第百三十四話 普通の夜営
「今日はここで夜営するぞ!準備はポーター班に任せて我々は斥候班と安全確保だ!」
予定通りに野営地点に到着し、みんながセルジュさんの指示に従って動く。
今日の夜営地点は森の中にぽっかりと開けた平地で約千人が夜営するには少し狭いが森のど真ん中で広々と夜営するのとどちらを選ぶかと言われれば全員が声を揃えて言うだろう。
いつ魔物が闇に紛れて木の間から飛び出して来ないかとビクビクしながら過ごすなんてのは絶対にごめんだ。
俺達も指示に従って周囲の森を偵察する。
「いい感じだなぁ?」
「いえ、まだ湿地まではニ日もあるのに魔物が多すぎですね。」
「グレイの言う通りだ。ここから更に魔物が多くなるぞ?それにポーター班の移動距離も増えるから大変になるぞ。」
偵察をしているとブランが楽しそうに言って来る。
それに対してグレイは神妙な面持ちで森の中を見ながらブランに反論をする。
俺もグレイと同感だ。
まだまだ湿地までは三十キロ近くあるのに湿地の魔物が多すぎるのだ。
それに加え王都と前線を往復して魔物を運ぶポーター班の移動距離はどんどんと長くなって行く。
もしポーター班が全員王都に向かっていなくなってしまったら帰ってくるまでの間、狩った魔物を放置しておく訳にも行かないので俺達は待たなければならない。
「ブランは相変わらず能天気だな?だが今日の予定通りにここまで進めたのはかなり上出来だ。」
「ダッシュか。お前達の斥候で助かった。」
森の中からダッシュが現れる。
俺はしっかりとダッシュの仕事に感謝して頭を下げておく。
「そんなに改まるな、俺は俺の仕事をしてるだけだ。にしても魔物が多すぎる。予定通りに二日で湿地に着くのは無理だろうな。」
「やはりダッシュもそう見てるか・・・まぁ発見した魔物を無視して湿地に行く訳にもいかねぇしな。」
ダッシュと俺の会話をブランとグレイは真剣な表情で聞いている。
きっとこれからの討伐の事を考えているのだろう。
俺達冒険者は夜営には慣れている、だがそれは数人のパーティ単位での話しだ。
これだけの大人数で何日も魔物の巣くう森の中を行動するとなると、いつも以上に疲弊して行くし、ポーター班なんて何度も何度も魔物がいるかもしれない森を動き回らなければならなので精神的な疲弊もかなり溜まって行く。
ポーターが狩った魔物を運んで、俺達の下には食料を積んで帰ってくるので食料の心配はないのだが、そうやって疲れが溜まると問題も起きやすくなるしいい事は何一つ無いのだ。
「まっ!今回の総指揮はあのセルジュさんだ!上手くやってくれるだろうよ?」
「そうだな!斥候班のリーダーならいざ知らず俺が考える事じゃねぇな!?」
「その通りだぜ!リーダー大丈夫そうだし戻ろうぜ?」
「そうですね?セルジュさんの指示なら安心でしょう!」
ダッシュの言葉に俺達は開き直る事にする。
いざとなればあの百戦錬磨のセルジュさんだ、冷静に撤退の判断を下してくれるだろうと信じている。
「お前ら・・・」
「じゃあダッシュ?明日もお前らの情報に命を預けるからな!」
「リーダーって大変だろうが、頑張れよっ!」
「では失礼します!」
斥候班のリーダーであるダッシュは困ったように笑っているが、開き直った俺達は順番に背中をバシバシと叩いてみんなが夜営準備する平地へと向かって歩いて行く。
「討伐班と斥候班集合だ!ポーター班のシャムもだ!」
セルジュさんが俺達を呼ぶ声が聞こえる。
野営中の作戦指令本部である平原の中央に設置された大型のテントへと向かう。
ちなみにシャムとはポーター班のリーダーだ。
「セルジュ!?今日はなんとか予定通り進めたが明日も進める保証はねぇぞ!?」
