第百二十七話 普通の魔力量
「次!ニコ!」
「はい。」
アランに呼ばれたので、読書をやめてアランの下へと進む。
「半分で発動したぜ?」
「さすがはマットだ。」
擦れ違いざまにマットが嬉しそうに言って来るので、褒めるとマットは小躍りするようにリュカの下へと向かうので俺はそのままアランの隣に立ち杖を構えて魔法を発動しながら気になっていた事を尋ねる。
「アラン?入学試験の時に金クラスで待ってるって言ってなかったか?」
「バルテがねぇ?勇者は私が教えるって聞かなくってねぇ?」
「成程。なぜ銀クラスの教官になってるのか不思議だったが大体わかった。」
「まぁニコには退屈な授業だろうけど付き合ってね?次!リュカ!」
話しながら今度はしっかりと火球を発動させて的に当てる。
アランが次のリュカを呼ぶので俺も振り返っていつもの場所に戻る。
「さすがは我がライバルだ!一回で魔力量を調整するとはな?」
「上手くいってホッとしてる。」
擦れ違いざまにリュカが楽しそうに言って来る。
アランに頼まれなければ火球如きを暴発させるなどありえない、たとえ暴発しても魔法障壁でどうとでも対処出来る。
だがそれを言ってはアラン先生の頑張りが無駄になるので、この言葉を選んだがきっと間違っては無いはずだ。
「次!ニコ!」
「早すぎないか?」
「金クラスのみんなが魔力切れだから金クラスの的も使ってるんだ。」
アランに呼ばれるのだが、先程魔法を発動してから十分も経っていない。
思わず言うとリュカが説明してくれるので、隣の金クラスの生徒を見るとみんな魔力切れを起こして青い顔でぐったりと座り込んでいる。
ただ二人サミュエルとエミールは涼しい顔で座って俺に手を振っているので演技のようだ。
「まぁこの年齢なら十発発動出来れば上出来ね。」
「成程・・・俺達が一巡する間に金クラスは三巡するからか。」
「そゆ事!次!リュカは隣でやってるから・・・ターニャ!」
アランと話しながら魔法を発動する。
アランの言葉にサミュエルとエミールが演技をしている理由がわかった。
俺も十発発動すれば魔力切れのふりをしてゆっくりと読書が出来るようである。
「ターニャ?十発打ったら魔力切れの演技だ。」
「え?なんで?」
「終わったら俺のところに来い。」
擦れ違いざまにターニャと話をしてマットの下へと戻る。
「ちょっと!どういう事!?なんで十回で演技しなくちゃ駄目なのよ!?」
「ターニャ?少し音量を下げろ。マットも近くに。」
「ん?何々?」
魔法を発動し終えたターニャが語気を荒げながら詰め寄ってくる。
これからする話は出来れば周りには聞かれたくないので、ターニャとマットと顔がくっ付きそうな程に近づけて貰ってから話す。
「サミュエルとエミールを見ろ?」
「涼しい顔で座ってるわね?」
「サミュエル様なんて満面の笑みで手を振ってるね?」
俺の言葉にターニャとマットが魔力切れで座り込む金クラスの生徒を見やるとエミールは涼しい顔で教科書を読み、サミュエルに至っては、俺達の視線に気付いて手を振っている。
とりあえずのん気にサミュエルに手を振り返しているマットを止めて話を続ける。
「つまりだな?俺達は普段強力な魔物を食べているから他のみんなに比べて魔力量が圧倒的に多い。それがみんなにばれればどうなる?」
「・・・みんながニコの料理に殺到する?」
「・・・ニコ過労死しちゃうね?」
二人が俺の言葉に考える。
確かにその可能性もあるな。と納得するが俺は別の可能性を思い浮かべていた。
「その可能性もあるが、一番高い可能性は俺達の机の人間全員が妬まれる。そして結託して嫌がらせなんて可能性も十二分にある。」
「そっちのが可能性あるわね・・・」
「俺!ロジェに言って来る!」
俺の考えを言うと二人は分かりやすく顔色を悪くする。
マットが慌ててロジェに伝えるべく胴クラスの下へと走って行く。
「わかったな?別に魔力切れの演技をしなくてもいい。だがみんなに比べて明らかに回数をこなすな?」
「わかったわ!」
ターニャは俺の言葉に真剣な表情で頷いてこちらの様子を伺うソフィアの下に戻って行く。
「ニコ?ロジェも任せろ!だって!」
「そうか。ありがとう。」
満面の笑みのマットが駈け寄ってくる。
どうやらロジェも問題無いようなのでこれで一安心だ。
一安心すると同時に今日だけしか使えない技だがいい事を思いついた。
「ちなみに俺は一発目に暴発させるほどに魔力を使ったので次で魔力切れだ。」
「成程。ニコって色々考えてるんだね?」
「まぁ俺も楽をしたいからな。」
おそらくアランに言えば問題無く合わせてくれるはずだ。
すぐに順番が来ると思うので、読書せずに俺が呼ばれるのを待つ。
「アラン?最初に暴発させたから俺は魔力切れだ。」
「わかったわ、なら魔力不足で未発動させて?」
アランに言うと即答してくれる。
俺はありがたく杖に少しだけ魔力を込めて無理矢理発動させる。
『ポフッ』
杖の先から小指の先程の火球が出てすぐに破裂音と共に消える。
「あら?ニコもう魔力切れ?・・・って一回目の暴発であれだけ魔力使ったら当たり前ね!」
俺の魔法を見たアランがわざとらしくみんなに聞こえるように大声で言う。
少々わざとらしすぎる気もするが、へなへなとその場に座り込むと俺に心配そうな視線が集まるので大丈夫そうだ。
「ニコ大丈夫!?」
「すまんが肩を貸してくれ。」
