第十三話 出発前夜の送別会
翌日ジャックのノックで目を覚ます。
「ニコ君朝食を食べるぞ?」
扉の向こうからジャックの声が聞こえる。
「(今日も寝すぎたか・・・布団が気持ち良すぎて毎日起こされているな。)」
そんな事を考えながら身支度をしてジャックと食堂へ向かう。
食堂に行くとブランとグレイが座っていて。
二人がすでに注文を済ませてくれていたようで俺とジャックが座るとすぐに食事が運ばれてくる。
「ニコ君?変更無しか?」
「そうだな。文字の勉強をする。」
「ならば我々は武器の練習をするとしよう!」
食事を終え三人は意気揚々と食堂を出て行く。
昨日魔力付与の効果を試したと言うのにまだ足りないようだ。
俺は部屋に戻り備え付けの机で本を読む。
しばらく本に熱中していると部屋の扉が開き女性の店員が入ってくる。
「(この店員が毎日布団を交換してくれていたのだな。)」
「あら?いらしたんですね?失礼しました!」
そんな事を考えていると店員が俺に頭を下げて慌てて部屋から出て行こうとする。
「問題ない。仕事をしてくれ。」
「ありがとうございます!すぐに終わりますから!」
俺が思ったとおりに部屋の掃除をしてから布団を包む布を交換している。
「(なるほど。布だけを交換するのか。そうすれば洗うのは布だけですむな。)」
やはり学ぶ事はまだまだあるなと店員を観察する。
「君は文字を勉強しているのかな?」
俺の本に気付いて店員が話しかけてくる。
「そうだ。存外苦戦している。」
「私も苦労したねぇ?コツはね?声に出して読む事だよ?」
「ふむ。試してみよう。」
「じゃあ頑張ってね?」
「ありがとう。」
店員が部屋から出て行き、言われた通りに声に出して本を読む。
確かに黙って本を読むのに比べて頭に入ってくる。気がする。
夕暮れ時になりジャックが部屋に入ってくる。
何をしていたのかはわからないが、ジャックは土埃にまみれてかなり汚くなっている。
「ニコ君勉強は進んだか?風呂入ろうぜ!」
「わかった。」
宿の前で待っていた、同じく土埃まみれのブランとグレイと共に風呂へと向かう。
三人の一挙手一投足で土埃が舞う。
脱衣所に付いて我慢が出来なくなる。
「お前ら服を出せ。」
「へ?」
「何するんだ?」
「まぁまぁ出してみましょう?」
三人の服を預かり、魔法で空中に水玉を作り出し服を中に放り投げる。
そして水を回転させ服が水玉の中を動き回り土埃を洗い流す。
すぐに水玉は濁って行き中の服が見えなくなる。
「マジか・・・」
「とんでもねぇなぁ。」
「周りに人がいなくてよかった・・・」
「ほら少しはマシになっただろ。」
水玉から服を取り出し三人に服を纏めて投げる。
三人は驚いた様子だが、冷静に自分の服を選んで籠に入れている。
水玉から水が出ない様にイメージして魔法を構築したので、服は乾いた状態で出てくる。
「ニコ君?この魔法は非常識だからな?」
「魔法ってどんだけ便利なんだよ・・・」
「ブラン?僕は出来ませんからね?」
「そうだろうと思って人がいないから使った。」
水玉を消して風呂へと入る。
シャンプーも馴れたものだ。
もう目に入らないように髪を洗えるようになった。
続いて体を洗って風呂に入る。
「明日の朝でニコ君ともお別れか・・・」
「世話になった。本当に感謝してる。」
「ヘヘヘ!俺達の方が感謝してるよ!」
「そうですよ?命を助けて貰いましたしね!」
「それに魔力付与までしてもらったしなぁ?へへへ。
湯に使って他愛も無い話しをしていると三人が俺に体を向ける。
「本当に感謝してる。」
「ニコ君?ありがとう!」
「へへっ!ニコがんばれよ?」
ジャック達が湯の中に頭を沈めながら頭を下げる。
思わず苦笑いになってしまう。
「そういえばな?昨日のミノタウロスなんだがな?。」
頭を上げたジャックが神妙な顔で言う。
「何かあったのか?」
「野生のミノタウロスではなくて、調教された従魔だったようだ。」
「調教?そんな事が出来るのか?」
魔物を従えるなど魔王種以外に出来ないはずだ。
ルル・クネ・エドは魔王種なので、ルルはよくわからないが、クネは蜘蛛系の魔物を。エドはドワーフ系の魔物を眷属にする事が出来る。
が、人間が魔物を眷属に出来るとは初耳だ。
「だが調教出来る人間はかなり少ないぞ。調教師って呼ばれる職業なんだがな?話しがそれたな、その従魔が調教師も無しにこんな所をうろついてたのをこれから調査するみたいだぞ。」
「よくわからんが、異常事態なのはわかった。」
「まぁ俺達はしばらくここら辺で活動するからニコ君は安心して王都へ向かえ!」
「わかった。」
「あの剣がありゃ、ミノタウロスなんて余裕だぜ!なぁ?」
「そうですね。」
「俺もあの矢があればミノタウロスの一体や二体余裕だぜ!」
