第百三十八話 湿地帯討伐完了
ロックリザードが凶悪な牙がびっしりと並んだ口を広げて飛び掛ってくるので斬り捨てる、一息つく暇も無く次のロックリザードが地面に力無く転がる仲間を踏みつけて飛び掛ってくる。
最初のうちは数えていたが、数秒で止めた。
カウントが早すぎて戦闘に集中出来なかったからだ。
「アラン!もう十秒は経ったぞ!数秒じゃなかったのか!?」
無防備に座禅を組んで集中するアランを守りながら全方位から襲い掛かってくるロックリザードを剣だけで相手をするのには限界がある。
思わず声を大にして尋ねる。
「出来た!ロックリザードを凍らせるから気合入れて魔力を込めたよ!?」
「ならさっさと凍らせてくれ!」
「はいな!」
軽く返事をしたアランが両手を広げると周りに迫っていたロックリザードが一斉に凍って動かなくなる。
「お待たせ!じゃあ作戦開始!」
「分かった。」
凍ったロックリザードを見て満足そうに頷くアランがサムズアップして次を促す。
俺は早速出来る限り広範囲に魔力を飛ばして魔物達を挑発する。
「来た来た!じゃあ出来る限り引き寄せて・・・えいやっ!」
「(俺ではこんなに大人しく殲滅は無理だな。)」
アランが気合を入れると俺達に飛びかかろうと踏ん張っていたロックリザードがそのままの体制でコテンと倒れる。
アラン曰く強い魔物には簡単にレジストされると言う話だが、こういう雑魚戦ではアランに分があるようだ。
俺が地形を変えずに殲滅しようとしたら、もっと大量の魔力を使用するだろうと素直に感心する。
「グギャオォォォッッ!」
「来たよ?不測の事態。」
「食料を食い尽くして森に行ってたか、予想通りだな。」
アランが淡淡とロックリザードを凍らせていると森から咆哮と共に巨大な二足歩行の蜥蜴が現れる。
おそらくあれがウランの言っていた蜥蜴のような魔物で間違いないだろう。
「確かティラノサウルスって魔物だね?行かないの?えいやっ!」
「地竜だが所詮は亜竜だ。ギリギリまで引き付けるぞ。」
見た目を一言で言うなら巨大な二足歩行する蜥蜴だ。
だが噛み付きに特化した大きく凶悪な牙が覗く口、短いが敵を切り裂く事に特化した鋭い爪が付いた前足に巨躯を支え走るためだけの後ろ足。
そして何よりも地竜の亜種という事もあり、図鑑によれば皮膚は岩よりも硬いそうだ。
「(捕食と強さだけを求めればあんな風貌に進化するのか?)」
そんな事を考えながらティラノサウルスをしっかりと見据えて待つ。
心情的には今すぐにでも丘を降りて駆け出したいが、俺が離れるとロックリザード達はアランに向かわずに俺に向かってきてしまうからだ。
「ルドルフ!?ロックリザード終わったよ!?てか早く行って!あいつは凍らせれない!ってか恐いからぁっ!」
「そのようだな・・・行って来る。」
ロックリザードの群れが片付き、アランが叫びにも近い声で言って来る。
俺はしっかりと深呼吸をして丘に足を踏み入れたティラノサウルスに飛び込む。
「グァオォォォォォッ!!」
「静かにしろ。」
ティラノサウルスが咆哮を上げながら短い前足を振って来るので刀で受け流し首を斬りつけるが金属音を上げて弾かれる。
直後上から鋭い牙が並んだ口が迫って来るので、咄嗟に魔力障壁を展開して噛み付きを防ぐ。
ティラノサウルスはしばらく魔力障壁を噛んでから、俺を睨みながら体を捻る。
おそらく反動を付けて巨大な尻尾をぶつけるつもりのようだ。
ありがたい事に魔力障壁を壊そうと無駄な努力をしてくれたおかげで魔法を発動する余裕が出来た。
「空気拘束。」
そしてやはり竜と言っても獣だ。
予想通りに体を回して尻尾が迫って来るので、遠慮無くティラノサウルスの尻尾と言わず全身をくまなく拘束する。
「グオォォォォォッ!!」
