第百三十三話 湿地帯討伐作戦
時は少し戻って、ジャック視点です。
俺達は東の森の討伐隊に参加するべくギルドに集まっていた。
今頃ニコ君達は学校で勉強している頃だろう。
「朝一以外でこれだけ人が集まってるってのは違和感しかねぇな?」
「そうだな?だがほとんどがポーター係だぜ?」
「我々もニコ君の助けが無ければポーターだったでしょうね?」
冒険者ギルドの中は集まった冒険者達でいっぱいで外にまで溢れているような状況だ。
討伐隊は主に先行して偵察などをする斥候班、その情報を頼りにパーティで魔物を狩る討伐班、その魔物を即座に回収してギルドへと運ぶポーター班の三つに分かれる。
ニコ君の武器のおかげで俺達の戦闘能力が認められ、俺達は討伐班へと編成される事になった。
「ようジャック!生きてたか?」
「ようダッシュ!頑丈なだけが取り得だからな!お前こそ生きてたんだな?」
スキンヘッドの男が声を掛けてくる。
銅級時代王都をホームにしていた頃は何度も一緒に組んで死線を潜り抜けた旧友のダッシュだ。
こいつは身体能力強化魔法が得意で名前の通りに滅茶苦茶に足が速いし、斥候の腕が確かなのもよく知っている。
今回の討伐隊にこいつがいるのがわかってとても安心する。
「俺は名前の通り逃げ足はピカイチだからな?お前はポーター班か?」
「フフフフ!討伐班に選ばれたぜ?お前は斥候班だろ?頼んだぜ?」
ダッシュは俺の言葉に一瞬驚いた顔をするが、すぐに口角を吊り上げ面白そうに俺達を順番に舐めるように見てくる。
「お前ら腕を上げたんだな?俺は斥候班のリーダーだからしっかりと魔物を見つけてやるさ!」
「おう!これだけの大人数だ。お前らの情報が命綱だからな?」
ダッシュは俺の言葉に笑みを深め、手を振りながら冒険者の波の中に消えて行く。
ダッシュは斥候班のリーダーと言う事でとても心強い。
手を振りながら冒険者の中に消えて行くダッシュを見送っていると、サンドラギルドマスターの声が響く。
「皆様登録は終えましたので東の門を出て班ごとに別れて待機して下さい!討伐、斥候班のパーティリーダーは残って頂きますようお願いします!討伐対象は不明ですが当ギルドはロックリザードマン、下手をすればそれ以上の魔物だと想定していますので、勝手な行動は慎むようにお願いします。」
拡声魔法で声を大きくしたサンドラギルドマスターの声が騒がしいギルド内に響き渡り、ガヤガヤと騒がしかった冒険者達は静かになり建物内の空気が一瞬でピンと張り詰める。
「じゃあブラングレイ後でな?」
「あぁリーダー会議は任せたぜ?」
「武器のチェックをしないとですね?」
ブランとグレイが東門へと向かう冒険者の波の中に消えて行く。
五分もするとギルドの中は俺を含む二十人程のパーティーリーダーとサンドラギルドマスターだけになる。
食堂の一つの机にサンドラギルドマスターと三人のリーダーが座り、机を中心に俺達パーティーリーが周りを囲む。
ポーター班のリーダーは見覚えが無いが、斥候班は先程会ったダッシュ。
俺達討伐班の総責任者である討伐班のリーダーは金級冒険者、鬼狩りのセルジュさんだ。
短髪に刈り上げられた赤髪に男らしい顔付きに筋骨粒々な体。
歳は確か俺よりも少しだけ上だったはずだ。
ソロで凶悪なオーガを狩る事が出来る次期神銀級と名高い冒険者だ。
「それでは、最初に現在の東の森は危険すぎて湿地帯にはどんな魔物がいるのか調査さえもできていないのが現状です。魔物を確認して手に負えないようであれば討伐中止も視野に入れてお願いします。判断は各リーダーにお任せします。」
サンドラギルドマスターが地図を広げて言い、。
その後も作戦会議は続き、リーダーだけでなく各パーティーリーダ全員が作戦をしっかりと理解する。
今回の討伐隊はポーター班も加えると千人近くのかなり大掛かりな作戦だ。
全員が一丸となって動かないと何かのきっかけで作戦が瓦解して大惨事などと言う事も十二分にありえる。