「そうですね?これ以上魔物が増えるなら我々魔法師も魔力が持たないです!」
「わかってる!だからみんなに集まってもらったんだろうがっ!」
セルジュさんを中心に円陣を組んで地図を見ながら作戦会議をしていると、弓隊のリーダーウスターシュさんと魔法師隊のリーダーのエクトルさんがセルジュさんに提言している。
やはり全員が魔物が多すぎると危惧していたようで、その後も作戦会議は中々長引いた。
「では十日!任務を終えていなくても十日経ったら撤退するぞ!それまではみんな魔物が多いだろうが死なない事を第一に考えて行動してくれ!」
十日で湿地を平定出来なければ撤退する事が決定した。
当初の予定では二日後に湿地に着き、四日かけて湿地に巣くう魔物を倒して一日でさっさと王都に帰還する、約一週間の予定だったのだが一日目でここまでの大幅な変更は始めてだ。
「では見張りはポーター班がするが、討伐班は各パーティ持ち回りで即座に動けるように待機するように!では解散!」
セルジュの言葉で作戦会議は締めくくられ、みんな一斉に出て行く。
俺達も出て行き、自分達のテントを組み立ててポーター班が作ってくれた夕食を食べる。
ポーター班は魔物を運ぶだけではなく、こういった雑務作業など全てを担う。
他にも荷物を運ぶ道中の護衛や夜の見張りと言った最前線の俺達みたいに約束された危険が無いだけで、十分危険を伴う大変な役割だ。
「あれだな?森の中なのにあったけぇ料理はありがたいな?」
「そうだな?ニコ君との冒険以外じゃ干し肉と水だしな?」
「リーダー?ニコ君を引き合いに出したら全てが霞みますよ?」
三人で馬鹿話をしながら温かい夕食を食べる。
ニコ君が作る料理に比べれば、スープとパンだけという少し物足りない夕食だが、森のど真ん中でこれ以上を望みそして実現させるニコ君が規格外なのであって普通の冒険では十分ご馳走だ。
その後食べ終わった食器を洗い係の冒険者に渡して、風呂代わりに体を拭く。
「冷てっっ!」
「煩い!さっさと拭け!」
「そうですよ?体を拭く水があるだけでも御の字ですよ?」
万が一魔物が来た時に備えて順番に体を拭く。
見張りはポーター班がしてくれているが、魔物を発見したらすぐに俺達が駆けつけて狩らなければならないからだ。
今はブランの番なのだが、冷たい布巾に不満たらたらだ。
「ちっ!ニコならお湯出してくれるのによぉ!」
「だからブラン?ニコ君は引き合いにだしては駄目です。」
「グレイの言う通りだ。ニコ君はニコ君!俺達は俺達だ!」
ニコ君なら魔法で適温のお湯を出すか夕食のついでに沸かしたお湯を渡してくれる。
なんならこの前は「風呂は非常識だな。」と呟いているのを聞いてしまった。
ニコ君なら森のど真ん中に風呂を作る、もしくはマジックバッグから湯船が出て来てもなんら不思議は無い。
その後グレイと俺も入れ替わりで体を拭き、魔物襲来の報に備えて交代で寝る。
「朝だぞ!」
「ふぁっ!ニコがいりゃ見張りなんて必要ねぇのにな?」
「ブラン!昨日からニコ君ニコ君煩いです!」
無事何事も無く朝を迎える。
ブランとグレイを起こすと、ブランが生欠伸をしながらまたニコ君の名前を出しグレイに怒られている。
戦闘中以外で声を荒げるグレイを久々に見た、おそらくニコ君との快適な冒険を思い出さないようにしているのだろう。
「ブラン?俺達はあの快適な冒険を思い出さないようにしてるんだ、考えろ!」
「そうです!ニコ君はいないのですから無理です!ニコ君がいる旅ならテントを出ればホテル顔負けの朝食があるでしょうが、いないんです!思い出させないで下さい!」
「あーあのクラーケンのスープ美味かったよな・・・」
