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第百三十五話 討伐隊湿地帯を調査する

旅を始めて六日目、やっと湿地に辿り着いた。

主な原因は森の魔物が多すぎてポーターの運搬が滞りまくったからだ。

だがやはり今回の討伐隊は本当に優秀だ、中々の激戦だったが斥候班も討伐班も一人も脱落者は出ていない。

「ジャック?ここからが本番だ!最前線の俺達がやられたら終わりだ!油断するな?」

「了解です。」

湿地帯は緑の絨毯が敷き詰められた丘で、低い場所が水位十センチくらいの沼になっている場所だった。

セルジュさんの指示で気を引き締めて湿地帯へと足を踏み出す。

魔物の姿が見えない上に、沼の水は澄んでいてとても幻想的な雰囲気漂うとても綺麗な湿地帯だ。

森の中で無ければ思わず見惚れていただろうが、生憎今いるのは森の中にある強力な魔物が巣くう湿地帯だ、景色を楽しんでいて襲われたなんて事になったら目も当てられない。

魔物の姿は見えないがしっかりと剣と盾を構えて湿地帯を進んで行く。


「合図だ。正面の丘の奥に十体、強敵らしいぞ。」

「了解です。」

みんなで油断無く進み丘の上から覗き込むとリザードマンが十体群れていた。

それを見たセルジュさんの指示で丘の陰に戻って作戦会議をする。


「みんなリザードマンが十体だ。パーティで動くぞ。各パーティ何体までなら安全に狩れるか教えてくれ。」

「申し訳ないがグリーンファンタジー乱戦状態では零体だ。十体全部を吹き飛ばしていいなら十体行ける。」

「アルテミス、安全を重視するなら二体だ。」

「我々は三体が限界だから残り五体か・・・」

エクトルさんのパーティは前衛の盾役が踏ん張って後ろの四人で合成魔法をぶっ放すパーティと聞いている。おそらく大魔法でまとめて吹っ飛ばすことは出来るが、一体づつを狩れる様な大人しい魔法は無いのだろう。

セルジュさんがウスターシュさんのパーティとで五体しか狩れないと頭を抱えている。

他のパーティはリザードマンを安全に狩るとなると自信が無い様で誰も発言する気配は無い。



「我々シャイアン一人一体で三体です。」

「なんだと!?それは本当か?」

「はい!無理をすればもっといけますが、安全に行くにはそれが限界です。」

「ならいい!オーガスレイヤーとアルテミス、シャイアンで八体狩り、残りの全員は二体の足止めだ!順次狩れたパーティが残りの二体を倒す!行くぞ!」

「「「「おう!」」」」

セルジュさんの指示で全員が一斉に丘を駆け抜ける。


「ブラン?信じてるぞ!」

「命を預けますよ!」

「おう!任せろ!」

ブランの腕とニコ君の矢の威力を信じて俺とグレイはリザードマンに突っ込む。

目の端に大剣を担いだセルジュさんが見える。

出来れば次期神銀(ミスリル)とも言われる金級冒険者の戦闘と言うものを拝みたいものだが今は自分が死なないためにも自分の戦闘に集中する。


「最初の一体は俺達で行くぞ!?」

「任せて下さい!

「うぉぉぉぉ!」

俺がリザードマンに飛びかかり上段から剣を振りぬく。

リザードマンは咄嗟に十字受けで俺の剣を受け止めようとするが、ニコ君の魔力付与をした剣はやすやすとリザードマンの鱗を貫きリザードマンの両腕を一刀両断して切り落とす。


