第百十六話 ジャック達との再会
「おいニコ!?何か来るよ?」
「逃げろ!ありゃ野盗じゃ!」
マットが指差して言うので見ると、毛むくじゃらのおっさんが二人の子分を引き連れてこちらへと走って来ていた。
危険に対して過敏になったロジェが即座に反応して逃げ始めるが俺にはあの野盗達に見覚えがある。
「(ジャック達がなぜここに?それよりもなぜ走っているんだ?)」
毛むくじゃらのおっさんことジャックを先頭にブランとグレイが必死の形相でこちらに向かって走って来ている。
何をそんなに必死に走っているのかとジャック達の後ろに目を凝らす。
「あれは・・・リザードか?しかもロックリザードか?」
岩のような皮に覆われたリザードが見えた。
三メートルの大蜥蜴で肌が岩のように硬い上にリザードマンよりも俊敏で土魔法も使う魔蜥蜴だ。
森の出口に向かって逃げるマット達を見て、安心してルドルフ用の弓取り出して構え矢をつがえる。
「おーい少年!!危ないから逃げろぉぉぉぉ!・・・あれ?なぜ逃げん?・・・ってあれニコ君か!?」
「やったじゃねえかリーダー!目的一つ達成だ!」
「そんな事を言ってる場合じゃないですよ!ニコ君も逃げますよ!?」
「煩い。解体は任せたぞ。」
ジャック達が走りながらあれこれと叫んでいるがただただ煩い。
ジャック達が俺の後ろに隠れて障害物は無くなったのでしっかりと狙いをつけてロックリザードに矢を放つ。
「ニコ君!眺めてないで次を打ち込むんだ!」
「リーダー?ニコだぜ?」
「そうですよ!ニコ君が逃げずに見ているのですからもう終わりです!」
「お前ら煩いぞ。」
矢の行方を見据えていると、ジャック達があれこれと話してきてとても煩い。
俺が放った矢はしっかりとロックリザードの眉間を突き抜いた。
矢が刺さったロックリザードは数歩進んで勢いもそのままに土埃を上げながら地面を転がり、動かなくなる。
「ジャックとブランは解体しろ。グレイは俺の仲間を呼び戻してきてくれ。」
みんなにはこのまま帰ってもらってもいいのだが、解体中だったジャイアントフロッグを置いたまま逃げたので仕方なくグレイに指示を出す。
俺の指示を聞いてジャック達は即座に反応して行動を始める。
「おいブラン!皮を剥ぐぞ!」
「分かってる!行くぞ?」
「「っせーのっっ!」」
「君達待ってくれぇぇぇぇ!もう大丈夫だぁぁぁっっっ!」
ジャックとブランは息を合わせてロックリザードの皮を剥ぎ始め、グレイは必死の形相で叫びながらマット達を追って行く。
「ブラン?矢を一本くれ。」
「せーっ、あ?ほら!」
皮を剥いでいたブランに言うと矢を一本投げ渡して、すぐにジャックとロックリザードの皮剥ぎを再開する。
「ジャック?皮を剥ぐ前に血抜きをした方がいいんじゃないか?」
「その通りだ!ブラン?血抜きだ!」
「それはリーダーしてくれ!俺はこのまま皮を剥ぐ!」
さすがこの辺は熟練のパーティと言った感じだ。
俺のアドバイスを聞いてジャックがロックリザードの首を切り落とし始め、ブランはそのまま皮剥ぎの作業を続ける。
「・・・切れん!」
「・・・仕方ないな、これを使え。」
「おぉ!ニコ君の刀か!ありがたい。」
ロックリザードマンの皮膚は切れずに悪戦苦闘するジャックにルドルフ用の刀を渡す。
「事情があって、みんなには見られたくない。みんなが帰って来る前に返してくれ。」
「この刀・・・やはり謎の新星ルドルフはニコ君か。」
俺が言うとジャックは納得した様子で予想外の言葉を発する。
俺は思わず動きを止めてジャックを見つめる。
「ハッハッハッ!やはりそうか!大丈夫誰にもいうつもりは無いし、我々は全面的にニコ君の味方です!その顔が見れただけで十分です!」
ジャックの言葉を聞く限り俺は余程間抜けな顔をしていたのだろう。
ブランもニヤニヤと俺を見ながらロックリザードの皮を剥いでいる。