「ではよろしくお願いします!作戦通り一週間後に皆さんと無事に会える事を願っていますよ?」
一時間程で作戦会議は終わり、サンドラの言葉に全員が真剣な表情でしっかりと頷いて東門へと向かう。
「討伐隊!部隊長は各々のパーティと作戦をすり合わせて集合!」
「斥候班はこっちだ!」
「ポーター班はこっちに集まって荷車や道具の確認をしろ!」
東門を出ると大勢の冒険者達が俺達の到着を今か今かと待っていた。
俺はブランとグレイと合流する。
「リーダーお疲れ!作戦は変更無しか?」
「あぁ変更無しだ。」
「では我々は最前線ですね?」
「そうだ。ここでしっかりと実績を積んで金級に上がるぞ!」
「「おう!」」
ブランとグレイと短い作戦会議をして討伐班のリーダーの下へと駆け寄る。
「討伐班集まったな?知っている者もいると思うが、私が総責任者を任されたセルジュだ!今回は俺の指示に従ってもらう!」
「鬼狩りのセルジュさんか。」
「彼なら安心ですね?」
「そうだな。俺も食堂で見た時は今回の作戦の成功を確信した。」
ブランとグレイがセルジュさんを見て安堵の表情を浮かべ、周りの冒険者達もセルジュさんを見てどこか安心したような表情になっている。
「にしてもそうそうたる顔ぶれだな?」
「そうですね?蒼炎のエクトルに月光射ちのウスターシュ・・・」
「馬鹿野郎!俺達はそのメンバーの一員なんだ気後れしてんじゃねぇ!」
周りの冒険者達はエスガルドで冒険者をしていて知らない人間はいないくらいに有名な金級冒険者ばかりだ。
ブランとグレイが萎縮しているようなのでしっかりと気合を入れておく。
俺達がポーター班ではなく、討伐班に配属されたと言う事は俺達の戦闘能力をそれだけ評価してもらえていると言う事だ。
しっかりと胸を張っていつも通りに闘えれば本当に今回の討伐隊が終わったら金級冒険者も夢では無いのだ。
「さぁ隊列を組むぞ!?ジャックお前達は俺達オーガスレイヤーと一緒に最前線だ!後ろには優秀な魔法師も弓師もいる!自分でなんとかしようとせずに信頼して安全に行けよ?」
「はい!了解です!」
「じゃあリーダー?グレイ?俺は後方部隊に行くからな?」
「おう!命預けたからな?」
セルジュさんの指示で討伐班が隊列を組み始め、弓使いのブランは後方部隊へと下がってく。
「リーダー?ユキカサネはどうしますか?」
「奥の手だ。使わなくて済むならそれに越した事はねぇ。」
そう言ってグレイがアランさんから頂いた剣に手をかけて耳打ちをして来る。
今知ったがグレイは剣にユキカサネという名前を付けたようだ。
それはいいとして出来れば奥の手を他の冒険者に見せたくはない。
冒険者なんてのは早い話し傭兵と変わらない。
冒険者なんて仕事をしていれば依頼次第では今は味方だが次は敵として闘うなんて事もありえない話では無い。
逆に言えばここにいる全員が何かしらの奥の手を持っているだろう、下手をすれば信頼すべき命を預けるパーティにも秘密にしている人間もいるかもしれない。
「じゃあ出発だ!斥候班が見てくれているが油断せずに進むぞ!」
セルジュの指示で俺達が進み、討伐班が森の中に入って行く。
俺達の五十メートル後方に荷車を引いたポーター班が付いて来ている。
「おい合図だ!」
前方の木の上でチカチカと光が三回点滅する。
斥候班からの魔物発見の合図だ、少し間をおいて点滅し方向・距離・魔物の数と魔物の危険度を知らせてくる。
「二時の方向、百メートル先に五体、危険度は小・・・ジャイアントフロッグかな?」
「おそらくな?だが斥候は神じゃない。見逃す事もありえる、盲信して思い込みを作るな?」
「了解です。」
俺の言葉に落ち着いた様子のセルジュさんがアドバイスをくれる。
確かにその通りだ。斥候だって魔物を見逃す事もありえる。斥候の情報を盲信せず不測の事態が起きても対応出来るようにしておかなければならない。
