第百二十四話 朝食のベーコンエッグ復活
いつも通りの時間に目を覚まし得も言えぬ違和感に襲われ布団から飛び起きて状況を確認する。
「そうかそういえばアランを泊めたのか。」
ベッドで気持ち良さそうに眠るアランを見て全てを思い出す。
休みの日に色々って疲れていたせいか、寝ぼけているせいかわからないが失念していた。
「枕が涎だらけじゃないか・・・」
ベッドで気持ち良さそうに眠るアランを覗きこむと俺の枕は涎が染みて色が変わってしまっている。
今日俺が寝る時には念入りに洗浄魔法をかけなければならないようだ。
気持ち良さそうに眠るアランを見ながら制服に着替えて調理室へと向かう。
「失礼。通る失礼。」
料理をする使用人達の間を縫っていつもの調理台へと向かう。
さすがに半年も同じ顔ぶれで料理をしていると、各々自分の調理台が決まっている。
「ニコ君おはようございます。今日は何を作るので?」
「おはようございます。ベーコンを仕入れたのでまた朝食はベーコンエッグにしようと思います。」
そうなれば当然隣で料理をする使用人とも顔馴染みになる。
右隣でいつも料理をするクラウスさんに話しかけられる。
ジャフル家の使用人だそうだ。
「ジャフル家は・・・いつも豪華だな?」
「何を仰いますか。ニコ君の料理みたいにサーペントやミノタウロスなんて高級肉は使えませんから見た目だけですよ?」
「俺もそういう風に盛り付けられればいいんだがな・・・」
クラウスの作った豪華な盛り付けをされた朝食を見て思わず呟く。
俺はそういう美的センスが全くないので、一回真似をして作ってみたのだが、ゴチャゴチャとしてなんとも食欲をそそらない一品になってしまった。
「ハッハッハッ!ニコ君のように高級肉を使用しているのに普通の朝食。それこそが真の贅沢だと思いますよ?」
「俺にはよくわからんな。」
クラウスは楽しそうに笑いながら俺の料理を褒めてくれるのだが、俺としてはクラウスの豪華な盛り付けの朝食がとても輝いて見える。
「おはよう!おぉ無事にベーコンを確保したんだね?」
「あぁ色々あったがなんとか確保出来た。」
サミュエルがやってきていつも通りにスープの味を整え始める。
クラウスはサミュエルの登場と共に会話をやめて自分の料理に集中し始める。
クラウス曰く使用人風情が殿下と話すなどおこがましい!だそうだ。
俺からすれば使用人所か平民風情の俺が一緒に料理をして対等に話しているのに真面目な人間だ。
「ニコ?アラン先生はどこに行ったか知らないかい?」
「今頃俺の部屋で寝息をかいているだろう。」
「えっ!?とうとうかい?」
「アランはベッド。俺は備え付けの布団で床で寝た。」
俺の部屋で寝ていると聞いたサミュエルが面白そうに言って来る。
ご希望には沿えなくて申し訳ないが何一つとしてやましい事は無い。
俺が説明をするとサミュエルはスープをかき混ぜながらわかりやすく面白く無さそうに表情を曇らせる。
「そうか・・・アラン先生とニコ君は進展無しか・・・」
「昨日何度もキスをしたぞ?」
「へぇ!?それは僥倖だ!」
「何がそんなに面白いんだ?というかアランの部屋というのはサミュエルの部屋なのか?」
「そうだよ?僕の寮の一部屋がアラン先生の部屋だね?」
「もし次同じ状況があればサミュエルを叩き起こしてでもアランを部屋に連れて行こう。」
アランの部屋はサミュエルの部屋だと言う事がわかった。
サミュエルは俺の言葉に嫌そうな顔をしているが、同じ状況になった時には絶対にサミュエルを叩き起こしてでもアランを渡そう。そう決意する。
「おはよう!お?ベーコンエッグだね?」
「おぉ肉じゃ肉じゃ!」
