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第百二十五話 騒がしい昼休み

「という訳で私が若かった頃は身体能力強化魔法などという魔法は無く・・・」

いつも通りにバルテ先生が脱線し始め、両隣のマットとリュカが俺を見てくる。

俺が一切ペンを走らせてないのを見て、これは無駄話だと判断した二人は同時に教科書を読み始める。




「おっと、もう時間ですね。今日の午後は魔法実習です、皆さん運動場に集合ですからね?ではごきげんよう。」

昼の鐘がなり、バルテ先生が無駄話を早々に切り上げて書いた文字を消して教室から出て行く。

まだ書き写しきれてない生徒からの悲鳴にも似た声が聞こえるが、最後の十数分は無駄話の事しか書いていないので、俺は全く問題ないと思うのだが、必死にノートを書く生徒達には大問題なのだろう。

鉄クラスの時は前列は座れるし机もあって羨ましかったが、前列には前列の苦労があるようだ。



「マット?ノートを頼んだ。」

「わかった!」

「ニコ行こうか?」

「そうだな。」

俺はいつも通りにマットにノートを渡してサミュエルと一緒に調理室へと向かう。


「ニコ?昼食は何を作るんだい?」

「全然考えてない。」

「ならまたピザを食べたいな?」

「ふむ・・・この時間なら大丈夫だな。」

昼食の時なら使用人達は授業の終わりに合わせて昼食を作り終えているので、調理室は俺達の貸切状態なのでピザ釜を出しても大丈夫だろう。

サミュエルの要望に応えることにする。



「何度見ても驚きだねぇ?」

俺がマジックバッグからピザ釜を出していると面白そうにサミュエルが覗き込んで来る。

「ピザとなると時間が無いぞ?サミュエルは湯を沸かしてから具材を頼む。」

「わかった!」

ピザ釜は熱したまま時忘れのマジックバッグに入れてあるので、追加で炭を入れればすぐにピザは焼ける。

だがピザ生地の作り置きが無いので大急ぎで十倍のマジックバッグを駆使して生地を作っていく。

俺が生地を作っている間にサミュエルには具材を切り分けてもらう。



「サミュエル?生地はこれだ。後は任せたぞ?」

「任せておくれ?」

生地を作り終わり大急ぎで寸胴鍋に行きスープを作り始める。

「あれだね?手際もシェフ顔負けだね?」

「毎日作らされてれば誰でもこうなる。」

ピザを焼きながらサミュエルが俺を茶化すように言って来る。

俺じゃなくても毎日十人前近くの量を毎食作っていれば嫌でもこれくらいは出来る様になるに決まっている。


「とは言え急げ。ロジェとエミールにはピザ釜を見られたくない。」

「わかった!」

額に汗を浮かべながらサミュエルがピザを次々に焼き、俺は大急ぎでスープを仕上げる。

「ほう?ピザかい?この設備でどうやったらこんな立派なピザが出来るんだろうね?」

「フライパンでピザを焼く秘伝の方法があってな?」

エミールが不思議そうに言うので、適当な事を言ってあしらっておく。


「エミール?ニコに関しては考えたら負けじゃ!持っていこうで?」

「そ、そうだね?今日は何往復で終わるかな?」

エミールは納得が言ってない様子だったが、ロジェに押し切られてピザを運んで行く。

今日はピザを十枚以上焼いたので二人が何往復もしてピザを食堂へと運んで行く。



「さぁ昼食の開始だ。」

俺がいつも通りに言うとみんなが一斉に狙いをつけていたピザを皿に取って食べ始める。

ピザを別に作るほどの時間は無かったので今日ばかりは俺とサミュエルも争奪戦に参加する。


「今日は数が多いからいつもみたいに喧嘩にならなくていいな?」

「そうね!落ち着いて食べられるわね?」

目当てのピザを取る事が出来て上機嫌なフィルとアランが話している。

実はピザを二人分だけ別に焼く事は出来なかったので、余ったら余ったで仕方ないと出来る限り争奪戦が激しくならないようにエミールとロジェが来るギリギリまで焼いていたので、今日の昼食の量はいつも比べればかなり多い。

