第百二十六話 元素魔法の授業
「(ほう?オスカーの元素魔法は普通なのだな?なぜだ?)」
俺達が杖を受け取る頃にはバルテ先生が見守る中、金クラスが魔法を発動し始める。
サミュエルは普段魔力の鍛錬を積んでいる分問題無く発動させ、勇者のオスカーも普通の火球を発動させている。
今までの精霊魔法の授業では直径二メートルの火球を撃ち、身体能力強化魔法を使えば演習場の天井にぶつかりそうな高さまで飛び上がり、そのまま落下しても無傷という無茶苦茶な様子だったのに元素魔法で放った火球は普通の直径三十センチの大きさで普通に的に当たって、普通に爆発している。
俺が首を傾げて考えていると杖の先に付いた石を覗き込みながらマットが俺の肩を叩いてくる。
「ねぇねぇニコ?こんな魔法陣見た事ないよね?」
「ふむ・・・これは石礫の魔法陣だな。」
「ぬ?ニコわかるのか?」
「リュカも火属性か、元素魔法火球の魔法陣だ。」
「なぜ知っているんだ?」
俺の説明にマットが目を輝かせ、リュカは俺を訝しげな視線を向けてくる。
「本で勉強した。」
「元素魔法の勉強など大人でも理解出来ないぞ?」
「はい!全員杖を受けとったね?銀クラスを受け持つアラン先生だよ!よろしくね?」
リュカが驚いているが上機嫌なアランがやってくるので会話を切り上げてアランの話を聞くことにする。
「まずは、杖の説明から!この杖には元素魔法の魔法陣が刻まれてますがぁ?精霊魔法と元素魔法の違いがわかる人!?」
「はい!」
とても楽しそうな表情のアランが手を挙げながら聞いて来る。
即座にターニャが手を挙げている。
「いいねいいね!ターニャ教えてくれるかな?」
「はい!精霊魔法は精霊に魔力を渡して空気中の魔素を使って発動してもらいますが、元素魔法は精霊を介さずに自分の魔力で魔法を発動します!」
ターニャが元気よく答え、それをアランは笑顔でうんうんと頷きながら聞いている。
「うんうん!じゃあ精霊魔法の利点と欠点を言えるかな?」
「はい!精霊魔法は精霊に魔法を発動してもらうので、暴発や非発動と言ったイレギュラーが起こりにくいですが、周りの魔素を大量に使うので連発出来ません!」
ターニャが淀みなく答える。
精霊魔法は精霊に魔力を渡す代わりに周りの魔素を使って魔法を発動してもらう。
よって連発や一斉発射などをしようとすると魔素が足りずに発動しない。
さらにまだまだ欠点があるのだが、俺が口を挟むのも違うと思うので何も言わずに静かに聞く。
「うん!よく出来ました!じゃあ元素魔法の利点と欠点は知ってるかな?」
「元素魔法は・・・わかりません・・・」
アランが更に聞くがターニャは悔しそうに答える。
元素魔法の勉強はまだ一切してないので当然の事である。
「じゃあ元素魔法の利点は自分の魔力が尽きない限りは連発や同時発動が出来る事。欠点は魔力の制御が難しいから未熟な者が連発や同時発動しようとすると最悪暴発して死を招く事もあるね?あと精霊魔法に比べて魔法陣が複雑になるってのもあるね?」
アランが説明を銀クラス全員が真剣に聞き入る。
マットに至ってはノートを取り出して逐一アランの言葉をメモしている。
「更に言うなら魔力の制御が完璧であれば!だけど同じ威力の魔法を使った時に元素魔法は精霊魔法の半分の魔力で発動出来ます!」
「「「「おぉー!!」」」」
アランの言葉に歓声が上がりみんなが浮き足立ってあれこれと話し始める。
「先生!なぜ同じ威力の魔法なのに消費魔力が違うのですか?」
「ソフィアいい所に気付いたね?言うならば・・・魔力の制御も出来ないのに魔法を使うってのはお金の数え方がわからないのに買物するのに似てるかな?財布を開いて店員に代金を取って貰ったらどうなる?」
「え・・・私ならラッキーって思って大目に貰っちゃうかな?」
「そう!精霊も同じ事をしてるんだ。よく言えば魔法の制御賃も取られてるって感じかな?・・・これは精霊批判じゃないからね?精霊教の生徒は勘違いしない様に!」
驚いた事にアランの説明はルルがいつもする説明とほぼ同じだ。