ティラノサウルスは鼻息を荒げ俺を睨みつけながら怒声を上げるが空気拘束によって全く動けないなので、おそらく精一杯の威嚇なのだろう。
こうなってしまえば亜竜だろうが蜥蜴と同じだ、ティラノサウルスの目に刀を突き刺し雷魔法を発動して体を内側から破壊する。
雷魔法を発動して数秒、ティラノサウルスの息が止まり体の強張りが無くなった事を確認して空気拘束を解除する。
「さすがはルドルフ、全く危なげ無いねぇ?」
「刀が一切通らなかったのは予想外だったから焦ったがな。」
アランが満面の笑みで言って来るが、俺の刀で一切傷が付かないとは思っていなかった。
こいつが魔力障壁を壊そうと試みてくれなかったら、もう少し苦戦していただろう。
「でもねぇ?更に不測の事態だよぉ?あれあれぇ!」
刀に付いた血を拭いているとなぜか楽しそうに遠くを指差しながらアランが言って来る。
アランの指の先を見ると魔素溜まりが激しく膨張と収縮を繰り返していた。
「さて。何が出て来るか・・・」
「あたしとルドルフなら余裕っしょ?」
アランは俺の言葉にあっけらかんと楽しそうに答えているが、俺はどんな魔物が出て来るか気が気では無い。
すぐに巨大な魔素溜まりが小さく小さく収縮し始める。
「小さいみたいだよ!?弱い敵なんじゃない!?」
「馬鹿。あれだけの魔素を凝縮してるんだぞ?逆に危険だ。」
アランが俺の肩を掴んでピョンピョンと飛び跳ねながら言って来る。
俺の感想は真逆で人間程の大きさの魔物にあれだけの巨大な魔素が詰まるのだ、そんな魔物が弱い訳が無い。
二人で話していると黒い塊が集約して怪しく輝く銀色の爬虫類の魔物が現れる。
「メタルサウルス・・・?でも銀色?まさか?」
「アランも覚えがあるか?俺が思った魔物でない事を願うばかりだ。」
現れた魔物は馬くらいの大きさでティラノサウルスを小さくそして細くした蜥蜴のような魔物、メタルサウルスだ。
ただ普通のメタルサウルスは黒っぽい体のはずだが、目の前にいるメタルサウルスは銀色だ。
俺は歴史書で銀色のメタルサウルスに関するものを見た事がある。
名前をミスリルメタルサウルスと言って皮膚が神銀で出来ているので恐ろしく硬く、そして魔力を通さないので魔法が通じない。
百年以上前にエト山脈の坑道に発生し、軍が出動し国を挙げて討伐隊が組まれた。
最終的には多大な被害を出しながらも坑道の奥に追い詰め、百人以上の魔法師が協力して魔法を発動して坑道を一時間以上の間、炎で埋め尽くして仕留めたと書いてあった。
しかもその時の死因は焼死ではなく窒息であり体は傷一つ無かったと書いてあったと記憶している。
「ミスリルメタルサウルス?」
「はぁ・・・やはりそうか・・・どうやって倒す?窒息させるにしても魔力が通じない皮膚だ、結界で足止めも無理だぞ?」
「とりあえず攻撃あるのみっしょ!」
「そうだな。援護を頼む。」
アランがミスリルメタルサウルスに対して大量の氷の槍を飛ばし始めるので、俺もアランの射線に出ないようにミスリルメタルサウルスへと走り出す。
氷の槍は見事に全弾命中するが、ミスリルメタルサウルスは意に介した様子は無くのん気に欠伸をするかのように口を大きく開いて目を細めている。
俺は刀に出来る限りの魔力を流して強化し、ミスリルメタルサウルスに斬りかかる。
ミスリルメタルサウルスはまだのん気に欠伸をしているので遠慮なく斬りかかるが金属音を鳴らすばかりで皮膚には傷一つ付いてない。
それどころかミスリルメタルサウルスは俺達を気にした様子も無く、ティラノサウルスの死体を見つけて駆け寄って食べ始める。
俺達という脅威の排除よりも食事を優先したようだ。
「ちっ!舐められたもんね!?」
「そうだな・・・後悔する暇も与えずに倒してやろう。」
