第百三十二話 魔道具の練習とお手本
「お待たせ!」
「どれだけ待たせるんだ?」
本を閉じてウィンストン、フォルナ、アイリーンそしてサミュエルを連れたアランに言う。
アランを待っている間に演習場でわいわいと騒いでいた生徒達は演習場から出て行き、今は演習場の中には俺達しかいない。
「え?どっちみちこれくらいの時間じゃないと何も出来ないでしょ?」
「それもそうだが・・・」
「とりあえず!みんなに渡して上げなさい?」
「わかった。」
ウィンストン達に俺が作ったブレスレット型の魔道具を渡して説明をする。
全員が真剣な表情で腕に嵌めたブレスレットと俺を交互に見つめながら説明を聞いている。
「いい!?今腕に嵌めている魔道具は最低で三千万するから!?あと国家機密並の魔道具だから盗まれたりしないように厳重に管理しなさい!?」
俺の説明が終わるとアランが補足説明、もといみんなに脅しをかける。
フォルナとアイリーンは成程と顔を見合わせているが、ウィンストンは感情が全く掴めない不思議な表情でブレスレットを見ている。
「では結界内で各自発動して感覚を掴んでくれ。」
「杖と違って体の端じゃなくて手首に魔力を集中させるから難しいけど、鍛錬をしてるあんた達なら問題なく出来るわ!」
俺が舞台に言って結界を発動させながら言うと、アランが補足して激励を送ってくれている。
俺にはそういう気遣いは苦手なのでとてもありがたい。
「アランすまんな。」
「ふふん!これで昼寝の件はチャラね?」
「あぁ。」
「よし!」
アランはガッツポーズをしているが、昼寝の分はチャラでもいいがそれを補って余りあるマイナスポイントが貯まっている。
とは言えそれを口に出せばウィンストン達の訓練どころでは無くなるのは火を見るよりも明らかなので何も言わずに頑張って魔法を発動するウィンストン達を眺める。
四人は思い思いに魔法を発動させているがブレスレットに魔力を送るのに五秒、そして発動するのに五秒、計十秒もかけている。
「遅すぎだな。」
「そうね?魔力の鍛錬をしてるのに駄目駄目ね?」
俺が思わず言うと、アランが舞台の上に上がって行く。
「お前らぁ!それでルドルフに鍛えられたって言うつもりか?・・・あん?初めてだからどうした!?」
アランが舞台で大声を出して萎縮した様子の四人が何やら反論をしているようだ。
アランが腰に手をやってあれこれと大声で激を飛ばしている。
「あ゛ぁ゛!?上等だ!おらっアイリーン腕輪を出せ!お前ら結界が壊れたらすぐに舞台から出ろよ?」
誰かがアランをたきつけたようだ。
よほどアランの神経を逆なでしたのだろう、アランのここまでの怒声は聞いた事が無い。
そしてアイリーンがブレスレットを外して正に平身低頭といった様子でアランにブレスレットを渡している。
「お前ら気合入れろぉぉぉぉ!結界が割れる前に舞台から出たやつは殺す!結界が割れてつっ立てても殺す!!とにかく身を持って学べやぁぁぁぁ!」
アランが無茶苦茶な事を言いながら腕輪を嵌めた右手を掲げて魔法を発動させ始め、アランの周りに水矢が現れ四方八方に飛び出す。
傍から見ていると呆れるほどに無差別に放っているのだが、ウィンストン達にとっては違うようで阿鼻叫喚と言った様子で舞台の上を必死に逃げ回っている。
「状況認識能力も不足しすぎだな・・・」
アランが放つという先入観があるせいか、アランは発動速度のみを考えて魔法を放っていて、狙いを一切つけずに文字通り魔法をばら撒いている事に気付け無い様だ。
俺は舞台出口に固まって伏せる四人へと歩を進める。
「お前ら何をしている?」
「ルドルフ殿危ないです!」
「伏せないと当たっちゃいますよぅ!」
「アラン殿の魔法は無茶苦茶です!」
「ルドルフ殿?止めて貰えませんか?」
俺が舞台に上がって言うが四人はアランの言葉に素直に従っていて、結界が割れるまで動く気は無い様だ。
必死の形相の四人を見ていると深い溜息が漏れ出る。
「お前らアランを見ろ。あいつは今適当に発動しているだけで狙いはつけてない。現にお前ら伏せてるだけなのに誰も結界が割れてないだろう?」
四人が俺の言葉に始めてまじまじとアランを眺めて納得した様子だ。
俺も舞台に入って突っ立て入るのにアランの水矢が命中する気配は無い。
「ですがルドルフ殿!?この弾幕の中どうやって進めと言うのですか!?」
「はぁ・・・ウィンストン?お前の腕輪を渡せ。お前ら降りて見学しろ。」
一番近くにいたウィンストンから腕輪を受け取る。
伏せていたウィンストン達は俺の言葉を聞いて嬉しそうに匍匐前進で舞台の階段を器用に降り始める。
「まずは空気拘束だ。分かりやすいように色を付けておくぞ。」
ウィンストン達にも分かりやすいようにあえて色を付けて可視化した空気拘束を発動して、魔法を連射してトリップ状態のアランを拘束する。
「ん?空気拘束?でも魔法の戦闘には動けなくても関係ないよ?」
「そうか?俺は避けながら攻撃に専念出来るのは大きいぞ?」
我に返ったアランが今度はしっかりと狙いをつけて俺に十本近くの水矢を同時発動して放ってくる。