サミュエルと料理を作っているとエミールとロジェがやってくる。
二人も言わないだけでサーペントベーコンを気に入っていたようで、ベーコンエッグを見てとても嬉しそうに食堂へと持って行く。
「ふむ・・・この前の魚も魔物でサーペント並みに高級品なんだけどねぇ?」
「あいつらにとっては、どんなに高級でも魚より肉なんだろ?」
「僕は魚の塩焼き好きなんだけどねぇ?」
「魔魚は一匹しか貰えなかったからしばらくは食べられないな?」
「残念だ。」
調理場を掃除しながらサミュエルは本当に残念そうに肩を竦めている。
そんなに好きなのならば今度ダンジョンに潜って淡水魔魚を採るのも悪くない。
「(アランと相談してみるか。)」
そんな事を考えながら調理台の掃除を終えサミュエルと食堂へと向かう。
「「「「頂きます!」」」」
俺とサミュエルが席に座るとみんなが一斉に朝食を食べ始める。
ただいつものアランの席が空席だ。
「フィル?アランは?」
「見てないぞ?」
フィルに聞くがおそらく俺のベッドで寝ているのだろう。
昨日あれだけ俺に絡みたいだけ絡んで、朝寝坊とはいい身分である。
「フィル?食事を終えたら俺の部屋に起こしに行ってくれ。」
「・・・わかった。」
俺の言葉にフィルが目を白黒させ、みんなの視線が一気に集まる。
「フィル?それにみんな?昨日アランが酔い潰れて部屋がわからなかったから仕方なく俺の部屋に泊めただけだ、そして布団は別々だ。」
「そ、そうか。なら朝食が終わったら叩き起こしておく。」
俺の説明がどこまで信じて貰えたのかは謎だがみんな何事もなかったように朝食を再会させるので問題は無さそうだ。
「あ!ニコ?これ返しておくね?」
「これはなんだ?」
突然マットが満面の笑みで金を差し出してくる。
何の金か全く見当も付かないので受け取れずに困ってしまう。
「えっとね?王都に着いた時に借りた預け賃とギルドの登録料だよ?」
「あぁそういえば貸してたな・・・それはいらん。だから剣を買うなり死なないための供えにしてくれ。」
「え・・・」
俺が言うとマットが分かりやすく困惑した様子で俺に返す予定だった金を差し出したまま固まっている。
「いいか?マットとロジェが使っている剣はゴブリンが持っていた超がつく粗悪品だ。ちゃんと切れる剣を持ってないと狩りに出ても死ぬだけだぞ?」
「わかったよ・・・」
マットは俺の言葉に金を引っ込めるがまだ納得言っていない様子だ。
さすがにロジェは分かってるだろうと思うが、念のために聞いておく。
「ロジェは商会の息子ならわかるだろ?武器だけじゃない、冒険で使う物をケチった人間の末路を。」
「そうじゃな。そういうんはまた店に来る冒険者の方が少なかったのぉ。」
ロジェは分かってくれたようでホッと一安心だ。
自分の命を預ける武具でさえケチってるような人間は他でもケチるに決まっている。
そうなればどうなるかと言えば、いざという時に対応できずに死ぬだけだ。
「あとマット?この前見た時は剣の手入れをしなかったようだからしっかりとしろ?」
「えー手入れなんてやり方知らないよう・・・」
マットが嫌そうに言っている。
手入れをすれば切れ味も戻るし、剣の欠けや痛み具合の確認も出来るので一石二鳥なのだ。
「ふぇっふぇっふぇっ!ならワシが教えてやろう?晩飯が終わったら校長室に行くぞ?」
「はい!お願いします!」
「校長!ならワシも教えてほしいです!」
「あ、あたしも!」
「ほう?僕も教えて頂きたいね?」
フィルが俺に向かってウインクをしながら言っているので、どうやら俺にウィンストンの特訓に専念させるための助け舟のようだ。
