第百三十九話 魔物の魔力特性
慎重に圧縮した水を元に戻してミスリルゴーレムの解体を試みる。
「(硬すぎて皮を剥げん・・・縦に真っ二つにすればよかった・・・)」
文字通り歯が立たない。
いつもの癖で首を切って仕留めてしまったことを軽く後悔しながら、辟易しつつもミスリルメタルサウルスの肉を切断面から頑張ってくり抜く。
「ルドルフくらいになると、あんな奥の手があるのね?」
「あれが奥の手だと?圧縮に時間がかかりすぎて奥の手と言うには杜撰すぎる。」
俺がミスリルメタルサウルスの肉でステーキを作っていると、アランが近寄ってくる。
アランは感心した様子で言って来るが、あんなお粗末な魔法が奥の手などと言ってはいい笑いものだ。
今回はミスリルメタルサウルスが俺の事を敵と認識しなかった事、そして生まれたばかりで空腹だった上に目の前に美味しそうな餌があった事などの幸運が重なって使えた方法だ。
そうでなければ発動準備に三分以上もかかる魔法など戦闘中に用意出来る訳が無い。
「ん?ルドルフなら戦闘しながら圧縮水刃を準備出来るっしょ?」
「お前は俺を何だと思ってる?戦闘中に料理を作る方がまだマシだ。」
アランが簡単に言って来る。
アランの中での俺の評価がどうなっているのかとても気になるが、それよりも現実を教えておく。
水を集め、圧縮し、維持をする。
この三つの作業を制御するので一杯一杯なのだ。その上更に戦闘もこなすなど今の俺では不可能だ。
「ふーん・・・まぁいいや!そういえばあたし朝一で出発してから何も食べてないからお腹減った!」
「わかったわかった。もう料理が出来るから昼食の準備をしてくれ。」
「へい!」
アランがそそくさと机を並べたりして昼食の準備をするので、俺も出来上がった料理を机に配膳する。
今日のメニューはティラノサウルス入りスープにミスリルメタルサウルスのステーキとトーストだ。
俺がアランが用意した机の上に皿を置くと満面の笑みのアランがステーキにかぶりつく。
俺も席に座ってステーキを食べる。
「あれだな?余り美味くないな?」
「そうね・・・スープのティラノサウルスの方が美味しいわね・・・」
ミスリルメタルサウルスはミスリルの生成に魔素のほとんどを使っていて体は外皮以外はメタルサウルスと一緒なようだ。
魔物肉は魔力量が高い方が美味しい場合が圧倒的に多い。アラン曰く魔力は旨味!だそうだ。
「にしても・・・お前は俺の飯を食べて俺に食器を洗わせて、その上紅茶まで飲むのか?本当にいい御身分だな?」
「ロックリザードを二百?三百?数え切れないくらいに狩ったからねぇ?それに周りの冒険者からすれば今のルドルフもいいご身分に見えるだろうね?」
「それは違いない。だが俺も働いたはずだ。」
「そっ!変に薮を突くのは良くないよぉ?」
食後の紅茶を飲みながらアランに嫌味を言うが、そっくりそのまま返されてしまう。
何も言い返せずとても悔しいが、周りの冒険者達は忙しなく働いている。
アランと一緒に眺めながら食事をする。
「ねぇルドルフ?」
「なんだ?」
「ティラノサウルスの解体手伝ってあげたら?ってルドルフも切れなかったか・・・」
「確かに日が暮れそうだな・・・おそらく問題無い。」
アランが言って来る。
丸ごとは運べないティラノサウルスを解体しようと冒険者達が群がっているが皮膚が切れないようでて一行に解体が進む素振りは無い。
俺は刀を抜いてティラノサウルスの死体へと近づく。
「ジャック。みんなをどかせてくれ。」
「ルドルフさん!?おい!みんな離れろ!ルドルフさんが解体してくれるぞ!」
解体中のジャックに声をかけるとすぐにティラノサウルスに群がっていた冒険者達が静かに離れる。
