第百三十話 サミュエル初銭湯、初魔道具製作見学。
「子供二人だ。」
「あいよ。」
番台で金を払ってサミュエルと一緒に脱衣所へと行く。
「ほう?ここで服を脱ぐのかい?」
「そうだ。脱衣所だ。」
目を輝かしたサミュエルが聞いて来る。
王族が人前で肌を出していいのかとか色々と心配していたのだが、全くの杞憂だったようだ。
サミュエルは驚きの速度で服を脱いでロッカーの中に詰め込んでいる。
「早く!早く行こう!」
「待て。風呂は逃げん。」
サミュエルに急かされながら服を脱ぐ。
忘れずマジックバッグからタオルを二枚取り出してサミュエルに一枚渡す。
「いいか?タオルは湯船には浸けるのはマナー違反だからな?」
「ほう?わかった。他にもルールがあるんだろう?教えてくれよ?」
「勿論だ。」
「じゃあ早く行こう!」
サミュエルに手を引かれながら風呂場に入る。
「待て。ロッカーの鍵を持って入れ。あと走るのは駄目だ。」
「ふむ。確かに鍵をしないといらぬ事を考える者もいるかもしれないもんね?」
サミュエルが俺の言葉にうんうんと頷きながら、ロッカーに鍵をして風呂場へと歩いて行く。
脱衣所の扉を開けサミュエルは大興奮して今にも走り出しそうな勢いだ。
「おぉぉぉぉ!なんて大きい湯船なんだ!?」
「サム?まずは体を洗うぞ?」
湯船の大きさにサミュエルが興奮しているが、まずは体を洗うのが先決だ。
洗い場へとサミュエルを誘って一緒に体を洗う。
「タオルをボディタオル代わりにして体を洗うぞ。」
「成程!汗拭き用かと思ったが色々な使い方をするんだね。」
サミュエルが感心しながら俺の真似をして石鹸でタオルを泡立てて体を洗っているが逐一俺を見て真似をしながら体を洗っている。
とても気になって自分の体を洗うのに専念できない。
「なぁ?なんでそんなにぎこちないんだ?」
「恥かしい話しだけど今まで体は御付の人間が洗ってくれていたからね・・・」
サミュエルが恥かしそうに言うが、王族と言うのは自分の体も洗ったことがないという事実に言葉が出てこない。
そのままサミュエルに真似をされながら一緒に体を洗って風呂に浸かる。
「やっほーい!」
「サミュエル?飛び込み禁止だ。あと泳ぐのも禁止だからな?」
サミュエルが元気一杯に湯船に飛び込むので注意しておく。
どうやら俺の考え通りに足の付く場所で泳ぎの練習をしようと思っていたようだ。
念のために言ったのだがサミュエルがとても残念そうな顔をするので言っておいて本当によかった。
「よし体も温まったし、サウナに言って来る。」
「サウナってなんだい?僕も行くよ!」
俺が体が温まったのでサウナに行くべく立ち上がると、興味津々のサミュエルも付いて来るようだ。
サミュエルを引き連れてサウナへと行く。
「暑い!なんて暑いんだ!夏でもこんなに暑くはないよ?」
「煩い、他の客に迷惑だぞ?ここで汗を流してな?水を被ると気持ちいいんだ。嫌なら出て湯に浸かっていればいい。」
サウナに入った途端にサミュエルは顔を顰めてとても嫌そうな顔で言う。
俺はサウナの良さを説明するだけ説明して座禅を組んで鍛錬を開始する。
サミュエルは俺の言葉が気に入らなかったのか少しムッとした顔をして俺の隣で同じように座禅を組んで鍛錬を開始する。
「ふーっ!ふーっ!」
荒い息遣いが聞こえるので隣を見ると座禅を組むサミュエルが今にも倒れそうな程に全身を真っ赤に染めて必死に息をしていた。
「サム?無理はするな。外に出て少し体を冷やせ。」
「嫌だ!サウナも負けるのはごめんだ!」
サミュエルがこんな所でも負けず嫌いを発揮させている。
サミュエルが逆上せて折角の風呂が終わっては面白くないので一緒にサウナから出て水を浴びる。
「くぅーっ!火照った体が冷えて気持ちいいね!?」
「そうだろう?ここでしばらく体を冷やしてまたサウナに行くんだ。二回目はドロドロヌルヌルの汗が出て来るぞ?」
「ほう?それは楽しみだ。」
「水風呂に入るぞ?」
サミュエルと水風呂に入ってまたサウナで鍛錬を開始する。
その後もサミュエルの息が荒くなったら水を浴びて体を冷やして、またサウナに入り、その後お互いの体がふやけるまでゆっくりと湯船に浸かる。
「あぁ!いい湯だった!」
「もう夕暮れ時か・・・今日は学校に帰ってやりたい事があるのだがいいか?」
「あぁ勿論だ。」
サミュエルが俺の言葉に眠たそうに答える。
夜明け前に起きて一日中はしゃいだ上に風呂に何時間も入っていれば当然の結果だろう。
俺はサミュエルと一緒に学校へと戻る。
「ニコ?やりたい事ってなんだい?」
「大きい声では言えないがウィンストンの切り札を作る。」
「切り札ってなんだい?」
「部屋に戻ってから話そう。」
ウィンストン用の武器を作ろうと思っているのだが、こんな街中ではどこで誰が聞いているか分かったものではない。
サミュエルはとても気にている様子だが喋るわけには行かないのでそのまま説明はせずに学校へと歩を進める。
「それで?何を作るんだい?」
部屋に入るなりサミュエルが聞いて来る。
説明してもいいのだが二度手間は嫌なので扉を開けて俺達を尾行していたアランも部屋に招いておく。
「アランもさっさと入れ。」
「ばれてた?」
幻影魔法だろうか?