すぐにマットが駆け寄ってくるので、マットに肩を組んでもらい、いつもの場所まで歩いて行く。
「マットありがとう。」
「なんのこれくらい!にしてもニコ演技上手いね?」
「マット達がいなければ成立しないがな。」
「じゃあ僕はあと六回くらい練習したらだね・・・」
「そんなに意気込まなくてもアランが助けてくれるから大丈夫だ。」
いつもの場所に座り込んでマットと話をする。
マットがガッツポーズをして気合を入れているので、緊張をほぐすために言ってから、本を取り出して読書を開始する。
「はいそこまで!本日の魔法実習は終了です!では皆さん明日の朝教室で会いましょう!ではごきげんよう!」
読書をしていると突然バルテ先生の声が聞こえる。
視線を上げた時にはバルテ先生はすでにせかせかと学校の中に入っているところだった。
運動場を見渡すと銅クラスの半分ほどは魔力切れで座り込んでいるが、残りの半分は元気そうにしている。
単純計算だが最初から最後まで的が一個の鉄クラスの生徒は二回か三回しか魔法を発動できてない事になる。
そして金と銀クラスは一時間以上休むことが出来るので魔力切れを起こしていた全員が立ち上がって学校の中へと戻っていっているが、銅クラスの座り込んだ生徒達は魔力が回復して無いようで青い顔をして座り込んだまま動かない。
各クラスでの違いが一目ではっきりと見えてしまう状況だ。
「ニコ?早く調理室に行こう?もしかして本当に魔力切れかい?」
「いや、このクラス格差を目の当たりにしてな?」
「こうする事によって全員の尻を叩いてるって事だね?」
「それにしても二人の様子を見てなければ俺は気付かずにずっと魔法実習を行っていただろうな?感謝する。」
「フフフ!僕だって色々考えてるんだよ?」
サミュエルと話しながら調理室へと向かう。
「夕食は何を作る予定だい?」
「何も考えてない。」
「なら・・・そこで作ってるコロッケ、いや!カニクリームコロッケが食べたいな?」
「揚げ物か・・・わかった。」
サミュエルが前の調理台で作っているものを見て言って来る。
揚げ物は油が少々高価なのでたまにしか作らないのだが、サミュエルの要望とあらば是非応えさせて頂こう。
「ならサミュエルはスープとイカのカルパッチョサラダを作ってくれ。」
「了解だ!」
サミュエルに指示を出して、俺もすぐに料理を始める。
「おぉ!コロッケじゃ!揚げ物じゃ!」
「揚げ物まで作れるとはニコ君には驚くばかりだね・・・」
元気一杯なロジェとエミールがやって来て料理を持って行く。
「ニコ?僕達の分はあるんだよね?」
「勿論だ。」
二人を見送って調理台の片付けをしているとサミュエルが心配そうに言って来る。
おそらく昼食のピザが二人分を作れなかったので心配になったのだろう。
俺ははっきりとサミュエルに言っておく。
「なら安心だ!じゃあ食堂に行こうか!」
「そうだな。」
俺の言葉に表情を和らげたサミュエルと一緒に食堂へと向かう。
食堂ではみんながいつも通りカニクリームコロッケを見つめて俺の開始の合図を待っていた。
「じゃあ夕食開始だ。」
サミュエルと一緒に席に座って自分達の分の料理を取り出しながら言う。
みんないつも通りに一斉にカニクリームコロッケ争奪戦を繰り広げている。
最近では生徒側が身体能力強化魔法を使い始め、フィルとアランもみんなに合わせて魔法を使っているようで、一層過激になった。
「あ!カルパッチョが・・・」
「道理で・・・コロッケが取りやすいと思ったわい。」
アランとフィルがカニクリームコロッケを必死に取っている間にターニャとエミールはカルパッチョを全部取って自分の皿に盛っている。
そして勝ち誇った顔でマットとロジェとカルパッチョとカニクリームコロッケを交換し始める。
「フフフ!メインのカニクリームコロッケは十分にありますもん!」
「そうそう!重要なのはクラーケンを使ったカルパッチョの確保ですよ?」
ターニャとエミールの作戦だったのだろう。
二人がフィルとアランに向かってドヤ顔で言っている。
「そんな目で見るな。しっかりと六人分作ってある。争奪戦などせずにみんなで仲良く分ければいい話しだろう?」
「ぐぬぅ・・・サラダが無いと胸焼けするではないか・・・」
「まさかこんなに早く出し抜かれる日が来るとは・・・」
フィルとアランが俺のカルパッチョと俺を交互に見ながら言って来るのできっぱりと拒否しておく。
それに今まで自分達がより多く食べたいがために争奪戦にしていたのに、出し抜かれた途端に俺に助けを求めるなど虫が良すぎるというものだ。
フィルとアランは苦虫を噛み潰したような顔をして笑顔でカニクリームコロッケとカルパッチョを食べるターニャ達を見ている。
「うっぷ・・・胸焼けする・・・よし、みんな校長室で武具の手入れを教える。」
「「「「お願いします!」」」」
夕食が終わり、アランとターニャが食器を洗って戻ってくると、気持ち悪そうなフィルが四人を引き連れて食堂を出て行く。
「じゃあ僕達も用事をしに行こうか?」
「そうね?じゃあニコまた明日ね?」
「あぁ。また明日。」
サミュエルとアランも食堂から出て行くので、俺も自分の部屋に戻る。
「さて・・・ウィンストンはどうなってるかな。」
1人ごちりながらルドルフになり演習場へと向かう。
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