俺とサミュエルも目当てのピザが取れたので二人で顔を見合わせて上機嫌でピザを食べる。



「そういえば最新情報なのだがな?冒険者ギルドが討伐隊を東の湿地帯に送る事を決定したぞ?人が集まれば週末に出発らしいぞ?」

「討伐隊だと?そんなに深刻だったのか?」

ピザを頬張りながらフィルが言って来る。

俺の言葉にターニャとマットとロジェも同じ事を思ったようで頷きながらフィルを見ている。


「ふぇっふぇっふぇっ!よくみんな無事だったな?かなりの緊急事態であの森は銀級以下は立ち入り禁止になったぞ?今冒険者を集めているようだぞ?」

「ほう?早く沈静化して平和になって欲しいな。」

フィルが快活に笑うが、その笑い声とは裏腹に目は笑っておらず、ターニャ達を順番に見渡している。

ターニャ達も死に掛けたことを思い出しているのかピザの咀嚼が止まりみんな顔を見合わせている。


「あんた達?ニコ任せで計画するのもいいんだよ?ニコがいない時はもっと簡単なの狩場に行って、って考えなんだろうけど・・・それで稼ぎに満足出来るのかな?そういう事も考えて狩場を考えな?」

アランがピザを指先で弄くりながら楽しそうに言っているが、話してる姿とは裏腹にとても真面目な言葉にターニャ達は俯いて何も言わなくなる。

そんな事よりも銀級以下が立ち入り禁止と言う事はジャック達も入れない程に危険という事だ。

俺とアランに依頼が来ない事を願うばかりである。



「そんなに心配しなくてもソロでの立ち入りが禁止なだけで、パーティは入れるからな?」

「そうそう、稼ぎ時だ!って勇む鉄級や銅級の駆け出し達が死なないための措置だからね?」

「ふむ。なぜ稼ぎ時なのだ?」

俺が余程心配そうな顔をしていたのだろう。

フィルとアランがピザを食べながらのん気に言って来るので、素朴な疑問をぶつける。



「普段人間は行動が制限される湿地にいるはずの魔物達が今は森に出ているからな。」

「そそ!ジャイアントフロッグやリザードも地面の上ならそんなに脅威じゃないし狩れる!って勇む冒険者が後を経たないって事よ?」

「なるほど。理解した。」

ジャイアントフロッグやリザードなどの魔物は湿地に住んでいるだけあって、人間と違ってぬかるんだ地面に足を取られる事は無い。

そんな魔物達が普通の地面に出て来て環境のアドバンテージを捨てているとあれば勇み足になる人間が出て来るのも少し考えれば分かる話だ。

二人の言葉に俺だけじゃなく、サミュエルを筆頭に全員が成程と頷いている。




「さて!じゃあ昼からはあたしも教官として働くからついでに行くからね?」

「わかりました!ではアラン先生そっちの食器をお願いします!」

アランとターニャが食器洗いをしに食堂から出て行く。

「なぁ?アランが教官をするのか?」

「ふぇっふぇっふぇっ!ああ見えても魔法のスペシャリストだからな?」

フィルに聞くが午後の魔法実習では本当にアランが教官をするようである。

そういえば入学試験の時に金クラスで待ってるとか言ってたような気もする。

だがそれもアランの妄言でサミュエルの護衛役で名ばかりの先生だと思っていたが違ったようだ。

だがあのアランがまともな授業をするのか(はなは)だ疑問である。


「まぁいいじゃないか?アラン先生の手腕は後でわかるんだし、勝負をしよう!」

「お前は・・・」

サミュエルが将棋盤を取り出して駒を並べ始める。


「夕食が終わったらニコは部屋にこもるし、僕も用事があるからこの時間しか出来ないからねぇ?」

「・・・それもそうだな、なら一手三秒で昼の間に終わらせよう。」

サミュエルの言い分は尤もで何も反論できない。

駒を並べて勝負を開始する。





「さ、丁度時間だな?」

「ンググ・・・勝てない・・・」

「なぜニコ君は即断で駒を進めて勝てるんだい?」

お互いに一瞬の判断で勝負を進め、初めて昼休みの間に勝負が終わらせる事に成功する。