「それにしてもニコ君の魔力付与があるとは言え、凄まじい切れ味の刀だな。」
ロックリザードの首を斬ったのに俺に返そうとせずにジャックは恍惚の表情で俺の刀を眺めながら呟いている、。
ほっとけばずっと見ていそうな雰囲気だ、だが森の奥にグレイと一緒にマット達がこちらに向かって来ているのが見えたので、無言で刀を取り上げてマジックバッグの中に入れる。
「ニコ君・・・」
「玩具を取られた子供か?」
ジャックが今にも泣きそうな顔で俺を見てくる。
思わず心の声が駄々漏れるがジャックは気にして無い様で、すぐにブランと一緒にロックリザードを逆さに吊るして血抜きを始める。
「すっげぇ!これおじさん達が倒したんですか?」
「おっさん達すごい冒険者なんじゃなぁ!」
「ロックリザードなんて始めて見た・・・」
「皮剥ぎグロ・・・」
マット達がやって来て仕留めたロックリザードを見て目を輝かせながら思い思いに話し始める。
「俺が牽制してな?こちらのブランが眉間を一発だ。」
俺はロックリザードの頭を指差してみんなに説明する。
みんなは成程とブランの矢が刺さったロックリザードの頭を眺めているので、しっかりと騙せたようだ。
「おいニコ?なんで俺の矢が刺さってんだ?」
「ん?俺の矢を抜いて後からブランの矢を突き刺した。」
「おっさん・・・俺まだ二十・・・」
ブランが耳打ちしてくるので、説明をしておく。
あとジャックとも話しておかなければならない事があるのだが、何やら上の空になっているのでどうしたものかと困ってしまう。
「おい、おいジャック。」
「え?ん?何かな?」
「今回俺は一切の報酬はいらん。代わりにあいつらに何か仕事を上げてやってくれないか?」
「よろしいので?」
「構わん。あいつらの報酬も色目無しでいい。」
「ニコ君が言うなら俺達は構わんが・・・」
「頼んだ。」
マット達に気付かれないようにジャックと話をすると、ジャックはすぐにマット達の下へと走って行き、何やら話し始める。
「ニコ?例の弓、引けるようになったぜ?」
「ほう?それはすごい。」
例の弓とはおそらく俺が魔力付与したブランの弓の事だろう。
俺が魔力付与すると機能の全てが強化される、矢の速度や飛距離が上がるのだが、副作用として弓の硬さなども強化されるので、魔力付与した当初は弓を引けずに困っていたのを思い出す。
「おかげで今まで狩れなかった魔物も狩れるようになってよ?俺達も余裕が出始めたから最近は魔物食べてるんだぜ?」
「それは重畳だな。」
「さ!この話は終わりだな。」
「のようだな。」
ブランが顔を上げて言うので、視線の先を見るとマット達を引き連れたジャックがこちらへと歩いて来ている。
「さぁ!みんな報酬分は働いてくれ?」
「「「「はい!」」」」
ジャックの声に真剣な表情の四人が一斉に返事をして皮を剥いだロックリザードの解体を始める。
「よし!今日はここで夜営だな?」
「いや!夕食を食べて少しでも湿地を離れるべきです!」
「グレイの言う通りだ!解体中に作る!」
「ジャック?夕食なら俺も手伝おう。」
ジャック達が一瞬で相談を終えてそれぞれが自分の持ち場へと移動する。
相談のスピードもさる事ながら、導き出した答えも大賛成だ。
さすがは銀級パーティである。
俺は夕食作りの準備を始めるジャックの手伝いをするべくジャックの下へと歩く。
「ニコ君?俺達と別れてから勉強したんですよね?」
「そうだ。」
「俺よりも料理が上手になってる・・・。」
「メインは任せてくれ。」
ジャックに料理の手際を褒められ嬉しくなったので、マジックバッグからピザ釜を取り出して作り置きしていた生地に具を乗せる。
「ハハハ、こんな物まで・・・さすがはニコ君だ。」
「ジャック達と始めて食べた店の料理だからな。」
ジャックがピザ釜を見て乾いた笑いをしながら言う。
