」

「少し威力が強すぎたな。」

アランが結界の外を見て顔を青くさせながら呟く。

周りを飛んでいたキラービー達は弾け飛んでバラバラになって地面に転がっている。少々雷の威力が強すぎたようだ。



「にしてもモルガンと言ったか?あいつは何をしたんだろうな?」

「そうだねぇ?ルドルフだけを狙ってたよねぇ?巣を壊したからってだけじゃないよねぇ?」

普通ならばここまで圧倒的な武力の差を見せ付ければ魔物は逃げるはずなのだが、キラービー達はしつように俺だけに向かって来ていた。

モルガンは俺に何をしたのか不思議に思いつつも新手がこないか結界の中でしっかりと辺りを伺う。




「終わった・・・でいいのよね?」

「そのようだな?」

しばらく待つが何も起こらないのでアランと一緒にキラービーの屍骸と巣の残骸だらけの静かな森を確認する。

魔物もモルガンも現れる事無く辺りの安全を確認し終える。


「で・・・このキラービーどうするかな。」

「ん?ギルドに報告しとけば討伐隊が報酬が増えた!って喜んで回収するでしょ?」

「成程。」

俺は積み上がったキラービーの山を見て思わず言うが、アランの言葉で解決した。

そういう事なら心配はする必要は無さそうだ。


「じゃあ予定通りにギルドに戻りましょ?」

「そうだな。」

王都に戻れると言う事もあり上機嫌なアランの後ろを付いて森を出てギルドへと戻る。


「邪魔するよ!サンドラいるでしょ?」

アランが冒険者ギルドに入って行き、足を止める事無く受付に声を掛けながら階段へと向かって行く。

人の少ない時間帯の上に討伐隊の出動によって冒険者がみんな出払っているのでギルドの中は閑散としていてとても歩きやすい。

アランの後ろを歩いていると食堂でイチャイチャするバカップルを発見する。

なぜかとても話しかけておかなければならない気がしたので、アランには先に行ってもらい、俺はバカップルへと歩を進める。

こういう時の勘は今まで外れた事がない。





「ライオ?このポテト絶対美味しいわよ?」

「本当だ!でもネル?こっちの方が美味しいよ?」

「あぁ・・・ライオの味がしてとても美味しいわ・・・」

「(俺の勘は外れだったか・・・)」

二人の会話を聞こえ、声をかける前にお腹いっぱいになったので踵を返してアランを追うことにする。


「ねぇライオ?あの方はルドルフさんじゃない?」

「その通りだね!気付くなんてさすがはネルだ!」

食堂を出ようとしていると二人に気付かれてしまう。

仕方ないので当初の予定通りに二人に話しかける。



「生きていたか。お前達は討伐隊には加わってないのか?」

「勿論さ!討伐隊は・・・ネルと離そうとしたからねぇ?」

「参加するなら別行動とか最低よね?ライオと離れたら死んじゃうのに!」

「僕もさネル!それに僕達は週に一体はレッドワイルドボアを狩れてるからお金には困ってないしね?」

「そうよ!なのに離れ離れにされてまで参加する意味はないわよね!ね?ライオ?」

一度の質問でお腹いっぱいである。

だが気になる事が出来たので聞いておかなければならない。


「ほう?前敵わずに死にかけていたのに週に一体だと?」

「あぁ!このロンギヌスで一刺しさ!ね?ネル?」

「さすがはライオよね?ルドルフさんには感謝しているわ?」

俺の質問にライオが俺の矢を掲げる。

俺の矢は矢尻に皮を巻きつけて持ち手を作り、槍のように使っているようだ。

半年前に殺されかけた魔物にロンギヌスとは名ばかりの矢一本で立ち向かうなど正気の沙汰では無いが週に一体狩れていると言う。

この二人からは疑問が無限に沸き出て来る。


「・・・どうやって仕留めるんだ?」

「私に突進してきた魔物をライオが一突きで守ってくれるの!」

「ハッハッハッ!ネルのためならあんな猪の一体や二体余裕だよ!」

にわかには信じがたい話だ、それが本当だとすれば一撃目で仕留めきれなければ、次の攻撃のために矢を抜いている最中にネルはワイルドレッドボアの突進を受けて死ぬだろう。

ライオが誇らしく掲げる俺の矢は柄が血を吸って真っ赤になっているし、こいつらは見栄を張るために嘘を吐くほど賢くは無いと思うので本当の話なのだろう。


「・・・本物の槍をやる。その矢よりはマシなはずだ。命は大事にしろ?」

俺はそう言って机の上に槍を取り出す。

穂先は素槍で何の装飾も無いシンプルな槍で持って戦うためではなく投げ槍用だが、今聞いた話ならこのただ突く為だけの槍がいいだろう。


「おぉ!ロンギヌスだ!ネル?これで十三階の魔熊も倒せるじゃないかな?」

「えぇ!ライオなら行けるに決まってるわ!」

二人は俺が取り出した槍を持ってギルドを飛び出して行く。

「(・・・俺の勘が外れたか?)」

ギルドから出る二人の後姿を見て自分自身に疑惑の念が浮かぶ。

今までゴブチョウ達やジャック達と出会ったりと俺の勘は外れた事は無かったのだが外れたかもしれない。

そんな事を考えながらサンドラの部屋へと向かう。

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