ジャックのリーダーシップのおかげでとても素直で仕事がやりやすくて大変助かる。
刀に魔力を込めてまずは四肢を切り分け、次に胴体を適当な大きさに切り分ける。
「後は任せたぞ?」
「さすががルドルフさんだ!お任せください!おい!グレイはポーター班を呼べ!ブランは俺と肉を運ぶぞ!」
解体を終えジャックに声をかけると、すぐに忙しなく指示を出し始めるので安心して優雅に紅茶を楽しむアランの下に戻る。
「お疲れ様!労わって上げなきゃね・・・紅茶淹れようか?」
「お前は人の口に入るものに手を触れるな。沼に沈めるぞ。」
俺が戻ると笑顔のアランが危険な事を口走る。
アランが料理をすると死人が出る可能性もあるので、少し酷い言い方かもしれないが、しっかりと釘を刺してから自分で紅茶を淹れる。
「んむぅ・・・ねぇ?なんで今は切れたの?」
「・・・神銀級なのに知らないのか?魔物の皮膚は生きてる時は魔力が通っていて皮膚が硬化してるからな。おそらくティラノサウルスなどの地竜系統の魔物は魔力特性が皮膚硬化だからと言われているな。」
膨れっ面のアランが言って来る。
常識だと思っていたが神銀級のアランが驚いているので常識では無い様だ。
ミスリルメタルサウルスの皮膚は神銀なので魔力が通って無くても切れなかったが、ティラノサウルスの皮膚ならば魔力が通ってなければ切る事が出来るのだ。
「お前らで最後だなっ!?王都に戻って終わりだ気合入れるぞっ!」
「ふむ、俺達も行くか。」
「え?まさかとは思ったけど付いて行くの?」
湿地の出口からセルジュと思わしい声が聞こえる。
俺も付いて行こうと立ち上がるとアランが驚いている。
俺の依頼は冒険者の救助だ。
王都までの間に何かが起これば、俺の任務は失敗と言う事になってしまうのでアランに説明する。
「アラン?俺達の依頼は湿地の魔物の討伐と残された冒険者の救助だ。だから「そっ!湿地から出れば救助完了っしょ!?」
俺の説明を遮ってアランがドヤ顔で言って来る。
詭弁にも聞こえるが、アランの言う事にも一理ある。
それになによりも大荷物を運ぶ冒険者達と一緒にゆっくり帰っていては学校が始まってしまう。
「確かに夜営に参加して明日の朝一で帰るか。そうだアラン?ギルドとの報酬交渉任せたいのだが?」
「お姉さんに任せなさい!ギルド秘蔵のマジックアイテム出させちゃう?」
アランと一緒に机と椅子を片付けながらギルドとの交渉をお願いすると、二つ返事で快諾してくれる。
本当にアランは酔っていなければとても頼りになる。
「そこはアランに任せる。だが俺達が取り過ぎないようにな?」
「わかってるって!全部お姉さんに任せなさい!」
アランは自信満々に胸を叩いて言うので、問題無さそうだ。
明日アランと交渉するフィルとサンドラの困った顔が浮かぶが、フィルにはこうなると念を押しておいたので、そっちの方も問題無いと信じたい。
「よし!さっさと野営地点に向かうよ?」
「わかった。お前のペースに合わせる。」
「お前だなんて・・・」
片付けを終え、アランの後ろを付いて行く。
アランがなぜか「お前」と言う言葉に反応して顔を上気させているがよく意味がわからない。
とりあえずアランと一緒に森を立体機動で冒険者達の列を眺めながら進み今日の夜営地点へと向かう。
野営地点に到着し、アランはそのまま中央にある大型のテントに向かい。
我がもの顔でアランがテントへと足を踏み入れる。
中で作戦会議でもしていたのだろう、ジャック達を含めた大勢の冒険者達がセルジュを中心に集まり真面目な顔で話し合いをしていた。
「邪魔するよ!」
「ア、アランさん!?どうぞこちらへ!」