アランが無視された事に対して舌打ちをして不満を顕わにしているがやはり魔素溜まりから産まれ出たばかりの赤ん坊だ。
魔法も剣も通じない強敵だが手が無い訳では無い。即座にミスリルを切断出来る魔法をイメージする。
「ねぇ?何してんの?」
「圧縮水刃を準備している。」
俺が沼の中から水を集めているとアランが声を掛けてくる。
ミスリルメタルサウルスが腹いっぱいになって俺達に襲ってくる前に準備を終えなければ俺は殺されるだろう。
出来る限り手短に答えて魔法に集中する。
「え?それで切れるの?」
「分からんが俺の今使える魔法で物理的に一番威力があるのはこれだ。これが通じなければ俺は殺されるだろうな?アランは今のうちに冒険者を連れて逃げろ。」
アランに説明するだけ説明して、水を集めながらひたすら圧縮して行く。
魔法で作った水では無く、あえて沼の水を魔法で圧縮して物理法則によって圧縮水刃を発動するつもりだ。
これなら物理攻撃のはずなのでミスリルを切れる威力さえ作り出せればミスリルメタルサウルスを倒せるはずだ。
「まだだ、まだ水を集める・・・圧縮・・・まだ圧縮だ。限界を超えろ。」
自分に言い聞かせてイメージを固めるために声に出して水を圧縮して行く。
ミスリルメタルサウルスは食事に夢中なおかげで、今の俺で出来うる限り水を圧縮する事に成功した。
ミスリルメタルサウルスに向かって渾身の圧縮水刃を発動する。
ビー玉サイズにまで圧縮した水の玉からに糸のように細い一条の水が前方に飛び出す。
俺が魔法で圧縮している水から物理法則によって飛び出した水は魔力を帯びていないので魔力を通さないミスリルにも効くはずだ、後はミスリルを切れるかどうかという問題が残っているが、こればかりはやってみないとわからない。
慎重にビー玉の方向を調整して一条の糸をミスリルメタルサウルスへと誘う。
「ねぇ効いてるの?」
「俺に聞くな。聞くならミスリルメタルサウルスに聞け。」
俺の圧縮水刃がティラノサウルスを食べているミスリルメタルサウルスの首を通り過ぎたのを見てアランが俺に聞いてくる。
俺に聞かれても困る、と言うか集中して気付かなかったが冒険者を連れて逃げろと指示したのになぜアランはここにいるのだろうか?
ミスリルメタルサウルスは何事も無かったかのようにティラノサウルスを食べているが、ティラノサウルスの肉を食い千切ろうと力を込めた時に異変は起こった。
ミスリルメタルサウルスの首と胴体が玩具のようにポンと離れて、胴体が尻餅を付いて地面に転がる。
続いて切断面から思い出した様に血が噴き出す。
頭はティラノサウルスに噛みついたままキョトンとした表情をしている。
圧縮水刃の切れ味が鋭すぎて、ミスリルメタルサウルスは切られた事に気付いて無い様だ。
「効いてたらしいぞ?」
「さっすがはあたしのルドルフ!」
アランが俺の肩を叩いて最近お馴染みになった戯言を言いながら俺達の戦闘を見ていた冒険者達が詰める結界へと走って行く。
「俺はお前のものじゃないぞ?というかなぜここにいる?冒険者を連れて逃げろと指示したはずだが?」
俺はすぐに振り返って言うのだが、すでに豆粒の大きさにまで離れたアランには聞こえなかったようだ。
アランが結界の中に入るとすぐに結界が解かれ冒険者達が出てきてある者は魔物を解体し始め、ある者はポーターを呼びに森へと走って行く。
「(ならこの水は今は無いほうがいいのだろうが・・・)」
そう思うが水の圧縮を維持し続けるにも限界がある。
一気に解除すると確実に爆発するので、圧縮するために集めていた時よりもゆっくりと魔法を解除して湿地へと水を戻す。
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