第百二十九話 サミュエルとの王都観光
午前中はバルテ先生の座学をし、午後からは金・銀クラスと銅・鉄クラスに分かれて二時間ごとに剣と魔法の授業を交互に行い、夜は毎日交代でやってくるフォルナとアイリーンにしばかれたウィンストンに治癒魔法をかけつつサミュエルに武具のメンテナンス方法を教える。
読書をする暇も無いほどに忙しく過ごして五日が経った。
「精霊よ我に力を・・・ぶっほぁ!」
「何回も言ってるでしょぉ?詠唱するならしっかりと相手に邪魔されない状況を作りなさぁい!」
ウィンストンが魔法を放とうとするが詠唱を唱え終わる前にアイリーンの正拳突を腹に喰らって前のめりに地面に突っ伏している。
「一週間でかなり上達したわね?」
「五回に一回はウィンストンが結界を割るようになりましたもんね?」
「これなら武闘会に間に合いそうだな。」
三人でアイリーンと試合をするウィンストンを眺めながら話す。
だがウィンストンと一緒にフォルナとアイリーンの腕も上がっているような気がする。
「なぁ?訓練を始めた時のアイリーンじゃ自分の拳だけで結界を割るなんて無理だったよな?」
「鍛錬をしてるから身体能力強化魔法の精度が上がったんじゃない?」
「それを言うならウィンストン先輩は魔法以外では結界を割る手段はなかっただろうと思いますよ?」
俺の素朴な疑問はアランとサミュエルによって簡単に解決する。
言われて見ればその通りだ。今まで魔力操作を一切鍛錬してなかった人間が鍛錬をすると劇的な効果が現れるようだ。
「あぁ・・・明日が楽しみだね!?」
「サミュエル?そういう言葉は絶対に誰もいない場所で言え。」
明日俺はサミュエルと一緒に王都で買物をする予定なのだが、サミュエルはよほど楽しみなのだろう。
上の空でポツリと呟くので横っ腹を小突いて注意しておく。
「大丈夫!アイリーンとウィンストンには聞こえないって!」
「アルフォンスだと信じたいが、そことそことそこに盗聴魔法陣だ。」
サミュエルが俺が指を刺した先をポカンと口を開けて眺めている。
アランは気付いていたのだろう、間抜けな顔をするサミュエルの姿を見て笑いを堪えるのに必死な様子だ。
「時間だ。アイリーンは御苦労だった。ウィンストンは休みの間も鍛錬を怠るな?」
「はぁいっ!お疲れ様でした!」
「やっと終わった・・・ありがとうございました。」
いつも通り飄々とアイリーンが演習場から出て行き、ウィンストンは体を引き摺るように後ろを付いて行く。
もう治癒魔法無しでも大丈夫なようなので手間がかからなくて大変ありがたい。
俺達もそれを見送って三人で寮に戻る。
「じゃあまた明日ですね?」
「そうだな。」
「じゃあおやすみ?」
サミュエルとアランと別れて自分の部屋に戻る。
「(やっと家具が買えるな。)」
鍛錬を終えベッドと勉強机しか置いてない殺風景な部屋を眺めながらベッドに入って寝入る。
「ニコ!?ニコ朝だよ!?」
サミュエルが部屋に突撃してきて起こされる、まだ夜明け前のようで窓の外は真っ暗だ。
「サミュエル?まだ夜明け前だ、朝じゃない。」
「僕が目覚めたから朝だよ!?」
無駄にハイテンションなサミュエルは王子様の理論を爆発させていて聞く耳を持ってないようだ。
今までは部屋には結界を張っていて、許可した人間以外は入ることが出来ないので部屋の扉に鍵をかけてなかったが、今度からは施錠しようと心に誓う。
「まだ朝市は開いてない、何よりもこんな時間に起こしに来るのは非常識だ。自分の部屋に戻って寝直してくれ。」
「あー前回は玩具屋で一日使っちゃったからなぁ!今回はお小遣いも用意したしどこに行こうかなぁ?」
俺はなんとかサミュエルと追い返そうと寝ぼけ眼で言うが、サミュエルは目を輝かせて子供の様にはしゃいでいて聞こえないようだ。
睡眠霧で強制的に眠らせようかと考えるが、目が覚めたときにサミュエルは絶対に怒るだろう。
サミュエルは怒ると面倒臭いとアランから聞いているので思い留まり、深く溜息を吐きながらベッドから出て普段着に着替える。
「サミュエル?将棋でもしながら待とう。」
「いいね!将棋を指してれば気も紛れるしね!」
そう言ってサミュエルが鼻歌混じりにベッドの上に将棋盤を取り出して駒を並べ始める。
先程までの俺の発言は聞こえなかったのに、本当に都合のいい耳である。
二人で朝食を食べながら将棋を指す。
「そろそろいい時間だな。朝市に行くぞ?」
「そうだね?今日ばかりは負けても気にならないね?」
サミュエルとの勝負が終わり、窓の外を見ると東から太陽が覗き始め明るくなってきた。
あと十分もすれば魔力灯を解除しても普通に行動出来そうだ。
今から朝市に出れば丁度始まりくらいの頃合だろう。
負けたのに上機嫌でそそくさと将棋盤を片付けるサミュエルの顔に認識阻害魔法をかけて、二人で王都へと繰り出す。
「おうボン?今日は白菜がお勧めだよ?」
「おはよう。じゃあそれを五玉頂こう。他にも適当に見繕ってもらえるか?」
「あいよぉ!毎度!」
朝市に着くなりもうすっかり顔なじみになった高齢のマダムに声をかけられるのでお勧めの品を選んでもらい購入する。
「ニコちゃんおはよう?今日はいい芽キャベツがあるよぉ?」
「おはよう。では適当に見繕ってくれるか?」
「いつもありがとうねぇ?ひぇっひぇっひぇ!」