「さすがはリーダー!背中失礼します!」

「おう!」

グレイの言葉に俺は着地と同時に背中を丸めグレイのために足場を作る。

グレイは足場の悪い沼地から俺の背中に飛び上がりそのまま腕が無くなって目を丸くしているリザードマンへと蹴り出し、首を横一線に切り落としリザードマンが倒れる。

同時に前方で俺達の行動を伺っていたリザードマンもその場に倒れる。

頭にはブランの矢が刺さっているのでキッチリと仕事をしてくれたようだ。


「グレイ!後一体だ!」

「はい!怪我無く行きましょう!」

グレイと頷き合って前方のリザードマンへと走って行く。

俺達が斬りかかる前にブランの矢がリザードマンの肩に刺さり暴れ始める。

これがブランは疲れているからか、きっちりと当てる自信が無いという事だ。

先程と同じように俺が斬りかかると、グレイは俺の動きに合わせてリザードマンの死角から首を横一線にはねる。

魔法と同じで繊細かつ正確な剣捌きに感心したい所だが本当に感心している時間は無い。


「グレイ!ブラン!残りのリザードマンを確認だ!」

「はい!」

「リーダー問題終わりだ!!」

グレイと一緒に状況を確認しようとするがブランから予想外の返答が返ってくる。

ブランを信用して無い訳では無いのだが、にわかに信じられない。

グレイも同じようで必死に周りを伺っているがみんなも同じようで武器を構えたまま辺り伺っている。



「よ、よし怪我人はいないな!?後衛はポーター班に合図だ!残りはその場で警戒して待機!」

闘いの音も聞こえないので大丈夫と判断したセルジュの指示が飛び、すぐに簡易そりを引いたポーター班の冒険者達がやってくる。


「リーダーすまなかったな?二人なら大丈夫って思ったからよ?他のリザードマンやっちゃったよ!ニコの矢はすげぇな!?」

「馬鹿黙れ!」

ニヤニヤとドヤ顔のブランが駆け寄ってあれこれと自慢し始める。

だがニコ君の名前を言ったので大慌てでブランの口を塞ぐ。


「リーダー!?なんだよ!?」

「いいか?お前はしっかりと働いた!だがな?働きすぎて注目を浴びてる、死にたく無ければ今はニコ君の名前は絶対に口にするな。」

「そうですよブラン!ニコ君は目立つの事を極端に嫌がってます!もし我々発信で有名になったらどうなるか・・・アランさんもいますよ?わかりますね?」

不満そうに眉を顰めて俺の手を払おうとするブランに、俺とグレイは左右から耳打ちをする。

俺が止めた意味がわかったブランは、真剣な顔で頷いているので大丈夫そうだ。


「さすがは俺だ!さっさと矢はを回収して正解だったって事だな!?」

「そうだな?・・・だが矢を掲げるな!下げろ馬鹿!」

「僕はニコ君もアランさんも敵に回したくありませんからね?なぜ矢を下げなければならないかブランの空っぽの頭でもわかりますよね?」

ブランは満面の笑みでリザードマンから引き抜いて回収した矢を掲げるので二人で褒めつつも注意しながらブランの手を掴んでゆっくりと下げさせる。

本当にブランは場の空気が読めないポンコツで困ってしまう。



「よし!各パーティ大丈夫そうだな!後方のポーター班に任せて行くぞぉ!隊列を組め!」

俺達がブランの馬鹿に説明している間にみんな状況確認を済ませて討伐班が進み始める。

「グレイ行くぞ!」

「はい!」

大急ぎで最前列へと進み湿地帯を進んで行く。


「リーダー?全然魔物がいませんね?」

「そうだな・・・だが元々住んでいた魔物達を追い出した奴がいるはずだ。油断すんな?」

警戒しながら湿地帯を進むのだが、魔物はおろか斥候班からの合図も無いので、不安になったんだろう。

グレイが言って来る。

確かに拍子抜けするくらいに静かでとても不気味だ。

だが道中の森で倒した魔物の大半は湿地帯の魔物だった、そいつらを森へと追い出した張本人がどこかにいるはずだ。



「なんだあの合図は!?」

「グレイ?あの合図って何だっけ?」

斥候班から見た事のない合図が出される。

セルジュさんも見覚えが無い様で俺はグレイに聞く。

「確か正体不明発見ですね?とりあえず方向と距離を指定してくれているのでとりあえず見てみるべきかと。」

「わかった!正体不明を確かめるぞ!」

グレイは優秀だ、即答で答えてくれる。

セルジュさんの指示で湿地を進み丘を越えると湿地の奥に黒いモヤに包まれた丘を斥候班が取り囲んでいた。

黒いモヤは魔物が発生する直前の魔素溜まりにも見えるが丘を取り囲むような巨大な魔素溜まりなどと聞いた事が無い。




