第百二十八話 本格始動する訓練
「やぁルドルフ!」
「ルドルフ殿お待ちしてましたよ?」
演習場に入るとアランとサミュエルが挨拶をして来る。
ウィンストンとアイリーンは舞台の上で座禅を組んで魔力の鍛錬をしているようだ。
「ふむ。しっかりと鍛錬をしているようで何よりだ。」
俺は鍛錬をする二人の邪魔をしない様に別の舞台に魔法陣を描く。
「ねぇ?これ結界?」
「そうだ。」
「なんで結界?」
「武闘会は魔法も有りの勝負なんだろ?じゃあその条件で闘わないとな。」
俺が魔法陣を描いていると興味津々な様子のアランが尋ねて来る。
武闘会は学校の剣の実習と違い、魔法なども使うと聞いたので結界を張って出来る限り安全に闘えるように、そして舞台が壊れないようにしている。
「ルドルフ殿?四隅にも魔法陣ですか?」
「範囲が広いから、こうやって範囲指定しておかないと消費魔力が酷い事になるからな。」
今度は興味津々のサミュエルが尋ねて来る。
結界もだが魔法というのは基本的に範囲を設定しなければ球体に広がっていく。
そして今回張る結界は少々特殊なものであり、舞台の四隅に範囲指定用の魔法陣を描いて舞台だけを覆うようにしないとこれだけの範囲を覆う結界なので俺の魔力量では無視できない量の浪費となってしまうのだ。
四隅に魔法陣を刻み終わり、中央の魔法陣に魔力を注ぐ。
すぐに魔法が発動して半透明の結界が舞台を覆う。
「アラン?簡単な魔法を放ってみてくれ。」
「へい!」
結界を張るのに魔力を使いすぎたので、確認用の魔法をアランにお願いする。
アランは快諾してすぐに四方八方に水球を発動し始める。
「連続?いや同時発動か!?しかも元素魔法ですよね?さすがはアラン先生だ・・・」
アランの魔法を見てサミュエルが驚愕している。
アランの水球が結界にぶつかって弾けているが舞台の外には一切影響は出ていないので問題無さそうだ。
「アラン?俺に強めの魔法を打ち込んでくれ。」
「あいよ!」
アランが俺に向かって水球を放ってくる。
『パリン』
水球は俺に張られた結界とぶつかり水球は弾け、結界がガラスが割れるような音と共に消えて無くなる。
「ふむ。次だ。」
俺に張られていた結界が消滅した事を確認して一回舞台から降りて結界内に入りなおす。
「へぇ?入りなおしたら結界が復活すんの?」
「そうだ。結界の強度は致命傷になる程度の衝撃で壊れるはずだ。」
「この魔法を使えば訓練に革命が起きるのでは?」
俺の張り直された結界を見てアランが感心して言い、サミュエルは中央にある魔法陣を必死に書き写し始める。
「サミュエル?魔法陣が知りたいなら後で教えてやるからアイリーン達を呼んできてくれるか?」
「その必要はないですよぅ!」
「僕達は準備万端です!」
俺がサミュエルに言うと後ろから声が聞こえる。
どうやら二人共鍛錬を終えて俺の作業が終わるのを静かに待っていたようだ。
「ではウィンストン?武闘会の訓練と冒険者の訓練どっちがしたい?」
「・・・では冒険者の訓練を!」
ウィンストンが一瞬考えて冒険者の訓練を選ぶ。
俺はすぐにみんなに指示を出す。
「わかった。アランは降りて見学しろ。サミュエルはそのままアイリーンとウィンストンとパーティを組んで俺と勝負だ。結界が割れたら一回舞台から降りて入り直すんだぞ?」
「え?組むんですか?」
舞台に上がってきたウィンストンが不思議そうな顔をして尋ねて来る。
サミュエルとアイリーンはすでに目配せをして左右に散って武器を構えていると言うのに悠長な事である。
「冒険者なら連携を取らないと駄目だろう?俺は魔物と思え。俺の結界を割ることが出来れば、御褒美をやろう。」
「御褒美ですか?」
「きっと喜ぶものだ。ウィンストン無防備すぎるぞ?」
俺はマジックバッグから木刀を取り出して、馬鹿みたいに突っ立っているウィンストンを横薙ぎに振り払う。
結界はいとも容易く割れ、ウィンストンは余波で吹っ飛び端の結界にぶつかり舞台の上に落ちる。
「ガハッ!」
「冒険者の戦闘に開始の合図なんてないぞ?」
四つん這いになって苦しむウィンストンにしっかりとアドバイスをしておく。
「そのとおりです!冒険者の戦いに卑怯と言う言葉はありません!」
「不意打ちで声を発するのも馬鹿のする事だ。」
「嘘だぁ・・・」
後ろで杖を構えたサミュエルが放った雷魔法をキャッチして魔法式を分析して握り潰す。