アランの言葉に中の冒険者達の視線が一斉にアランに集まり、中央にいるセルジュが驚きながらも即座に横に避けて自分が立っていた場所へと促している。
「あーそんなんじゃ無いから!今日あたしとルドルフは適当な場所で夜営して明日先に王都に帰るから!それを言いに来ただけ!ほんじゃね?」
冒険者達は何も言わずにただポカンとアランを見つめるばかりで反応は無い。
アランはこの状況を気にした様子も無く、一方的に言い放ってテントから出て行くので俺も慌ててアランの後ろを付いてテントから出る。
「よし!業務連絡も終わったし端っこで夜営しよ?」
「・・・一応言っておく。テントは別だからな?」
「なっ!?あたしテント持ってない!」
「お前がテント持ってない訳ないだろうが!俺は昨日あまり寝れなかったから今日はゆっくりと寝たいんだ!」
アランと一緒に寝て今まで安眠出来た事が無い。
俺は昨日夜更かしをしたので今日はゆっくりと寝たいのだ。
アランはとても不満そうにしているが、俺が珍しく声を張ったからか何も反論は無い様だ。
「わかった。代わりと言ってはなんだが何が食べたい?」
「ならタンシチューと前食べ損ねたカルパッチョ!」
「分かった。」
「なら邪魔にならないように端っこで夜営の準備しよ!」
俺の提案で機嫌を直したアランに手を引かれ、森の手前で夜営を始める。
「ルドルフは料理に集中してね?テントはあたしに任せて?」
「わかった。二個設営しろよ?」
「合点だ!」
アランに俺のテントを渡して俺は料理を作り始める。
「(やはり酔ってない時のアランは頼れるな。)」
全て俺任せのターニャ達との冒険と比べると進んで自分の仕事をしてくれるアランとの夜営はとても楽でいい。
そんな事を考えながら料理を作る。
「お待たせ!出来た?」
料理が出来上がり、完璧なタイミングでアランが帰ってくる。
普通なら無駄に待つ時間が省けて喜ぶところだが、料理の間ずっとアランの姿は無かった。
テントを設営する程度の作業でそんなにかかる訳が無いので大変怪しい。
「アラン?テントの設営でそんなに時間がかかったのか?」
「ん?え?えーっとねぇ?あたしのテントが壊れてて修理しようとしたけど無理だったんだよね・・・」
「そのテント見せて見ろ?」
「え?修理に失敗して使えなくなったから捨てた!」
アランは俺の質問に分かりやすく目を白黒させて答える。
この反応だけで十分に真っ黒である。
俺と寝て何が楽しいのかはわからないが、テントが壊れたと言うのは俺と寝たいがための口実だ。
もしかすると実際に自分のテントを破壊した可能性もある。
「俺のテントは設営出来たのか?」
「うん!だから・・・今日は・・・ルドルフのテントに・・・」
「ならお前は俺のテントで寝ろ。俺はジャックのテントにでも泊めてもらおう。」
俺が料理を配膳しながら言うと、アランは分かりやすく顎が外れたのかと心配になるほどに口をあんぐりと開けている。
アランと寝るくらいなら少々男臭くてもジャック達と寝たほうが確実に安眠出来るはずだ。
「アラン?テントが壊れていたのは不幸な事故だったな?辛いだろうが俺の料理を食べてしっかりと休んでくれ。」
「・・・ごねたら夕食抜きって事ね?」
アランは物分りが良くて本当に助かる。
なんなら諦めて自分のテントを設営してくれれば言う事無いのだが、本気で悔しそうにしているので恐らく自分のテントは破壊したのだろうと容易に予想できる。
「そんな事は言ってないだろう?じゃあ夕食を食べようか?」
「わかりました!わかりましたよ!」
アランが夕食を食べ始めるので、俺はアランに勝ったと小さくガッツポーズをして夕食を始める。
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