「セルジュさん?あれは何だと思います?」

「魔素溜まりに見えるが巨大すぎる・・・違うよなぁ?」

「わからん!とりあえず近づいてみるぞ!?」

黒いモヤを見た後衛組のエクトルさんとウスターシュさんが駆け寄ってきてセルジュさんと一言二言言葉を交わして駆け出すので付いて行く。


「リーダーはあれを何だと思いますか?」

「俺よりも頭のいいお前の事だ。わかってるんだろう?」

走りながらグレイが聞いて来るので答えるがグレイは神妙な顔をするばかりで返答は無い。


「ならグレイ質問を変える。あれが魔素溜まりならどうなる?」

「僕には想像もつきませんね・・・」

「あれじゃね?とんでもない怪物が産まれるんじゃね?ほら!黒いモヤが心臓みたいに動いてるぜ?」

ブランに言われて注意深く見てみると黒いモヤが鼓動するかのようにモヤが膨らんだり縮んだりしている。

あまりの異様さに見落としていたようだ。

ブランはアンポンタンの代わりに人と目の付け所が違うのでこういう時に役に立つ。



「魔物が発生する瞬間には一回立ち会ったけどよ?あんな感じに脈打ってて、やばかったよな?」

「あの時は一メートルも無い魔力溜まりでアーマースパイダーでしたもんね?」

「あぁ、あの時はやばかった。前に見た魔素溜まりと一緒って事は・・・やべぇんじゃねぇか?」

あの時はグレイが即行でアーマースパイダーを氷漬けにしてくれて助かったのを思い出す。

そんな事よりもブランの言う通りモヤの鼓動がどんどんと大きくなっている。

このモヤが魔素溜まりだとするとグレートドラゴンや厄災級の魔物が出て来てもおかしくない、嫌な予感がする。

俺はセルジュさんに追いつくべく大急ぎで沼を走る。


「セルジュさん離れるべきです!何が起きるか想像が出来ません!」

「いや、もう遅いようだ。俺の判断ミスだ!全員そこの丘に非難しろっ!討伐班は斥候班を中心に密集陣形だ!魔物が産まれるぞ!オーガスレイヤー集まれ結界石を使うぞ!グリーンファンタジーいるか!?ポーター班に救難信号だ!」

俺達の判断が遅かったようだ。

突然黒いモヤが膨張し始め、湿地を包み込み始め、セルジュさんが慌てて指示をだす。

的確な指示のおかげでパニックが起こる事も無く全員が冷静に丘に上がり、何が起きても対応出来る様に斥候班を囲むように隊列を組み、エクトルさん率いるグリーンファンタジーは一斉に空に向けて魔法を発動して湿地の外で待機するポーター班に救難信号を送る。

全員がセルジュさんの指示通りに動けば助かると信じている証拠だ。




「リューク、ファルムス、ベルムンド、ガンダール準備はいいか!?」

「「「「準備完了!」」」」

「奥の手だがそんな事も言ってられん・・・結界発動だ!」

オーガスレイヤーのメンバーが方々に散って何かをしていると思っていたが、結界石を設置していたようだ。

湿地帯に数え切れない数のロックリザードが現れ、俺達に向かって丘を上ろうと群がって来るがセルジュさん達が張った結界によってロックリザード達が透明な壁にぶつかり、悔しそうににシューシューと音を出して俺達を威嚇している。



「助かった・・・」

「中々すごい光景だねぇ?生きた心地がしねぇや・・・」

「とにかく救援が来るまで待つしかねぇな・・・」

食料や野営道具は全てポーター班に預けているので、丘の上にいる全員が武器以外を持っていない。

全員がとりあえず助かったと言う安堵感からか一斉にその場に座り込む。


「みんな聞いてくれ!俺の判断ミスで申し訳ないが食料も何も無い状況だ!文句は救援された後に全て聞く!今は救援が来るまで静かに待つぞ!」

セルジュさんはこんな状況だと言うのに冷静だ。

「(今の状況を責める人間なんているのか?)」

少なくともこの状況を回避できた人間がいるとは思えない。

むしろセルジュさん達が奥の手を出してくれなければ今頃全員ロックリザード達の胃袋に収まっている頃だろう。

全員がそのまま緑の絨毯の上で寝転んだり歓談したりと思い思いに過ごして救援を待ち始める。


「リーダー!剣の練習しようぜ!?」

「馬鹿!静かに待て!腹が減っても食うもん無いんだぞ!?」

「全くブランは・・・」

いつも通りにブランが馬鹿な事を言い始めるので、グレイと一緒に呆れながら座らせて静かに救援を待つ。

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