俺とグレイは頷き合って魔物は百メートル先と考え無い様にして目の前の茂みにも警戒しながら森の中を進んで行く。
「いた・・・どうします?」
しばらく進むと斥候班の情報通りにジャイアントフロッグ五体が森の中をピョンピョンと跳ねていた。
「ジャイアントフロッグが五体か・・・丁度俺達も五人だ。それぞれ一体づつを止めるぞ?後方部隊は誰がどれを狙うか決めたら出るぞ?」
「了解です!」
俺とグレイはセルジュ率いるオーガスレイヤーと息を潜めて指示を待つ。
「よし・・・行くぞ!今の並びのままジャイアントフロッグを相手しろ!」
「「「「おう!」」」」
セルジュの合図で同時に飛び出し各々でジャイアントフロッグの足止めを行う。
俺が担当するジャイアントフロッグが舌を出して来るのでいつも通りに腕に巻き付かせてしっかりと踏ん張る。
「担当のやつ頼んだぁ!」
「おうよっ!」
俺の言葉にウスターシュさんが元気良く返事をする。
直後ジャイアントフロッグの頭から矢がはえ、ジャイアントフロッグが息絶えてその場に倒れる。
さすがは金級冒険者の中でも二つ名持つ一流の冒険者、見事な腕前である。
「他は・・・大丈夫そうだな。」
周りを見渡すが他のジャイアントフロッグも地面に倒れて動かなくなっていた。
全員怪我も無くジャイアントフロッグを仕留められたようでホッと一息吐く。
「こいつらは後ろに任せて、日が暮れる前に夜営ポイントに行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
セルジュさんの指示で全員が一斉に返事をしてジャイアントフロッグを置いて、森の中を進んで行く。
後続のポーター班が解体をしてギルドへと運んでくれるのでとても楽でいい。
今回の討伐隊では狩った魔物の代金は半分が斥候班と討伐班、もう半分はポーター隊で分配する。
それだけを聞くとポーター班の取り分が多い気もするが、斥候班と討伐班は約百人、それに対してポーター班は九百人近くいるので最終的な分配金はかなりの差が出る。
それに荷車を引いてギルドと俺達を何往復もするのはかなりの重労働だ。
俺達に比べると命の危険は格段に少ないのでポーター班がいいと言う人間もいるが、少なくとも俺達は今回討伐班と言われて三人で喜んだものだ。
「おい!十時と三時に魔物だ。三時は任せたぞ?」
「了解です!」
「では狩り終えたら斥候の指示に従って合流だ!グリーンファンタジーは我々と!残りはジャック率いるシャイアンと進め!」
セルジュさんの指示で二手に分かれて進む。
「リーダー?危険度小でしたが、リザードが六体も群れてますよ?」
「へっ!それだけ俺達の事を評価してくれてんだ!俺がメインでお前は援護しろ!」
森の奥に魔物を発見してグレイが心配そうに言って来る。
ダッシュ達は俺達ならリザードなんぞ、少し大きくなった蜥蜴と一緒という事なのだろう。
ダッシュ達の期待を裏切らないためにも怪我無く済ませなければならないと気合を入れてリザード達へと走る。
「グレイ!そこは射線だ!こっちに来い!」
「わかりました!魔法は温存します!」
俺達は出来る限り後方部隊からリザード達が丸見えになるように立ち回り怪我をしないように防御に徹する。
後方部隊の腕は本当に見事なものだ。
次々と俺とグレイに対して殺意むき出しで飛び掛かってくるリザード達は後方部隊が放つ正確無比な矢で次々と射殺されていく。
今回の討伐作戦は揃った面子も申し分ないしとても安心できる。
「(こんな安心できるメンバーとの討伐作戦なら毎回でもお願いしたいもんだ・・・)」
そんな事を思いながら狩ったリザードを分かりやすい場所に纏めて後はポーター班に任せて斥候班の指示に従って進みセルジュさん達と合流して森の中を進んで行く。
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