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第百二十三話 アランとの一夜

「で、アランさんも知ってると思いますが、リオルゲンのミノタウロス襲撃を未然に防いで翌日ニコ君は王都行きのキャラバンで旅立ったんです。」

緊張した面持ちで料理も食べずにジャックが俺との馴れ初めから別れるまでを説明し終える。

アランは何度か俺が食べようとフォークで刺した料理を見て、ジェスチャーで自分の口に入れろとあーんをして来たりして大変うざかったが基本的には静かに聞いていた。



「よくわかったわ。三人共本当にありがとうね?さ、食べちゃって!ニコ?さ、あーんして!?」

「はいはい。あーん。」

「もうっ!二フォのバヒャ!」

笑顔のアランが三人に言ってそのまま俺に向かって口を開くので、口の中におしぼりを突っ込んでおく。

三人は俺とアランのやり取りを見て固まり、やっと食べられるようになった料理を口から零している。


「そういえばジャック?新しくなってるが前の剣と盾はどうした?」

「あれはここに向かっている時に魔物に食べられちまって・・・」

「そうか。ならその剣と盾を出せ。」

「え?いいのか?」

「東の湿地には蜥蜴のような魔物が居座ってるそうだ。」

「勿論だ!任せてくれ!」

ジャックが恭しく剣と盾を差し出してくるので、受け取って魔力付与を行う。

それを楽しそうに見ていたアランが口を開く。


「グレイ?あんたの魔力は水属性よね?」

「はい!そうです!」

アランがそう言ってマジックバッグから一本の剣を取り出してグレイへと差し出す。


「ダーリンが頑張ってるならあたしも頑張っちゃう!これ上げる。」

「え・・・これってもしかしてアランさんの・・・」

「そっ!あたしが魔力付与した剣!同じ水属性だし上手く使いなよ?」

「ありがとうございます!」

グレイが両手で恭しく剣を受けとりお辞儀をする。

頭が勢いよく机にぶつかりコップが倒れそうになるほどの全力のお辞儀である。



「二人共いいなぁ・・・」

俺が魔力付与を施し終わった剣と盾をジャックに渡していると、ブランが羨ましそうに言っている。

「ならブランにはこれだ。」

「おぉ!出来るだけ回収してたんだけどとうとう無くなっちまったから助かるぜ!」

ブランには魔力付与を施してある矢の束を渡す。

ブランも嬉しそうにしているので問題なさそうだ。


「じゃああんた達?これで湿地の魔物討伐の依頼があたし達に来たら承知しないよ?」

「「「はい!」」」

真面目な顔になったアランが言うと三人は俺達から受けとった武具を大事そうに抱えながら一斉にお辞儀をする。

皿やコップが宙に浮きそうなくらいに全員が勢いよく机に頭をぶつけるので。

コップが倒れ、机の上が無茶苦茶になる。



「お前らもう少し考えろ。まだ食べてないのにブランのパスタに至っては酒浸しだぞ?」

「あん?ご馳走じゃねぇかっ!」

俺がブランの目の前にある酒の入ったコップが倒れこんだパスタを指差して注意するが、舞い上がった三人には関係無い様だ。

ブランがパスタを一気にすすり始め、ジャックとグレイがやんややんやと囃し立て始める。


「いい感じね!店員さんお酒四つとジュース一つお替り!あ、あとおしぼりを五つお願いします!」

「かしこまりましたっ!」

三人の様子を見て楽しそうなアランが扉を開けて注文をしている。

ブランはジャックとグレイの手拍子に合わせて酒味のパスタを一気にすすって大盛り上がりしている。



「こいつら悪ノリしすぎだろ・・・」

いつも行く酒場や食堂に比べると今日の店は清潔でとても上品な雰囲気なのでこんなに大騒ぎをしても大丈夫なのか心配になる。

「ニコ?これが冒険者の食事よ?」

「俺はもう腹も膨れたし帰りたい。」

アランが運ばれてきた酒を飲みながら言って来るので、俺は溜息を吐きながら答える。

周りで騒いでいる冒険者達は何度も見ているので問題ないのだが、狭い個室の中で騒がれるととても煩い。



「ニャハハハハ!ニコも酒を飲むにゃ!」

「やばい・・・昼間のアランが再来した。」

しばらく俺は気配を消して騒ぐ四人を眺めているとアランがニャーニャー言いながら絡んでくる。

何がやばいかと言うとこのウザイアランに怒らずに我慢できる自信が無いからだ。

気付いたら右手が握りこぶしを作っていたので、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「ジャック?もういい頃だろう?そろそろ締めてくれ。」