いつも通りサミュエルが悔しそうに将棋盤を睨んで、隣で観戦していたエミールが俺に尋ねて来る。


「サミュエルの打つ手を予測しているからとしか言えないな。」

「ふぅ・・・僕はまだニコの手の平から抜け出せてないと言う事だね?」

サミュエルの癖はもう大体把握してあるので、サミュエルが打ちそうな手は分かるのだ。

サミュエルが溜息交じりに言っているが、語弊を招きそうなのでしっかりと訂正しておくことにする。


「俺はサミュエルの手に合わせて対策をしているだけであって、手の平で転がしても踊らせてもないからな?」

「わかったわかった。さぁ行こうか?」

将棋盤を仕舞い終わったサミュエルが適当に俺をあしらいながら食堂から出て行く。

俺は驚きの余り動きを止めて運動場へと向かうサミュエルの後姿を眺める。

「(絶対にアランの影響だ。サミュエルがあんな対応するとは驚きだ・・・)」

機会があればアランと話し合わねばならない案件だ。


「ほらニコ行くよ!?」

「ん?あぁ。」

マットに引っ張られながら運動場へと出る。

運動場ではグラウンドの中央にバルテ先生とアラン、フォルナ、アイリーンの四人が立って待っていた。


「はい!では順位順に並んでいますね?フォルナさん?アイリーンさん?杖をお願いします!」

「「はい!」」

俺とマットが運動場に付くと同時にバルテ先生がいつも通りの早口で言い、フォルナと大量の杖を積んだ荷車を押すアイリーンが動き始める。


「これから皆さんには専用の杖を渡します!順位順に渡しますが、指示があるまで絶対に発動しないように!発動した生徒は二年生まで杖を触れないと思って下さい!」

バルテ先生の言葉に大体の順位で並んでいた生徒達が大慌てで並び直し始める。


「サミュエルは雷属性だったな?」

「はい!」

「次の二位オスカーは火属性だったな?」

「はい!」

フォルナが一人一人確認している。

確認を終えると同時にアイリーンが荷馬車に積んだ三十センチの杖を選んで渡している。



「ねぇ?フォルナ教官って俺達の名前と属性を全部覚えてるのかな?」

「そのようだな?」

「ふん!十年に一人出るかと言われる逸材のフォルナ教官とアイリーン教官だぞ?当たり前だろう。」

マットと話していると隣のリュカが会話に入ってくる。


「ほう?二年連続で十年に一人の逸材が?」

「知らん!俺はそう聞いたんだ!そう言うのを揚げ足取りと言うんだぞ!?」

俺は素朴な疑問を言ったつもりなのだが、なぜかリュカに怒られてしまう。

十年に一人と言われる逸材なのはいいとして、それが二年連続で現れるという矛盾点が気になって仕方がないのだが、残念なことに俺の疑問はリュカは解決してくれないようだ。


「次!三十八位マット、土属性だったな?」

「はい!」

マットが元気よく返事をして満面の笑みでアイリーンから杖を受け取っている。

「次!三十九位ニコ、火と水属性だったな?」

「はい。」

「えっとぉ・・・火属性の杖を渡しておくねぇ?」

「ありがとうございます。」

フォルナに返事をするとアイリーンが杖を渡してくるので受けとる。

どうやら杖の先に付いた玉の中に火球(ファイアーボール)の魔法陣が刻まれているようだ。


「(人間が精霊魔法以外の魔法陣を使うのは始めて見るな・・・)」

しかも精霊魔法の魔法陣ではなく、元素魔法の魔法陣だ。

みんなも俺と同じように杖の先に付いた玉の中の魔法陣を見てあれこれと騒いでいるが、まだ精霊魔法の勉強しかしてないのでこれが元素魔法とわかる生徒はいないようだ。

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もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。


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