もっともルルはもっと小難しい言葉を使用して理解するだけで疲れるのだが、アランの説明は美味く噛み砕かれていてとてもわかりやすく驚く。
「ただし!最初は精霊魔法と同じ魔力量を使わないと元素魔法は発動しないだろうからそのつもりで!」
「先生!なぜ半分で済むと言ったのに同じ魔力量が必要なのですか!?」
「あなた達は魔力の制御出来ないでしょ?それに最初は精霊魔法での使用量が体に染み付いてるから自然と同じ量の魔力を使って発動しちゃうのよ?」
「なるほど・・・癖になってるわけですね。」
ターニャの質問に普段のアランからは想像もつかないほどに穏やかな表情で優しく諭すように説明をする。
全員がアランの言葉に目を輝かして杖を触ったりしている。
「先生一ついいですか?」
「リュカね?何かな?」
隣のリュカが真剣な表情でアランに向かって手を挙げている。
「なぜ制御が難しい元素魔法を練習するのでしょうか?」
「えー・・・この世界で一番魔素を出すものって何かわかるかな?」
「・・・わかりません。」
「諸説あるけど一番有力なのは魔族で次が魔物なの!んでその次が人間って言われてるね?」
「ふむ・・・それが精霊魔法と関係が?」
「大有りよ!魔物を討伐するのに精霊魔法で倒すって事は余程離れてない限りはその魔物が放出した少なくない量の魔素を使って発動してるのよ?元々は自分の魔力だった魔素で殺される生物はいるかしら?そしてそれが魔族なら魔力の制御も出来るから元自分の魔力で作った魔法を制御されて乗っ取られる可能性が高いのよ。」
これも普段ルルに耳にたこが出来るくらいに言われていた言葉だ。
と言ってもルルなら今の倍以上長々と話した上に結論は自分で出せと言わんばかりに最後の大事な部分を言わないだろう。
「さ!みんな大体わかったね?じゃあ暴発する危険もあるから一人づつ魔法を使ってみよー!暴発しかけたらあたしが制御するから心配せずに魔法を発動してくれたまえ!では十一位ターニャ!前期の授業と同じように的に魔法を発動してみて?」
「はい!」
上機嫌なアラン運動場に並べられた的の前に立って軽い調子でターニャを呼ぶ。
アランとは対照的にターニャは緊張した面持ちで杖を握り締めてアランの隣に立って杖に魔力を込め始め、杖の石が光り始める。
「これはやばいな・・・」
ターニャの魔力操作を見て思わず呟いてしまう。
「え?どうしたの?」
「俺にはしっかりと杖に魔力が巡っているように見えるが?」
俺の呟きを聞いたマットとリュカが不思議そうな顔で聞いて来る。
ターニャは精霊魔法の魔法陣が刻まれた杖を持っていたので杖に魔力を流すのに慣れているからだと思うが、魔法陣は魔力を送りすぎて暴発寸前だ。
アランもいつでも飛びかかれるように身構えている。
「風の刃!!」
ターニャが杖を前に突き出して魔法を発動させる。
過剰な魔力を込められた風の刃は刃の形を維持できずに的に届く前に霧散して運動場に砂埃が舞い上がる。
「「「「おぉっ!」」」」
勇者であるオスカーが放つ精霊魔法の火球並の爆発を見て銀クラスから歓声が上がる。
「すっげぇぇぇぇ!」
「俺もあんな火球を打ちたい・・・」
マットとリュカも興奮しているが、俺とアランは暴発しないかと冷や冷やしていたのでホッと胸を撫で下ろす。
その後もアランの指示の下順番に魔法を発動するのだが、ターニャ以外に暴発しそうなくらいに魔力を込める生徒はいなかったので一安心だ。
そしてとうとうマットの順番がやって来たので俺も自分の番に備えて立ち上がってマットを見守る。
「マット?気負わずに気楽に撃ちなさい?」
「はい!・・・よぉし!」
マットが杖を前に突き出して魔力をこめ始める。
すぐに杖の石が光り始めアランがごくりと息を飲むのがよくわかる。
ターニャ以来二人目の暴発候補生がマットだった。
「(俺の料理を食べて魔力量が増えたからか?)」
「石礫!」
俺がそんな事を考えているとマットが魔法を発動させる。
マットのストーンバレットは的を倒してそのまま奥に生えていた木を薙ぎ倒してばらばらと崩れて土へと戻り、アランがターニャの時と同じように胸を撫で下ろしている。