フィルの言葉にマットが嬉しそうに返事をして、ロジェ達も我先にと手を挙げてフィルに詰め寄っている。
「わかった!では皆夕食が終わったら武器を持って校長室だぞ?一日では教え切れん。しばらくかかるからそのつもりでいるんだぞ?」
「「「「はい!」」」」
「ニコ?夜僕に教えてくれないか?」
「片手間でよければいいぞ。」
全員が満面の笑みで返事をするなか、サミュエルが耳打ちしてくる。
サミュエルなら自分で手入れをしなくても周りの人間が喜んでしそうな気がするが、ウィンストンの特訓の片手間でいいと言うのであれば断わる理由は無い。
「さぁみんな!さっさと食べないと授業に遅れるぞ?わしは一足先に失礼してアランを起こしに行って来るからな?ふぇっふぇっふぇっ!」
「みんな急いで食べる!今日はアラン先生がいないからあたし一人で洗うんだからさっさと食べなさい!」
フィルの言葉にアランがいない事を思い出したターニャがみんなを急かしながら朝食を再開して大急ぎで食べ始める。
俺とサミュエルは黙々と食べていたのでもう食べ終わり机の端に重ねた食器をよけながら、大急ぎで食べるみんなを眺める。
「で?ジャックからは何を言われたんだ?」
「えっとね。まずはターニャとソフィアがロックリザードの解体をする時まで剣が綺麗だったから、めっちゃ怒られてた。」
ターニャが皿を洗いに行ったので二人に聞くとマットがあっけらかんと言う。
ジャック達はジャイアントフロッグ三体を狩っているのに、剣が綺麗な事に気付いて全てを悟ったようだ。
「そうじゃのぅ・・・ニコに頼りすぎじゃと懇々と怒られたのぅ・・・」
「ロジェ?でもそれは本当の事だし仕方ないよ!」
続いてロジェが心底嫌そうな顔をして言うが、マットはしっかりとジャック達の言葉を受け止めてくれているようで安心する。
「ほら!任務をさぼって何をしてるか知らんがとりあえず飯を食べろ!」
「はい、すみません!」
二人と話をしているとフィルに首根っこを掴まれて引き摺られながらアランが食堂に入ってくる。
そのまま怒ったフィルに子供の様に持ち上げられ席に詰め込まれるように座らせられている。
「アラン?昨日から今日にかけての出来事・・・覚えてろよ?」
「ニコごめん!ジャック達の話を聞いた辺りから記憶ない!」
「わかった。喧嘩を売られたと認識した。」
「違う!違うって!」
「煩い!お前はさっさと飯を食べろ!」
俺が我慢出来ずにアランに言うと立ち上がってアランが平謝りしてくる。
昨夜あれだけ暴れておいて記憶が無いとは最低な女である。
俺が呆れているとフィルが再びアランの襟を掴んで席に押込む。
「お待たせ!ってアラン先生!?おはようございます。」
「ごめんね?ニコの布団が気持ち良すぎて寝坊しちゃった!」
「本当にニコの部屋に泊まったんですね・・・」
「何も無いよ!?多分・・・服とか乱れてなかったし・・・」
ターニャが俺に蔑むような視線を向けて言い、アランはなぜか残念そうにターニャに説明している。
「お前みたいに涎だらけのおっさん臭い女を襲う気は無い。」
「・・・枕・・・ごめん。」
おそらく俺の枕を思い出したのだろう。
アランが一気にシュンとなって謝ってくる。
別に洗浄魔法で綺麗にするのでそこまで気にする必要は無いのだが、大人しくなるのならそれに越した事は無いので何も言わないでおく。
「ニコ!?もう授業始まるよ!」
「先に行くわよ!?」
マットとターニャに急かされアランとの話を切り上げてバルテ先生の待つ教室に向かう。
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