器用な事に周りの風景に溶け込んでいたアランが姿を現して部屋に入ってくる。
サミュエルは何も聞かされていなかったのだろう。
驚きの余り口をパクパクさせて喋る事が出来ないようだ。
「では。これからウィンストンの魔道具を作る。」
「魔道具・・・?」
手を一拍して言う。
サミュエルが先程から変わらずに間抜けな顔をして尋ねて来るが俺は無視して話を進める。
「という訳でアラン?風属性の魔石を貰えないか?」
「んっとねぇ?ワイバーンでいい?」
「十分だ。」
助かる事にアランは俺が何を作ろうとしているのかわかっているのだろう、即答でワイバーンの魔石をマジックバッグから差し出してくる。
「水はサーペント。火はケルベロス。・・・雷は鵺ってところ?」
「そこまでばれてるか・・・」
アランには全部ばれてるようである。
俺はすぐにアランからワイバーンの魔石を受けとり、代わりに鵺の魔石を取り出して魔力成型で形を整える。
「どういう意味ですか?」
「すまんがここからは俺は説明する余裕が無い。アラン任せた。」
「あいよ!これからニコはウィンストンとフォルナ、アイリーン、サミュエルの杖を作るのよ?」
俺は作業に集中するのでアランに任せる。
やはりアランがしっかりと俺がしようとしている事をしっかりと理解してくれているようだ。
しかもウィンストンだけでなく、フォルナとアイリーンとサミュエルの分も作ろうと考えている事も見抜かれている。
サミュエルのお小遣いの件といい最近下がりっぱなしだったアランの評価を見直すべきかもしれない。
「サミュエル?杖ってどうやって作るかし知ってる?って言っても魔石の形を見る限りステッキ型じゃなくてアクセサリー型だから杖では無いけど!」
「え?魔石を削りだして魔法陣を刻むんですよね?」
「その通り!だけどニコは属性魔石を御所望だ!ってことは・・・?学校で配った初級じゃなくて中級以上の魔法を刻むつもりね?しかも複数!」
「複数ですか!?って事は積層魔法陣ですか!?」
「そうね?削り出しじゃなくて魔力成型で丸ごと使うから出来る芸当ね?・・・あとは黙って見てなさい?」
「わかりました!」
アランの講義が終わり、サミュエルが俺の作業を真剣な表情で見つめる。
さすがのアランだが一つだけ間違いがある。
俺がこれから刻むのは積層魔法陣ではなく、連結魔法陣だ。
積層魔法陣は同じ系統の魔法陣を重ねて更に威力や範囲などを高めた一つの魔法を作り出すが、連結魔法陣は一つの魔法を基点にして魔法陣を広げるので一つの魔石を使って色々な魔法を使えるようになる。
「さて、ここからが本番だ。」
二人が真剣な表情で頷くのを見て、俺は成型した魔石に雷属性の魔力を込める。
「魔石の色が変わるんですか?」
「魔石って魔物から取り出した直後は透明なのよ?でも魔物から取り出すと周りの魔素を吸い込んじゃってすぐに濁っちゃうからあまり知られて無いけどね。」
魔石は呼吸をするように魔石の中の魔力と周囲の魔素を交換する。
こうして俺が純粋な雷属性の魔力を流して魔石の中で色々な属性が混ざった魔力を無理矢理押し出して純粋な雷属性の魔力だけを注ぐ。
こうして純粋な属性魔石にしておけば属性魔力が通りやすくなるので、絶対に必要な作業だ。
魔力を込め続けると真っ黒だった魔石は徐々に透明になっていき光が漏れ始める。
「さすがはニコね・・・これ鵺のでしょ?普通の職人が魔法陣を刻めるようにしようとしたら一月は魔力を込めるわよ?」
「それはまともに魔物も食べてない魔力量が少ない人間の話だろう?」
アランが言って来るので、俺は魔石に魔力を込めながら答える。
魔石が透明になり続いて雷の色、輝く様な黄色になるまで一時間程続ける。
「ニコ?お腹空いた!」
「今大事なところだ。もう少し待て!」
俺が同じ作業しかしないからだろう。
見るからに暇を持て余したアランが言って来る。
だがここで作業を中断すると折角純粋に雷属性だけになった魔石が再び呼吸をして雷属性以外の魔素を吸い込むので絶対に止められない。