三人が快活に笑いながらガッツポーズをする。
「じゃあ上がって送別会しようぜ!」
「おうよ!昨日練習したから今日は本番だな!」
「今回ばかりはニコ君を送り出すためなので、私も賛成です。」
「なぁ?俺を口実にしてないか?」
三人は黙って風呂から出て行き、昨日と同じ店へと入る。
昨日と同じ注文をして無言の三人と席に座って待つ。
「俺はそんなに言ってはいけない事を言ったのか?」
「「「・・・」」」
言ってしまったようだ。
「これはニコ君の送別会だ!昨日は練習だったんだ!」
「そうだ!ニコを送り出すのに失敗は出来ねぇ!」
「そうです!ニコ君を送り出すためなら少々の散財も仕方がないと言うものです!」
「じゃあニコ君の旅の無事を祈って・・・」
「「「かんぱーいっ!」」」
「・・・乾杯。」
ドリンクと料理が運ばれて来て、三人が自分に言い聞かすように声を上げて送別会が始まる。
美味しいので全く文句は無いのだが昨日と同じ料理が並ぶ。
本で見たがこれがコース料理と言うものなのであろう。
三人は昨日と同じように真っ赤な顔をして上機嫌に酒を飲んでいる。
一時間程談笑しながら料理を食べていると外で大きな金属音が鳴り響く。
「警鐘だと!?」
「警鐘?なんだそれは?」
「何かやベー事が起こったって事だよ!」
「捜索魔法!・・・三体のミノタウロスがこちらへ走ってきてますね。」
俺もグレイに倣ってサーチを発動する。
三方向からミノタウロスが村へと走っている。
そして遠すぎて定かでは無いが先日入った森の中に人のような反応がある。
この魔法は周りに自分の魔力を飛ばして、物に当たって跳ね返って来た魔力を分析する事によって、周囲の状況を確認する魔法である。
人の反応は遠すぎて、ホブゴブリンなどの人型の魔物と間違えた可能性もあるが、先程ジャックが言っていたテイマーの可能性が高い。
「おい。ミノタウロス達は村の人間でどうにかなりそうか?」
「俺達以外にも冒険者はいるから多分大丈夫だ!ニコ君は目立たないようにしときな!」
「ならば・・・お前らに任せて俺は気になることがあるからそっちを確かめる。」
三人に俺の魔力を纏わせる。
「これは?」
「お前らに・・・簡易型の魔力付与をしたと言えばわかりやすいか?十分ほどで効果はなくなるから気をつけろよ?」
魔力は空気中に霧散する性質がある。
ジャック達に俺の魔力を纏わせて強化したが十分程で空気中に霧散して効果は切れる。
「ならば急ぐぞ!」
「「おう!」」
ジャック達が店から飛び出して行く。
「(俺も行くか。)」
食堂を出ると武装した人間達が忙しそうに右往左往している。
自分に認識阻害魔法をかけて村から出て人間の反応があった場所へと駆ける。
途中でミノタウロスとすれ違う。
「(ジャック達が後ろから来てるし俺は手を出さない方がいいだろうな。)」
ジャック達だけならいいが、他の冒険者もいたので死んだミノタウロスが転がっていれば、さすがに非常識な事態なのは俺でもわかる。
本気で平原を駆け抜け、人間の反応へと向かって行く。
これだけ近づくと魔物ではなく人間の反応であると確信できる。
「(なんだ?魔法陣の上で座って何をしているんだ?)」
視認出来る位置まで近づくと、暗闇の中で鎧を着た四人の兵士に守られながら怪しく光る魔法陣の上で座禅を組み目を閉じて集中している女性が見える。
おそらくあの魔法陣の上にいるのがテイマーだろうと思い近づく。
「おい。ミノタウロスはお前らの仕業か?」
認識阻害魔法を解除して声をかけると兵士達が一斉に俺のほうに振り向き抜刀する。
「何者だ!?いや!誰であろうと見られたからには容赦するな殺せっ!」
「「「おうっ」」」
暗闇の中兵士達が問答無用で襲いかかってくる。
「(遅い・・・本当に俺を殺す気があるのか?)」
疑問に思うほどに遅い。
襲いかかってくる兵士達の剣をいなして、順番に威力を調節した雷を打ち込んで気絶させる。
四人が倒れて動かなくなるが、魔法陣の上で集中する女性は微動だにしない。
「おい。お前。」
「・・・・・・」
一切の反応が無いので魔力弾を放って女性を魔法陣の外へ弾き出す。
「何!?あれ?ライル達はどこ!?」
女性が我に返って混乱している。
「おい。お前がテイマーでいいのか?」
「子供?意味がわかんない!ミノちゃん達は次々殺されるし!完全に作戦失敗じゃないの!」
女性が頭を掻き毟りながら半狂乱で喚き散らし始める。
「・・・この後はジャック達に任せよう。」
色々と面倒になったので女性に腹パンをして気絶させ、動けないように五人を縛り上げる。
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