第百三十七話 救援ルドルフ
「………!お………おい……おい!起きろ!」
「思った以上に深く眠っていたようだな・・・」
誰かに揺さぶられ目覚める。
眠たいのだが、目を擦りながらも必死に起き上がって答える。
「なんてのん気なやつだ・・・」
「すまんな。お前がセルジュか?普段なら寝ている時間だが駆け付けたんだ。多めに見てくれ。」
目を開けると呆れた様子で俺を見る赤髪のおっさんがいた。
俺はウィンストンの訓練も、もう終わりと言う時にフィルから言われて走って来たのでとても眠たいのだ。
「確かに思った以上に早い救援でありがたい。それで?あんた以外に何人来る?」
「知らん。俺は依頼を受けて来ただけだ。さ、何があって今の状況か説明してくれ。」
「はぁ!?あんただけだと!?」
「もしかしたらアランも来るかもな?とにかく説明をしろ!しないなら俺は寝る。」
俺の言葉にセルジュらしき男は驚いている。
最近はフォルナやアイリーンも慣れてきてちょっとやそっとの事では驚いたりしなくなったので、とても新鮮だ。
新鮮だが説明をするのが大変面倒臭い。そして何よりも眠たい。
「その前に・・・あんたは誰だ?救援依頼を受けたのなら、依頼票も見せてくれ!」
「申し遅れたルドルフだ。依頼票は緊急依頼だ。緊急すぎて報酬さえも決まって無い状況だから無い。」
俺はセルジュにギルドカードを見せながら自己紹介をする。
セルジュは俺のギルドカードを見て目を剥いて、俺とギルドカードを何度も交互に見る。
「わかった。あんたが噂のルドルフさんなら一人でも問題無いのだろうな・・・」
「俺の説明はいらんようだな?では今回の状況を教えてくれ。」
俺の名も中々売れてきたようだ。
当初有名になるのはとても嫌だったが、こういう役得もあるのでどちらも良し悪しである。
セルジュは俺の言葉に静かに頷いて湿地帯に入ってからの事の顛末を説明してくれる。
「わかった。周りのロックリザードはどうとでもなるが、魔素溜まりを見てから対応を決めよう。ではまた明日会おう。」
セルジュの話を聞き、明るくなってから魔素溜まりを確認してから動く事にする。
周りのロックリザードを片付けるだけならすぐだが、俺の魔法で刺激されてとんでもない魔物が生まれても困るし、何よりも眠たいのだ。
俺はセルジュに言うだけ言って寝袋に入って横になる。
「なんてマイペースなやつだ・・・」
遠のく意識の中セルジュの呆れた声と共に遠のいて行く足音が聞こえた気がする。
翌朝朝日に照らされて目覚める。
余りにも眠たかったのでテントも張らずに寝たせいだ。
昨日夜更かししたのでとても眠たい目を擦りながら朝食を食べて魔素溜まりの調査に向かう。
「あの・・・引継ぎで聞いてますが、出れませんよ?」
「大丈夫だ。迷惑はかけない。」
俺が結界の端に行くと見張りが声を掛けてくる。
おそらく俺が外に出ると結界の周りに陣取って寝ているロックリザードが入ってくると危惧しているのだろう。
俺はしっかりと見張りに断わって自分に認識阻害魔法をかけて結界を俺が通れるだけの範囲を解除して外に出る。
「(よし、昨日と同じく再生しているな。)」
俺が解除した部分にすぐに水が流れるように結界が復活しているのを確認して魔素溜まりへとロックリザードに触れないように、そして音を立てないように向かう。
「(このサイズだと・・・キマイラくらいならありがたいが、それより上位の魔物だと面倒だな・・・)」
怪しい黒い霧のようなものが集まった巨大な魔素溜まりは鼓動しているかのように縮小と膨張を繰り返して、今にも集まって魔物が生まれそうな雰囲気だ。
キマイラが生まれる瞬間を見た事があったがここまで巨大な魔素溜まりでは無かったと思う。
大きさだけで生まれる魔物の強さが決まるわけでは無いのだろうが予想もつかないと言う事はとてつもない不安を生み出す。
意を決して中を調べるべく魔素溜まりの中に足を踏み入れる。
「(ウランの集落にあった洞窟にあった魔法陣か・・・というかどうやってこんな場所に描いたんだ?)」
魔素溜まりの中に魔法陣を見つける。
ウランの時に見た魔法陣は直径一メートル程のサイズだったが、今回見つけたのは直系十メートルはある巨大な物だ。
どうやって描いたのか不思議になるが考えてもわからないので後回しにしてどうしようかと少し考え込む。
余談だが結局この魔法陣はフィル達が調べたが何かわからなかった。
もし魔素を集めるなり何らかの方法で魔物を生み出す魔法陣だと仮定すれば、アークデーモンを生んだ十倍の大きさの魔法陣で作り出す魔物など考えたくも無い。
かと言って今の状態で魔法陣を消して、魔素のバランスが崩れて魔物が生まれないとも限らない。
色々な考えが頭の中をグルグルと駆け巡る。
「(よし。ウランの時には何も起こらなかった。この魔法陣が魔物を生むための魔法陣だったらヤバイ。とりあえず消そう。)」
俺は結論を出す。
もし魔物が出たら出てきたでグレートドラゴンまでならなんとか対処出来るはずだ。
もしグレートドラゴンが出てきたらまたフィルに地図の書き換えを依頼しなければならなくなるだろうがフィルの依頼に地図の書き換え禁止とは言われて無いので大丈夫だろう。
俺は自分の結界と武器を入念に確認してから魔法陣を消す。
「(だ、大丈夫そうだな?)」
魔法陣を消してからいつでも刀を抜けるように掴んで身構えるが魔素溜まりに変化は見られない。