精霊魔法なら精霊も適当な魔法構築しかしてないので魔力を分析すれば勝手に魔素に分解するのだが、元素魔法は魔法式を分析して魔法を乗っ取ってから分解させなければならない。
普段は面倒臭いし暴発などの危険もあるので絶対にしないのだが、サミュエルが放ったのは初級魔法なので分析は容易だ。
俺には通用しないぞというアピールも含めてわざわざ握り潰す。
それを見たサミュエルが信じられないものを見るように目を見開いているのでアピールには成功したようだが、余韻に浸っている暇は無さそうだ。
背後から斬りかかって来るアイリーンの剣を木刀で背面受けしてアイリーンに後ろ回し蹴りを叩き込む。
アイリーンも結界が割れ、そのままウィンストンと同じように端の結界まで吹っ飛んでいく。
「ウィンストン君!さっさと入りなおして戦線復帰しなさぁい!」
だがさすがはアイリーンだ。
痛そうに顔を歪めながらも即座に舞台から降りて自分に結界を張り直してウィンストンに激を飛ばしながら俺に向かって来ている。
「サミュエル?前衛がいないのに後衛役に徹してどうする。アイリーンの下に戻るなり勝つために考えて動け。」
俺に向かって魔法を連発するサミュエルにもしっかりとアドバイスをしながら木刀で舞台の端まで吹っ飛ばす。
その後も訓練を続け二十分程立った所でとうとうウィンストンがギブアップする。
「もう・・・無理です・・・指も動きません。」
「僕もそろそろ魔力も体力も限界です。」
「魔物と闘うよりも大変ですよぅ・・・」
「三人がかりで俺の結界を一回も割れないとは情けない。」
舞台の上で息を荒げて大の字で寝転ぶ三人を見て思わず言ってしまう。
とりあえずまだまだ訓練をするつもりなので三人に治癒魔法をかける。
「さすがはルドルフ殿ですねぇ?アザだらけだったのに消えてますよぅ?」
「痛みも消えましたね?」
「なんと言う魔法だ・・・」
「さぁ再開だ。全員結界を張り直せ。」
治癒魔法をかけ終わり三人が立ち上がって自分の体を確認し始める。
元気そうなので訓練を再開させるべく三人に言うが、三人は一様に嫌そうな表情を浮かべて結界から出ようとしない。
「どうした始めるぞ?サミュエル?さっきは参加できると嬉しそうだったじゃないか?」
「いや・・・僕は・・・」
サミュエルのとても嫌そうな顔をしてアランに助けを求めるように視線を送っている。
ここまで嫌がるサミュエルは今まで見た事ないが無いので余程嫌なのだろう。
「アイリーンはいいとして、なぜウィンストンは動かないんだ?冒険者として大成したいんだろう?」
「ルドルフ教官!僕はわかりました!とりあえずは武闘会の訓練が必要です!」
ウィンストンにも聞くがかなり食い気味で言って来る。
ウィンストンがそう言うなら武闘会に備えて一対一の勝負に慣れてもらう事にしよう。
「わかった。俺とアイリーンどちらに相手をして欲しい?」
「アイリーン教官でお願いします!」
先程の俺との訓練がよほど嫌だったのか考えたのかも疑問になるほどの即答だ。
「アイリーンいいか?」
「はい!お任せくださぁい!」
「殺すなよ?死ななければ俺が治してやる。」
「そういう事ですねぇ?わっかりましたぁ!」
アイリーンが敬礼をしながらとても悪い顔で笑って返事をする。
「じゃあサミュエル?俺達は舞台から降りるぞ。結界の魔法陣を教えよう。」
「わかりました!」
アイリーンが悪い顔のまま不気味に笑いながら訓練用の剣を素振りしているので、若干嫌な予感がするがウィンストンはアイリーンに任せる事にして俺はサミュエルに魔法陣の講義をするべくアランの下に戻る。
「ほらほらほらほら!さっさと結界を張り直しなさぁい!」
「ルドルフ教官よりもきつい!張りなおしますから叩かないで下さい!」
舞台からアイリーンとウィンストンの声が聞こえてくる。
ふとサミュエルへの講義を中断して視線を向けると、十分も経っていないのに治癒魔法をかける前よりもアザだらけになっている。
「ウィンストンは選択を誤ったな。絶対に俺の訓練の方が優しいぞ。」
「まぁさっきの三対一の闘いの後じゃアイリーンを選ぶわな・・・さ!魔法陣の続き!」
「わかった。」
二人の様子を見て思わず声が漏れる。
アランも一瞬舞台へと視線を向けるが、それよりも結界魔法陣の仕組みが気になって仕方ない様子だ。
サミュエルに至っては魔法陣に集中しすぎてアイリーン達の声も俺達の会話も耳に入っていないようだ。
「ルドルフ殿?ではここの文言を変えれば結界の強度も変更出来るのですか?」