ジャック達と出会ったからか、無性に食べたくなったので今日はピザを作る。
「で?なんで王都に?いやこんな湿地に?」
「ブランが弓を引けるようになったからニコ君に見せたい見せたいと煩くてね?そして王都に着くとこの森の緊急調査依頼があったので受けたって訳です。」
「やはり湿地から魔蛙が出ているのは異常事態なのだな?」
「異常ですね。蛙だけじゃなくて沼の主であるはずのロックリザードも森に出ているしな。」
「ジャック?敬語だったり普通だったりまどろっこしいから普通にしてくれ。」
意外なことに俺に会いたいと言い出したのはブランだったらしい。
それよりも重要な話が聞けた。
やはり蛙などの水棲魔物が森を闊歩しているのは異常事態らしい。
後ジャックの敬語混じりの口調がうっとうしくなってきたのでお願いしておく。
「わかった。おそらく湿地に新たな主。しかも凶暴な魔物が生まれてみんな住処を追われた可能性が高い。」
「それなら俺達はすぐにでも脱出するべきだな?」
「うむ!夕食を食べ終わったら出来れば森を出て夜営だな。」
「わかったさっさとピザを焼こう。」
ジャックの言葉に少し急ぎ目でピザを焼き始める。
ロックリザードの解体作業は内蔵抜きを終え部位分けをしているので焼き終わる頃にはこちらへやってくるだろう。
「終わった終わったぁい!」
「美味そうだ!ニコ君ありがとうっ!」
「食べられる人間から食べてくれ。」
俺の言葉に笑顔のブラン達が夕食を始める。
マット達は部位分けした肉を出来る限り外気に触れないように布で丁寧に包んでいる。
「うんめっ!」
「この散りばめられた蟹・・・ただの蟹じゃないですね?」
「グレイ?このイカも絶対普通のイカじゃないぞ?美味すぎる!」
「さすがはよくわかったな?イカ型と蟹型のクラーケンだ。」
ブランとグレイが不思議そうにピザを見ながら話しているので俺が説明すると、二人は食事を中断して凝視してくる。
「色々あって、仕入れられたからな。」
「はぁ・・・」
「ハァーハッハッハッ!グレイは驚きすぎだぜ?だってニコだぜ?」
グレイは何やら呆れ顔で声も出せないようだ。
ブランはグレイとは対照的にすぐに気を取り直して楽しそうに大笑いしながピザを頬張っている。
「さて。次が焼けたな。これはミノタウロスを甘辛く炊いて乗せてある。」
「普通にミノタウロスが出てきやがったぜぇ!ハッハッハッハッ!」
今度は二人が驚かないように具材の説明をしながらピザ釜から取り出して簡易机の上に置くと、ブランが大笑いしながらピザを切り分け始める。
マット達も解体を終えて合流したので大急ぎで次のピザを焼き始める。
「俺達がもっとしっかりと常識を教えられてやれていれば・・・」
「リーダー?僕達は出来る限りはしました!僕達がいなければもっと酷い事になっていたはずです!」
「二人共考えすぎだって!これがニコじゃねぇか!」
何やらピザを焼いていると、頭を抱えてなにやらボソボソと呟くジャックを両脇からグレイとブランが慰めているようだ。
「お前ら少し「ニコお替り!」」
「美味しい!でも学校でピザなんて出た事無いのになんでこんな森の中で?」
「ターニャ?ニコの事は考えてもどがいもならん!ニコお替りじゃ!」
グレイとブランの慰め方がとてつも無く不快だったので文句を言いに行こうとするが、育ち盛りのマット達にピザを催促されてジャック達の所に行くどころではなさそうだ。
そしてロジェの訛りもどうにかして欲しいものだ。
「どがいもならん」とはどういう意味なのだろうか?どうせ碌な意味じゃないと思うのだがとても気になってしまう。
そんな事を考えながらジャック達への文句は諦めて次のピザを釜へと放り込む。
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