「わかった!ではアランさんを差し置いて申し訳無いが・・・ニコ君は明日から学校を頑張るから我々は東の森に巣くう魔物を退治するぞ!」

「「おぉっ!」」

ジャックが立ち上がって締めてくれる。

ブランとグレイが酒の入ったジョッキを掲げて気合の声を上げ、アランは真っ赤な顔で俺に絡み付いて来る。

「じゃあニコ帰るんにゃ!」

「酒臭い。そして何よりもウザイ。部屋から出ろ。」

アランが出ないと部屋の奥に押込まれた俺は出られないので、絡み付いてキスをしようと唇を突き出すアランを部屋の外へと押し出す。


「ニコのいけず!」

「抱っこされて大人しく帰るか、治癒魔法で酔いを醒まされて一緒に歩いて帰る。どっちがいい?」

「抱っこ!」

俺がそう言うとアランが素直に廊下に出て両手を広げるので、俺も廊下に出てアランをしっかりと抱え込んで持ち上げる。


「あのアランさんをここまで操るのか・・・」

「さすがはニコだな。」

「酔いが醒めましたね?」

「ここの払いはしておく。またな?」

俺の右肩に頭を乗せて顔を擦り付けるアランを見て、ジャック達が唖然としているが、気にせずにジャック達に言うだけ言ってカウンターに行き店員に金貨を一枚渡す。


「これで足りるか?」

「はいありがとうございます!」

店員は笑顔のまますぐに銀貨や銅貨を渡してくるので、マジックバッグに入れて店を出る。


「ニコ?あたしはこれからどこに連れてかれるのかにゃ?」

「学校に帰るだけだ。」

「いーやーにゃー!」

「ならどこに行きたいんだ?」

アランがジタバタと暴れ始める。

このまま地面に落として一人で帰ろうかと考えるが、思い直して出来る限り冷静に努めながらアランに尋ねる。


「女に言わせたら男として失格だにゃー。」

「まだ八歳だからな?じゃあ帰るぞ?」

「いーやーにゃー!」

「ニコ君?そう言う時は唇を奪ってやれば大人しくなりますよ?」

このままではエンドレスなので酔いを醒ましてやろうと暴れるアランに手を向けるといつの間にか後ろいたグレイが耳打ちをしてくる。



「・・・わかった。」

俺の腕の中で子供の様に駄々をこねるアランにキスをしようと顔を近づけるのだがとても酒臭い。

色男のグレイが言うのだから嘘ではないのだろうが、酒臭いアランと唇を合わせるというのは若干の・・・いやかなりの抵抗がある。



「ニコ?ブチュッと行け!ブチュッと!」

ブランに言われ意を決してアランに唇を突き出すと、アランが大人しくなって俺の唇を受け止める。

「何をする!」

「ん?んふふふふふー!」

アランが舌を入れてくるので思わず顔を離す。

俺の問いかけに答える気がないのか、アランは先程にも増して顔を真っ赤にして照れ臭そうに俺の右肩に頭乗せて笑っている。



「そうだニコ君?今日ニコ君が出てからターニャ君達には懇々と言っておいたぞ?」

「そうか。すまんな。」

「ターニャ君とソフィア君が納得行かない様子だったから心配だが・・・」

「あいつらも馬鹿じゃないから大丈夫だろう。この荷物がまた駄々をこねだす前に帰るとするか。」

神銀(ミスリル)級を荷物扱いか・・・」

アランはまだ気持ち悪く笑いながら俺の肩に顔を擦り付けている。

ジャックが何やら呟いているが、機嫌がまた崩れないうちにさっさと学校に帰って明日に備えたいので後ろ手を振って大急ぎでその場を離れる。



「アラン?部屋は変わってないのか?」

学校の校門を通りアランに尋ねるが返事が無い。

アランの顔を覗き込むと静かになったとは思っていたが、俺のローブに涎を垂らしながら気持ち良さそうに寝ている。

とりあえず前に行ったアランの部屋へ行く。



部屋からは灯りが漏れているので誰かいるようだ。

とりあえずノックしてみる。

「はい。」

「む・・・やはり変わっているのか・・・」

「誰・・・ニコ君と先輩?どうしたんだ?」

扉が開きいつもの猫ちゃんが描かれた寝間着姿のフォルナが姿を現す。

アランの部屋は知らない間にフォルナの部屋になっていたようだ。



「フォルナ教官の部屋でしたか、失礼しましたアランの部屋かと思いまして。」

「今の先輩の部屋は・・・どこだろう?」

フォルナが一瞬考えるが知らないようだ。


「了解です。夜分遅くに失礼しました。」

「んむ!・・・というかなぜ先輩は顔が真っ赤なんだ?なぜニコ君が先輩を抱っこしているんだ?」

俺がお辞儀をして離れようとするとフォルナが面倒臭くなりそうな質問をしてくる。


「色々事情がありまして。では失礼します。」

「おい!答えになってないぞ!おいニコ君!?」

フォルナが何やら大声を出しているが一応俺は立ち止まって答えたと言う体を作ったので

答えた後のフォルナの声は俺の耳には届いてないし何も聞こえてない、大急ぎでその場を立ち去る。





「アラン。おいアラン。お前の部屋はどこだ?」

「あたしの居場所はこぉーっこ!」

アランを揺さぶって訪ねるが、素っ頓狂かつ大変腹立たしい事を言ってまた寝始める。

本気で廊下に置いて帰ろうかと思うが、最後の優しさを振り絞って校長室へと向かう。

さすがにフィルならアランの部屋を知っているだろう。



「フィル校長?ニコですがいらっしゃいませんか?」

校長室の扉をノックするが返事がない。

一応声もかけるが返事が無いのでフィルはいないようだ。

仕方ないので自分の部屋に戻ってアランを自分のベッドに寝かせる。

一瞬嫌そうな顔をしたが布団をかけるとすぐに微笑んで寝息を立て始める。

さすがはペガサスの羽毛布団。破壊力は抜群だ。

俺は鍛錬を終えて部屋の隅に畳んで置いていた備え付けの布団を床に広げて眠りに着く。

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