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第百四十話 ヴァネッサの本気

アランとの夕食を終えジャック達のテントへと行く。

ジャック達のテントは近くの冒険者に聞くとすぐに教えてもらえた。

討伐班のキャンプ位置は魔物襲来に備えて全員が把握しているらしいのでとても楽にジャック達のテントの場所が判明して大助かりだ。

「ジャック。今日はここに寝させてもらえるか?」

「ルドルフ殿!?どうぞどうぞ!」

「おぉ!?何か土産あるのか?」

「ブラン!ルドルフ殿・・・金級冒険者に失礼ですよ!」

俺がテントを覗き込むとジャック達が寛いでいたので、声をかける。

ジャックが大慌てでテント内を片付け始め、寝転んだブランがいつも通りの様子で言い、ジャックと一緒に片付けをしていたグレイがブランに本気の蹴りをしている。

思わずいつも通りの騒がしいジャック達のやりとりを見てほっこりする。




その後はテントの中に入り鍛錬を教えたりブランに追加の矢を上げたりして楽しく過ごして朝を迎える。

ジャック達が少々臭かったので体を拭いてる間に洗浄魔法(クリーン)を掛けても汚れが落ちなかったので、魔法で水球を出して洗濯してやったりなどのちょっとしたアクシデントはあったが、予想通りに快眠できた。


「ルドルフさんおはようございます!」

「おうルドルフ起きたかぁ!?」

「馬鹿野郎!何度行ったらわかる?金級冒険者にタメ口を聞く奴があるか!」

いつも通りに日の出と共に起きたのだが、ジャック達は起きて各々の武器の手入れをしていた。

ブランがニコの時と同じように接してジャックから拳骨をされている。


「おはよう。早いんだな?」

「ええ!森の中なので日が昇っている間に出来る限り移動しないといけませんからね?」

ジャックの言葉に納得する。

普通の冒険はキャラバンでの移動と一緒で明るい時間に出来る限り移動して、暗くなりきる前に余裕を持って夜営をするようだ。



「そうか。納得した。世話になった。」

「いえ!こちらこそありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

俺が寝袋畳み立ち上がると三人が九十度のお辞儀で見送ってくれる。

ニコの時ならやめてくれと言うのだが、今はルドルフだ。

ルドルフがジャック達にそんな事を言うのは不自然だろうと思うので、背中がむず痒くなるが甘んじて受け入れるのが正解なのだろう。

俺はあえて注意はせずに手を振ってテントから出てアランの下へと戻る。



「おかえり。」

「ただいま。まだへそを曲げているのか?」

俺が昨日夕食をした場所に戻ると仏頂面で焚き火にあたるアランが出迎えてくれた。

俺と一緒に寝られなかったからと言ってそこまで分かりやすく不機嫌になるものかと疑問に思ってしまう。


「お腹空いた。」

「わかったわかった。」

アランは焚き火を見つめて、俺に視線を向ける事無く朝食の催促をしてくる。

ここまで不機嫌なアランは始めてだ。

俺はさっさと昨日作っていたスープを温めながらベーコンエッグを焼く。


「ジャック達との野営は楽しかったの?」

「まぁ普通だな。少し臭かったから服を洗ってやったりと少し大変だったがな?」

「普通・・・ね?あたしとの最悪の睡眠に比べたら最高の評価ね。」

「そんなに拗ねる事か?そんなに言うならせめて、せめてだ!寝相を直せ。」

アランが焚き火を見たままボソボソと話してくる。

気を使って話しているのが段々馬鹿馬鹿しくなるので、アランにはっきりと言っておく。


「・・・寝相直せば一緒に寝てくれるの?」

「今回のような状況なら・・・仕方無く寝るだろうな。」

アランが焚き火から視線を外して今日初めて俺を見る。

昨日のようにテントが壊れたなどのアクシデントがあれば仕方なく一緒に寝るしかない。という意味で言ったのだがアランはガッツポーズをして鼻息を荒くしているので間違って伝わったような気がしてならない。