また少し歩くと先程と同じように顔馴染みになった高齢のマダムに声をかけられるのでいつも通りに勧められるままに野菜を購入する。
その後もいつもの顔馴染みとなった露天商で一週間分の食料を補充して行く。
「ニコってあれだね?実はすごい社交的だよね?」
「突然どうした?」
大体買い終えたので朝市をやっている通りから離れていると突然サミュエルが言って来る。
「だって十歩も進まずにそこら中から声をかけられて知り合いばかりじゃないか。」
「俺が毎週買物に来るお得意さんだからだろう?」
サミュエルが言って来るが俺に声をかければとりあえず買物をするから覚えられているだけなので、勘違いも甚だしい。
「フフッ!僕が見た感じではどこも結構サービスしてくれてるよ?ただのお得意さんじゃあんなサービスはしてくれないと思うよ?」
「ならば自分の認識を改めなければな?」
俺は感情表現が苦手なので人付き合いは苦手だと思っていたが、実は社交性があると言う事が判明した。
少し嬉しくなって足取りも軽やかにサミュエルと王都を歩く。
「それでサム?何をしたいんだ?」
「僕はニコが行く所に付いて行ければそれでいいよ?」
「ではまずは商店に行って家具を買おう。どこか気になる所があったら言ってくれ?」
「ふふふ。わかったよ!」
サミュエルの言葉に甘えて自分の用事を優先させていただく。
アランに教えてもらった家具商店へと向かう。
「いらっしゃいませぇ!」
「すまない。タンスとクローゼットが欲しいのだが。」
「ニコ?何を買うかなんて決めないで気に入った品を買えばいいんじゃない?」
商店に入ると店員が挨拶をして来る。
俺が案内をして貰おうと声をかけると、サミュエルが間に入ってくる。
確かにサミュエルの言う事にも一理有る。
「なるほど、そういう買物もいいな。すまないやはり色々と見させて頂く。」
「かしこまりました!ごゆっくりどうぞ!」
それにサミュエルの言うようにあえて何を買うか決めずに気に入った物を探す。そんな買物も楽しそうなので店員に案内を頼むのはやめてサミュエルと一緒に店内の家具を見て回る。
それにしてもさすがはあの小煩いアランが勧める商店だ。
店員達は子供だけで来ている俺達にも大人と変わらない対応をしてくれるし家具もとても素晴らしい物ばかりだ。
「ニコ?来客用にソファなんてどうだい?」
「来客だと?俺の部屋に入った人間はサム以外にいないぞ?」
「へぇ?結構みんな実習授業で暇になったらニコの部屋にはどんな物があるのかみんな予想しあったりして気にしてるよ?」
「金クラスは暇人ばかりか?」
サミュエルの言葉に呆れ返る。
何が楽しくて俺の部屋を想像するのか、理解に苦しむ行為である。
とは言えサミュエルが選んだソファは座り心地もよくとても素晴らしい品だ。
「とは言え二十万ゴールド・・・値段は中々だね?」
「ほう?サムは二十万ゴールドの価値がわかるようになったのか?」
「アラン先生に余剰すぎるけど念のためにって、お小遣いに十万ゴールド渡されたからね?」
「ほう?お小遣いってアランからだったのか。」
そう言ってサミュエルが一枚の金貨を楽しそうに右手で弄びながら言って来る。
まさかサミュエルの小遣いはアランの金とは思ってもみなかった、アランの事を見直す。
その後もサミュエルと一緒に家具を見て、タンスやソファに掛け時計と言った家具を購入する。
「王都内でしたら無料で配達しますが如何致しますか?」
「それはありがたい。ではエスガルド第一学校の一年銀クラス寮三十九番部屋にお願いできるか?」
「かしこまりました!こちらの引換え札をお持ちください!恐らく明日の午前中に伺います!」
「ではお願いする。」
会計を終えると店員から思いがけない事を言われる。
とりあえず荷車を借りて一回学校に戻ろうと思っていたので、二つ返事で答えると引換え札なる木の板を預かる。
この札を配達人に渡せば商品を受けとれるようだ。
引換え札の説明をしっかりと聞いて、商店を後にする。
「ニコ?次は何するんだい?」
「後はスパイスなどの調味料を買い足すだけだな。」
「ほう?それで終わりなのかい?休みの間はどこにいるか謎って聞いたけど普通なんだね?」
「普段なら朝市で買物を終えたらギルドで薬草採りの依頼を受けて森に行くからな。普段ならそのまま森で一泊してゆっくりしてから明日の夕方に王都に帰る。」
普段の今頃はギルドで依頼を受けてから森へ行って昼食を作っている頃だ。
サミュエルは森に行くと聞いて目を輝かしているが王都を出て森に行くのは危険すぎるので駄目だろう。
そう思ってサミュエルと調味料を補充して、適当な店で昼食を食べて大衆浴場へと行く。
「ほう!?これが噂に聞くアルトリウス浴場か!」
「そんな名前だったのか。」
「この街の名を冠する自慢の大浴場って聞いてるよ?」
「ほう?王都はそんな名前だったのか。」
次は大衆浴場に行くと言うと、意外な事にサミュエルは大喜びした。
そして大衆浴場が見えてこのはしゃぎっぷりである。
というよりこの街に住んで半年以上経つのに王都の名前がアルトリウスと言う名前なのを始めて知った。
「ニコ?早く行こう?」
「わかったわかった。」
大はしゃぎのサミュエルに手を引かれ、大衆浴場へと入る。
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