「初めてにしては上出来よ!でもマットもターニャと同じように魔力を抑えなさい?」
「わかりました!」
「では次!ニコ!」
「はい。」
嬉しそうなマットと入れ違いにアランの隣に行く。
「ねぇニコ?安全に暴発させてくんない?」
「なんだと?」
「今のままじゃ暴発の危険性がわからないから・・・」
「まぁ先生の協力をしておこう。」
アランの言い分も分からんでもない。
このまま魔法の暴発が起こらなければそれでいいのだが、もし誰かが暴発した時に大惨事になりかねない。
だが安全な暴発とはどういうものかさっぱりわからないのでとりあえず普通に暴発をさせる事にする。
「アラン行くぞ?」
「いつでも制御するよ?」
アランが真剣な表情で言うので遠慮なく杖に過剰な魔力を送り込む。
光り始めた石がどんどんと光を強め、すぐに目が眩むような光に変わる。
「危ない!ニコ下がって!」
アランが俺の杖を持ってわざとらしく大声で言うので、俺は素直にアランに杖を渡して後ろに避ける。
「んんんんんんっっっ!!はぁ!」
アランが杖を空に突き上げると巨大な火球が空に打ち上がり、しばらくして大爆発を起こす。
「あんた・・・安全にって言ったでしょ?あんな量・・・」
アランが俺にしか聞こえない声で恨み節を炸裂させながら杖を渡して、上空を見つめ続ける銀クラスの前に進み出る。
「みんな?今のが暴発!今はあたしが対処したけどあたしがいなかったら・・・どうなっていたかわかるね?だから絶対に私の見てない所で杖を使わないように!」
アランの言葉に銀クラスのみならず隣の金、銅クラスの生徒もこちらを見て頷いている。
「アラン?これでいいんだな?」
「うんありがと!じゃあ元の場所に戻って?」
「わかった。」
「次!ラストね?四十位リュカ!」
「はい!」
アランと話して元の場所に戻る。
「ニコが暴発するとはな?」
「誰にも得手不得手はあるもんだ。」
すれ違いざまにリュカが嬉しそうに話しかけてくるので、俺も負けじと言っておく。
状況が状況だけに負け惜しみのようになってしまったのがとても腹立たしい。
「ニコすげぇ!あんな魔力を込められるなんてさすがはニコだ!」
「ニコ危ないじゃない!力任せに魔力を込めすぎよ!」
元いた場所に戻ると目を輝かせたマットととても怒った様子のターニャが駈け寄ってくる。
俺としては暴発しそうになった二人のために見本として暴発させたのにターニャに怒られるのは納得が行かない。
だがアランの教官としての面目を守るためにも何も言えない。
「・・・ターニャ?リュカの次だろう?準備をしなくていいのか?」
「・・・暴発・・・気をつけなさいよ?」
俺の言葉にターニャが今にも泣き出しそうな表情で言って来る。
どうやら心配の余りに怒ったようになっていたようだ。
「心配してくれてありがとう。ターニャも気を付けろ?さっきのは魔力を込めすぎだ、さっきの半分で十分だ。」
「わかったわ?暴発なんてさせてたらニコの夕食を食べられなくなるしね?」
俺のアドバイスにターニャは笑って冗談めしかながらアランの下へと歩いて行くので大丈夫そうだ。
アランが真剣な表情で見守る中ターニャが魔法を発動するが、先程のように石が光る事も無く問題無く風の刃を発動させて的に命中させている。
ターニャの魔力操作は見事・・・とは言えないが、周りの生徒達を見る限り上出来の部類だ。
もしかしたら王都に着いた日にターニャとエミールには魔力の鍛錬を教えたのでターニャは真面目にコツコツとやっているのかもしれない。
「ターニャすげっ!綺麗な魔法だね!ねっ?ニコ?」
「マットもさっきの半分で発動してみろ。そこからは少しずつ少なくしていって発動しなくなるギリギリを見極めるんだ。」
「わかった!やってみる!」
「(今度ロジェも交えて教えておくかな・・・)」
恐らく魔力操作の鍛錬をしていないマットでは魔力量の調整に苦労するだろう。
そんな事を考えながら生徒の暴発に関してはアラン先生に丸投げしていつも通りに読書を始める。
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