「おそらくな?俺も仕組みは理解しきれてないから、今の説明もほとんど受け売りだ。」
講義が終わってサミュエルが質問をしてくるので答えるが断言は出来ない。
今した講義もルルの小難しい説明を出来る限りわかりやすくして話したに過ぎないのだ。
「そろそろウィンストンを助けてやるか。」
「む?ウィンストン先輩あんな顔でしたっけ?」
「・・・そうね、急いであげて?」
俺が言うと、二人が思い出した様にウィンストンとアイリーンに視線を向ける。
顔がボコボコになったウィンストンを見てサミュエルとアランがドン引きしている。
「そこまでだ。ウィンストンこっちに来い。」
「助かったぁ!」
舞台に近づいて声をかけると、ウィンストンが剣を放り投げて寄ってくるので治癒魔法をかけてやる。
「アイリーンどうだ?」
「文字通り死に物狂いになるまで追い詰めたので、かなり効果はあると思いますよぅ?」
とてもスッキリした顔のアイリーンが答える。
騎士とはとても肩身が狭そうだなとは思っていたがアイリーンはかなりストレスが溜まっていた様だ。
だがこの訓練で発散するのはやめて頂きたいのだが、確かに死を感じた時の経験値はとても多いのであえて何も言わないでおく。
「ウィンストンどうだ?今日の訓練は何を学んだ?」
「教官達は化物ばかりと言う事を学びました。」
「よし!治ったので再開ですねぇ?」
「待て。今日は終了だ。」
顔の腫れが引いたウィンストンに尋ねるがとても心外な言葉を言う。
アイリーンも同じく心外だったようでとても恐い笑みを浮かべながら治癒が終わったウィンストンの後ろ襟を掴んで訓練を再開させようと引き摺り始めるのだが時間が来たので止める。
「もうそんな時間でしたか・・・さっきの言葉のお返しは明後日ですねぇ?」
アイリーンが心底残念そうだが時間になってしまったのでこればかりはどうしようもない。
アイリーンの言葉にウィンストンが顔を青くさせて震えているが、自業自得なので自分で対処してもらうとして、俺は一番気になる事をアイリーンに尋ねる。
「アイリーン?お前とフォルナはマルスに勝てるのか?」
「・・・多分勝てないでしょうねぇ?」
アイリーンが数瞬考えて言う。
マルスに勝てないアイリーンにされるがままにボコボコにされているのではマルスに勝って優勝どころかマルスと闘うまでも無く敗退しそうだ。
「ならウィンストン?少なくともアイリーンとフォルナと互角の勝負はしてくれないと話しにならんぞ?」
「精進します・・・」
「では今日は終了だ。ウィンストンまた明日だ。アイリーンは遅くまで御苦労だった。」
「はっ!では失礼致します!」
「ありがとうございました!」
アイリーンとウィンストンが敬礼をしてアランとサミュエルにも挨拶をしてから、いそいそと演習場から出て行く。
俺は二人を見送ってから舞台の結界を解除して魔法陣を隠す。
「魔法陣が消えたけどまた描くんですか?」
「認識妨害魔法で隠しただけだ。こうしておけば明日からの発動に必要な魔力は今日の半分になるからな。さ、帰って寝るぞ。」
魔法陣を隠していると興味津々な様子のサミュエルが尋ねて来る。
サミュエルはまだ聞きたい事がありそうだったが、今日も色々あって疲れたのでさっさと部屋に戻って寝たいのでアランの下へと歩を進める。
「アラン帰るぞ?」
「へい!」
「今日も色々あったねぇ?」
アランに声をかけて付いてきたサミュエルと共に演習場を後にして寮へと戻る。
「そういえばルドルフ殿?今日言っていた御褒美って何を用意してたんですか?」
「何も考えてなかった。適当に金貨でも出していたかな?」
帰り道でサミュエルが聞いてくるが、本当に何も考えてなかったので適当に答えておく。
サミュエルは金貨と聞いて悔しがる所か少し安心した様子だ。
「ウィンストン先輩とアイリーン教官は喜んだでしょうね?」
「三人でしっかりと連携すれば壊せたと思うぞ?」
サミュエルは深い溜息を吐きながら首を振って否定しているが、俺の手は二本しか無いそれに今日の訓練では俺は攻撃魔法を一切使用しなかった。
三人が同時に攻めてくれば俺は対処しきれなかった可能性は十二分にあったはずだ。
そんな事を話しながらサミュエル達と別れて、自分の部屋に戻り鍛錬をしっかりとしてから布団に入って意識を夢の中へと手放す。
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