俺はアランに言い、深呼吸をして丁寧に魔力量を調整しながら大量の魔力を一気に流す。
魔石から光が溢れ部屋の中が目も眩むような光で溢れる。
「眩しい!」
「ニコがするとこんな光んの!?」
光はすぐに納まり俺の手の中には完成した黄色く光る魔石が残る。
こうやって魔力を一気に流す事によって魔石は呼吸をしなくなる。
この時の流す魔力量が少なすぎると呼吸を止められないし、多すぎると魔石が耐えられずに割れてしまう。
言うなれば暴発寸前まで魔力を流す一番気を使う作業だ。
「さて。俺は作業を続けるからお前らはこれでも食べてろ。」
俺はそう言ってマジックバッグから適当に作り置きの料理を取り出してアランとサミュエルに渡す。
「えー?かに玉と海鮮スープ?もっとガッツリ無いの?」
「アラン先生?僕のパエリアと交換しますか?」
アランが俺の料理に文句を言うが無視して作業を続ける、次は出来上がった魔石に魔法陣を刻む。
この魔法陣を刻む事を人間界では刻印魔法と言うらしいが俺の物作りの師匠であるエドは魔法陣を入れる作業と言っていた。
エド達魔族のネーミングは良くも悪くもストレートで安直だ。
アランとサミュエルが騒がしく料理を交換したりして騒いでいるが、俺は無視して作業を続ける。
「まずは基本の初級魔法雷撃だ。」
空中に魔法陣を描き、何度も確認をして魔石へと刻み込む。
空中に描いた魔法陣は魔石の中へと吸い込まれて行き、すぐに魔石の中に雷撃の魔法陣が浮かび上がる。
「ほう?こうやって魔道具は作られるのですね?」
「そうよ?雷撃程度の初級魔法ならゴブリンの魔石でも行けるけど・・・わざわざ鵺の魔石を使うんだから・・・見てなさい?」
サミュエルとアランが真剣な表情で俺を見てくる。
そんなに見られるととてもやりにくいのだが、サミュエルの魔石なのでもし失敗しても問題は無いと、出来る限り軽い気持ちで次の魔法陣を宙に描き、サンダーボルトを基点に魔法陣を重ねる。
「まずは自由自在の雷を関連付けて・・・」
「自由自在の雷って仲間殺しの魔法じゃ・・・」
「それは魔力操作が未熟な者が打つからよ。本来は雷撃を操作できる超便利な魔法のはずよ?」
俺が魔法陣を刻み込んでいるとサミュエルが驚いて聞いて来る。
魔法陣を描くのに精一杯な俺を見たアランが俺の代わりに説明をしてくれる。
サミュエルはその説明を聞いて唖然として俺が魔法陣を刻む魔石を見ている。
俺も何か反応してやりたいのだが、ここで集中力を欠いて雷撃との接続を間違うとこの魔石はガラクタとなってしまうので慎重に行う。
「次は雷の雨と黒雷だな。」
俺は一気に魔法陣を描き終え何度も何度も確認をしてから慎重に魔石に刻んだ雷撃と接続する。
これで鵺の魔石の中には雷撃を中心に三つの魔法陣が描かれた。
そのまま適当に露天で買ったブレスレットに魔力成型で魔石を取り付けて完成だ。
俺は久々の魔道具の出来に満足して適当に夕食を取り出して食事にする。
「ん?ニコ終わりなのかな?」
「あぁ終わった。これはサミュエルのだ。」
ウィンストンのを作るとなると、フォルナとアイリーンの分も無いと戦力に差が出て訓練にならない可能性がある。
そして三人の分を作ってサミュエルの分を作ってないとなると、サミュエルはおそらくすねるだろう。
普段空気も読めるしとても大人なサミュエルだが、変な所で子供なのである。
久々に作るのでもし失敗しても一番訓練に支障が出ないサミュエルの魔道具を最初に作ったのだ。
「ありがとう!よし!すぐに城に帰って使ってみるぞ!」
「はいはい。護衛を置いて行かないでほしいね?」
嬉しそうにサミュエルが部屋から飛び出して行くので、護衛であるアランも仕方ないなと笑いながら部屋から出て行く。
俺は二人を見送ってしっかりと扉を施錠してから夕食を食べる。
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