「とりあえず自分の体を縛る事から始めるわ。」

「そう言う意味で直せと言った訳じゃないんだがな。。。絶対に俺が寝ている時、寝てない時でもだ、勝手に部屋に入ってくるな?」

やはり何やら勘違いしているようだ。

再度ガッツポーズをしながら何やら意気込んでいる。

寝相が直ったら夜忍び込んで来そうな雰囲気なので聞こえているかは不明だがアランにしっかりと注意しながら朝食を渡す。


「さっ!寝相の矯正は今日の夜からするとして!今日はギルドとの交渉よ?さっさと食べて帰りましょ!?」

「そうだな?」

途端に機嫌がよくなったアランが朝食を食べ始めるので、俺も一緒に朝食を食べる。

俺達が朝食を食べていると周りの冒険者達が慌しく動き始めすぐにテントなどを片付けて出発し始める。


「もう出発か。慌しいな。」

「あたし達と違って時間がかかるからねぇ?今日の日が変わるまでに王都に付くくらいの予定なんじゃない?」

俺が周りを見ながら言うとアランが教えてくれる。

普通の状態なら魔物に出会わずに歩ければ今日の夕方には森を出られるだろうが、何百体ものロックリザードを初めとした魔物を運んで今日中に王都まで、となると帰りはかなりの強行軍になるのだろう。