俺とグレイに怒られてもブランはどこ吹く風と言った様子で、この前謎の美女と食べたスープを思い出して遠い目をしながら寝袋を畳んでいる。
俺とグレイも思わずニコ君の作る料理を思い出して生唾を飲み込んでしまう。
「だから思い出させるっなっての!さっさと行くぞ!」
「いってぇ!」
「自業自得です!」
ブランに拳骨を落としてグレイと一緒にテントから出て、ブランが出て来るのを待つ事無くテントの解体を始める。
「やっと出てきたか・・・さっさと三人分の朝食を受け取って来い!」
「へいへい!」
慌てたブランがテントから飛び出してくるので、グレイとテントを片付けながら指示を出す。
頭を撫でながらブランが走って行くのを見てグレイと笑い話をしながらテントを片付ける。
「ったく・・・あのお調子者が・・・」
「ブランはニコ君が大好きですね?」
「はは!ニコ君は人誑しな所があるからな。」
ニコ君は常に冷静で感情を表に出さないが、俺達の事を考えて先回りして動いてくれる。
俺もニコ君が好きだ。
そしてなにより何度も命を救って貰ったし、今もニコ君が魔力付与した武器達に助けられている最中だ。
「(恩返しさせて貰いたいんだが、助けられてばかりだな・・・)」
そんな事を思いながらグレイとテントを畳む。
「お待たせ!」
「いいタイミングだ!」
「ブランありがとう。」
丁度テントをまとめ終わった所で三人分の朝食を載せたトレーを持ったブランがやってくる。
トレーの上にはスープが三杯にロールパンが六個乗っている。
冒険中の朝食としては贅沢なメニューなのだが、さっきのブランの話のせいでニコ君の朝食を思い出した俺には物足りなく写ってしまう。
ブランがトレーを地面に置いたのを確認してから、無言でもう一発拳骨をする。
「ってぇ!リーダー何すんっってぇ!グレイもなんだよ!?」
「うるせぇ!自分の胸に手を当ててよく考えろ!」
グレイも俺と同じだったらしい。無言でグレイに拳骨をして朝食を食べ始めるので、俺もブランをしっかりと怒って朝食にする。
「よし!気合入れて行くぞ!?」
「そうですね!?頑張りましょう!」
「よしっ!何で殴られたかはさっぱりだが行くか!」
朝食を食べ終わり俺が気合を入れると、グレイとブランも続いて真剣な顔で後に続く。
ブランがあんぽんたんなのは今に始まった事じゃないので、気にせずに食べ終わった食器をトレーに乗せてブランに押し付ける。
ついでにポーター班に運んでもらうために、俺達のテントなどが入ったリュックサックも一緒に投げ渡しておく。
「えー返却も俺!?嘘だろ?」
「嘘じゃありません。自分の胸に聞きなさい。」
「ったく・・・なんなんだよもう!」
ブランがぶつくさ文句を言いながらリュックサックを背負い、トレーを持って走って行くので、俺とグレイはセルジュさんが待つ中央の大型テントが設置してあった場所に向かう。
「リーダー待ってくれぇ!」
「早かったな?」
「かなり急いだようですね?」
俺達がゆっくりと歩いて向かっていると食器とリュックサックを渡し終えたブランが大急ぎで走って来る。
余程置いていかれたのが嫌だったようで、かなり急いだようだ。
「討伐班集合だ!出発するぞぉ!」
「お!?いいタイミングみたいだな?」
「ブラン?行きますよ!?」
「えぇっ!まだ走るのかよ・・・」
セルジュさんの号令が聞こえたので俺とグレイが走り始めると、やっとの思いで追いついたブランが肩を落としているが、知ったこっちゃない。
下っ端の俺達が遅れては示しがつかない。
大急ぎでセルジュさんの下へと向かう。
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