俺はしっかりと刀を構えたまま後ずさりして魔素溜まりから出る。
魔素溜まりは先程と変わらず鼓動を続けているので問題無さそうだ。
念のために何度も振り返って魔素溜まりを確認しながらみんながいる結界へと戻る。
「お前ら歯を食いしばれぇ!」
「「「はいっっっ!!」」」
結界の中に入ると冒険者達が一箇所に集まっているので何事かと思って近寄っていると聞き覚えのある声が集団の中から聞こえてきた。
そのまま冒険者をかき分けて集団の中央に出るとアランが正座をしたジャック達にかなり激しめなビンタをお見舞いしていた。
周りを囲んでいるセルジュ達はそれを止める事も無く、神妙な面持ちで気を付けの姿勢でアラン達を眺めている。
状況が全く理解出来ないので、ジャック達にビンタをするアランの右手を掴んで話しかける。
「アラン?何をしてるんだ?」
「あ、ルドルフ。あたしはルドルフと一緒で約束を守る人間だから・・・っね?えーと・・・あんた達説明しなさい!」
俺を見てアランが分かりやすく動揺して言い訳し始めるが何も思い浮かばないようだ。
先程まで好き勝手にビンタをしていたジャック達に言う。
「はい!我々が不甲斐無いばかりにルドルフさんとアランさんの手を煩わせた事を深く反省しております!」
「アランさん!ルドルフさん!本当にすみませんでした!」
「ルドルフさん!今回の討伐戦でまた矢が無くなりました!すいませんでしたぁ!」
アランの笑顔の恫喝でジャック達が一斉に頭を下げて土下座をして何やらあれこれと言い始める。
そういえばアランが俺達が呼ばれるような事になったら承知しないと言っていたのを思い出す。
ブランだけ俺への矢の催促に聞こえるが気のせいだと思う事にする。
「アラン?もう気は済んだが?」
「ルドルフが気にして無いならいいかな?」
「わかった。ジャック?これで終わりだ。」
俺が言うとアランが右腕に絡みながら言って来るのでジャック達のためにもここで終わりの宣言をしておく。
「ねっ!?あたしは約束を守っただけだよ?それで?あの魔素溜まりはどうだったの?」
「あぁ話してもいいが注目されすぎて・・・」
アランが上目遣いで擦り寄ってくるのだが周りのみんなが気を付けのまま俺を見ている。
注目を浴びるのには慣れていなし、みんなに聞かれていい話しでは無いので大変答えづらい。
「あ゛!?お前ら見世物じゃねぇぞっ!?散れ!散れぇぇぇぇっっ!ジャック!あたしが持ってきた食料で昼飯を食ってろ!!」
「は、はいぃぃぃっっ!」
俺の言葉にアランが周りの冒険者に威嚇し、ジャック達の尻を蹴り上げながら指示を出している。
ジャック達は必死の形相で冒険者達を連れて結界の中央へと戻って行くので、俺はアランに魔素溜まりの状態や魔法陣の事を報告する。
「ふむ・・・となると魔素溜まりが拡散するまで待ってたら何日かかるかわかんないし・・・どうすんの?」
「プランは二つ考えてた。一つは地上の滅びを乱発して湿地帯を掃除する。」
「却下!ロックリザードが飛んで行っちゃうし何よりも地形が変わって生態域が激変しちゃう!」
「討伐隊の稼ぎが激減して不満が上がるだろうな?魔素溜まりも一緒に吹き飛ばせるから安全な方法なのだがな・・・」
地上の滅びを乱発すれば、湿地に溢れかえっているロックリードを掃除しながら魔素溜まりも吹き飛ばせる一石二鳥の作戦だったのだが、魔物が全部吹き飛んでいってしまうので討伐隊の稼ぎが減ってしまうので却下だ。
「次は沼を利用して雷魔法で湿地帯を感電させる。」
「それいいじゃん!」
「だがそれは魔力をかなり使う。ウランが言っていた蜥蜴っぽい魔物が出てきたり、魔素溜まりから魔物が生まれたら対処出来るかわからん。」
「それ駄目じゃん。」
俺の作戦に笑顔で賛同したと思ったら、次の言葉で一瞬で無表情になっている。
アランの情緒が不安定過ぎて少し心配になる。
「その作戦もアランがいる今は没案だ。アラン?ロックリザードを呼び寄せる事が出来れば全部凍らせられるか?」
「数秒用意する時間があって、更に向こうから二十メートル以内まで近づいて来るんなら問題無し!」
アランを見て思いついた新たな作戦だ。
ロックリザードは全てアランに任せて、俺は不測の事態に備える。
「なら準備が出来る数秒と不測の事態は任せてくれ。」
「おっけ!じゃあさっさと済ませて王都に帰って一緒に寝ようね?」
結界を開けて一緒に外に出るとアランが何やらとち狂った事を言って来る。
結界の周囲で待機していたロックリザード達が襲い掛かってくるので、切り伏せながら湿地の中央へと進んで行く。
「さっきの返答だがな?絶対にごめんださっさと準備しろ!」
「もうっ!ルドルフのいけず!」
湿地の中央に位置する丘に辿り着き、アランが頬を膨らませながら丘の頂上で座禅を組んで集中し始める。
先程までは進行方向だけのロックリザードを切り伏せていたが、これからは全方位からのロックリザードを相手にしなければならない。
「(対応は身体能力強化魔法と剣だけで出来ればいいが・・・)」
不測の事態に備えて魔力と矢は温存しておきたいのだ。
丘を上り俺とアランへと向かってくるロックリザード達に向かって剣を構え待つ。
長い数秒間が始まる。
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