「そんなに心配しなくても荷物運びは交代制だし、見張りや討伐班もいる

し大丈夫っしょ!」

「そうか。そんなに心配そうな顔をしてたか?」

俺が尋ねるとアランは笑顔で大きく頷く。

森を出てからは俺が何を考えているのかわからないと言われ続けてきたのでとても新鮮だ。


「ほう?俺はそんなにわかりやすいのか?」

俺は気付いた時にはアランに尋ねていた。

アランはニヤリと笑ってスープを飲んでそれ以上の反応は無い。

何を言う訳でもないアランにドギマギとしてしまう。


「アラン?言葉にしてくれないとわからないぞ?」

「んー難しい質問ね?ルドルフの表情は見えないけど、あたしにはわかるのよね?」

「意味がわからん。」

「愛の力よ!」

「いよいよ意味がわからん。」

「ウフフ?まだまだお子様ね。」

「ちっ!さっさと行くぞ。」

アランの言葉に思わず舌打ちしながら朝食を食べ終わり、鍋やフライパンに洗浄魔法(クリーン)をかけて綺麗にする。


「待って!あたしが先に行かないと置いてかれるっつぅのっ!」

「なら急げ。それが嫌ならしっかりと説明しろ。」

朝食を口の中に詰め込んでフゴフゴ言いながら俺に食器を渡してくるので洗浄魔法(クリーン)で綺麗にしてマジックバッグに放り込む。


「んぐっ!じゃあ帰るよ?」

「あぁ俺は付いて行く。」

アランは胸を叩きながら朝食を飲み込んで森へと走り始めるので、俺は後ろを付いて森を進む。




「魔物はいないし問題無さそうね!?」

「そうだな。」

「えっ!?声張ってくれないと聞こえない!」

「そうだな。と言った。」

森の中を進みながら列をなして森を進む冒険者を見ながらアランが言って来る。

返答するが風の音に掻き消され俺の声は届かないようだ。

催促されるので声のボリュームを上げるがまだ届かなかったようで、アランは

諦めたような笑みを浮かべて前を向いて森を進むのに専念し始める。




冒険者の先頭を追い越し二人だけで森を進んでいると急にアランが立ち止まる。

何事かと思って隣に並んでアランの視線の先を見ると見覚えのあるカラフルな髪色の青年が立っていた。

とても見覚えがある、シモンヌ改めヴァネッサと一緒に俺達を襲ってきた男だ。

「ルドルフ御客様よ?」

「・・・のようだな。」

「おい!好き勝手してくれてんじゃねぇよ!」

アランとこちらへ歩いて来るカラフルな男を眺めていると、カラフルな男はつんつん頭も相まって正に怒髪天を突くといった様子で大声で言って来る。


「好き勝手と言われてもなぁ?」

「なんの事やらよねぇ?」

「ちっ!リオルゲンに、前回の襲撃に・・・ミノタウロス牧場の破壊に今回の湿地帯の王都陥落計画の一つを潰してくれちゃってよぉ!?」

男はかなり怒っているのだが俺もアランも何を好き勝手したのか全くわからないので、目を見合わせて一緒に首を傾げていると色々と耳寄りな情報を教えてくれる。


「(サボテン達が人に慣れていて不思議だったが、合点がいった。)」

まずライネンの街で起きたミノタウロス事件はこいつらが頑張って繁殖させていたミノタウロス達だったようだ。

そして今回の湿地の魔法陣を描いたのはこいつらで、しかも一つと言ったので他にも気付かれて無いだけで魔法陣はあるようだ。



「ハイゼン王国の計画を潰しちゃった?ごめーんねっ!?」

「ハイゼン王国は関係ねぇ!とりあえずお前ら邪魔!死んでくれ?」

男が右手を上げると周囲の空間が不自然に歪み始め、大量の巨大な蜂が現れる。

体長五十センチのスズメバチのような魔物だ。


「ルドルフ気をつけな?あいつら殺人蜂って言われてて尻の針に猛毒持ってるからね?勿論噛み付かれたら腕とか簡単に持っていかれちゃうからね?」

「ふむ、確かキラービーと言ったか?かなり面倒臭い敵だが、あいつは一緒に囲まれてるが大丈夫なのか?」

アランがローブの裾から水蒸気を出しながら俺に言って来る。

アランは言葉ではかなり危険な事を言っているが表情には余裕があるのでおそらくカラフルな男を油断させるために言っただけで、アランの魔力特性で簡単に凍らせて処理出来るのだろう。

俺は安心すると共にカラフルな男も一緒にキラービーに囲まれている事に気付いて疑問に思う。


「はっ!俺は問題ねぇよ!お前ら行け!」

カラフルな男が上げていた右手を勢いよく前に振るとキラービー達が一斉に襲い掛かってくる。

「(どうやって眷属でもない魔虫を操っているのだろうか?)」

そんな事を考えているとアランが魔力特性を発動し、キラービーが地面に転がって行く。



「で・・・名前が分からんからとりあえず髪男でいいか?次はどうする?」

「う、うるせぇ!モルガンって名前がある!ヴァネッサ次だ!」

この男はモルガンという名前らしい。

モルガンはチャラついた見た目通り口が軽いようで、聞けば聞いただけ情報が出て来そうだ。

男が手を挙げると先程と同じように空間が歪み始めるので、歪みに向けて魔力弾を打ち込む。

転移魔法はとても緻密な魔法なのでこうやって魔力弾を当てて妨害するだけで不発になる。



「なぁ、少し話をしないか?お前らはハイゼン王国は関係ないと言ったがどういう事だ?」

「なんで転移してこねぇんだよ!?うるせぇ!」

追加のキラービーが出てこずモルガンは焦った様子なので、次の質問をする。

先程と同じように俺の質問に答えてくれればよかったのだが、モルガンはすぐに余裕を含んだ笑みをし始める。

出会ってから一秒たりとも同じ表情をしてない、なんとも忙しい男である。


「はぁーっはっっ!ヴァネッサもお前らにはうんざりだとよ!?じゃあな!」

モルガンはそう言って転移石を取り出してどこかへと転移してしまう。


「もう魔力を広げて無くてもいいのかな?」

「そうだな・・・とりあえずすぐに魔力障壁だ。」

モルガンが消えアランが魔力を収めながら聞いて来る。

アランは気付いて無い様だが俺達の頭上に巨大な空間の歪みが出来ている。

妨害するために魔力弾を飛ばすが間に合わず、巨大な何かが空中に出て来る。


「・・・やっべぇっっっじゃん!!」

俺に遅れて頭上の巨大な物体を見たアランが分かりやすく慌てて氷弾を飛ばし始める。

「氷をぶつけても意味は無いと思うぞ?・・・あれは蜂の巣か?」

空中に突如出てきた巨大な物体を観察する。

家一軒どころか学校の演習場よりも巨大に見える。

俺の知っている物から考えるとサイズが桁違いなので一瞬分からなかったが蜂の巣のようだ。

面倒臭くなって巣ごと俺達にけしかけたようだ。多分俺の推測は間違ってない自信がある。


「冷静に分析せずに結界!結界張って!」

「いや結界よりも魔力障壁を張れるだけ何重にも張るぞ。結界はアランに任せる。」

俺の見立て通り蜂の巣だとすれば巣自体の強度は岩などに比べれば脆いはずだ。

魔法陣を描いたりしなければ発動できない時間のかかる結界はアランに任せて、俺は魔法障壁を発動出来るだけ重ね掛けして蜂の巣を待ち構える。

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