連続発動も中々の高等技術なのだが、同時発動は魔法陣に同時に魔力を注ぐので魔力操作が未熟な者がすると、未発動や暴発といったイレギュラーが起こりやすい。
それを十本も発動するとはさすがは神銀級と言った所だ。
「衝風を使って対処する。これは攻撃にも使えるしこういう防御にも使えるぞ?」
ウィンストン達に説明しながらアランが放った水矢に向けて衝風を発動する。
前に突き出した右腕から突風が発生して水矢は空気の壁にぶつかって霧散する。
「次は、風鎧だ。これもかなり便利な魔法だからしっかりと練習しておけ。」
俺が風鎧を発動しながらウィンストンにしっかりと説明する。
可視化した魔法の風が俺の体を包み込む。
この魔法は自分の体を風で包む事によって矢や魔法を逸らす防御魔法だ。
「まぁ効果は見せたほうが早いね?」
「助かる。」
アランがそう言いながら水矢を発動するので俺はあえてそのままアランへと歩を進める。
「「「おぉ!」」」
水矢は俺の体に当たる前に軌道が逸れ、俺に命中する事は無い。
ウィンストン達から歓声を上がるがここからが本番だ。
アランの動向に注意しながら歩を進める。
「そろそろお手本のためのサービス終了!」
アランが自信満々にドヤ顔をして言うのだが俺の魔法によって左手を腰に当てながら右手を掲げた状態で拘束されたままなので少々格好悪い。
「ってわけで!他にはどんな魔法を刻印してんの?」
「氷弾大礫と水泡爆発と圧縮水刃だ。」
氷弾大礫は氷の弾を作り出して前方に飛ばす魔法で、水泡爆発は大きい破裂音と衝撃波を発生させながら爆発する水泡を作り出す魔法だ。
そして最後の圧縮水刃は圧縮した水を飛ばして対象を切断する。
この魔法はどれだけ圧縮するかによって切れ味が変わるのだが、アイリーンが使う想定で作ったので、鉄が切れる程度に設定してある。
「ちょい待ち!最初の二個は風鎧で当たらないし、圧縮水刃なんて発動したらルドルフ切れちゃうじゃん!?」
「お前と違って動ける。当たらなければどうという事はない、それにもう対策もしてある。」
アランが心配そうに言うので、俺はわかりやすく挑発するとアランは一瞬ムッとした表情をするがすぐに笑みを浮かべて掲げた右腕から何本もの圧縮水刃を発動させる。
「ほう?圧縮水刃を同時発動とはさすがだ。」
「まだまだこれからよ!」
アイリーンが使ったとすれば圧縮水刃を一本発動させれば魔力切れを起こしたとしても不思議では無い。
アランはそんな魔法を十数本発動させたばかりかそのままランダムに上下に動かしながら回転させ始める。
「見事だ。」
「余裕ね?早く舞台から出ないと斬り刻んじゃうよ!?」
見事な制御で思わず見惚れしまう。
アランは俺に対して何やら心配をしてくれているようだが、もう手は打っている。
「え?嘘?なんで?」
「空気拘束とは空気を固定して拘束する魔法だ。こういう事も出来る。」
アランの圧縮水刃俺の周りに幾重にも張り巡らせておいた空気拘束によって動かせなくなって驚いている。
俺は風魔法が一番攻守のバランスが揃っている属性だと思っている、空気拘束とは鉄をも切る圧縮水刃だろうと拘束できる便利な魔法なのである。
不便な点を上げるとすれば、設置した場所を把握しておかないと触れると発動者であろうとも拘束してしまう。
衝風を発動して驚くアランの結界を割る。
「これで腕輪の使い方はわかったな?」
「あたし達でも使いこなしているとは言えないからね?」
戦闘が終わったので空気拘束を解除して動けるようになったアランと並んで真面目な顔で観戦していたウィンストン達に言うが反応が無い。
「どうした?」
「多分あたし達の戦闘を見て驚いてるんじゃない?アイリーン!?」
「あっ!やばっ!・・・ありがとうございましたぁ!」
俺の言葉にうんざりした表情のアランがアイリーンに声をしてブレスレットを投げ渡している。
大慌てで腕輪をキャッチしたアイリーンが敬礼をしてお礼を言って来る。
「ウィンストンにも返しておく。明日からは魔道具の練習をして魔力切れになったら身体能力強化魔法無しで純粋な剣の練習をしろ。」
俺は舞台から降りてウィンストンにブレスレットを手渡して明日からの訓練内容を伝える。
まだ呆気に取られているのか呆然とブレスレットを受けとるだけでそれ以外の反応は何も見られない。
「返事っっ!?」
「「「かしこまりました!」」」
俺がどうしたものかと考えていると、アランが声を張り、三人が同時に敬礼をして答える。
あれだけ騎士団を毛嫌いしていたウィンストンも騎士顔負けの立派な敬礼だ。
「では急に呼び出してすまなかった。また明日会おう。」
「ルドルフ?四人はまだ特訓したいみたいだから後片付けは任せて?」
俺は用事が終わったのでそそくさと結界を解除しようとするとアランに呼び止められる。
四人を見ると子供の様に目を輝かしながらブレスレットを眺めている。
「そうか。なら任せた。」
「許可貰ったから魔力切れまで練習していいよ?」
アランの言葉に舞台の上に駆け上がる四人を見ながら演習場を後にする。
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